人物紹介⑥:黄梅院
Ⅰ. 大陸史データベース『テラ・ペディア』
項目:豊穣の女神
分類: 神話上の人物(神格) / 豊穣神 / 慈愛の女神
【概要】
大陸全土の農村地帯を中心に、古くから信仰されてきた豊穣と治癒を司る女神。
その起源は長らく不明とされ、特定の宗教体系に属さない土着の自然神と考えられてきた。しかし、近年の『オダワラ地底遺跡』の発掘調査により、建国の祖「サガミノカミ」の後継者「ウジマサ」の妻であり、実在した「もう1人の英雄」であったことが明らかとなった。
【神話・伝承】
大陸各地には、彼女に関する無数の奇跡の伝承が残されている。
最も有名なのは、古の大飢饉の時代、彼女が痩せ果てた大地に一粒の涙を落とし、そこから黄金色の稲穂を無限に実らせたという「陽光米」の伝説である。
また、巨大な災厄が大地を覆った際、天から黄金の光の雨を降らせ、傷つき地に伏した全ての者たちを瞬く間に癒したという「慈雨の奇跡」も広く語り継がれている。
【史実の考察】
オダワラ遺跡の中心部から発見された、古代ドワーフの技術によるミスリル製の碑文が、彼女の実在を決定づけた。
レリーフには、災厄との最終決戦において、地に伏した武神「ジキハチマン」に黄金の光を注ぐ女性の姿が克明に描かれており、その手には黄金の稲穂が握られている。
この発見により、彼女は単なる神話上の存在ではなく、夫である指導者を支え、民の命を守り抜いた「偉大なる国母」として再評価されている。
【後世への影響】
現代においても「陽光米」は大陸の主食であり、彼女の名は豊かさと平和の象徴として、農民や医師たちの間で篤く信仰されている。
Ⅱ. 風魔一族秘伝データベース『事実録』
項目コード: 006
対象: 四代目 北条氏政 正室
【基本情報】
本名: (武田信玄の娘、名は不詳 )
生没年: 天文十二年 〜 盟約暦四十八年
享年: 67歳(満年齢)
称号: 黄梅院、御裏方様
神話上の呼称: 豊穣の女神
【概要】
甲斐の虎・武田信玄の娘であり、北条氏政の正室。政略結婚で北条家に嫁いだが、夫婦仲は極めて睦まじかった。転移後、固有スキル【豊穣の女神】が覚醒し、北条家の、そしてこの大陸の文字通り「命脈」を繋いだ救世主となった。
【人物】
常に穏やかで物静かだが、その芯には戦国大名の姫としての気高い誇りと強靭な精神力を持つ。夫である氏政を生涯その影から支え続けた。
彼女のスキルは植物の成長を促進させ、傷や病を癒すという規格外のものであったが、彼女はその力を驕ることなく、ただ「民を飢えさせない」「夫を支える」という純粋な慈愛のためだけに行使した。
その人柄は人間だけでなく、エルフやドワーフといった異種族からも深い敬愛を集めた。特にエルフのリシアとは、種族を超えた姉妹のような固い絆で結ばれていた。
【主な功績】
食糧危機の回避: 転移直後の深刻な食糧不足の際、彼女の祈りによって生み出された「陽光米」は、民の腹を満たし、その後の国力増強の絶対的な基盤となった。
医療体制の確立: 「小田原医療院」において、その治癒能力を惜しみなく民のために使い、多くの命を救った。
対『成れの果て』戦: 最終決戦において、命を削る最大級の能力解放を敢行。瀕死の英雄たちを蘇らせ、戦場全体を浄化するという奇跡を起こした。この行いがなければ、連合軍の勝利はあり得なかった。
異文化交流: 盟約成立後、各種族の女性たちを集めた茶会を主催。政治的駆け引き抜きで互いの文化を尊重し合う場を作り、草の根の融和に貢献した。
【風魔特記事項】
我ら風魔衆に対しても常に慈愛の心で接してくださった。五代目小太郎が任務で深手を負った際、三日三晩付きっきりでその治癒にあたったという記録が残っている。その御恩は一族の語り草となっている。
晩年、隠居した夫・氏政と共に穏やかな日々を過ごした。彼女が手入れをする庭には、故郷の世界の草花とこの世界の植物が美しく咲き乱れていたという。
【最期】
盟約暦四十八年、夫・氏政の死から三年後。
夫の後を追うかのように、眠るように静かに息を引き取った。享年六十七。その亡骸は夫の隣に寄り添うように葬られた。
彼女が生前、侍女に漏らした言葉が記録に残っている。
「わたくしは女神などではありませぬ。ただ、殿の、そしてこの国に生きる全ての民のささやかな幸せが、一日でも長く続くこと。それを願うだけの、ただの一人の女にございます」




