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オープニング1

(少年少女達のオープニング)



「僕達がお義兄さんにしてもらうことなんて、何もありません。どこへなりと行ってください」


 姉と一緒に教会の手伝いをしているキリーは、身内の提案を却下していた。



「僕の問題は学校に行かなくなったことと、貧乏人だと差別していた奴らが死んだことで、ほぼ解決しました。

姉もお義姉ちゃん達が仲良くしてくれたおかげで、どうにか立ち直れそうです。


 これらは貴方の功績ではありません。貴方は僕の家族を打ち負かしただけで、ほとんど助けてません。


 貴方は僕達にとって、いらないんですよ? むしろ僕を助けてくれたのが、恨んでた緑の勇者だったのが皮肉というか何というか……。


 何も価値ないなら、僕らは貴方の顔も見たくない。そもそも手助けされたくもない。……ここの家族のことは……将来僕が守りますよ……。だから、ご勝手にどうぞ」








 サーシャはコルレとスクラといった子供達を構ってやりながら、義弟を引き止めはしなかった。


「 そう……でもその内帰って来なさいよ。貴方のことちゃんと見えてないと心配で心配で……。

前に魔物が街の中に入って来たときだって、近所の人にも伝えるとか言うと、中々戻って来なかったし……」


「え〜! 何? 駆け落ち? きゃー!」


「シナリーオネェチャンモ、ニモツマトメテタシ、ソウナノカナート」


「あんですってー! ついにあの子を嫁に連れてくのね? 結婚式は? 子供は? あーなによソレ、いきなり義姉ちゃんの心配事を増やさないでよちょっと待ちなさいエンディック!」






 シナリー=ハウピースは親友の言葉に首を振った。

「付いて行きますよ〜。だってエンディックんのお父さんに、頼まれましたから……」







 エンディックが緑昇を勇者の椅子から下ろし、緑の勇者から緑の騎士にしたあの日。

 その後またしても疲労で動けず、対戦者である緑昇に担いで、孤児院まで送ってもらったあの日。


 少年の実の父親、ギデオーズ=ゴールが目覚めたのだ。



 しかし、父息子が言葉を交わせた時間は短かった。

 緑昇とモレクの見立てでは、もう彼の命はそう長くはないそうだ。



 鎧を着る為の調整を受けていないギデオーズは、あまりにも長く無理矢理に勇者の力を行使させられ続けている。


 強欲の悪魔、いや妖精のマモンがシナリーへと主を乗り換えたのは、この男の肉体が限界だったことも理由だろう。


 ギデオーズという人間の体は、もう壊れていたのだ。






 エンディックは泣きながら、ベッドで寝ている父に寄りかかり、再会の想いを共有し合った。


 そして病室の外で伺っていたシナリーを、父に引き合わせたのだ。

「あ……あの……えぇと」

「……すまな……かったね。君を……助けられなく……て……」



 シナリーにいつもの空元気は無く、話すべき内容に迷っていると、ギデオーズから決着の言葉が下りる。


 それは彼女の妄執を吹き消す謝罪。


 当時のシナリー=ハウピースという幼い子供の、罪の独占を禁ずる言葉であった。



「僕が……マモンの支配に抗えていれば……冴虚は死なず……息子に寂しい想いをさせずに済んだはずだ。

シナリーちゃんが苦しみ続けることもなく、ライデッカー君も死ななかった……。

 僕のせいだ……僕達マシニクル人のせいなんだ」



 エンディックの父は息も絶え絶えに、成長した少女へ語りかける。


 彼はシナリーを勿論恨んでおらず、大人として妻と子供達を守れなかったことを悔いていた。




 これによりシナリーは過去を後悔することが出来なくなる。

 憧れた女性の死の責任も、己に復讐する権利すら、もう冴虚の夫であるギデオーズの物だからである。




「そうか……僕達の研究成果である鏡面装甲が使われてしまったのか……。あれは偽物の富の発展型である、ヴァユンⅩⅡの防御装備なんだ。


 最初は厄介な金属毒を、元々金色の部分に集中させて受ける技術だったけど、冴虚が『それなら魔力そのものを常に反射する盾を作ろう』って……。


 ⅩⅡが銀色なのも鏡の部分を敵に見間違えさせる為だったんだが……まさか奴に使われるとは……ね。


 シナリーちゃんを救うべく、僕達は必死に研究した……。その結果マモンに直接戦うより、脅威を自分の物にしようと考えさせてしまったわけだ。

 努力って報われないもんだね……」





 ギデオーズは息子から聞いた今までの経緯を聞き、自嘲する。


 妻との輝かしい錬金術の研鑽の過去が、未来の子供達にあだなす悪用をされてしまうなど、と。



だが息子は否と反ずる。


「そんなことないよ! お父さん達の作品はどれも凄かったんだよ? 僕の両籠手だって、こんなもの世の中に二つと無い最強の武具だ!


 僕はお父さんの作品でいっぱい人を助けてきたんだよ? ヴァユンⅢの足は、沢山の弱い人々の元に間に合った! 偽物の富の槍は、悪い奴や魔物、勇者だってやっつけてみせた!


 もし昔失敗したとしても、これからの僕が父さん達が貸してくれた力を使って、いっぱい良いことをするから! だから……だから!」



「エンディック……よく自力で、その『偽物の富』を使いこなしたね……。

誰からも師事を得ず……ライデッカー君が持ってった錬金術の蔵書だけで、ほぼ独学でその作品を使ってきたなんて……やっぱりこの子は母さんの息子だなぁ……天才だ。


 ライデッカー君に……エンディックを預けたとき、もしものときには遺品になるかと、余った作品を……一つ置いていったが……。


 エンディック、借りたなんて思わなくて良い。君は父さん達のより前の技術で、父さんにも勝てなかった悪者を倒したんだ。


 それがまぐれでも、誰かの助けが有ったからでも良い。

 あっちで母さんに胸を張って自慢出来る、英雄の息子だ……父さんが成れなかった英雄の……」



「そうだよ……僕……僕頑張ったんだよぉ……! だから褒めてよ。これからも僕のこと褒めてよ……一緒に居てよぉ! お父さぁん……!」




 もはや少年に着飾ってきた強がりはなく、泣きながら懇願する。

 だが父親は明日の命も解らぬ身。ギデオーズは子の頭を撫でることしか出来ない。



 考え抜いた末に彼がすがった相手は、今も俯く数少ない知り合いだった。



「シナリーちゃん……エンディックのことを、お願いします」

「……え? いや私は」


「僕はもう長くないらしい。愛する息子のこれからを、この子がオジサンとなり、結婚したり、家族を作ったり、そんな姿を見ることが出来ないみたいなんだ……。


 親としてこの子の友達はもう、君しか知らない。頼れるのは君しかいない。


 お願いします……エンディックのことをどうか、どうか……!


 これからも……友達で居てやってください」


「……っ!」



 少女の服の袖を掴む、父親の真摯な眼差しと嘆願。

 シナリーは目を逸らすとこが出来ない。



 あろうことか死にたがっていた彼女に、同じ死人から『未来』を任せられるとは。



「……はい」


 頷きと共に復讐鬼シナリーは、この日死んだ。



 祈われて、

呪われた。



 もう彼女の命は、当人の物ではない。償うというなら、ギデオーズの代わりにエンディックを見守り続けなければならない。






 数日経って彼が死に、その葬儀が終わったとき、この少年少女の祝われた絆は、誰にも断ち切れないものとなった。








「だからエンディックんがどこかに行くなら、『今度は』追いかけようって決めたんです。

 やっぱり置いていかれるのは寂しいですから……」

「シナリー……」



 昔、少年は復讐心を糧に街を飛び出した。

 だが友人を救う為ならば、ずっと側に支えてやるべきだったのだ。


 なぜならライデッカーが居たとしても、その彼の死の報の際、絶望に染まったシナリーが言葉を掛けて欲しかったのは、エンディックだったはずなのだから。



「だからエンディックんが一人で居るのが放って置けない……辛いとき、悩んでるときは一緒に居てあげたい。


 貴方が挫折したとき、私が寄り添っていれば、ここに帰ってくるまで悩み苦しまずに済んだはずです……。


 それがエンディックんの『大親友』である、私の役目。ううん、私の欲望ですから」


 そう言ってシナリーは最高の輝きを放ちながら、笑顔でエンディックの手を握った。

エピローグが6話の始まりなのは、ここでエンディックとシナリーの話が終わったことを意味します。


そして今、プロローグなのは彼ら4人の旅が、苦しい宿命ではなく、道楽のヒーローごっこの物語が、スタートしたことを意味します。


めでたし、めでたし、ではなく、


始まり、始まり、で終わる物語なんですよ。

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