36 こいつが黒幕って、マジかよ
プライデーZは両手のロケットパンチを戻し、倒れたブラックフライデーに駆け寄よると、ひっくり返して俯せにした。指先で背中を探る。
「ここか!」
背中の真ん中辺りに両手の指先をかけ、左右にグッと開く。同時にベリベリッとマジックテープを剥がすような音がした。
その開いた部分に右手を差し込み、コの字型の部品を抜き取ると、左右を反転して元に戻し、背中を閉じた。
それが終わると、プライデーZは、今度は優しく丁寧に、ブラックフライデーの体を仰向けにした。
「さあ、本来のおまえに戻るのだ、弟よ!」
すると、ブラックフライデーの目がパチリと開き、達者な英語で「グッモーニン、ドクターチャンドラ」と言った。
それは、違うだろ!
「音声、調整中、デござ、イまス。ピーピピー、ぴぴっぴ。コんナ、感じデ、よろしいですか、兄さん?」
「おお、いいじゃないか」
感動の再会は、しかし、天井から降りて来たスクリーンに映し出された船外からの通信によって中断された。
《おい、キャプテンハードロック! キャットリーヌ姫は確保できたのか?》
おれは最初、ケント王子だと思ってギョッとしたが、よく見ると、だいぶ毛が茶色い。となると、弟の方だろう。
おれは向こうにも見える位置に立った。
「逆にキャプテンハードロックをおれが確保した。あんたはギルバート王子だな?」
《ぶ、無礼者! そういうおまえこそ何者だ!》
するとプライデーZが「このお方こそドラードの英雄、スターポールの特別暫定……」と言い出した。
「その肩書は、もういいって!」
「……保安官補佐見習いさまであるぞ!」
《知らねえよ、そんなの》
プライデーZが入ると話が進まないので、「いいから、弟と一緒にキャプテンハードロックを見張ってろ」と命じた。
「おれの肩書なんかどうでもいいさ。大事なことは、あんたがキャットリーヌ姫の誘拐事件、じゃないか、二次誘拐未遂事件に関わっているのかどうか、さ」
《ええと、その、なんだ、どうも間違った番号にテレビ電話したらしい。余はマカロンが食べたかっただけだ。え、何? この電話番号は現在使われておりません、ってか。じゃあな》
一方的に切られた。
こうなったら仕方ない。おれは、チャッピーの糸でグルグル巻きになったまま黙り込んでいるキャプテンハードロックに聞くことにした。
「さあ、白状しろ。キャットリーヌ姫がドラードにいるらしいって情報は、誰に聞いた?」
キャプテンハードロックは顔を背け、「黙秘する」と言ったきり、また口を閉じた。
だが、横からブラックフライデーが「大丈夫ですよ、会話は全部録音していますから。特別暫定……」と口を出してきた。
「ああ、その肩書は言わなくていい。じゃあ、キャプテンハードロックのことは、おまえたちロボット兄弟に任せるよ。おれはチャッピーを連れてキャットリーヌ姫の捜索に戻る。ブラックフライデー、この船に脱出用のポッドはあるかい?」
「残念ですが、ありません。でも、予備のパラシュートなら残っていますよ」
「ええーっ、マジかよ!」
「キャプテンハードロックはケチな男で、宇宙船に本来備えるべき脱出ポッドを、フリマで売ってしまったのです。その代わりに同じフリマで手に入れたのが、兄のドクター三角が出品していた中古ロボットのぼくなんです。しかも、値切ったんですよ。悔しいです!」
「ええと、事情とおまえの気持ちはわかった。でも、もしかして、予備の脱出ポッドとか」
「ありません」
「予備の予備とか、そのまた予備とか」
「ないって言ってんだろ! あ、失礼しました」
「うーん、少し考えさせてくれ」
その時、また警報音が鳴って艦内に自動放送が流れた。
《未確認飛行生物が二体接近! 未確認飛行生物が二体接近! 総員直ちに捕獲せよ!》
だから、誰あての命令だよ!
プライデーZが教えてくれた。
「キャプテン、じゃなかった、ボス。たぶん、カインとアベルです」
「だろうな。おい、ブラックフライデー、って言い難いな。じゃあ、これから呼び名を変えよう。ブライデーじゃプライデーZと紛らわしいな。うん、いっそ、ブラザーにしよう」
「なんかカッケーっすね。で、ぼく、いや、おれっちに何の用だい?」
「なんかキャラ変わり過ぎだな。ま、いいか。ああ、そうだ。今船外を飛んでるドラード人の子供たちを中に入れてくれ、ブラザー」
「チェケラッ!」
すぐに悪乗りしてしまうのは、兄のプライデーZ以上のようだ。
これで大丈夫なのかと思ったが、さっきおれが落ちかけた床をすぐに開けてくれた。
その途端、フーッという警告音と共に、下からカインとアベルが入って来た。
「ぼく、お姫さま見つけたよ!」
「違わい、見つけたのはおれさまだ!」
どちらが見つけたにせよ、快挙だ。おれは褒めた。
「いいぞ、良くやった! そこに案内してくれ!」
「ぼくが案内する!」
「いや、おれさまだ!」
ああ、イヤな予感がして来た。
バサバサッという音が聞こえ、おれの左右の腕はカインとアベルに掴まれた。
「二人ともよせ! 組み体操の扇じゃないんだそ!」
「ぼくだ!」「おれさまだ!」
「やめろーっ!」
おれたちは扇の形のまま、床の穴に真っ逆さまに落ちた。と同時に、おれの背中にドサッとチャッピーが乗って来た。
そのままグングン加速しながら、おれたちは急降下して行ったのである。
「なんでいつも、こうなるのおおお~っ!」




