お茶会は花があるといいとは言いますが。 その1
「これはいったいどういうことでしょうか?」
馬車の中でミズキが問うと、ユリウスは遠くを見たまま息を長く付いた。
「茶番だ。不本意かもしれんが付き合え。茶を飲んでたら終わる」
彼にとっても不本意であろうことは、全身から伝わって来るので、ミズキも仕方なしにそれ以上の追求は我慢した。
いろいろ聞きたいことはあれど、聞いたら最後、八つ当たりまがいにいろいろされそうな気配を察し、自重した。
その自制心を褒めたい。
褒めたいが。
―――これはない!!!
ミズキは心の中で途方に暮れていた。
いや、ユリウスがあそこまでいくのを拒んでいた場所だ。場所の予想はしていた。
そしてその予想は当たった。
残念なことに見事的中した。
そう。ランドルフ家の馬車は、いつもの分かれ道をいつも行く討伐部隊の隊舎方面ではなく、王城へと進んだ。
今日の服装からして、教会本部でもなく、隊舎でもなく、残る場所は王城だろう、そこまではミズキだって容易に予測はできていた。
でも、まだミズキは正式にユリウスの伴侶として公表されてはいない。
そう、公式上、ユリウスは対の候補者を求めている未婚男性なのだ。
だから、現時点でこんなあからさまな姿でミズキが王城に行くのは問題がある。
―――いったい、何を考えているの?
ミズキは訝しげにユリウスを眺めていた。
やがて、馬車は繊細に美しく手入れされた石畳の庭を走りはじめた。
その奥に白く高い塔が見える。瑠璃を溶かしたような屋根の青さにミズキは目を細めた。
生まれて初めて踏み込む場所。
きっと普通に生きていたらまったく縁のない場所だっただろう。
でもユリウスは現国王の甥子である。そのユリウスの対の精霊獣を宿したがために、いつまでもまったくの放免では済まされないだろうことは想像つく。
でも、それはきっと今ではなかったはずだ。
馬車が緩やかに停車すると扉が開き、従者が白い布をユリウスに渡した。
ユリウスはそれを受け取ると、大きく開き……何を考えているのかミズキをすっぽりと包んでしまった。
「え!?」
ミズキが反射的に布を払い落とそうと抵抗したが
「じっとしてろ。落ちても知らんぞ」
ユリウスが低い声を発すると同時にひょいと荷物のようにミズキの体を肩に担いだ。
「ちょ、下ろしてください」
ミズキが懇願するが
「黙れ。いいというまで口を開くな」
いつぞや聞いたような言葉で会話を強制終了させられ、ずんずんと歩き出した。
いくらミズキの体が小柄とはいえ、人一人分の体重を浮遊の魔法もかけずに音も立てずスタスタと歩く。
途中、警備にあたる兵士や侍女がぎょっとしたように立ち止まっているのがわかるが、誰もユリウスを咎める者はいなかった。
やがて、ミズキの体が下ろされて、覆われていた白い布が払われたとき。
その場所はミズキにとっては少し意外な場所だった。




