表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/67

第五幸 N-3 「ゴールド・ダブル・ギャンブル」

エンディックは成長した。

以前は作れなかった傘の形を錬金し、シナリーの攻撃を受け切って見せた。


だがそれだけである。


勇者に打ち勝つには己の可能性ではなく、この場の地形から、存在しない勝ち目を見つけなければ。


今までの戦いから見出した思い付きは、通じるかどうか解らぬ、不確かな戦法であった。

「魔言『HEAT+SHOT』だ!」

 金獣に跨る黄金騎士が構えた武器先端で、赤の魔力円と青き円光が重ねて発生する。

 その青い光は魔力ではなく、機力による式の具現化。

 エンディックは空中に錬金円を描いているのだ。

「うぅ……! ぬぅうっあ!」

 少年は内なる力を抑え込みながら、脳内に想い描く形を現実に刻もうとする。

 熱の技術の円に、彼の錬金円が解け、赤の中に青の彩りが加えられた。

 魔力と機力、二色の円形を携え、黄金騎士はヴァユンを走らせ始めたのだった。

「それじゃあ……派手に燃やすぜ!」

 エンディックは敵へではなく、横に武器を向けながら、槍から火炎放射を吐き出した。

 彼の作戦とは、この草原地帯に火を掛ける火刑の策なのである。

「何です……? 空飛ぶ私を放火で炙ると……? 奇策というか意味不明ですなぁ」

 上空で浮遊する悪魔は、敵の意図に首を傾げる。

 黄金騎士がこちらを迂回しながら、炎をバラまき、自分が走る道を火の海にしていくのだ。

 彼はジグザグに隈なく火をかけて行き、緑の海を炎の花園へと変えてしまう。マモンの下方も勿論燃え上り、その熱気は天地問わず蹂躙していった。

「相手の陣地に火を付けるのではなく、己の居る地上を燃やして何とします? まさか熱で装着者の体力を奪うとか?

 ワタクシメの操り人形であるシナリー様が消耗しようと、エンディック様に遅れを取るとは思いませんが……魔言『COOL』」

 マモンの呼び出した技術は、冷気発生の青い魔力円。2の階級。

 円光が黄金の勇者頭上から足先まで通過すると、その身を冷気が包み、瞬時に鎧内部の温度を下げた。

「さて……撃ち止めですかな?」

 鳥人間が空から見据えるのは、火の海の対岸である。

 遠くの、まだ燃えてない場所でエンディックは立ち止まり、悪魔を睨んでいた。

 魔力が無くなったのか、槍の炎は消えている。

「熱でないのなら、煙の目眩しで奇襲でも? しかしせっかく起こした草原の火も魔力の効果が消えてるのか、貴方様の命も風前の灯火ですよ?」

 マモンは少年の意図を計りかね、しかし油断なく金球の防御力場を使えるよう身構えて、少しずつ敵へと進んで行った。

 下の炎も始めは勢いよく燃えたものの、ほとんど黒い大地に帰っていく。

 少年の自らの足元に火を付ける奇策は、何の成果も出さなかったのだろうか?

「もう充分だな……」

 エンディックは一つ目の博打が成功したことに、この『攻撃』が敵に通ったことに口元をつり上げる。

(へへ……体に疲れがドッと来たぜ……。即興で錬金火炎(アルケーフレイム)をやり遂げたが、身体中の魔力と機力がこんがらがって苦しいぜ。

 俺の技量じゃ、ただの火付けだけで精一杯だ。ま、火が早めに消えて助かったけどな……)

 仕掛けは済んだ。あとは目論見通りに発動出来るかと、このヴァユン内部に素材として詰め込んだ『アレ』が通用するか、否か。

(次の一手で、勝ち負けが決まる……!)

 エンディックは再び体内の機力を高めていく。

「今度は……無謀な突進ですか。もう終わりにしてあげましょうかねぇ」

 強欲の勇者がある程度の距離まで近付くと、黄金騎士が走り出したのだ。

 この直線的な動き、今までのジャンプ突きと符合する。

 悪魔は白けた声を出しつつも、空中で返り討つ為に真実の富と金球達を構えた。

「行くゼェェ! 巨人の大槍(ジャイアントバスタージャベリン)!」

「え? ここでぇ?」

 金獣が飛び、乗っていたエンディックもまた跳躍する。

 すると下のヴァユンが自壊。掲げた主の槍に向かって殺到し、大きな槍を錬金した。

「魔言『HEAT』」

 空中で少年の伸ばした左足裏と、槍の先端に赤の魔力が宿る。

 足裏から推進力が生まれ、使用者を『下から上』へ、空飛ぶ悪魔の元へと届けようとした。

 しかしこの技は敵に見られているし、普段とは違う、遅い上昇攻撃なので、マモンにとって避けるも受けるも容易である。

(その大きな槍は、機力による劣化を通さず、物理的に無理やりにトドメを刺す為に用いられる……言わば『大技』です。

 本来敵を弱らせて、動きを止めてから出す物なのに、真正面からでは隙だらけじゃありませんかぁ?

 グフフ、敗北を実感して、焦りから迂闊な戦法を選んでしまうとは……おや?)

 空へ昇ってくる黄金騎士には、普段と異なる二つの点が。

 一つは槍先端から火が燃え上がり、威力向上の為か、槍表面を燃やしての突撃であること。

 二つ目は……エンディック自身の顔が、露出している!

「おやおや、余程燃やすのが好きなんですなー。それにお顔も出して……兜や胸当てといった、防具まで槍に注ぎ込んだ、という必死さで?

 で、す、がぁ」

 少年のこの一撃は、槍と籠手だけを装備した捨て身その物。

 そしてついに、殺意を顔に貼り付けたエンディックの大槍と、マモンが力任せに振り下ろした両刀槍が激突する!

「エンディック様の全力の力比べでも、勇者には敵いません!」

 やはり落下でなければ速度が足りないせいか、はたまた勇者の自力が強過ぎるせいか、少年の突撃はすぐに押し止められ、拮抗してしまう。

 更にエンディックの周囲には、魔力を溜めた金球が配置されていたのだ。

「お忘れかな? 貴方如きの魔力など、鏡面装甲で容易く反射出来ることを。しかもわざわざそんな薄着になって、どうなさるおつもりですか?

 一瞬でも空中に留まれば、金像に変えられ、地に落ちて砕けてしまいますぞぉ〜?」

 決死の槍は空中で止められ、無防備な姿を晒す少年。

 ここから魔言で攻めようにも、鏡面装甲で跳ね返され、空の上では槍を振り回すのも難しい。

 エンディックは絶体絶命の窮地と、悪魔が『勘違い』してくれたことに、つい怒りの『化粧』を崩して笑ってしまった。

「……この技で俺が鎧を解けば、絶対その得意技でキメてくると信じてたぜぇ。本当良かった。テメーがあの炎のとき、力場で守らなくて……な」

「えぇ? 一体何を」

 ビキィ……というその音は、両者の耳に確かに届いた。

 発生源は……勇者の胸の装甲。その表面から。

「おかげで今頃全身に煙が、俺の機力が付着してるだろうからなぁ!」

 凹んだ。

 光輝く金色の鎧の数カ所が。

 表面材質が内側に小さく壊れた。当然金の装甲の二層目、鏡の部分にヒビを入れることになる。

 そしてまたしても地へと落下していく、金球達。

「先の炎魔言に機力を混ぜたぜ。その火に燃やされた草にもまた、俺の機力が混ざることになる。

 草は燃えて煙や灰を作り、更に大気中に舞い上がったそれらを、テメーやキンタマは攻撃だと認識しなかった。

 つまり……勇者様の装備一式、俺の素材として錬金出来るかもってな!」

 先の火刑が成功する確証はどこにもなかった。

 もし魔力が途中で底を尽きたり、魔言に機力を含ませるのに失敗したら、ただの犬死だった。

 更にマモンが狙いに気付いて、防御力場で全身を囲うか、すぐに炎を消し飛ばされたら、本当に勝ち目が無くなる。

 だが結果、エンディックは大博打に勝って見せたのだった。

「グフ、グフフフ……そう、です、か。だからどうしたと言うのです! 装甲を脆くされようと、力で押し切ってしまえば! 矮小な貴方など搔き消えましょう!

 魔言『SLASH』!」

 マモンは苛立ちながらも、巨人大槍を押し止めていた両刀槍を振り上げ、紫の魔力を発生させる。

 切断消滅の技術が通過した槍は、もはや刃先だけではなく、刀身全体から紫色の光の刃を形成していた。

 勇者の力によって現出したこれは、切り易くするではなく、悪魔の宣言通り消滅の剣である。

「さぁ、貴方のその不細工な槍ごと、真っ二つにしてあげましょう!」

 再度振り下ろされる槍の光刃と、少年が防御にと構えた大槍が接触する。

 巨人の大槍に集められた土草などの素材は、光刃に触れた箇所から消えていき、伸びたその切断消滅は少年ごと両断する……前に止まった。

 真実の富が『反射』の衝撃でへし折れてしまったからである。

「はぁ……?」

 使用者に跳ね返った斬撃の波が霧散し、防御力の下がった勇者の身体中を細かく切りつけた。

その一部が王冠部分にも飛び火し、中心の金十字封印に浅くない切り傷を付ける。

「がぁ……! 一体何が……」

 悪魔は見た。

 大槍が剥がれ落ち、中から黄金騎士の元の槍が露出しているのを。

 その槍の手元を守るようにくっ付いている、金ではない別の色の異物を視認する。

 元は金色で、今はエンディックから機力を流され、無色透明に周囲の光源を反射するそれは、大食勇者の片翼だったのである。

「あぁ、そうだぜ。前の戦いで、黄金騎士と緑の勇者が切り落とした、テメーの羽だぁ! わざわざ敵に知られてる技名を、叫ぶかブァアカッ!

 もう一発ぅ、魔言『HEAT』!」

 エンディックが浮かべたのは、悪魔にとって死神の微笑みか。

 彼の改めて構えた槍の石突き部分に、赤い魔力円が発生。熱を噴射する。

 再び推進力を得たエンディックは、敵の王冠ではなく、横の翼へと先端を向けた。

「そして今、もう一回右の羽を貰おうかぁぁぁ!」

 あのときの、再現だ。

 空中で突進した黄金の槍は、轟音を引き連れてマモンの右肩と、右羽を抉り折った。

 重力を保てなくなった悪魔は、焼け野原の黒い大地へ落下を始めてしまう。

 だが、まだ攻撃は終わらない。

「……グロ・ゴイル」

 真下の地中から飛び出したその影は、脚力強化によって一気に上昇し、落ちる勇者と交差する。

 瞬間、振り上げられた風の刃が悪魔の残った左羽をも切り飛ばした。

「何ぃぃい? 貴様、どうして生きて……!」

「……」

 現れたのは胸を貫かれたはずの、緑昇である。

 彼は無言でマモンを蹴り飛ばし、方向を変える。斜めに飛び上がる先には、慌てるエンディックが。

「や、やべー! 高く飛び過ぎて……!」

 今度は下ではなく上に加速してしまったため、落下死のデメリットが。

 しかも地上まで遠過ぎるので、先にヴァユンを遠隔的に下で作って、自分を受け止めさせる余裕がない。

「せっかく奴を地に落としたのに、死んでりゃ世話ねーぞ!」

「……」

 宙でジタバタする少年だが、その彼を抱えるように現れたのは緑昇だ。

 緑の勇者はエンディックを小脇に引き寄せて自由落下。

 落ちる直前に(ふう)属性の魔力を両脚に集めて減速し、ブワッと緩やかに着地した。

「アンタ……いくらなんでも頑丈なんてノリじゃ、説明きかねーぞ。体に穴空いてんじゃねーか……」

 実は胸に何か仕込んでいた……なんてことはない。

 己の足で立ったエンディックが見る限り、緑昇の両胸鎧には穴は開いて大量の血が付着しているが、どうも傷が塞がっているらしい。

 緑昇は黙したまま、未だ火が揺らめいている焼け野原を示す。

「あー、解ってるぜ。これは最初から俺の戦いだ……俺が裁定を下すさ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ