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穴に埋まりたい朝




 朝、目が覚めてミズキは苦笑いをした。

 目の前にいる美形はまだ眠っているようだ。

 髪と同じくくすんだ金色の長いまつげに透き通るほど美しい白い肌。

 パーツパーツは驚くほど美しい形と配置を織り成していた。そして出来上がる美しい造形美。

 ―――そういえば、彼の寝顔をこうやってゆっくり見るのは初めてだ。

 ミズキはそおっと顔を近づけて観察した。

 ―――本当に綺麗な顔……。

 そして恐れ多くもこの顔に、昨夜あんなことやこんなことをしてしまったと思い出せば、火が出るほど恥ずかしくなった。

 ユリウスに背を向けて

 ―――ぎゃーぎゃーぎゃーーー!!! 昨日一日をまるまる消去して!!

 両手で顔を押さえて悶絶する。

 「……何をしている」

 「いや、穴があったら入りたい、いっそ自分で穴掘って……って」

 ミズキははっとして寝台に手をついて身を起こした。背後を見ればユリウスがおかしそうにミズキを見ていた。

 昨夜とは違いいろいろ色がある夕闇色の瞳と、まだうっすらと艶のある唇に、ミズキの体がみるみる赤く染まりぷしゅーっと蒸気をあげる。

 「どうやら元に戻ったみたいだな」

 ユリウスがくつくつと笑いながらミズキを抱き寄せた。

 「わっ、ちょ!!」

 ミズキが非難の声を上げたけれど

 「昨夜の続き、するか? 今だったら普通に楽しめそうだが」

 ユリウスのミズキの夜着へと伸びる手に、慌ててミズキは自分の夜着のあわせを両手でぐっと引き寄せた。

 「も、もう、そう簡単に流されたりあきらめたりしません!!」

 ミズキが言うとユリウスはくつくつと可笑しそうに笑った。

 「そうしてくれ」

 その声がかなり優しくて、ミズキの心はまたくすぐったい気持ちでいっぱいになった。

 ―――ああよかった。

 ミズキも心の中で安堵していた。

 彼も昨日の仄暗さはどこにも感じられなかった。

 「どうした?」

 ふしぎそうに首を傾げるユリウスにミズキは、くすぐったく笑いながらユリウスの夜着の裾をぎゅっとつかんで腕に頭を寄せる。

 「ユリウス様、昨夜は本当にすみませんでした。そしてありがとうございました」

 ミズキが侘びと礼を一緒にいうと、ユリウスが困ったように笑った。

 ミズキの柔らかく艶やかな髪をなでて、顔をそっと近づける。

 その意図に気付いてミズキは慌ててドンとユリウスを突き飛ばした。

 「あのっ、やっぱりこういうのも、ちゃんと好きな人としたいんですよね」

 「今更じゃないのか?」

 「ああっ、もう! 今更とかいわないで!」

 ミズキは真っ赤な顔をして頭を横に振った。

 「昨夜のはそもそもお前が誘ったんだぞ?」

 「だから、そういやって人追い込むこといわないでください! 昨夜の私は超絶投げやり状態だったんで、私じゃないんです!」

 ミズキが喚くようにいうと、ユリウスはくつくつと笑った。

 あんなの、もう一度しろと言われても絶対にできない。だからやっぱり昨夜の自分はおかしかった!

 そう結論付けてミズキは

 「だからもう、また新たに気を引き締めるんです! 習慣になったら困ります」

 ユリウスにびしっと指を突きつけた。

 ユリウスが何か言いたそうな顔をしていたけれど、それは見ないふりをして

 「ネックはお食事だったんですけど、私もほら、昨日美味しくいただきましたのでしばらく空腹も感じないと思います。というわけで、もうする必要ないですよね? ユリウス様はご自分でいくらでも調達できるわけですし」

 にっこりと名案だといわんばかりの会心の笑顔で言い放つ。

 ユリウスは額を押さえた。

 「というわけで、あ、いまさらですがおはようございます。じゃ、私は部屋に戻ります」

 ミズキはニコニコ上機嫌で言いたいことを言い切ったとばかりに寝台を下りた。

 実際スッキリしていた。胸のわだかまりがぽろんぽろんと落ちた感じ。

 「今日は誰が剣を教えてくれるかな」

 鼻歌交じりに今日の予定を組み立ててみたりもする。「ヴィーかな、エリーはさすがにヴィクターさんが嫌がるかな」

 ミズキが自室の扉に手をかけたとき、その手の上に別の手が重なった。

 ―――ん?

 ミズキは白い夜着をたどって振り返った。

 「ユリウス様、どうされたのです? ユリウス様も朝の支度があるのでは?」

 ミズキはきょとんとユリウスを見上げた。

 が、その唇をふさがれた。

 熱くくぐもった舌でかき回される。

 「ちょっ、何するんですか!」

 押し返してもまた再び覆いかぶさって、ミズキはまた扉伝いにずるずると座り込んだ。

 「だから、口付けはしないと……!」

 涙交じりに文句を言ったけれど

 「1回だ」

 見当違いの返事が返ってきた。

 「は?」

 ミズキは呆然と尋ね返した。

 「お前が2人きりの時に俺をユリウス様などと呼んだら、そのたびごとに1回、その口をふさいでやる」

 「は? まったく意味がわかりませんが」

 「……アカデミー2年で卒業した秀才なんだろう? 考えろ」

 ユリウスはそういうとへたり込むミズキをその場に置いて自室に戻っていった。

 ミズキはユリウスが扉の向こうに消えて、その扉がパタンと閉じられるのを見送ってもなお、呆然とその扉を見ていた。

 ―――意味がわかんないよ!



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