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最強な賢者様と私の話 Ⅱ  作者: 天城 在禾
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私が鍛える話 パート⑪





頭を抱えていたホセさんは、どうにもならないと悟ったのか、悩むのを止めて顔を上げた。


「…彼らのことはもういいでしょう。幸い、彼らも線引きを分かっているようですから…さて、次はキリヤ殿ですが」

「え、私ですか!?」

「勿論です。キリヤ殿…陛下の御前で気安い態度を取るのは止めていただきたい」


なんかめっちゃ釘を刺されに来てるぞ…?

うーん…あの時のことだよね…

以前、ドラゴン討伐の時に、国王に対してホセさんが口上を述べている間ぺらぺらと喋っていたからだろう。

だからホセさん私のことめっちゃ覚えてたのかぁ。

今考えたらちょっと悪かったなぁ、とは思うけど、国王から怒られてないから良いと思うんだ!

まぁ、時と場合は考えるけどね!


「分かりました、気を付けます」

「…ずいぶんと素直に聞き入れましたな?」

「あの時は流石に悪かったなぁ、とは思っているので。知らない人がいる前では止めますね!」

「そうではなく…!どのようなときでも陛下には…」

「あ、団長。それは陛下の意志を蔑ろにしてます。陛下はキリヤの気安い感じを気に入ってるんで」


怒鳴ろうとしたホセさんを見て、シェリエが間に入る。

ホセさんは、宥めようとしたシェリエに視線を向けたと思うと、額に青筋を立てて今度こそ怒鳴った。


「…お前もだ、シェリエ!陛下の執務室に気安く出入りした上、菓子を食っていたと聞いたぞ!」

「うっわぁ、誰だよ報告したやつ…あれは陛下が許可してくれたんですって」

「事後だろうが!」

「それまで聞いたんですか?密告者がいるのかよ…見つけて買収しないと…」


シェリエは、ホセさんの怒声を聞き流し、密告者を探すことにしたようだった。

ホセさんは、私たちの方こそどうにもならないと気づいたのか、ぐったりと項垂れてしまった。


「これが、未来の騎士団長と賢者様の付き人だと…?陛下が…次代のアレン様が…」


あはは!これくらいのほうが王様も肩凝らないと思うよ!

とは流石に言わなかったが、私とシェリエは微妙な笑顔を浮かべてホセさんを見るのであった。






可哀想なホセさんを連れて修練場へ戻ると、集まっていた騎士が7強の話を真剣に聞いていた。

どうやら、戦闘について教わっているようだった。

7強は、平民とはいえSランクギルドメンバー。しかも、この国の国王が認めたため、下手な貴族より強い権力を持っている。

そのため、教えられることに忌避感を持つことはないようだ。

私とシェリエも綺麗に整列して話を聞く騎士たちの後ろに並んで話を聞く。

丁度終わる頃だったのか、それとも私とシェリエを見つけたからなのか、ウィルが「それじゃあ、一対一をつくって実践するぞ」と言い、騎士たちが動き始める。

いつの間にか並んでいた私とシェリエを見て、騎士たちは驚いていたが、それぞれ一対一になって方々に散っていった。

騎士たちの中にはアレンとハルトも混ざっていた。

戻ってきた私とシェリエのところに、ウィルがやって来る。


「よう。団長さんとは話終わったのか?」

「……うん、終わったよ!」

「……うん、終わったかな」

「…その間はなんなんだよ…」


ホセさんが諦めるという結果になっただけで、話が終わったことには変わりない。


「キリヤも参加するか?」

「あ、いいね。ミゼンに相手して貰おうかな」

「ミゼンは端の方で一対多数の鍛練で騎士たちの相手してやってるから今は無理だな。もう少し待ってたら騎士たちの前でミゼンと戦わせてやるが」

「なにそれ公開処刑なの?」


シェリエは騎士たちを指導する側に行くようだ。

あ、ホセさんはハルトの警備について決まったことを報告するってさっき執務室へ行っちゃいました。

相手をしてくれる人がいないので、私は少し離れたところで騎士たちを観察する。

さすが精鋭である。ギルドメンバーのAランクに相当する実力者がゴロゴロしてる。

いやぁ、良いですね!私もたまにはここに鍛練しに来ようかな。


そうやって見ていると修練場に新たな騎士たちが入ってくる。

…ん?あれは、騎士じゃなくて騎士見習いかな?

騎士と騎士見習いの見分けは簡単につく。

騎士見習いの方が、頑丈な防具を身に付けているのである。

装備も一人一人に合わせた物ではなく、みんなが同じ物を身に付けている。

例えば、騎士のシェリエであれば身軽な方がいいから鎧のような物は身につけず、胸当てや肘当てなど要所を守る防具だけを身に付けている。

武器は暗器を使いなれているから見栄えだけ重視された剣(もちろん普通の相手であればシェリエはこの剣を使う)を持ちつつ、服の中に沢山のナイフや短剣を潜ませている。

これがホセさんになると、防具は兜のないしっかりした鎧のような物を身に付け、武器は大きな両手剣である。

と、このように騎士になったら本人の特性に合わせて装備を身につける。これに対して騎士見習いは軽いが頑丈な鎧と片手でも一応持てる重さの両手剣を全員が装備している。

…まぁ、騎士見習いはまだ技量が追い付いてないからね…

下手にシェリエみたいな防具とかにしちゃうと死人が出かねるから…

騎士見習いは現在大体100人くらい。

そのうちの1割…10人ほど入ってきたみたいである。

私は邪魔にならないように、騎士を指導しているシェリエの所へ行った。


「あれ?キリヤ何してるの?」

「見習いの人たち来たから退いてようと思って。どこ行ったら一番邪魔にならないかな…」

「そろそろ騎士見習いの修練時間だったか…暇なら誰か捕まえて対人戦させて貰えばいいじゃん。俺以外で」

「冷たい!7強も絶対嫌がるしなぁ。というか昨日戦ったばっかだから違う人とやりたいんだけど」

「うーん…俺は嫌ってのもあるけど今は指導しなきゃいけないから。それにキリヤみんなの前で戦うの嫌なんでしょ?それだと俺らが相手にするのは無理だ」


シェリエや7強と戦うと、その分指導する人が減る。

そうなると困るし、何より彼らが戦うなら、戦っているところを騎士たちに見せたほうが勉強にもなるのだろう。


「やっぱ眺めてるのが調度いいのかなぁ」

「あ、それか騎士見習いの所へ喧嘩売ってきたら?」

「なんで唐突に狂暴になるのシェリエ」

「あはは。今年見習いになったのが生意気で。教官が手を焼いてるって聞いたから」

「本音は?」

「あのクソウザイ貴族のガキどもをぶち殺したい」


…何があったんだ…


シェリエの話だと、新しく入ってきた騎士見習いの中に伯爵子息がいるらしく、しかも、腕が立つらしい。

貴族で騎士団に入るのはほとんどが子爵や男爵の子供なので、身分をひけらかしているようだ。

なぜ男爵や子爵の子供が多いのかというと、金銭面と魔術的な面である。

子爵家や男爵家は領地が狭いので税収も伯爵以上の貴族より少なく、血筋から持つ魔力も少なくなるので魔術学園に通うのも微妙。だから、手っ取り早く騎士にしてしまえ!というわけである。

伯爵子息は勉強も出来るし教養もあるのだが、協調性がない、というか典型的なガキ大将なので平民の騎士見習いが使用人のような扱いを受けているらしい。

しかも、いつも取り巻きを引き連れているから余計に平民の騎士見習いたちが手酷い扱いを受けているようだ。

これがシェリエの目の前で行われていたら、シェリエがぶち潰すらしいのだが、騎士や教官の前では上手くやっているので注意がしづらい。

なので、私に伸びきった鼻をへし折ってほしい、というのがシェリエの話だった。

それとは別で、一人孤立している騎士見習いがいるらしいのでそれも見てこいと言われた。


…100人くらいいる騎士見習いのうち10人しか来てないのに、そいつら全員いるってどんな確率なの…


仕方ないので、シェリエは指導を一旦中断し、私と一緒に教官の所へ向かうのだった。






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