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24 飲むべきか、飲まざるべきか、それが問題だよ

 ネコジャラス王は、テーブルの一番奥の立派な椅子に座った。

だましてすまない。は以前から、ナンパ、あ、いや、民情みんじょう視察しさつするため、よくあの恰好かっこうで出歩くのだよ。今日は偶々たまたまホテルに入って行くきみたちを見かけ、是非ぜひお近づきになりたいと思ったのだ。実は、ドラードの英雄中野氏とお仲間に相談したいことがあるのだ」

 ほら来た。ここはまだ、トボけておこう。

「え? 何ですか? 何かあったんですか? 何か事件ですか? 誰か、ゆうか……」

 そこまで言ったところで、また、シャロンにつねられた。

いててててっ! 何だよ、もう!」

 シャロンはまして、「あら、また虫刺され?」と言って、ネコジャラス王に笑顔を向けた。

「ご相談って、何ですの?」

 ネコジャラス王はちょっと泣き笑いのような顔になったが、「うむ。食事をしながらご説明しよう。サバスチャン、始めてくれ」と告げた。

かしこまりました。では、プライデーZさんは、充電ブースにご案内しますから、わたくしとご一緒に」

 執事のサバスチャンとプライデーZが出て行くと、ネコジャラス王は、ホーッとめ息をいた。

「いや、すまん。さしも楽天的な余も、ここ数日眠れない夜を過ごしておるのでな。相談というのは、わが一人娘ひとりむすめ、キャットリーヌのことなのだが……」


 ……ああ、前菜が来たな。どうぞ、食べてくれ。良ければ、シャンパンも用意した。地球のシャンパーニュ地方から輸入したドンペリニョンだ。

 おお、そうか、シャロンちゃんは未成年だな。ソフトドリンクも用意しておるよ。

 さて、相談というのは、先程さきほど言いかけたように、余の我儘娘わがままむすめのことだ。

 母親を早くにくしたため、さみしい思いをさせぬよう、余は娘の望むことは何でもかなえてやった。不倶戴天ふぐたいてんのアヌビス星と和平を結びたいと言い出した時さえ、特に反対はしなかった。

 それをいいここと、あろうことかアヌビスのバカ王子と恋仲こいなかになってしまったのだ。しかも、結婚したいなどと言う。

 当然、余は大反対した。アヌビスのヒステリー女王も、バカ息子を廃嫡はいちゃくし、弟のギルバートを皇太子こうたいしにすると言い出したくらいだ。

 しかし、これは余にもおぼえがあるが、まわりが反対すればするほど、燃え上がるのが恋心というものだ。二人は駆け落ちの相談までするようになった。

 何故なぜわかったかって?

 二人はライッターでトークしていたのだ。余も、ライッターでナンパ、おほん、異性とコミュニケーションするのは得意だから、すぐに気が付いたよ。

 とにかく、その気配けはいさっした余は、いっそ娘をどこかに閉じ込め、熱が冷めるのを待とうと考えた。

 ところがその矢先やさき、宙港から王室専用の自動操縦そうじゅうシャトルでバステト星へ向かった娘の消息しょうそく途絶とだえたのだ。

 さてはもう駆け落ちしたかと、周辺を捜索そうさくした。シャトルはすぐに発見されたが、娘は乗っておらず、代わりに【姫はあずかった。姫の命が惜しかったら、警察には連絡するな。追って身代金の連絡をする】というメモが残っていた。

 もちろん、警察にはすぐに通報し、絶対に極秘ごくひ捜査そうさしろと命じたのだ。

 それから一週間つが、犯人からは、まだ何の連絡もない。

 そこで余は考えた。これはやはり、誘拐ゆうかいよそおった駆け落ちではないか、とな。

 だが、相手のケント王子をいくら調べても、あやしいところがない。それどころか、苦悩しているのが傍目はためにもわかった。あやつが芝居しばいなどできないことは、余も知っておる。

 そうなると、犯人はほかにいることになる。イヌザベス女王なのか、あるいは、和平反対派か、はたまた、宇宙海賊か。いずれにしろ、娘は命の危機にさらされておるのだ。

 そこで、中野くんにお願いがある。

 きみは、平凡で臆病おくびょうでドジで、そのくせ、プライドが高くて、すぐにカッとなって、かと思えば、じょうもろくて、他人ひとには好かれて、でも、女子にはモテなくて、特に取りらしいところはないのに、数々の難問なんもんを解決したラッキーな男だ。

 その運の良さで、なんとか娘を救い出して欲しい……。


「……というわけなのだ。中野くん、お願いだ、引き受けてくれんか?」

 途中、腹の立つ言い方をされたような気がするのだが、そんなことは、もうどうでもよくなっていた。

「ふぁい、かしゅこまりゅますた。なーかのしーんや、ぐわんぶあって、プリンシュシュを、たしゅけまーす、ウイッ、ヒック」

 隣に座っているシャロンが、「ちょっと、あんた、シャンパン何杯飲んだのよ!」と怒っている。

「なんばい、だったかにゃー。サイダーみたいで、しゅんごく、おいちかったよー」

 あきれているシャロンの横から、荒川氏のいびきが聞こえて来た。すでに酔いが回って、寝てしまったらしい。

 シャロンだけはソフトドリンクなので、シャンとしてネコジャラス王に返事をした。

「あたしが責任を持って引き受けます。ご安心ください」

「おお、ありがたい。それでは、担当者と引き合わせよう」

 ネコジャラス王がパンパンと手を打つと、入口のドアを開けて、誰かが入って来た。

 それは上下黒のレザースーツを着た女だった。

「ウイッ、ヒック、ましゃか、もーとこかあ?」

 だが、相手の顔は、鼻のまわりと口元が黒く、耳が大きくてピンと立っていた。瞳はブルーで、見ていると吸い込まれそうだ。

 シャロンが、「キャー、シャムよ、シャム。気品があるわー!」と叫んだ。

 すると、そのシャムネコのようなバステト星人はニッコリ笑い、歌劇団のように優雅にお辞儀じぎをした。

「初めまして、中野さん。わたしは、バステト星警察、特殊犯罪捜査課刑事のミシェルよ。よろしくね」

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