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Grave Dancers ! ~死体装飾家の修辞学~  作者: エノウ アカシ
第18章 The Jinx and the Scatterbrain
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№14 『行旅死亡人』

 帰りついた民宿で、僕たちはまたも食べきれないほどの量の朝食を、しれっとした顔で平らげた。


 そのあと、チェックアウトまでの間、レンタカーの手配をして荷物をまとめて、布団がなくなった広い畳敷きの客室に、僕は焼死体と並んで正座をした。


「…………」


「ほら、無花果さんも、正座」


 僕が真正面の畳を指さすと、無花果さんはふてくされた顔で渋々その場に正座する。


「さあ、説明してもらいますよ。どうして米軍基地のモルグなんかにこんな焼死体があるとわかったんですか?」


 改まって問いかけると、無花果さんはがしがしと頭をかき乱して、


「ああもう! やっぱりしなきゃいけないのか、『種明かし』!」


「当然です。『相棒』として聞く権利がありますからね」


「まったく、まだまだケツの青いヒヨっ子だねえ、君は! 男なら、黙ってマルっとすべてを受け入れたまえよ!」


「そんな古錆びた世論にはごまかされませんよ。あと、僕は根性論が大嫌いです」


 正論パンチが効いてくれたのか、無花果さんは狂乱したように身をよじりながら、


「くきいいいいいいい! これだからイマドキのワカモノってやつは!」


「そういうのはいいですから、説明責任を果たしてください」


「ああもう、わかったよ!! するよ『種明かし』!!」


 内心、僕は『待ってました』という期待で胸がいっぱいだった。僕が『作品』の次に楽しみにしているのが、この『種明かし』なのだから。


 死体を前にして不謹慎なのは重々承知している。しかし、これほどまでに知的好奇心を刺激される機会はなかなかない。


 なにごとかぶつくさ言っていたけど、観念したのか、無花果さんはため息をついてから人差し指を立て、


「いいかい、まず『疫病神はすでに死んでいる』という前提の検証からだ。これは推測するしかないけど、旅先で突然連絡が途絶えて帰ってこない天涯孤独の不運男、これはなにかの事件に巻き込まれたと考えた方が妥当だ」


「それなら僕もわかります。けど、どうして米軍基地なんかに死体があったんですか?」


 僕の問いに、無花果さんはめんどくさそうな顔をした。しかし、さっきと決定的に違うのは、子供のめんどくささか大人のめんどくささか、そこだ。


 無花果さんは正座をしたまま仏像のように両手を組み合わせて、


「この土地はね、基本的には米軍が治安維持行動をしているのだよ。警察ではない。その証拠に、そこら中にミリタリーポリスがうじゃうじゃしているだろう。ひとり捕まえて煽れば追ってくるくらいヒマを持て余した屈強な米兵たちがね」


「それとこの焼死体になんの関係があるんですか?」


「まあまあ、聞きたまえよ。そんなところで揉め事でも起こしてみろ、やんややんやとヤンキーどもが集まってくるだろう。じゃあ、みくるちゃんのときのように密かにさらって海にポイ? いやいや、沿岸警備隊の目だって節穴じゃないんだ。じゃあ山に埋めるかだけど、そもそも山がないよねえ。だったらもう、ガジュマルの根元くらいしか死体遺棄の場所なんて残らないよ」


「それだけですか?」


「もちろん、他の根拠もある。正義感が強いやつだったけど、ちゃあんと仲直りができるくらいにはニンゲンができていたらしいじゃないか。そんな疫病神が、その辺でケンカなんてしないさ。よって、事件に巻き込まれて殺害されたセンは薄いと考えた」


 ふう、とまた無花果さんが大人のめんどくささのため息をつく。


「ある意味で、ここは日本で一番治安が守られている土地だ。賛否両論はあるだろうけど、そんな政治的な話は抜きにしてね」


「事件性が薄いことは分かりました。じゃあ、なんで米軍基地に死体があったんですか?」


「言ったろう、この土地では米兵が警察の役目を果たしていると。当然、発見された死体は米軍が回収する。だからわざわざ米軍基地に殴り込みをして大立ち回りをする羽目になったのさ」


「それはわかりますけど、じゃあそもそも、どうしてもう死体が発見されてると考えたんですか?」


 そこで、無花果さんは二本目の指を立てて僕に顔を寄せる。


「事件性はない、だったら事故だ。しかし、今回はタブンくんのときのような特殊な状況ではない。ただの観光客がイレギュラーな動きをすることは、まあないだろうからね。普通に事故にあっていれば、普通に死体が発見されてるに決まってるさ。その死体を警察の代わりに米軍が回収したということだよ」


「そういうことでしたか……じゃあ次です。どうして焼死体なんですか? 米軍基地だって広い、モルグにはたくさんの死体があった。そこからどうやって疫病神さんの死体を特定したんですか?」


「おっと、そこを突くかい。君、『行旅死亡人』というものを知っているかい?」


「……いえ」


「要するに、身元不明の死体が出ると官報に載るのだよ、『行旅死亡人』としてね。だから、その中からそれらしいものを小鳥くんにピックアップしてもらったのだよ」


「でも、『行旅死亡人』なんて毎日何人も出てるでしょう。身元不明の死体なんて、沖縄だけでも相当な数ですよ。それを特定した要因はなんですか?」


 段々と明らかになっていく真実に、僕も自然と早口になった。


 それを見透かしたように、無花果さんはナイショ話をする顔で笑って見せて、一枚の新聞記事のコピーを取り出して見せた。


「これを見たまえ」


 言われた通りに顔を近づけて新聞記事を読むと、それは民宿が全焼したという地元新聞記事だった。焼け跡から一家三人と宿泊客と見られる焼死体を発見、と書かれている。


 無花果さんは、ぴし、とその紙を指ではじき、


「小生、これを見てぴんときたね。念の為調べてもらったら、ここはゴーヤのだし巻きが地元民の間で人気の宿だったそうだ」


「そういえば、粗忽者さんが電話で聞いていた中に、そんな話がありましたね」


「そういうことだよ。ちょっと安直かとも思ったのだけれど、疫病神は消防士だったろう。それが、目の前で泊まっていた宿が火事になっていたらどうする?」


「……まあ、助けますよね」


「だろう? 人情味の希薄なまひろくんですらそうなんだ、正義感が強くて職務意識の高い消防士なら、非番の日だって人命救助をするだろうさ。頑固で曲がったことが大嫌いなら、絶対に助けにいくに違いない。しかも民宿の子供も巻き込まれている。子供が大層好きだった疫病神は、子供だけでもと思ったろうさ」


「でも、プロがみすみす火災に巻き込まれますかね?」


「もしこれがシラフの状態なら、二次災害のことも考えられたかもしれない。しかし電話でも話していた通り、酒好きの疫病神はおそらく酔っていただろうね。いつも通りの判断ができなかった。だから、燃え盛る民宿に飛び込んで子供を助けに行った。そしてそのまま丸焦げになってしまった。そういうことだよ」


「……それは納得できます。けど、それだけじゃまだ薄い気がします」


「小生もそう思ってね、逆に考えてみたのだよ、『身元不明の死体を探す』のではなく、『なぜ身元がわからない死体が出来上がったのか』とね。疫病神くんが泊まっていたのが、Webで予約できないようなレトロな宿だったからだよ。唯一の手がかりである宿帳もいっしょに焼けてしまっただろうし、死体がこんなんじゃあ持ち物だって焼失して当然だ。火災で全部燃えてしまったんだとしたら、すべてに説明がつく」


「……なるほど」


「疫病神くんが正義のファイヤーマンだったこと、子供がいたこと、そして身元不明の理由を総合的に考えてみた結果、あの焼死体にたどりついたのだよ。米軍基地のどこに死体が保管されてるか、なんてことも小鳥くんに調べてもらったのだけれどね」


 ……それで、『種明かし』は終わりだった。無花果さんは正座の足を崩して体育座りをしている。


 矛盾のない思考のトレースを披露してもらった僕は、しばらくの間、すべてを噛み砕くために頭を巡らせるのだった。

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毎度だが、小鳥くん優秀すぎないか?
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