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幕間〜とある日の方舟

「お前達。建物の損傷は最小限と言った筈だよな?なんで1番修復に手間かかる壁に穴開けたんだ?えぇ?」



「「…………」」



「おい暴れ狼共。なんとか言ったらどうだ」



異能呪術特殊事件捜査機関『方舟』本部の局長室にて薫海と鈴奈は当機関局長である日暮 真鷹から説教を受けていた。



日暮局長は齢40過ぎであるが、まだまだ現役の術師兼異能力者でオールバックにした髪に不機嫌顔の厳つい男性である。ちなみに不機嫌顔はデフォルトである。



説教の内容は少し前に彼女らが解決した銀行強盗の取り押さえで銀行の建物の壁に大穴を開けた事についてだった。




「い、いや〜〜………あれは鈴奈のせいちゅうかなんと言うかぁ……」



「それを止めるのがストッパーであるお前の役わだろ海原(うなばら)



「いや無理な話や。こんの特攻馬鹿止められんの局長しかおらんでしょ。出来まへんウチには」



「出来ないじゃねぇよ。やるんだよ」



「えぇ………」




真鷹の返しに薫海はゲンナリとした表情になった。一方で鈴奈はどこか空虚な感じでぼんやりとしていた。




「……………おい柊木。聞いてんのか?」



「………はい、聞いていました」



「じゃあ、今何話してたか言ってみろ」



と真鷹がこの手のお決まりの質問をした。



「………薫海が仕事中に女学生をナンパしてホテルに連れ込もうとした事についての説教」




鈴奈は少し考えた素振りを見せた後にそう答えた。ちなみにこれは本当のことである。




「違うだろ。…………はぁ、もういい。始末書を書いておけ。それと海原は残れ」



「え゛っ」




自分だけ残れと言われて顔を青褪めて変な声を上げる薫海。彼女の脳内にはこれから始まる怖い怖い局長様の説教(物理)が再生された。




「…失礼しました局長」




鈴奈はこれから相棒に起こる悲しい出来事に関して何も触れずに局長室から出ようとする。それを薫海はヒシッとコアラの様に抱きついて止めようとする。




「待て待て待て鈴奈!置いてくな置いてくなっ!いいんか?!相棒のウチが惨めな姿になる事に負い目はないんかぁ!?」



「…お前の自業自得だ。諦めろ…………というか離せ」




と鈴奈は鬱陶しそうに薫海を振り払いスタスタと部屋を出て行ってしまった。




***




side柊木 鈴奈



局長室の扉が閉まった直後、薫海の汚い悲鳴が聞こえた気がするが無視する。



薫海には悪いが日暮局長の説教の相手をしてもらおう。



…………最近、どうも気分が優れない。気を紛らわせようとジムに行ってもモヤモヤするし、甘い物を買って食べてもそもそも私は甘い物は好きじゃないから余計に駄目だ。



理由はわかっている。先月から行方不明になっている私の腹違いの妹『天野 澪』のことだ。



最後に起きた『雨夜の腑喰い(マンイーター)事件』にて発見された第三者の血痕からあの場に澪がいた事がわかっている。



当初は澪が腑喰い(マンイーター)ではないかという疑惑が出たが、現場には3種類の足跡があった事と他の事件との関連性がない事から澪は偶然あの場に居合わせて攫われたと推測される。



………生きている望みは薄いというのはわかっている。



澪は確実に腑喰い(マンイーター)の顔を見てしまっている。そして血痕が残されていることから襲われたのは確定。



せめて遺留品でも見つかればと思って連日事件があった場所に足を運んでいるが成果は無し。




「…………………はぁ」




最近、ため息を吐くのが癖になってきている気がする。



母がまだ生きていた頃、母はよくため息を吐くとその分幸せとやる気が逃げていくと言っていたが、実際そうかもしれない。



と自分のデスクで黄昏ていると額に冷たい何かを押し当てられた。



見上げるとそこには缶コーヒーを持った薫海が立っていた。




「…説教は終わったのか?」



「そうや。ま、給料が少し天引きされるくらいで勘弁してもらったで」



「…そうか。………………」



「………まだ探してるん?澪ちゃんのこと」




薫海はそう私に聞いてきた。




「…あぁ、私に残された家族と呼べる最後の者だからな」



「そうか。………ウチも出来るだけ調べてみるさかい」




と薫海はぶっきらぼうにそう言った。



彼女はいつもこうだ。頼んでもないのに友達だからという理由で何かと手助けしてくれる。



子供の頃から私は行動力の塊であった薫海に手を引かれてよく公園や空き地で遊んだ。悪戯好きでよく周りに迷惑をかけていたが、それでも周りを明るくしてくれていた。



私の家庭が父の浮気が原因で崩壊して、それに耐えかねて母が自殺した時も真っ先に私のことを心配してくれたのは親戚ではなく薫海だった。



どんなにきつく突き放しても持ち前の明るさと遠慮なさでズカズカとやって来て私の手を引いてくれた。



結果、今のこの状況である。もし、薫海がいなかったら私は今頃母を追って自殺していただろう。




「……いつもありがとう薫海」



「なぁに、いいってことや。ウチも好きでやってるからな。あ、今度焼肉奢ってね?」



「…構わない」



「よっしゃ!」



薫海と話していたら幾分か気持ちが楽になった。

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