31 本当に意外な人物が犯人かよ
全員の注目を集めたシャロンは、しかし、すぐには話を始めなかった。
「兵隊さんもいるし、ここはオープンな場所だから、どこか密談できるところがないかしら?」
サバスチャンは頷き、衛兵たちに「ご苦労であった。もう下がってよいぞ」と告げて、改めておれたちに頭を下げた。
「物々しい真似をしまして、申し訳ございませんでした。よろしければ、わたくしの自室にお出でください。カフェオレでもご用意いたしましょう」
「ありがとう。さあ、アメリちゃんも一緒に来るのよ」
シャロンの呼びかけに、ビクッと身を震わせたアメリちゃんの、まだ握ったままのパラライザーの前に、おれはそっと手を出した。
「大丈夫。おれがついてるから」
シャロンの視線がグサグサと背中に突き刺さるのを感じながら、アメリちゃんからパラライザーを受け取り、「さあ、行こう」と声をかけた。
スタスタと先に歩いていたシャロンが、「そうそう」と声を上げたので、何か皮肉を言われるかと身構えたが、サバスチャンに「お医者さんがいたわね?」と尋ねた。
「はい。ムッシュと申します」
「彼も呼んでちょうだい」
「かしこまりました。誰か呼びに行かせましょう」
なんだよ、その態度。別にサバスチャンはおまえの執事じゃないぞ。お嬢さま気取りかよ。
おれの視線に気づいた荒川氏が「まあまあ」と宥めた。
「シャロンちゃんは事件の謎を解くことで頭がいっぱいなんじゃ。それに、ツンツンしとるのは、もしかしてアメリちゃんに嫉妬してるのかもしれんよ」
「はあ?」
おれはションボリついて来ているアメリちゃんを見た。
荒川さんの言わんとすることはわかるが、まあ、それは穿ちすぎというものだろう。おれがアメリちゃんに優しくするのが気に入らないとしても、それは嫉妬とは思えない。
サバスチャンの部屋はこじんまりとしていたが、さすがに王家の執事、家具などは高価そうなものばかりだ。応接セットに思い思いに座ると、すぐにカフェオレを淹れてくれた。
「コーヒーの豆もカップも地球から輸入したものです。さすがに、ミルクはバステト星の家畜のものですが」
シャロンが「美味しいわ。ありがとう」と微笑んだ。
だから、おまえの執事じゃないって。
それはともかく、ようやく頭の整理がついたらしく、シャロンの態度には余裕が感じられた。室内にいる者に順に視線を走らせた。サバスチャン、荒川氏、おれ、アメリちゃん、そして、ペチャ鼻の医師、ムッシュ。
ムッシュのところで視線が止まり、シャロンは微笑んだまま、片方の眉を上げた。
「先生、そろそろ本当のことをおっしゃってくださいな」
ムッシュはアメリちゃんの顔を見て、フーッと息を吐いた。
「そうだな。わたしが話さねば、アメリだけが悪者になってしまうね」
サバスチャンが気色ばんで「すぐに衛兵を呼びます」と立ち上がろうとしたのを、シャロンが「少し待って。お願いだから、話を聞いてあげて」と止めた。
ムッシュは、遠くを見るような目をして話し始めた。
……キャットリーヌ姫がお生まれになる前から、わたしは王室づきの医者でした。ですから、畏れ多いことですが、姫のことは自分の娘か孫のような気持ちで見ておりました。
ですので、まだ誰も、そして、恐らくはご本人も、気づかれていない段階で、姫の異変に気がつきました。
姫のお体には、新しい生命が宿っていたのです。
お相手はもちろん、ケント王子です。
今、中野さまは「そんなバカな」とおっしゃいましたが、わたしたちバステト星人と、ケント王子たちアヌビス星人は、元々同じ種族です。地球のいわゆるネコやイヌとは違います。遺伝的な差異は、地球人の人種程度しかありません。
しかし、これは生物学の問題ではなく、極めて政治的な問題なのです。
最近になって雪解けの兆しが見られるようになったとは言え、百年に及ぶ戦争は、両星の人々の心に深い傷を残しました。サバスチャンさまの弟さんの話も存じ上げております。
とても祝福されるとは思えません。
そこで、わたしは密かに準備を始めたのです。姫が無事にご出産されるまで身を隠す場所を探し、誰にも邪魔をされずにそこへお連れする方法を考えました。
アメリとはその過程で知り合い、協力してもらうために王室に呼び寄せたのです。
そして、すべての準備が整ったところで、姫にお話ししました。その時にはもちろん、姫自身も気づき、悩んでおられたので、すぐにお任せくださいました。
最後まで迷ったのは、事前にケント王子に伝えるべきかどうか、でした。しかし、誰にも怪しまれずに実行するためには、申し訳ないことながら、秘密にすべきと判断しました。
シャトルは、1台を修理中と偽って隠し、途中ですり替えました。したがって、今王宮に保管されているシャトルには、最初から姫は乗っていなかったのです……。
「えっ、じゃあ、お姫さまは、今どこにいるんだ?」
おれの問いかけには、シャロンが答えた。
「決まってるじゃない、ドラードの難民キャンプよ。ねえ、アメリちゃん」
アメリちゃんは、むしろホッとしたように頷いた。
その時、激しくドアがノックされた。
「お話し中、すみません。中野さまは、いますか?」
ミシェル刑事の声だ。メチャメチャ焦っている。
「いるよ! どうした?」
「失礼します!」
ミシェルは強引に入って来た。
「ドラードから緊急連絡です! 難民キャンプで暴動が起き、手が付けられないので、中野さまに救援をお願いしたい、とのことです!」
えええ~っ、どうしよう~。




