幕間〜貴女を私に染め上げましょう
私は澪様を昔からの遊び場である地下へとお連れしました。
どうやら澪様は人よりも耳か鼻が効く様で時折何かを察知した様にある一点を見る事があります。その場所は地下への入り口でした。
そして、その時の目はあの雨の日と同じ色に変わっていました。
「さぁ、こちらですよ。少し暗いですので足元にご注意を」
「…………」
澪様は物静かな方です。1日の大半をぼんやりとした様子で過ごしていて、その眼差しは虚です。これは廃人一歩手前といった感じですかね。
このままだと私的にも不味いので少しばかり修正しましょう。
長い長い木製の階段を降りると最下層には重く錆びついた鉄扉があります。一応、油を差していますので見た目よりかはすんなりと開きます。
そして、その開いた扉からは私にとって慣れ親しんだ血と死の香りと重くドロドロとしたドス黒い空気が流れ込んできます。
「─────ッ」
慣れていない筈の澪様は顔を僅かに顰めました。
「やめておきましょうか?」
「……だいじょうぶ。へいき」
私がそう聞くと澪様は首を横にふるふると振ってそう答えました。大丈夫ではない筈ですが……それでも付いてこようとする意志に私は嬉しくなります。
「ここは我が家にて罪を犯した一族が入れられる地下牢です。私はよくここでたまにやって来る輩で遊んだりしておりましたの」
「……どうやって?」
「皮を剥がしたり、生きたままお腹を引き裂いて内臓を出したり、いろんな薬を飲ませたりですよ。………ここからは少々汚れてしまいますから、衣服を脱ぎましょうか」
「…………え?」
「え?じゃないですわ。ほら」
「え、ちょっと」
私は困惑している澪様の服──殆ど寝巻き──を脱がして生まれたままの姿にした後に礼儀として私も全て脱ぎ去りました。
澪様の身体には虐待の痕と見られる痣や切り傷跡があります。体格も最近は多少肉が付いてきましたが、まだまだ痩せすぎな気です。
「さぁ……こちらですよ澪様」
冷たく暗い石畳を裸足で歩いていき、私は澪様を新鮮な血と臓物で満たされた風呂まで連れて行きます。これは大昔の海外のとある貴族がやっていたとされる血の風呂を私もやってみたいと思い、作らせた物です。
大きさは広めに作ってあり、深さは立つと腰が浸かるまでの深さにしてあります。
「──こ、これって……」
「さぁ……こちらへ」
殆ど真っ暗な空間で澪様はそれが何で満たされているのか見えている様でした。現に身体が強張っています。しかし、入ってくれないと私の術式は発動できません。ですので、少し強引に……
腕を引けば殆ど抵抗らしい抵抗を見せずに私の身体を支えにして崩れる様に入り、入った事で2人分の質量の血が外へと流れでていきます。
「………なんでこんなのを?」
「これは私の力の根源でもあります。私は血液を操る術式を持っていましてね。他者の血液も私の血が混ざれば操る事ができますよ」
「………じゃあ、私もこの血みたいになるの?」
「貴女にはそんなしませんわ。このようになるのは別の者です。一族の罪人やら敵対した者やら。──さて、始めましょうか」
私は自分の手首を噛み切り、澪様の口をこじ開けて無理矢理押し付けます。私の血を飲ませるために
「──ッんぐ?!」
「申し訳ありません澪様。少々、手荒になってしまいますがこれは貴女の為、そして私の為ですわ。────『目覚めなさい』」
私が術式の起動ワードを発すると私の手首から流れ出ている血が澪様の中へとスルリッと入り、澪様に眠る力を解放させます。
──私に刻まれた術式刻印の名は『血華操身魂』。
己が血を操り、血肉を対価とし他者の肉体、意識、魂を融合させ操る事のできるもの。自らに降りかかるあらゆる障害をも他者の血肉を対価に回避する外道の術式。
それが私、第18代目鬼龍院家当主『鬼龍院 椿』に刻まれた呪いです。
流し込んだ私の血で発動した術式により澪様はぼんやりとした表情でその場に佇んでいます。それからゆっくりと彼女の内側に染み渡り、そしてその開いた双眼が普段の黒い色からあの日と同じ金色に染まり切った瞬間、予想外の変化が起こりました。
「───────はい?」
ソレは…………人の姿ではありませんでし
──ガジュッ




