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最強な賢者様と私の話 Ⅱ  作者: 天城 在禾
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私が鍛える話 パート⑤




ギルドを後にして、私は夕暮れの街を歩いていた。

鍛えて貰った後、7人と反省会を開いてお話した。

とりあえず、褒められると油断するのをやめなさいと7人に言われ凹んだ。

そのあとは送ると言ってくれる7人の申し出を辞退して一人でギルドを出た。

だいぶ感覚を取り戻したが、やはりミゼンにも稽古をつけて貰いたい。

ハルトのことが終わったらみんな巻き込んで鍛練しよう。

組織の時を思い出してちょっと遠い目をする。

…いや、楽しかったんだけどね?

…汚かったなぁ、あの基地…


「…あの、おねえさん!」


過去に浸っていると、声を掛けられた。

振り返ると、10、11歳くらいの少年がこちらを見上げていた。

服装はボロボロで、きっとスラム街の子だろう。

この国にも、もちろんスラムというものが存在している。

うちの孤児院で引き取れるだけ引き取ってはいるが、なるべく小さい子どもや病気の子どもを優先しているし、孤児院自体を警戒して来ない子どももいる。

この少年はどちらも当てはまっていそうだ。


「えーっと、私?」

「うん…ギルドメンバーなんだよね!お願い、来て!」

「え、えぇぇ…?」


少年は私の腕を掴んだかと思うとそのまま私を引きずるように狭い路地に入っていく。

私は抵抗せずに少年の後に続く。

入り組んだ路地を進むと、段々不穏な空気が漂うような路地に入ってきた。

余所者から金目の物を剥ぎ取ろうと神経を研ぎ澄ましている者、そういった類いの薬を求めてふらつく者、その薬の売人、奴隷商らしき者…

そういった者たちが私と少年を息を潜めて見つめている。

そのうちの何人かは私と目が合うとサッと反らしたりグッと頷いたりする。

前者は私にお仕置きされた人で、後者は私のことを評価している人だろう。

頷いた人のうちの一人が反対方向に走り出したようなので、誰かに情報は行くだろう。


「ねぇ!何があったの?」

「いいから!早く!」


私の質問に答えずに少年は走り続ける。

…私だって早くしたいけど、少年が遅いんじゃないか…

仕方なく黙って付いていく。

少年が足を止めたのは、それから路地を2回左に曲がって1回右に、それからまた左に曲がってからだった。

お姉さん歳なので道が覚えられませんけど…


「よぉ、やっと来たか」


そうして止まった場所は、少年と同じくらいの年齢の少年が一人待っていた。

うーん…紛らわしいから少年Aと少年Bでいいか!


「うん、お待たせ」


そして、少年Aは私の腹部にナイフを突きつけていた。

服は完全に切れている。それをギリギリ薄皮を切る程度に納めていることが少年Aの腕の良さを感じさせた。


「…何のつもり?」

「僕たちは仕事をしてるだけだよ」

「そうだ。あんたを連れて来いってな」


少年Bが私を嘲笑うように言い、同じようにナイフを取り出してじりじりとこちらに近づいてきた。

私は特に抵抗するつもりもなかったし、大人しくしていた。


「仕事ねぇ?私を連れてきてどうするの?」

「さぁね。僕たちには関係のない話だから。程よく痛めつけてほしいとは言われたから殺さない程度にボロボロにはさせてもらうけどね」

「ふぅん…」

「はっ、余裕だな。あんた、このままだと俺らに動けなくされて後は殺されるか運がよくて変態の奴隷になるんだぜ?俺らには関係ねぇけど」

「それは私にも関係ないかな?」

「はぁ?」

「だって、君たち弱いし」


私の発言に、少年たちが警戒を強めた。

甘いなぁ。

私は少年Aの持つナイフを掴み、少年Aの腕を捻り上げるようにしてナイフを奪う。

私の動きが予想外だったのだろう、少年Aはあっさりとナイフを奪われる。

そして私から距離を取った。


「おい、あの女…危ねぇ匂いがする。警戒して行くぞ」

「うん。僕もそう思う」


ほう。

ここで頭に血が上って短絡的になるかと思ったけど、冷静になれるのか。

私は少年たちの評価をちょっと上げた。

私はニッコリと笑って少年たちに手招きする。

それを境に、少年たちが動いた。

少年Aが左から、少年Bが右から、くるっと円を書くようにして回り込み同時に襲いかかってくる。

私は懐から短刀を二本取り出してそれを受け止める。

うんうん!中々良い腕をしている。

少年たちの良さは速さだろう。

それを生かすように動き回り、同時にであったり時間差だったりして出される攻撃は中々対応に苦戦する。

まぁ、それは普通のギルドメンバーにだったらだけどね。

7強には遠く及ばない。


「なんだこの女!」

「僕たちの攻撃を全部防いでる!?」


驚く少年たちをいなし、今度は反撃に出ることにする。

少年Aに対しナイフを放ち、少年Bに切りかかる。

少年Bは攻撃をナイフで受け止め、そして耐えきれなかったのかナイフが真ん中で折れてしまった。


「!!」


そこで隙が出た少年Bの鳩尾に爪先が入る形で、少年Bを蹴り上げた。

少年Bはそのまま吹っ飛ばされて壁に激突した。

と、そこへ背後から切りかかってきた少年Aの攻撃を受け止め、軽く体を捻って少年Aに対しても蹴りを入れた。

少年AもBと同様に吹っ飛び、壁に激突する。


「うわー!ごめん!手加減できなかった!」


私は慌てて少年二人に駆け寄って、二人を壁から引き起こす。

少年たちは意識はあるものの、衝撃で体が動かないようだ。


「…い、てぇ…」

「う…」

「うわ…本当にごめん…これは痛そう」


我ながらよくやってしまったものだ。

多分だけど、腕か足が折れるかヒビが入っている。

肋骨とか、胴体の骨はそんなに衝撃を受けていないようなので無事みたいだ。


「な、んなんだよ、おまえ…」

「通りすがりのギルドメンバーだけど。それより、私を連れて来いって依頼してきたのは何処の誰?」

「…知り、ません。ここに、連れて来い、とだけ…」

「ふうん。まぁいいか。何となくは予想できてるしね。…それよりも、君たちをどうしよっかなぁ」


十中八九、昼間に刺客を送ってきたどこかの誰かさんだろう。

別に明日くらいには顔合わせするんだから急がなくてもいいや。

少年たちの前で座って考え込んでいると、人の気配が近づいてきた。

現れたのは7強のみんなで、私たちの状況を見てため息をついていた。


「キリヤ…お前酷い女だな…」

「狙われたの私なんだけど!」

「いやいや、手加減しろよ」

「久しぶりだしみんなの相手してたら制御効かなかったんだよ…」

「はぁ…まぁいいけどよ、どうすんだ?」


この少年たちは仕込めばいろいろと活用できそうだ。

魔力はほとんど持っていないが、7強のみんなに頼めばもっと強くなれそうだし。


「ふっふっふっ…」

「…俺帰りたい…」

「同感だな。俺も帰りたい…」

「キリヤ怖ぇよ…」


私が笑っただけでその反応するとか本当にひどい。


「酷いな!私はまだここでやることあるからみんなはこの少年たちをうちに連れて帰ってくれる?」

「おう。そういや、俺らの家族をキリヤんとこに当分預けることになったからよろしくな」

「あ、そうなんだ。分かったー」


結局、こんな軽い会話で私たちは解散となり、少年ABと7人は孤児院へと帰っていった。

みんなが去り、一人になった私はニヤリと笑って魔力の籠った紙を取り出してそこにどこかの誰かさんに向けた手紙を書いて、手頃な石を重りにしておいた。


「一つ伝えてくれる?」


すぐ左の建物の屋上にいる刺客の一人に向かって言う。

ついでに、ここにはあと5人の刺客がいるが彼らに向かって殺気を放っておく。


「売られた喧嘩は高く買ってあげるし、私の身内に手を出したというだけで普段の何倍も気合い入れてかかるから、そのつもりでね?」














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