私が鍛える話 パート②
遅くなりました…
ちょっとストックができたので、早めに出していきたいと思います。
アンナたちと共に花屋へ行くと、店の前でギルドメンバーらしき男性が店の中を覗いたり周りを見渡したり、挙動不審な動きをしていた。
「もう…ほんとギルドマスターは駄目ね。あんなの寄越したら大切な物を運びますって言ってるようなものじゃない」
「俺が届けたほうがまだマシっスよね。まぁできないんスけど」
アンナと青年は男性を見て唾を吐く勢いで悪態をつく。
情報の売り買いを行うため、花屋の従業員は傷つけられない、という暗黙の了解的なものがある。
この花屋は金か情報さえ渡せばありとあらゆる人に情報を渡す。
その情報がどれだけ大切なものであっても、だ。
ただし、見合った報酬でなければ情報を売ることは決してないが。
(よって、私やヴェルトの情報を彼らは扱わないことを公言した。馬鹿高くなるうえに眉唾の情報も多くて大変だから)
そのため、従業員には手を出してはいけないとみんな思ったらしい。
でも、渡されたら困る情報はある。
その結果、情報の売り買いはこの花屋の中でしかされないことになった。
だから青年やアンナがギルドマスターに情報を渡しに行くのは暗黙の了解的にダメなのである。
「まぁ、ギルドマスターも後任を鍛えたいんじゃない?」
「それにしてもよ!挙動不審すぎる!」
アンナは怒って男性の所へ行き、説教でもするのか花屋の中に無理矢理引き込んでいた。
残された私と青年は顔を見合せ、とりあえず、植木鉢どうにかするか、と頷きあった。
青年の指示で海雨花を片付け、「部屋」へ行くとアンナが懇々と男性に説教をしていた。
「アンナ、そろそろ本題に入りたいんスけど」
「…あぁ、そうね。ごめんなさい。私はブツを用意してくるわ」
ブツ、という単語は私から学んだみたいである。
…うちの孤児院の奴らってどうして変な単語ばっかり覚えるんだろう…
「じゃ、簡単に説明させてもらうっス。アンナが持ってくる資料をギルドマスターに届けてほしいっス。二人が持っていくどちらかが正しい資料なんで、二人ともちゃんとギルドマスターに届けて貰いたいっス」
「なっ!ちょ、待ってくれ!二人って、この女か!?」
「うるせーんスよ。この人もちゃんとギルドメンバーなんだから何も問題ないっス。むしろアンタに任せたほうが心配っス」
「ぐっ…」
男性は反論しようとしたが、先程アンナに説教されたのを思い出したのか黙ってしまった。
おかげでめっちゃ睨まれてるが。
「お待たせ。持ってきたわ」
丁度よく、アンナが2つの紙包みを持って帰って来た。
アンナは男性と私にさっさと紙包みを渡す。
私はどちらが本物なのかアンナにそれとなく目配せして聞いてみた。
アンナは軽くウィンクしてくれたので、多分こっちの方がが本物っぽい。
…ま、確かにこの男性の実力がどうであれ、あんな動きをされたら信用できないもんなぁ。
「二人で一緒に行ってくれてもいいし、別々に行ってもいいわ。多分刺客が待ち構えているからどっちにしろ気を付けてね」
アンナは男性を見て、真顔でそう言った。
「おい、お前」
私は男性と共にギルドへ向かっていた。
これは男性が言い出したことである。
どちらが本物かわからない以上、別行動は不安(私を一人にすることが)なんだそうだ。
「何ですか?」
「俺はお前をギルドで見たことがない。本物にギルドメンバーなのか?」
「あー…私、家の手伝いを主にしてて、ギルドの依頼はほとんど受けられていない状態なんです。手伝いが忙しいのでギルドにも行けてなくって」
「…それなのにどうしてお前が…刺客も放たれてるってのに…」
「あの花屋の従業員の方と知り合いで、どうしてもって頼まれたんです。うーん…まぁ、隠密行動は得意ですから」
心の中で(暗殺も得意だよ!)と言っておく。
ふむ、それにしてもアンナの読み?は当たっていたようだ。
男性が気づいているかどうか知らないが複数人に後をつけられている。
それも、どの人も気配を消しているような怪しい人たちである。
街中で乱闘は避けてほしいなぁ、なんて考えていたら、前から知り合いが歩いてきた。
「あ、ウィ…」
「ウィルエルドさん!」
私が駆け寄る前に、男性が私を押し退けるように知り合い…ウィルエルドに走り寄って行った。
ウィルは寄ってきた男性に気付いて若干苦笑しながら挨拶を返す。
「よぉ。どうしたんだ?」
「ウィルエルドさんにこんなところで会えるなんて感激です!今、ギルドに向かう予定だったんです!ウィルエルドさんはどうしてこちらに?」
「俺はちょっと人を呼びに…って、なんだよ。キリヤじゃねぇか」
ウィルは視線をあちこちにやっていたかと思うと、男性の後ろにいた私に気付いた。
「…ウィルエルドさん、あの女と知り合いなんですか?」
「まぁな。ちょうど良かったぜ。ギルドマスターがキリヤ呼んでこいっていうからそっちに行こうと思ってたんだよ」
ウィルはそう言いつつ、私に近寄って肩を組む。
そして、ぼそりと耳打ちをした。
「つけられてるな。どうした?」
私は無言で紙包みをウィルの視界の端でちらつかせた。
ウィルはそれを見て、さらには男性が持つ紙包みも見て察したらしく、腰に用意されているナイフと剣の位置を確認するように触った。
それだけで、後をつけている刺客が動揺するから面白い。
「ギルドマスターが私を…それは厄介事の匂いしかしない…ウィル、代わりに解決してきて!」
「いやいやいやいや。ギルドマスターの話聞いてから決めろよ。なんでそんなに投げやりなんだよ」
「最近腕が鈍ったから!」
「キリヤの鈍ったは鈍ったにならねぇから。ほら、とっとと行くぞー」
ウィルは私の逃亡を阻止するように肩から首に腕を回し、引きずるようにギルドへ向かって歩き始めた。
そんな私を、男性がめっちゃ睨んでいたことにウィルは気付いていなくて私は疲れを感じてため息を吐いた。
結論から言えば、街中で乱闘になることはなかった。
しかし、スリや酔っぱらいを装って近付いてくる刺客や遠距離攻撃(吹き矢とか)を仕掛けてくる刺客はいて、私とウィルは周りに被害が出ないように地道に対処をしていく。
男性は多分…マジで気付いていないようである。
周りを警戒はしているものの、その警戒は明後日の方向に向けられていて路地裏から現れた猫とか野良犬とかに反応しているから、なんとなく見ていて辛いものがあった。
…面白かった。笑い堪えるのって大変だよね…
ギルドに着いて中に入ると、騒がしかったギルド内がしーんと静まり返る。
うーん、デジャヴ!
なんでみんな静まり返るんだろうね?
しーんとしたことにウィルがちょっと驚いていたが、私が無視してギルドの奥に進むとウィルもついてきた。
その後を慌てて付いてきた男性は、私を押し退けて前に進み、カウンターで受付をしている人に得意気にギルドマスターのおつかいが済んだことを伝えている。
受付の人は、カウンターの横をあけてギルドマスター室まで案内してくれるらしかった。
部屋に着くと、受付の人は一礼して帰っていってしまった。
男性は緊張した面持ちで部屋をノックした。
「おう、空いてるぜ」
中からギルドマスターの声がして、男性はやっぱり緊張しながら扉をあけた。
「…あれ?」
部屋の中に入って、私はびっくりした。
部屋の中には、ギルドマスターの他にゼスさんがいたのだった。




