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怪力幼女と変態少女

「レオン、もう暴れても良い?」

 大人しそうな口調で言うクロエだが、その声には欲求不満のようなものが潜んでいる。


 そんな彼女にレオンは、優しい兄のような表情と口調で返す。

「良いよ。でも、またこの前回みたいに船を壊し過ぎちゃダメだよ。積荷を回収しないとまた収入が減っちゃうし、何よりクロエは泳げないんだから」


「うん! 分かったよ、レオン!」

 クロエはニッコリと可愛らしい声で言うと、首と両手両足の枷の鎖をチャリチャリ鳴らしながら、甲板の上を目にも止まらぬ速さで、まるで突進する騎馬隊のように駆け抜ける。

 目の前に立ち塞がる海賊をその細い腕で殴り飛ばし、細い足で蹴り飛ばし、小さな頭で突き飛ばす。


 クロエの戦いぶりは、小柄で華奢な身体からは想像もできない、歴戦の武闘家も顔負けというほどの凄まじさだった。


 その勢いは留まる所を知らず、帆柱マストに正面から激突すると、帆柱マストの方が衝撃に耐え切れずに折れて倒壊してしまう。


 その様子を見たレオンは溜息を吐いて頭を抱えた。

「だから壊し過ぎないでっていつも言ってるのに」


「いい加減、学習してよね、レオン。あの娘は手加減なんてできないんだって」

 ロッテも諦めたような口調で言うと溜息を吐く。


 一方、幼い少女に蹂躙される海賊達は、恐怖と動揺で顔を歪めて逃げ腰になっている。

「な、何だ、このガキ!?」


「ば、化け物だ!」


「虎のような耳に、尻尾……。まさか、この娘、虎人族ティグルか!?」


「ば、馬鹿言うなよ。虎人族ティグルがこんなところにいるはずがねえだろッ!」


 虎人族ティグルとは、大陸西方のガリア王国に住む亜人種である。

 戦闘に特化した肉体を持つ戦闘民族で、飛び抜けた身体能力を持ち、“生きた戦車”の異名を持つ。

 ガリア王国は巨大な軍事力で隣国に侵略を繰り返す軍事国家であり、虎人族ティグルの力を独占するために、『虎人族ティグル自治区』という名の家畜小屋を設けて奴隷化するという政策を実施している。

 ガリア国外で虎人族ティグルが出歩いているとしたら、それはガリア王国軍虎人族旅団(ティグル・ブリゲード)の襲来という事。

 しかし今、海賊船に乗り込んできているのは当然、その虎人族旅団ティグル・ブリゲードではない。


 だからこそ、海賊達はクロエ生きた戦車の名に恥じない勇戦ぶりを見ても、彼女が虎人族ティグルである事を信じられなかった。


 クロエが一人で海賊達を翻弄する中、ドレス姿の少女アンジェは妙に落ち着かない様子で頬を赤く染めている。

「あ、あの、ご主人様、私、ずっと大勢の鋭い視線に晒され続けて、そろそろ興奮し過ぎて気がおかしくなっちゃいそうなんですけど。も、もしかして、これはほ、放置プレイという奴ですか!? なるほど。流石はご主人様です。敵地のど真ん中でもこんなプレイを仕掛けてくるなんて」

 勝手に頭の中で妄想を展開しているアンジェ。


「ちょっとアンジェ! 百歩譲って妄想は良いから、それをベラベラ人前で話すのは止めてくれ! 僕が変態と誤解されちゃうだろ!」

 レオンは顔を真っ赤にして抗議する。


「アンジェ、あなたはちょっと自重しなさい!……まったく。あなたも好きに暴れてきて良いから、その興奮し切った身体、ちゃんと冷ましてきなさいよ!」


「え!? そんな事をしたら、一体その後どうやってこの火照った身体を絶頂までもっていけば良いんですか!? まさか、また一から発情しなおせって言うんですか!?」


「「絶頂も発情もするな!!」」

 レオンとロッテは、幼馴染として息の合ったツッコミを入れた。


「ぜ、絶頂も発情も禁止!? きょ、今日はそういうプレイを、」


「アンジェ、そろそろ本気で怒るわよ」

 穏やかな口調ながら、ロッテの一言は甲板上に戦慄を走らせた。


「は、はい! では、行ってきます!」

 アンジェは左右の腰から下げている鞘に収められている剣をそれぞれ両手で握り締めて抜け取る。

 純白のドレスに似つかわしい白銀色の双剣を構えたアンジェは、軽快な身のこなしで甲板の上を駆け抜け、両手の剣を自身の手足のように操り、目の前の海賊達を斬り伏せていく。


 その見事な動きはまるで舞のように美しく、透けて肌のほとんどが見えてしまっている彼女の身体は対峙する海賊達を虜にして視線を釘付けにした。

 そうして隙が生じた所を、アンジェは巧みな剣技で打ち取る。

 洗練されたその動きは、正に剣舞のようであった。


 しかし、そんな間にもアンジェは、

「あぁ、私はこれから勇戦空しく敵に捕らわれ、荒縄で縛られて抵抗できない状態にされてから身体を汚い男達に凌辱される! うぅ、何と素晴らしい!! あッ! ま、まさか、それこそがご主人様の考えた本当のプレイ!? 凌辱される私を見て、それを楽しむつもりですね! 流石はご主人様です!!」

 海賊達を次々と斬り伏せながら、とんでもない妄想を大声で披露するアンジェ。

 既に興奮し切っており、頬を赤く染めて、燃え尽きてしまいそうな勢いだった。


 そんな彼女にレオンは恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら声を上げる。

「アンジェ! いつもいつも勝手な妄想で、人を色情狂みたいに言うのは止めてくれ!! 僕は何も言ってないからね!! 第一、そのご主人様っていうのも誤解を招くから止めてって言ってるでしょ!!」


 赤面のレオンに、ロッテは横から彼の肩に手を乗せる。

「レオン、あれはどうにもならないわ」


「……」


「さ! 私達もお仕事よ! 二人に任せてばかりもいられないわ!」

 そう言ってロッテは、腰から下げている聖剣ノートゥングを抜いて参戦する。


「はぁ~。まったくしょうがないな~」

 諦めた様子のレオンも鞘から聖剣バルムンクを手にして戦いの渦中に身を投じた。


 四人が全ての海賊を打ち倒すまで、時間にして五分も掛からなかった。

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