25 朝目醒めたおれは、どうなっちゃうんだよ
おかしな夢から目が醒めると、おれは巨大な虫になっていた……方がマシなくらい、頭がガンガンする。
大きな金盥を、のべつ幕なしに頭上から落とされているみたいだ。
「もう、やめてくれええええーっ」
叫んだところで、頭痛は治まらない。
おれが寝ているのは、恐らく宮殿の客間だろう。メチャメチャでっかいベッドに、お姫さまが出て来る映画でしか見たことがないような天蓋まで付いている。こんな状態でなければ、最高の寝心地だったはずなのに。
と、おれの叫びが聞こえたらしく、部屋の外から、「お目醒めですか?」という女性の声がした。
携帯翻訳機を付けていないおれにもわかるということは、日本語だ。しかし、声に聞き覚えがなかった。
「目が、醒めない方が、良かった、かも」
息も絶え絶えに答えると、メイド服を着た小柄なネコ、いや、バステト星人が入って来た。
手足がチマチマと小さくて可愛くて、イヌで言えばコーギーみたいな体型だが、ネコだと、確かマンチカンとかいう種類になると思う。
エメラルド色の瞳で、心配そうにおれの顔を覗き込んだ。
「大丈夫ですか、中野さま?」
「あ、あのさ、おれの頭、割れてない?」
相手はプッと吹き出して「やだわ、ご冗談ばっかり」と短い手で打つマネをした。
な、なんて可愛いんだ。だが、今はそんな場合じゃない。
「いや、マジで、頭割れそうなんだ。何か薬ない?」
「まあ、大変。すぐに先生をお呼びしますわ」
チョコチョコと小走りに出て行った。いちいち可愛い。
うーん、アヌビス星人のマリリンはコーギーに似ていたし、どうも、おれはこういうタイプに弱いのかもしれない。などと、痛みを忘れるために自己分析してみたが、いっこうに治らない。
そこへ、あまり好みではないタイプの地球人が入って来た。
「あらあら、アメリちゃんが心配してたから、どんな風に頭が割れてるのか見に来たのに、全然大丈夫じゃないの」
もちろん、おれにこんなヒドイことを言うのは、シャロンしかいない。
「う、うるせえ。主観的には、割れたも、同然だ。早く、医者を、呼んでくれ」
「ムッシュはすぐに来るって、アメリちゃんが言ってたわ」
「随分親しげだが、あのマンチカン娘と、知り合いなのか?」
シャロンは肩を竦めた。
「メイドのアメリちゃんと知り合ったのは、もちろん、昨日よ。あんたも荒川さんも酔い潰れちゃったから、ネコジャラス王が、みんな泊まっていくよう勧めてくれたのよ。王宮に泊まれるなんて光栄です、ってお受けしたわ。その後、日本語ができる娘がいるからって、アメリちゃんをあたしに紹介してくれたの。ドラードで覚えたんだって。そう、彼女も難民キャンプからの引揚者よ。可哀想に、あんたをとっても尊敬しているわ」
「なんで、可哀想なんだよ!」
痛ててて。怒りでわれを忘れ、急に動いたら、また痛みだした。
ようやく、アメリというメイドと一緒に白衣を着たバステト星人が来た。CMなどで見たことがある、ペチャ鼻のエキゾチックなんちゃらというネコのような顔だ。
見かけと違って名医だったらしく、針のない注射器で特効薬を打ってもらうと、すぐにスッキリした。
おれの表情が一変したのを確認したシャロンが、「さあ、行くわよ」と急かした。
「え? どこへ?」
「もう! 決まってるでしょ、ミシェルお姉さまのところよ!」
久々にイヤな予感がする。予感です、予感です。
シャロンに連れて行かれたのは、別棟のでっかい体育館のような建物である。
しかし、近づいただけでプンと新しい畳の香がした。中から、「ヤーッ!」「トウッ!」などという掛け声と、バタン、ドスンという人が倒れる音がしている。
「ここは何だ?」
シャロンはニヤリと笑い、「楽しい場所よ」とだけ答えた。
イヤな予感は頂点に達した。
入口の横には、天然木を削った看板があり、墨痕淋漓と【王立武道館】と書いてある。
シャロンは建物の中に入る際、軽く頭を下げて、「押忍っ!」と太い声を出した。
おそるおそる中を覗くと、大勢のバステト星人が柔道着のようなものを着て、乱取りの稽古をしている。
その中で、もっとも激しく組み合っているのは、シャムネコのような顔のミシェルという刑事と、見たことのある地球人だった。
「元子?」
おれたちに気づき、二人は互いに少し離れて礼をすると、並んでこちらに歩いて来た。
バステト星人と地球人の違いを超えて、体型や動きはソックリだ。
「もう割れた頭は繋がったの?」
先に声を掛けてきたのは、元子の方だった。
「な、なんで、あんたがここにいる?」
その質問には、横のミシェルが達者な日本語で答えた。
「小柳師範には、時々指導に来てもらってるのよ。あなた二日酔いらしいから、少し稽古をつけてもらって、汗を流した方がいいわよ」
ほらほら、来たよ。
誰か助けてくれ~っ!




