エピローグ
仇である黄金の勇者を破壊し、親友を救い出した黄金騎士。
これで少年少女達の因縁は終了した。
彼らは自由だ。
そして緑の勇者は自己存在価値と自己嫌悪に押し潰され、彼女はある選択をする……。
(スレイプーン王国・クスター地方・アリギエの街・教会・倉庫近く)
「いやー、シナリーも良いタイミングで友達を連れて来てくれたわ〜。この忙しい時期に手伝ってくれて、ありがとねリモネンちゃん。
中々熱心に働いてくれちゃって〜。見所有るわよ貴女!」
「いえ……あたしは……その」
台車に荷を乗せて運ぶ修道女二人と、その後に続いて荷を抱える一人の男の子あり。三人は足りなくなった薬品や包帯を、倉庫から調達したところであった。
お喋りなサーシャの話に付き合う姉のリモネを見ながら、キリー少年は内心に皮肉を思う。
(避難してきた人達はどう思うだろうね。この街を壊した奴の仲間に、治療を受けていると知ったら……)
義兄のエンディックらがボロボロになって帰ってきてから、三日が経過した。
それでも街は魔物が現れた恐怖とショックから回復しきれず、未だ教会には街に戻れない避難民達が多い。
家を失った財有る者らは、すぐに残った宿に殺到するか、別宅に移ることも可能だろう。
だが神の門を叩く者達は、往々に貧しき身。
この教会の神父の意向で、行く所のない者達や重症者などを一時的に受け入れ、それがまだ続いている現状だ。
「でもサーシャさん……本当に良いんでしょうか? あたしは正式なシスターでもないのに、このような服を貸してもらって……」
「いいのいいの。ほら、この前あっちで魔物が突然現れたって事件が有ったじゃない? それで新しく入るはずだった子が、来れなくなっちゃったのよ……。
手伝いでも一人だけ服違うのも変でしょ? だからその服も着てくれた方が良いのよ、きっと」
キリーは姉の立ち直ったような様子に、ひとまず安心する。
行く先の無かったリモネは、これから義姉と同じように神の信徒として受け入れられるだろう。
そして己もまたこの教会を職に選び、骨を埋めるのが良さそうだ。
例えもう自分を害する可能性の者が、この街から抹殺されたとしても。
エンディック達が帰ってきてからしばらくして、キリーの前に緑の勇者が現れたのだ。
かの冷酷なる英雄は、男の子を脅す。
キリーは逆らわず、学校で彼が貧民だからと虐げてきた者達の名を口にした。
すると次の日、街に緑の騎士が再び現れ、彼が殺めた者の中にはキリーが知っている名も含まれていたとか。
(エンディック義兄ちゃんはぼくら姉弟を救うって言ってたけど、お姉ちゃんもぼくも、もう先が見えた……。
それにぼくの場合は、あの勇者に救われたようだし、このまま義兄ちゃんに救われない方がしてやったりというか、気分が良いかな)
キリーは姉とサーシャと別れ、孤児院内で臨時の病室代わりとなっている空き部屋へと立ち寄った。
その病室には今まで三人の人間が寝かされていた。
最初に起きたのは比較的に怪我が少なかったシナリー。
その次にエンディック。
彼は切り傷などの外傷よりも、魔力と機力の過剰使用による疲労が酷く、二日目でやっと目を覚ました程だ。
そして三人目、エンディックの父ギデオーズ=ゴールは未だ目覚めない。
シナリーは贖罪のつもりか、あれからずっと彼の看病をしていた。
今もキリーが空いてるドアから部屋を覗いても、気付きもしないで目覚めないギデオーズを見つめている。
そして息子のエンディック自身は……。
(スキエル平原)
陽光に照らされた緑の群れに、異なる色が未だ残っている。
今、その黒々とした地を待ち合わせの場とした、二人の英雄が距離をとって対峙していた。
金の獣に跨り、黄金騎士の姿となったエンディック=ゴールと。
彼に明らかな敵意を向けるは、勇者召喚して全身鎧で顔を隠した緑の勇者だ。
いつぞやと同じく、先にこの地で待ち構えていた緑昇に少年は問い詰める。
「キリーから伝言を聞いたぜ……どういう了見だ緑昇? 今更シナリーと父さんを殺しに行くってのはよぉ! マモンは俺が殺しただろ。だから二人の処遇は、俺の手柄のはずだよなぁ!」
それについて
『彼女』
は、笑いながら答えた。
「ウフフ、それは坊やを呼び出す口実ですの。『悪魔達』にとって危険なのは、エルヴの兵器を操れる、この世界で数少ない機力持ち……錬金術師なのですから。
せっかく国から錬金術師を追放するよう仕向けたのに……これだけでも殺害には充分な理由ですわね」
「仕向けた……て、おい緑昇! 確かそれはこの国の王様が」
「……」
遠くに見える体格の良い長身から発せられるのは、品位有る女性の肉声であった。
少年は狼狽え、そこに居るはずの三人目を置いて、彼女は会話を進める。
「あぁ〜、その王座の『人格』はとっくにすげ替わってますわよ? 王都から危険分子である錬金術師を排除したのは悪魔達の意向ですの。
確かに現在スレイプーン国を仕切っているのは、異世界から来た勇者達です。
でもマモンは装着者を操っていた……これを他の悪魔がやっていない保証はないでしょう?
更に今の勇者達は龍を倒した後も処分されずに、『五年』以上勇者であり続けてしまった……。人格の融合及び占拠には充分な時間です」
「……一体どういうこった? おい緑昇! テメーさっきから黙ってないで何か言え!」
エンディックには悪魔の言ってる単語や意味が解らない。
緑昇もまた彼の声に応えない。
否……兜の下、緑昇の口はさっきから答えているのだ。
男の喉から、女悪魔の言葉が発せられている。手甲からの電子音声ではなく、モレクの声が。
「無駄ですわよ坊や。既に緑昇の人格を完全乗っ取りましたから。この方はもう、表には出てこれません」
「え……それって……」
「人格が消えるとは何か? と問われれば、死と同義でしょうね。
……シュディアーが『最初に』侵略された際、『他の亜人種族』がマシニクルと講和する為に、生贄にした種族が居ました。
それを封じた牢獄こそが、エルヴ達の錬金術が作り上げた、人間(マシニクル人)が勇者鎧と呼ぶ、悪魔鎧のことですの。
言うなれは勇者鎧は、便利な人工知能付きの装置ではなく、先に『住んでいる人格』に肉体を乗っ取られる、『人格上書きの呪い』の装備ですのよ?」
エンディックに理解出来たのは、何度か共闘した仲の緑の勇者が死んだらしい、ということ。
既にこの悪魔達が国の支配者となり、人間種族や他の亜人と敵対してる? らしいことだけ
解らないのは、なぜ女悪魔モレクが今この話を、敵だと言った自分にしたのかを。
「もう答えが出ているではありませんか? 『貴方様が思い悩む』という結果が……。
不本意ながら、機械を支配してしまう錬金術師は……黄金騎士は勇者にとって難敵ですからね。
敵対者に身の上話を聞かせるメリットは、甘い相手なら付け入る隙になるで……しょう!」
モレクは左腕のグラトニオス・キャノンの照準を、狼狽える黄金騎士へと冷徹に構えた。
1時間後、深夜0時にすぐ6話が始まります。
最後はライバルと見せかけて、彼女との決戦です。
そして今までの謎の、ネタバラシとなります。




