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人物紹介⑦:北条氏直

 Ⅰ. 大陸史データベース『テラ・ペディア』

 項目:ウジナオ(仮説上の人物)

 分類: 歴史上の人物(仮説) / 黎明の時代


【概要】

 近年、大陸東方の『オダワラ地底遺跡』からその名が記された金属板が発見されるまで、いかなる神話・伝承にもその存在が記されていなかった、謎の人物。

 この発見は、これまで単独の神、あるいは一人の超人的な統治者と考えられてきた建国の祖「サガミノカミ」が、実際には複数人、あるいは数代にわたる一族だったのではないかという、全く新しい説を生み出すきっかけとなった。

 現在では、サガミノカミの治世の末期に大陸を襲ったとされる最初の『大災害』を退けたという神話上の功績は、この「ウジナオ」という実在の人物が行ったものではないか、という仮説が最も有力視されている。


【発見の経緯と史実の考察】

 彼の存在が初めて浮上したのは、オダワラ地底遺跡の中心部から発見された家系図らしき金属板の断片によるものである。そこには、「ウジマサ」という人物から「ウジナオ」へと、統治権が引き継がれたことを示唆する記述が残されていた。

 この発見は、サガミノカミの治世が数百年続いたという従来の定説を根底から覆すものであり、歴史学会に大きな衝撃を与えた。現在、学会では「サガミノカミ」とは、ウジヤス(建国の父)、ウジマサ(秩序の父)、そしてウジナオ(救国の父)という、親子三代にわたる統治の象徴名であったとする『三代サガミノカミ説』が活発に議論されている。

 ただし、彼の時代の後に、大陸史ではそれを上回る規模の大災害が複数回発生している記録があり、彼が成し遂げたことは、世界の脅威の「根絶」ではなく、あくまで一時的な「勝利」に過ぎなかった可能性も指摘されている。


【後世への影響】

「ウジナオ」という名は、発掘調査によって初めてその存在が示唆されたため、後世の文化や信仰への直接的な影響は現在まで皆無である。しかし、彼の存在が証明されれば、建国の歴史は全面的に書き換えられることとなり、今後の研究が待たれている。




 Ⅱ. 風魔一族秘伝データベース『事実録』

 項目コード: 007

 対象: 五代目 北条氏直


【基本情報】

 本名: 北条ほうじょう 氏直うじなお

 生没年: 盟約暦元年 〜 盟約暦八十二年

 享年: 82歳(満年齢)

 称号: 新九郎、左京大夫、相模守

 神話上の呼称: サガミノカミ(三代目 / 救国の英雄)


【概要】

 後北条家五代目当主。父は四代目・氏政、祖父は三代目・氏康。異世界「テラ・ノヴァ」で生まれ育った、最初の当主。祖父の深謀遠慮と、父の誠実さを受け継ぎ、連合が予期していた最初の『大災害』に、その生涯を賭して立ち向かった、我らが三代目主君。


【人物】

 祖父と父の偉業を、幼き頃より間近で見て育ったため、為政者としての重圧を、誰よりも深く理解していた。しかし、それに押しつぶされることなく、むしろ、それを自らの天命として受け入れる強靭な精神力を持っていた。

 異種族との間に、一切の偏見を持たなかった。彼にとって、エルフも、ドワーフも、オークさえもが、等しく、守るべき「民」であった。その公平無私な姿勢は、連合を、真の意味での「一つの国家」へと昇華させた。

 武芸にも優れ、幼少期には、隠居した大叔父・綱成から、直々に剣の手ほどきを受けた、最後の世代でもある。その剣は、綱成のような神業には及ばなかったが、王者の剣として、常に民を護るために振るわれた。


【主な功績】

 第一次大災害への対応: 彼の治世における、最大の功績。連合全土に張り巡らされた情報網を駆使し、大災害の予兆をいち早く察知。祖父たちが遺した備えを最大限に活用し、食料の備蓄、民の避難、そして、魔物の凶暴化スタンピードへの迎撃を、大陸規模で、極めて組織的に実行した。この迎撃戦において、連合軍は多大な犠牲を払ったが、文明の崩壊という、最悪の事態を回避することに成功した。

 連合の完成: 祖父と父が築いた連合を、より強固で、機能的な組織へと完成させた。各種族の代表者による「大陸評議会」の権限を強化し、北条家による中央集権的な支配から、より合議制に近い、持続可能な統治体制へと移行させた。

 技術の継承と発展: 大災害を乗り越える過程で失われた、古代の技術や魔法の知識を、幻庵様の遺した文献を元に、再編纂・体系化した。


【風魔特記事項】

 我らが歴史において、彼こそが、「サガミノカミ」伝説の最後のピースである。民は、三代にわたる、百数十年にも及ぶ北条家の偉業を、ただ一人の、神のごとき英雄の物語として、語り継いでいった。

 彼は、大災害を「解決」したのではない。ただ、連合の総力を以て、「乗り越えた」だけであった。彼自身も、これが周期的に訪れる、避けられぬ天災であり、根本的な解決には至っていないことを、深く理解していた。彼が晩年、最も心血を注いだのは、次なる大災害に備えるための、より強固な食料備蓄システムと、知識の保存技術であった。

 その懸念は、悲劇的な形で、現実のものとなる。彼の死から数百年後、15代目当主・北条氏胤うじたねの治世。連合の誰もが予測し得なかった、前回を遥かに上回る規模の「第二次大災害」が発生。連合が築き上げた、高度な魔工学文明は、その大半が、この時に失われ、大陸は、再び数百年にわたる、混沌の時代へと突入した。



 その後も、人類たちは、規模の大小はあれど数度の大災害を経験している。だが、ここ二千年近く、大規模な災害は観測されていない。それが、真の平穏の訪れなのか、あるいは、より巨大な「収穫期」への、不気味な静寂に過ぎないのか。その答えを、知る者は、まだいない。


【最期】

 第一次大災害を乗り越え、大陸に、真の「黄金時代」をもたらした後、民に見守られながら、穏やかな最期を遂げた。彼が、後継者に遺したとされる言葉が、我らの記録に残っている。

「我らは、勝ったのではない。ただ、生き延びただけだ。決して、驕るな。そして、決して、備えを怠るな。我らの戦は、この星がある限り、永遠に続くのだから」


これにて本当に完結となります。

これまでありがとうございました。


次回作もどうぞよろしくお願いします!

『スパルタ・ドリフターズ 〜来たりて、取れ!〜』


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