幕間〜ワタシノキオク
寒い夜にざぁざぁと雨がふっている。
見渡す限りのビル群に冷たくてひび割れたアスファルト。
ワタシはいつもみたいに狩りをする。
獲物は既に罠を仕掛けてある廃墟となった建物に逃げ込んだ。
しばらく待つと断末魔の鳴き声が聞こえた。
中に入ると血の匂いがする。
床に程近い場所に血で濡れた鋼糸と大きな血溜まりに沈んだ片足を見つけた。
廊下には筆で書いた様な血の跡が続いている。
ワタシはわざと音を立てて獲物のいる場所へと向かう。
この時間が1番楽しい。
恐怖という感情は極上のスパイスとなる。
怯えれば怯えるほどに、肉の旨味が増していくのだ。そして死の絶望がその獲物が最も美味しくするひと手間だ。
そうしてワタシは獲物が逃げ込んだ部屋へとたどり着いた。
獲物は何か喚いて物を投げつけている。
別に当たりはしない。なんともつい滑稽で笑ってしまう。
ワタシは獲物をナイフで刺し止めて動けなくしてはらわたを切り裂いていく。
獲物から奏でられる叫びは非常に心地いい。
ーーーーとここで背後から『カランッ』と音が鳴った。
振り返るとそこには別のやつがいた。
…………が、あまり美味しそうには見えなかった。
肉付きは普通だが、目が死んでいる。つまり感情が働いていないから食べても味が出ない。
だが、見られたからには仕方がない。始末するか。
そう思い、ワタシはナイフを手にそいつに近づき押し倒す。
そいつは何の抵抗もせずに倒れた。
…………呆気なさずぎる。
虫でも少しは抵抗するのにこれと きたら全くの無抵抗だ。
……………つまらない。
ワタシは少し脅しも兼ねてこれの首に浅く傷をつけた。
浅くのつもりが思いの外深かった様で少し血が流れ出た。それでもこれは動かない。
ただ、ぼんやりと暗く濁った目でワタシを見ているだけだ。
その反応にワタシは飽きて止めを刺そうとしたその時、ワタシの下にいたこいつはさっきまででは考えられない程の力でワタシを押し退けた。
虚をつかれて尻餅をついたワタシにそいつはさっきまでのワタシと同じ体勢を取った。ナイフで抵抗しようにもがっちりと手首を押さえつけられて動かせない。
そして、そいつはワタシの首に自分の顔を近づけて
喰らい付いた。
はじめての体験だった。物を投げられたり抵抗されたりはあったが、まさか自分が喰われるなんて。
首筋にブチリと噛みちぎられる痛みを感じて、体から何かが抜き取られているような違和感を覚えた。
そしてぴちゃぴちゃ、じゅるじゅると音をたてて血を吸われていった。
その大事な何かが抜けていく感覚にワタシは今までに感じたこともない快感を覚えた。噛みちぎられた箇所は熱を持って私を蝕み、生きていることを実感させてくれた。
もっと続けばいいのにと思ったのに、彼女はやめてしまった。
身体の力が抜けて息も荒くしている。
「…………貴女、お名前は?」
私は彼女に聞いた。
「…………………」
彼女は私の問いかけには答えず、私の上でパタリッと倒れて気絶した。
これが私とお姉様との出会いでした。




