第84話 暗黒剣士となったエドと再会
それは燃えるエルフの森での出来事であった。
黒い剣士がいた。
剣を持ったエルフ兵と対峙している。エルフ兵は恐怖のあまり震えていた。黒い剣士が放つあまりの負のプレッシャーに飲み込まれていたのだ。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああ!」
恐怖で気が狂いそうになりながらも、他に出来る事などない。背を向けても斬り捨てられるだけだ。既に地面に伏している同胞達のように、屍の山の一つになるだけだ。
もっともそれは勇敢に立ち向かったところで同じ結果にはなるのではあるが。
「へっ。おせえよ」
黒い剣士はエルフ兵の攻撃をあざ笑った。恐怖に飲まれた我武者羅な剣はただの大振りの一撃。精彩さを欠いていた。もっとも、それはエルフ兵が冷静だったとしても同じ事だ。冷静に振るわれた剣だったとしても、黒い剣士は簡単に斬り捨てる事ができた。
両者の間にはそれほどまでに剣の技量差が離れていた。その差は天と地ほどの開きであった。
「ぐ、ぐほっ!」
斬られたエルフ兵は口から血を吹き出し、ドサッ! と地面に崩れ落ちた。
「くっ! なんて強さだっ!」
残ったエルフ兵達は恐れ、慄いていた。黒い剣士の背後には大勢の魔族兵がいたのだ。魔族兵一体に黒い剣士程の強さは内にせよ、それでも数が多い。
魔族兵はニタニタと笑みを浮かべ、蹂躙を楽しんでいるようだった。そう、これはもはや魔族とエルフ族の戦争ではない。蹂躙劇なのだ。詰り、踏みにじるだけの魔族にとっての見世物になっている。
絶望がエルフ族に襲い掛かってきた。
「……こ、このままでは我々エルフ族が滅んでしまう……」
一人のエルフ兵が怯え、足がすくみ上っていた。
「な、何を弱気な事を言っている! わ、我々の手でエルフ国を守らなければならないのだぞっ!」
他のエルフ兵に叱責されるが、その叱責しているエルフ兵の表情もまた、恐怖に染まっていた事は否定できない事ではあった。
「だ、だが! 戦力差は絶望的だ! もはや我々に勝機などない! 奴らに踏みにじられるだけの贄か何かだ! 時間稼ぎ程度の事しか我々にはもう! このまま闘っても無駄に命を捨てるだけだ!」
「ふざけるなっ! そんな弱気な事でどうするっ!」
「おいおい? なんだー? 仲間割れかー? あーっ?」
その様子を黒い剣士は愉しげに眺めていた。一見すると人間のようにも見えるが、その醜悪な表情は魔族よりも魔族らしかった。
「お祈りは済ませたか? それじゃあ、お前達もあの世に行ってもらうぜ」
黒い剣士は剣を構えた。そして振り下ろす。
「ひ、ひいっ!」
エルフ兵は死を覚悟した。
――と、その時であった。
キィン! 甲高い音が響いた。
「ん? ……こいつは」
「エド……お前は本当にエドワードなのか……」
黒い剣士——エドの前に姿を現したのはかつてユグドラシル家を追い出された義兄のソルであった。
ソルはエドの剣を受け止める。
「皆の者! 待たせたの!」
「後は私達に任せてどうか戦線から下がってください!」
バハムートとクレアも応援に駆け付けた。彼女たちが魔物兵の相手をする手筈になっているのだ。
「なんだ? 兄貴……見ない間に俺の顔を忘れたのか?」
「忘れたわけじゃない……だけどあまりに変わり果てている。お前は良い奴だとは思えなかったけど、それでも人殺しを愉しんで行える程落ちぶれてはいなかったはずだ」
「そんなの簡単だろ。人は変わるんだよ。きっかけさえあれば一瞬でな」
「俺に負けたからか? あの時、剣神武闘会で俺に負けたから……それでお前は悪魔に魂を売ったのか?」
「くっはっはっはっはっは! ふざけんなっ! 俺は負けてねぇぞ! あんな茶番劇! 剣のお稽古事! 俺様の中では闘いの数にカウントされてねぇんだよ! あんなものを俺の敗北に数えるなっ!」
エドは憤った。そして間合いを取った。改めて剣を構える。
「これから始まるのが俺と兄貴——てめぇとの最初の闘いだ! それ以前の闘いなんて存在していないにも等しい」
「エド……お前は本当にもう、人間をやめたのか」
「御託はいい……さあ、やろうぜ。兄貴。本物の闘いを。今度行われるのは本当の殺し合いだ……どっちかが死ぬまでやろうぜ兄貴。まあ、わかってんだろうけどな。死ぬのはてめぇだ! この【レベル0】の無能兄貴! この俺様がてめぇみたいな無能に負けるはずがねぇんだよ!」
エドが斬りかかってきた。
「くっ!」
ソルは剣を構える。
キィン! 再度激しい音が鳴らされる。剣と剣がぶつかり合った。
――こうしてソルとエドの再びの闘いが行われる事となった。
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「魔法が使えない無能」と実家を追放された少年、世界唯一の召喚魔法師として覚醒する~魔法学園では劣等生として蔑まれましたが、規格外の召喚魔法で無双します~
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