表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/90

第43話 ソルが剣神武闘会に出場する事に


「……それで」


 王城のテラスに移動したクレアとソル、それからバハムートは三人で会話をする事になる。


 むしゃむしゃ。


「うーん! 美味い!」


 バハムートは出されたお菓子を遠慮なく食べていた。少女のような見た目をしているが、やはり中身は(ドラゴン)の為、大飯食らいのようだ。燃費が悪そうだ。バハムートを使い魔にした事をソルは軽く後悔する。社会常識が欠如している上に大飯食らい。当然のように遠慮を知らない。


「お代わりをくれないか!?」


 完食したバハムートは執事に要求してくる。


「え、ええ……はぁ。わ、わかりました」


「少しは遠慮しろ。バハムート」


「こほん……」


 クレアが咳払いをする。本題が進まないのだ。


「色々と聞きたい事があるんだけど……まず。ソル、あなたは何をしていたの?」


「それは……その」


 なんと話せばいいのか。まさか実父に裏ダンジョンに捨てられ、苦闘の末生還してきたとは言えまい。幼馴染のクレアに嘘をつきたくはないが、それでも何でも話せるわけではない。話してはいけない事というのも世の中には存在していた。


「剣の修行をしていたんだ」


「剣の修行?」


「ああ……スキル継承の儀の時、皆に馬鹿にされたのが悔しくて、それで強くなりたかったんだ」


 嘘ともいえない。実際、ソルは剣の修行をダンジョンでしてきた。そして強くなったのである。


「……そう。この半年剣の修行をしてきたのね。けど、あなたが『レベル0』っていうレベルの上がらない固有スキルを授かったっていう話は私も聞き及んでいるわ」


 クレアは語る。


「レベルが上がらないあなたがどうやって強くなったの?」


 当然の疑問だ。


「強さっていうのはレベルやステータスだけじゃない。目に見えない強さっていうのも存在している」


 例えば剣技。剣の腕がどれほど立つか。数字には決してならないものだ。それは容姿みたいなものだ。クレアの容姿が優れているのは間違いないが、決してその容姿という要素は数字にはならない。極めて主観的なものだ。


 レベルやステータスは明確に数字になる。だが、それが強さの全てではない。ソルはそう考えていた。


「そう……それは確かにそうね。世の中には数字にならない強さも存在しているのは確かよ。例えば心の強さなんかもそうね。それに関しては同感だわ。あなたがこの半年間何をしていたかはわかったわ。質問の二つ目、その子は誰?」


「なんだ? 小娘。我の事を聞きたいのか!?」


 バハムートはテーブルに身を乗り出した。


「聞いて驚け! 我は竜王バハムートであるぞっ! そして今はこのソル——主人(マスター)の使い魔であるっ!」


「黙っていろ。バハムート」


「ぐ、むむっ!」


 ソルはバハムートの口を塞ぐ。 


「そ、その修行の最中、記憶喪失の女の子を拾って保護したんだ。自分の事を勘違いして認識しちゃってるみたいで」


「も、もごもご……な、何が勘違いだ! わ、我は本当に……んぐぅっ!」


 口を塞がれたバハムートはそれでも喋ろうとしていた。


「そ、そう……なんだかよくわからないけど、大変なのね。恋人とかではないのね?」


「えっ? あ、ああ……別にそういう関係ではない」


「うむ。確かに我等は恋人ではない! しかし主人(マスター)が情欲に溺れ、女の体を求めし際はいくらでもこの身を捧げ――もごもごっ!」


「い、いいから黙ってろ。話がややこしくなるだろっ!」


 ソルはバハムートの口を塞ぐ。


「聞きたい事はそれくらいか?」


「え? うん……そうね。その娘が恋人とかじゃないなら問題ないわ」


 クレアは顔を赤くして言う。仮にソルとバハムートが恋人同士だったらクレアはどういう反応を示したというのか。興味はあるがわざわざ試してみる程の事でもない。


「俺からも聞きたい事がある」


「なに?」


「俺は半年くらい山に籠り剣の修行をしていたから。世の中の事がわかっていないんだ。ユグドラシル家はどうなった、エドはどうしている?」


「エドはユグドラシル家の次期当主という事になっているわ。エドはスキル継承の儀で『久遠の剣聖』って言う当たりスキルを授かったらしいから」


「そうか……」


「それで今は私の婚約者って事になっている」


「婚約者か……」


 ソルは驚かなかった。予想出来ていたからだ。予想できていた事が確認できた。ただそれだけの事であった。


「うん。私はユグドラシル家の次期当主と婚約させるって事は国の決まりだったから。逆らえるわけもなかったの。私は嫌だったんだけど、仕方なく。けど私はエドを婚約者として認めたわけじゃない。嫌だったのよ、あんな奴の妻になるの、まっぴらごめん。私はソルが次期当主になると思っていたのに……」


 それはなんだ? つまりはそれはソルとなら婚約者になってもいいという事にならないか。鈍感なソルはクレアの好意にろくに気づかなかったが、流石に違和感のようなものを感じていた。


「ご、ごめんごめんっ! な、何でもない……さっき言った事は気にしないで。忘れて」


「そ、そうか……わかった」


 ソルは淹れられた紅茶を飲んだ。気にせず流す事にした。


「それでエドを拒んだ私は、エドに条件を出したの。『剣神武闘会に優勝できたら婚約者として認める』って。それでエドは剣神武闘会に出場する事を決めたの」

「そうか……という事はエドはこの国まで来ているのか」


 あまり再会したくない相手だった。その上もしかしたら実父であるカイも来ているのかもしれない。カイはエドに次期当主として寵愛を注いでいた。血縁関係はないにも関わらず完全に息子扱いだ。甲斐甲斐しく、武闘会まで応援に来ても不思議ではない。


「ソル、お願い。あなたも剣神武闘会に出場して」


「え? なんでだよ……クレア。知っているだろ? 俺が継承した固有スキルは『レベル0』だ。俺はレベルが上がらないんだよ。強くなれないんだ。そんな武闘会に出場して太刀打ちできるわけないだろ」


「あなたはいっていたじゃない。レベルやステータスにはならない強さがあるって。私はソルがその強さを身に着けたと思うの。私はエドに剣神武闘会に優勝されるわけにはいかないの……そんな事になったら私はあいつの言う通りにならなくちゃ」


 クレアは悲しそうな目をしていた。何となくソルは察していた。恋情に対する洞察力は異様な程鈍いが、こういう時は鋭かった。


『婚約者として認める』という事はただ認めるだけの事のようには思えなかった。まるで絶対服従の奴隷のような関係になるように感じた。そしてそのソルの洞察は全く以て正しかったのだ。


主人(マスター)よ。いい加減手をどけてくれぬか。我に喋らせろ。もうやたらな事は言わんと約束する」


「あ、ああ……わかった、バハムート」


「その剣神武闘会とやら、出てみればいいだろう」


「出るのか? 俺が」


「別に我はその小娘の身を案じて言ったわけではない。主人(マスター)に群がる小蠅など煮られようが、焼かれようが関心はない」


「小蠅……」


 王女として生まれたクレアは聞きなれない侮蔑に眉を潜めた。


「だが、言ったであろう。世界の力の拮抗を乱す、『綻び』が余に見えると」


「『綻び』か……」


 それは世界の話を乱す、『危機』なのかもしれない。そういった危機から世界を守るのがユグドラシル家に生まれた宿命(さだめ)なのかもしれない。家督など関係なく、ソルがソルとして生まれたが故の逃れ慣れない運命(さだめ)


「我の予感が告げておる。その剣神武闘会で何かが起きると。世界を滅びの危機に陥れる魔の者がその中に紛れ込んでいるやもしれぬ。そして災いを起こそうとしている。その災いを事前に防げるのは主人(マスター)だけだ」


 バハムートは語る。


「わかった……出よう。クレア。その剣神武闘会に」


「ありがとう。ソル……これで策が二つに増えたわ」


「策が二つ?」


「え? い、いえっ! 何でもないわっ! 気にしないで!」


 クレアは頭を振った。気がかりではあるが、ソルは流す事にした。


 こうしてソルは剣神武闘会に出場する事になったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


ここまで読んでいただいた皆様にお願いです!

↑の☆☆☆☆☆評価欄↑を

★★★★★にしていただけると作者の大きなモチベーションになります!


もちろん、ブックマークも嬉しいです! 引き続きよろしくおねがいします!



+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ