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閑話 ~甘い鎖~

 さくっ

 口の中で薄い飴と香ばしい木の実が、絶妙な歯ごたえと芳しい香りを放っていて、そのくせ生地はほろほろと口の中でほどけると言う、今まで食べたことのない新しい食感に、ついついもう一枚と手が伸びた。

 何気なく伸ばした手の先にあった最後の一枚をつかむ。

 それに気付いてユリウスは皿を見た。

 「……」

 最初、そこそこの枚数があったと思ったのだが。

 知らぬ間についつい食べ過ぎていたらしい。

 ユリウスは尽きない決済の書状をいったん置いて、手の中にある素朴なクッキーを見つめた。



 『敷地内の木の実って、とってもいいですか?』

 目の前の翡翠色につい目を奪われそうになっていたら、うっかり話を聞きそびれそうになった。

 どうにか反芻し思い出す。

 ―――ああ、木の実か。

 そういえば、先日の事件の引き金になったといっても過言ではないアスレチックコースで拾った木の実は、その後の強行移動の間にダメになってしまっていたらしく、屋敷に戻ってからひどくしょげていたのを思い出した。

 ユリウスは窓から庭を見渡した。

 屋敷の敷地内は、基本的にユリウスの持つ盾の聖霊獣「エイシス」の結界範囲内だ。

 少しでも害意を感じるものは、足を踏み込むことも出来ない。

 「ユリかランをつけること、それと敷地から出ないのを約束するか?」

 念のため梟をつけておくにしても、この小動物はいったいなにをやらかすか気が気ではない。

 ユリウスがしつこく念を押すと、ミズキはこくこくと頷いた。

 ミズキがこの屋敷に来て二月たった。

 木の実など自ら集めなくとも、庭師か侍女に一言告げれば山のように集めてくるだろうに、いまだ使用人を使うことができないでいるらしい。

 たぶん使う気もないのだろうことは想像できるが。

 もしも彼女が生まれながらの家で、何事も起きず本来あるべき家族と共に過ごしていたら、もう少しお嬢様然として育っただろうか?

 ユリウスははっと短く笑った。ありえない。

 ユリウスには今の姿以外のミズキなど想像もできなかった。

 マーロウやベネスに本気で弟子入り志願を出して2人を困らせたことも、ユリとランと共に大物の洗濯を一緒にしようとして、ベネスに一括されていた姿も結局のところ彼女らしい。

 ミズキはあまりに身分に頓着をしない。

 屋敷の周囲にある林の中をユリと楽しそうに歩く姿を見れば、もしかするとユリのことも使用人と言うよりも妹のように見ているのではないかと邪推してしまう。

 いや、生徒とみなしているかもしれない。

 ユリはこの屋敷の中で一番ミズキに年が近い。

 行儀見習いとして奉公に上がっているが、ユリも立派な貴族の子女だ。

 それゆえ多少世間知らずなところがあるので、ミズキはことさらユリを気にかけていた。

 リラの教会で教師として働いていたと言うくらいなので、教えることも好きなのだろう。ベネスが黙認していることをいい事に、ときどきミズキはユリに勉強を教えていると言う。

 林を散策するミズキとユリの様子を見れば、今の行動も主人と使用人と言うより、むしろ姉妹のようだ。

 初めての森遊びデビューをする妹を監督する姉……。

 梟の目を通しながら伝わってくる楽しげな様子に、ユリウスはふと口元を緩めた。



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