34 キャプテンハードロックって、バッタモンかよ
いったい、何回こんな目にあったことだろう。おれは空中を落ちながら、自分の運命を恨んだ。
おれを慰めるように、チャッピーがペロペロ舐めてくる。
「ありがとよ。おれの味方は、おまえだけだよ。ん、何、何だい?」
チャッピーは何かを口に咥えていた。イヤホンのようだ。そうか。慰めてるわけじゃなく、このイヤホンを付けろと言いたいらしい。おれがそれを耳に付けると、焦った荒川氏の声が聞こえてきた。
《何しとるんじゃ! 早くパラグライダーを開くんじゃ!》
「え、どゆこと?」
《ええから、赤いレバーを引くんじゃ!》
「そんなこと言われても、どこにあるかもわかんないし。ええと、あ、ありました!」
おれは背負っているリュックサックのようなものからぶら下がっている赤いレバーを引いた。
シュパパパパッと背中から何か飛び出す音が聞こえ、ガクンと衝撃があって、落下速度が落ちた。
手動かよー!
《良かった良かった。間に合ったわい》
「いやいやいや、おかしいでしょう! 空中に飛び出すまで自動なのに、パラシュート開くのが手動って!」
《おお、そうじゃな。改良の余地があるのう。すまんすまん》
「もういいですよ。それより、操作方法を教えてください」
《ああ、それは心配いらん。後は自動じゃ》
「だ、か、ら、ああ、もう!」
《まあ、今度作る時には全自動にしよう。頑張ってくれたまえ》
「わかりましたよ」
これ以上不毛な議論をしても意味がない。
実際、その後は、何の問題もなく降下して行った。眼下に懐かしい難民キャンプが見えて来る。
いやいや、これは違うぞ。
見るからに荒れ果て、ゴミと落書きだらけになっており、ところどころ、建物が燃えている。最早、昔の面影はない。
住民らしき姿も見えない。とっくに逃げたのか、あるいはどこかに隠れているのだろう。
その中に、不吉な黒いシミが三つ見えた。全身黒タイツのような服を着た不審な人物が三人。宇宙海賊の手下たちだ。
先に降下したはずのプライデーZたちの姿は見えない。恐らく、難民キャンプのこの有り様を見て、姫がいるとすれば森の中だと思ったのだろう。
おれもそうしたいのだが、パラグライダーは勝手に難民キャンプの真っ只中に降りて行く。少しは操縦できるようにしといてくれよ!
海賊の手下たちもおれに気づき、「イー! イー!」とか言って騒いでいる。悪の手下感が半端ねえ。
幸い、この距離まで届くような武器は持っていないようで、無線機で仲間に連絡を取っている。
と、再びイヤホンから荒川氏の焦った声が聞こえてきた。
《中野くん、後ろ後ろ!》
振り返ると海賊船が見えた。横っ腹に黒田星商のコマーシャルが書いてないから、三世号の方だ。そこからおれ目掛けて、青白いトラクタービームが発射された。
さっき手下が無線を使っていたのは、このためだったのだ。
おれはチャッピーを逃がしてやるべきか迷った。このくらいの高さなら、糸を使ってうまく着地できるのではないか。そう思って、少し離そうとしたが、逆に一層しがみついてきた。怖いのか、おれのことが心配なのか、あるいは両方か。
「わかったよ。おれたちは運命共同体だ」
そんなことをしている間にも、トラクタービームに引かれ、おれたちはジュピター三世号に吸い込まれた。
船倉のハッチが開き、発着ホールらしきところに宙吊りにされた。青白いビームが三方向から来ており、おれたちの体は、その交点にあった。懐かしの三叉式牽引光線だ。
ビームの光で見え難いが、おれたちがいるのは半径五メートルぐらいの円形のホールの中心で、周りをぐるりと取り囲むように手すりがある。
そこに、ピーターパンに出て来るフック船長のようなコテコテの海賊の服装をした人物のシルエットが見え、おれに声を掛けて来た。
「今からビームを切ってやるが、大人しくしてるんだぞ」
おれたちをゆっくり床に降ろしながら、ビームが切れた。多少目にビームの残像感が残っているが、ようやく敵の姿が見えて来た。
年齢は、荒川氏と同年配ぐらいだろう。髪はほとんどなく、ギョロリとした目をしており、唇が分厚い。その唇を皮肉そうに歪めて笑っている。
あれ、どこかで見たことが。
「ドクター三角!」
しかし、相手は嘲笑った。
「残念だが、兄はまだブタ箱の中だよ。よくも兄をヒドイ目にあわせくれたな!」
「逆恨みもいいとこだ! ヒドイ目にあってるのは、こっちの方だ!」
「ふん。まあ、強がっていられるのも今のうちさ。おお、そうだ。一応、名乗って置こう。ぼくは、ドクター三角の弟、キャプテンハードロックだ、シェキナベイベ!」
「なんか違うなあ。だが、そんなことはどうでもいい。サッサとおれたちを解放して、トットと帰れ!」
「そうはいかんさ。これからが、ぼくの楽しい時間だからね」
「やめろ!」
キャプテンハードロックが何か機械を操作しようとした刹那、チャッピーがピョンと手すりを飛び越えた。そのままキャプテンに抱きつくと、糸でグルグル巻きにし始めた。
「わわわ、なんじゃ、このクモの化け物は!」
「よし、いいぞ、チャッピー。もっとやれ!」
だが、その時、船室と繋がるドアが開き、ソフビのオモチャを大きくしたような、真っ黒のロボットが出て来た。
「オミャーラノ、自由ニハ、サセニャーデ!」




