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オープニング2





(アリギエ・馬車発着場)



「よぉ、待たせたな。てか、待っててくれたんだな……」

 緑昇とモレクが馬車に背を預けていると、二人組に声を掛けられる。


 一人は旅の荷を入れたバックパックと汚い麻袋を背負った、金髪の少年。



 もう一人は修道服ではなく、肩が膨らんだ黒いブラウスと短いスカートで、動き易くシスターにも見える紫髪ロングの少女。手には魔言杖を持っている。




「行き先は王都だっけか? マモンの王冠を持ってくんだってな。ん? その馬車は自分で動かすのか?」

「あぁ……この先の危険の、可能性を考えてな」



 エンディックの質問に答える緑昇。

 彼にはある懸念が有った。


 モレクが、妖精が人間種族への復讐を考えているかもしれない以上、他の勇者達が正気でいる保証は無い。


 既に人格を支配されているかもしれないし、通信で警告しようにも、それでは当人達が危ない。



「モレクに通信させ、マモンを破壊したことを知らせてある。もし……俺の戦友達が敵に回っていた場合、何らかのアクションを取ってくる可能性がある。

 なので巻き込む人間は少ない方が良い」

「ふーん、今は本当に『緑昇が』喋ってんだな?」



 エンディックは勇者の隣でそっぽを向いてる女妖精を見た。

 緑昇を未だにモレクが操り、演じているなら、緑昇の生存の為に犠牲を考慮しないはずである。





「あら、貴女も来るんですのね?」

「はい、私はエンディックんの保護者だし……大親友ですから」



 モレクがシナリーに気付き、シナリーは満面の笑みで答える。

 それに対し、女妖精は半目で抱いていた疑問を口にした。



「仲良しですこと。シナリー=ハウピース……坊やとは本当にただの友人なんですの? 実は男女の仲だとしたら、乳繰り合わされても迷惑ですわよ?」



「えぇ、心配ないですよ。エンディックんは昔から女の人に興味無いですから」

「おいこら何言ってんだおい!」



 聞き捨てならない発言にエンディックは怒り、モレクは緑昇を遠ざけた。


「でもぉこんな『爆乳紫髪ロング幼馴染』っていう男性の性根に直撃な私が側にいてもぉ、エンディックんは一度も劣情を向けてきたことありませんよね?」



 少年に振り向きながらシナリーは、わざとらしく体を揺らす。


 すると重そうな両胸もユサっと追従した。


 緑昇は済んだ瞳でこの一瞬を脳裏に焼き付け、モレクは怪訝な表情。

 そしてエンディック無感動に返答する。



「はぁ? 自意識過剰だっつーの。お前とは昔からの付き合いだし、今更女とは見れ」


「私ちゃんと自分がドスケベな体をしてるって、自覚有るんです……。サーシャ義姉ちゃんや他のシスター、アリギエの女の人を見ても、私の胸は大き過ぎるなって。


 すれ違った男性からは必ずガン見されるし、私が体を動かして胸が揺れると、その重力振動を感知した殿方の眼が注目します。


 悪い男の人に絡まれて、返り討ちにして臨時収入を得たことも数知れずです。


 えぇ、そうでしょうとも。そこの緑昇さんのような反応が、正常な男性の執着いや『乳着心』なのでしょう。

ですが私は今まで、幼馴染の下のテントが張った瞬間をついぞ見ることがありませんでした。あぁ! 神よ」



 シナリーは芝居掛かった口調をし、祈るように両手を組む。


 その際両腕に押された彼女の胸が、ブラウスの真ん中のボタンを弾き飛ばさんほど盛り上がる。



「エンディック=ゴール、恥ずかしがることはない。君は何らかの病気だ。

機能的問題を抱える男性は世の中にいくらでも居る。王都にそういう医者が」

「待て待てそんな哀れんだ態度で見るなこのヤロー。

あのよぉ……昔もテメーよく俺と歩くとき、無駄にバカデカい乳これ見よがしに揺らしてたけどよ。これもそうだが、恥ずかしいから止めてくんね?」



 一切の照れ隠しもなく言い放つエンディックに、緑の勇者は信じられないといった顔で引いた。



「やはりノンケではなく、ホモか。貴様の同行は御免被る」

「いえ緑昇さん、最近エンディックんが寝ている隙に部屋を探ったところ、ちゃんと裸の女性が描かれた本が有りましたー」

「そうか、貴様は貧しい者好きか。安心しろエンディック、大半の女は貧」



「十歳以下の女の子の裸の本が」

「……」

「ち、違う! 誤解だっつーの! 俺にそんな趣味が」

「……!」


 シナリーと緑昇とモレクの目は凍りついた。

 ここにきて初めて、少年が恥ずかしそうに言い訳をしたからだ。彼の(ギルティ)は確定である。



「まぁ、旅立つ前にパーティーの親睦は……深められたな……」

「け……、そんで緑昇。アンタの方は決心ついたのか? 戦いたくなくても勇者を続けるのか。殺したくなくても殺すのか、殺さないのか。 納得出来るのか、それとも……無理なのか」



 勇者はエンディックの問いに、繕っていた鉄面皮を崩す。

 モレクの操作がない彼は、俯いた表情から苦悩する色を覗かせていた。


 あれから時間は充分に有った。しかし緑昇の中で答えは、簡単に諦めがつく話ではない。



「解ら……ない。君が疲労で床に伏せっている間、昔のように活動してみたが……」

「あぁ、(ゴールデン)KNIGHTが現れない間は。

 (グリーン)KNIGHTがアリギエに出没してたって聞いたわ。

しかもそいつは武器を持たずに、素手で誰も殺さずに場を収めたってな」




「殺さなかった……だけだ。アリギエの騎士団が少しは浄化され、治安が良くなったとはいえ、それでも完全な平和とは言えない」







 アリギエ騎士団内で改革が行われつつある噂は、少年の耳にも届いていた。

 この街での銀獣の会がほぼ壊滅したことや、それと癒着していた騎士団幹部等が殺害されたこと。


 更に若く熱意有る騎士達が代替わりし、彼らが現状に物申したらしい。

 これからは犯罪者の即釈放や、不当捕縛などは少なくなりそうだ。



 そしてこの若い騎士達が、かのニアダ=ゲシュペーを慕い、彼のように正しい騎士道を貫かんとする者達であることを、エンディックは知らない。






「エンディック……俺……は……勇者としての活動を続けようと思う。確かに君に敗れたが、己の信念自体が間違っているとは認めたくない。


 だから今度は死なない体ではなく、モレクの精神操作を借りず、自分の身を案じる一人の人間として、出来る範囲で殺せるだけ殺し、殺せないだけ諦めることに……する」



「それで良いのさ緑昇。アンタは『俺達』と違って、マトモなんだから……。


 目的や正義の為なら、誰かを傷付けることを良しとする……


『言い訳にする』


俺らの方が、人間としてイカれてるんだからよぉ。


 アンタは善悪関係なく、誰かが傷付くのが『嫌』だったんだ。緑昇は、正義のヒーローの真似っこをするには、真面目過ぎたんだぜ……」




 二人の男は柔らかく笑む。

 このとき戦士達の胸中を表すかの如く、清らかな風が吹いた。

 わだかまり無き風が三人の人間と、一人の映像の間を通り抜けていく。



「俺達は同じ道を歩もうと、その信条は異なる。いずれ殺し合いになるかもしれん。だが」



「一緒に行けば、互いの両手から零れ落ちた、助けられなかった何かを、片方が救える。

アンタと俺の矛先が交差したそのときは、救う者の元に黄金の騎士が現れて、緑の勇者から守ればいいってな。



 緑昇は趣味で世界とやら救えば良い。


 俺も道楽で同じく勇者に憧れた、一人の同好の士を手助けしてやるぜ」



 エンディックとシナリーが馬車の中へ。緑昇は御者台にて馬を打ち、発着場より出発させる。








「本当に……良かったのかしら……? ワタクシは奪った権利を貴方様に返しました。

これで緑昇は肉体が死んだら、もうそれで死んでしまう……。今後はより危険な戦いになるかもしれませんのに、こんな……」



 勇者の隣に寄り添う妖精は、顔に憂いを浮かべる。

 今まではモレクの宿る手甲が破壊されない限り、緑昇の死の権利はなく、魂は体に囚われたままだった。

 そこから肉体を治して、体力を回復させれば、緑昇の意識は戻ったのである。



「良いんだモレク……人は……死んだら、死ぬんだ。俺は他人を傷付ける怖さだけではなく、己の死の恐怖からも、逃げていたのだ……」



 自嘲する緑昇。もし誰かに力づくでも止められなければ、誰かを助ける為という『言い訳』でこのズルを続けていたことになるからだ。






(だがモレクの懸念も解る。王都に残っているのは色欲、怠惰、嫉妬の三人の勇者。

彼ら本人は共に憤怒の勇者と戦い、この傷付いた世界の為に尽力すると誓った戦友達だ。

 もし彼らの契約している妖精達が腹に一物抱えていたとして、大食一人で太刀打ち出来るものだろうか?)






 彼が良くない想像にかられたとき、後ろの馬車内部から少年少女の楽しげな話し声を聞いた。



(ふ……己は一人で戻るのでは……なかったな)

 彼は仲間達に紹介しに行くのだ。


 この異世界を救うかもしれない、この世界の勇者を。

 黄金騎士という『シュディアー人の勇者』を連れて。










「ん? 何ニコニコしてんだよシナリー」

 馬車の中で向かい合って座っているシナリーに、エンディックは問う。



「だって楽しいんですもん〜。こうやって友達とどこか旅行に行くなんてこと、私には有りませんでしから……」



「そうだな……アリギエの近くに行ったことは有っても、これから向かう王都なんて遠出は、無かったもんな……って、観光じゃねぇよ。

 緑昇が立ち直るまでの、付き添いさ。いやまぁ道楽だから、軽いノリで良いのかもなー」



 エンディックも釣られて笑む。シナリーのとても楽しそうな顔を見て、本心からこう思った。





(良かった……本当に良かったなシナリー。いつもの作り笑いじゃない……昔の顔に戻って……)



 孤独な男の子を救ってくれた、黄金の騎士鎧の勇者。


 下界で虐げられ、心を閉ざしていた少年と、友達になって一緒に遊んでくれた、一つ年上のお姉さん。


 あのときの時間は、彼女の笑顔は、彼にとってかけがえのない物だった。



 そしてエンディックが大好きだったライデッカーと共に、何としてでも取り戻したかった、彼女の幸せだった。





(あぁ、そうさ。成し遂げたぜオヤジ! 俺はシナリーが、自分の足で幸せに向かえるよう、邪魔するあの悪魔野郎をぶっ壊してみせたぜ!


 あの世で見てろよぉハゲ。俺と、シナリーが、幸せになっていく様をよぉ〜)




 仇を討ち、最愛の友を救い出したエンディックは馬車の天井、天を見上げてニヤリと笑った。



(見ててね……お父さん……)

「あ〜、なんかエンディックんが格好付けた笑い方したり、悲しくなったりしてますね〜。

 ねぇ、エンディックん! 王都に着いたら一緒に珍しい物でも食べに行きましょ? 服とか見に行きましょ? 下着売り場に行きましょ? 大人のオモチャ売り場とかに行って実演して見ましょ?」


「おいおい、明らか男と行くとこじゃねぇ所混ざってんぞ……」



 エンディックは楽しかった。彼は親友である彼女と、こんなたわいの無い話がしたかったのだ。

 四者を乗せた馬車はこんな面白可笑しい会話をしながら、アリギエから王都へ出発した。







 人の性は、悪なのかもしれない。

 その悪の手で紡がれる世界は、暗い闇の道なのかもしれない。


 だが人は『飽き』やすいのだ。

 だから変わった者が、『善』の心に目覚めるかもしれない。

 その酔狂は、決して叶うことのない呪いに見えるかもしれない。

 だが『飽き』はしないだろう。

 人の「悪性」や「欲」に限りが無いように、

 世界を救いたい、という「欲望」もまた、際限無く湧き続ける泉なのだから。


 善性を是とし、他者を思いやる「欲望」。

 人は、それを「希」望と言う。


爽やかな終わりでしたね……←シナリーのアレに全て持ってかれた気がしますが。


シナリーが挟むと言いますが、一体何のことだか小生には皆目見当。胸で妊娠するわけねーだろいい加減にしろ!?


二巻以降、こういうシーンを隙有らば挿入れてイキたいと思います……。



次回はあとがきと、次巻予告と、ネタバレキャラステータス表です。


読み終わった方は、感想とポイント、レビュー等でコキ下ろしてもらって結構ですー。


次巻予告では、他の勇者達が顔見せします。

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