人物記録①:北条氏康
Ⅰ. 大陸史データベース『テラ・ペディア』
項目:サガミノカミ
分類: 神話上の人物 / 建国の祖 / 統治神
【概要】
大陸史における『黎明の時代』(旧帝国暦末期〜盟約暦初期)に活躍したとされる、伝説的な指導者。後世において半ば神格化されており、その存在は長らく神話や伝承の域を出なかったが、近年大陸東方の『オダワラ地底遺跡』から発見された遺物により、実在の人物であった可能性が高まっている。
【神話・伝承】
建国神話によれば、世界が絶望に覆われた『嘆きの時代』に、「太陽の国」より「獅子の一族」を率いて降臨し、大陸に『禄寿応穏』の理念をもたらしたとされる。
幾度もの大災害による記録の断絶を経て、その本名は失伝しており、称号とされる「サガミノカミ」の名でのみ語り継がれている。
彼は従来の王侯貴族とは異なる独自の統治哲学を持ち、飢える者には等しく稲穂を与え、ドワーフ、エルフ、オークといった異種族を一つの卓に着かせたとされる。災厄の化身『成れの果て』との最終決戦においては、自ら刃を振るうことなく、圧倒的な徳と慈愛によって災厄を浄化したと伝えられる。
大陸の諸王が彼に「王」の称号を捧げようとした際も、「王とは民を支配する者。わしは民と共に歩む者でありたい」と固辞し、生涯無冠の統治者として民に尽くしたという逸話が残る。
【史実の考察】
オダワラ遺跡から奇跡的な保存状態で発見された『三本の刀』のうち、黄金の稲穂の蒔絵が施された長大な太刀が、彼の佩刀であったと推定されている。鞘に刻まれた『三つ鱗』の紋章は、獅子の一族のシンボルとされる。
現代大陸法の礎となっている『禄寿応穏の盟約』は彼が提唱したとされるが、その先進性から長らく後世の創作説が根強かった。しかし、遺跡の石碑解読により、彼が実在の指導者として盟約を主導したことはほぼ確実視されている。
【後世への影響】
現代においても大陸の民が最も尊敬する「建国の父」として、その名は広く浸透している。公共事業や法整備の根底には、今なお彼の思想が息づいている。
Ⅱ. 風魔一族秘伝データベース『事実録』
項目コード: 001
対象: 初代 統合様
【基本情報】
本名: 北条 氏康
生没年: 永正十二年 〜 盟約暦三十年
享年: 76歳(満年齢)
称号: 相模守、左京大夫、相模の獅子
神話上の呼称: サガミノカミ
【概要】
戦国時代の日本、関東地方を支配した後北条家三代目当主。永禄四年、47歳の時に居城・小田原城ごと異世界「テラ・ノヴァ」へ転移。以後、約10年という短期間で大陸の秩序を再建し、来るべき『大災害』に備えるための巨大同盟『禄寿応穏の盟約』を成立させた。
【人物】
稀代の政治家であり、当代一流の武人。戦場では「相模の獅子」と恐れられたが、本質は何よりも民の安寧を願う慈愛の為政者であった。
極めて現実的な思考を持ち、権威や常識に囚われず「民のためになるか」を基準に行動した。その統治理念『禄寿応穏』は、魔法文明においても最強の統治術として機能した。
義理の娘(嫡男・氏政の正室)である黄梅院を深く信頼し、その能力が大陸の運命を左右することを理解していた。また、綱成、幻庵、そして我ら風魔を完璧に使いこなす卓越した人心掌握術を持っていた。
【主な功績】
転移直後の統治確立: 未曾有の混乱の中、即座に評定を開き人心を掌握。食料・医療・インフラの基盤を確立した。
異種族同盟: エルフ、ドワーフ、オークと対等な同盟を構築。各種族の長と深い信頼関係を築いた。
帝国十字軍の撃退: アークライト神聖帝国による三十万の大軍を、外交・戦術・技術の総力戦で撃破。大陸の覇権構造を覆した。
『禄寿応穏の盟約』: 帝国崩壊後の混乱を収め、大災害に対抗する大陸規模の同盟を結成。
平和的隠居: 盟約成立後、嫡男・氏政に全権を譲り隠居。権力に固執せぬ姿勢が、連合の結束をより強固にした。
【風魔特記事項】
転移直後、五代目小太郎に大陸全土の調査を命じ、短期間で世界の理を把握した。
幻庵殿より「世界=生贄のシステム」という絶望的な真実を知らされた際も、「ならばその理ごと喰らい返す」と不敵に笑ったとされる。
晩年、孫の氏直(幼名:新九郎)に空の赤い星を指さされ、「我らの戦は、まだ始まったばかりよ」と語った。この言葉は、我ら一族が数千年にわたり北条の血脈を守り続ける使命の原点となっている。
【最期】
盟約暦三十年、隠居として穏やかな日々を過ごした後、病により死去。
この世界のマナに満ちた環境は、彼の寿命を元の世界よりも長く保たせた。その死は、最初の『大災害』が訪れる前のことであり、まさに『禄寿応穏』を体現した安らかな大往生であった。亡骸は小田原を見下ろす丘に葬られた。




