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第四幸 L-2 「ヒーローが悪をやっつけるのを待つより、一緒に戦って、使い捨てられた方が、遥かに安全速度が速い」

シナリーは友人リモネの中に有る、罪悪感を言い当てる。

罪を自覚し、良心の呵責に悩む者はやり直せる。苦しめると助言するのであった。


一方孤児院では、倒れていたエンディックが目を覚ましていた。

(病室代わりの空き部屋)


「なぁ、アンタ何寝てんだ? 魔言で治せるんじゃね?」

「体力を回復している……。奴は強敵だ。俺も不本意だが、万全の状態で挑まねば勝率は上がらない」

エンディックがまたベッドで目を覚まし、身を起こすと、向かいのベッドに緑昇を見つけた。

緑昇は壁にいつものコートをかけ、今は大の字で目を閉じて寝ている。

そして少年の側には、いつの間にか女悪魔が立っていた。

「こんなことになったのも、貴方のせいですわエンディック。見損なわせて! いただきます!」

「ぐ……」

桃色のドレスの不気味な女、モレクはエンディックを非難する目で睨みつけている。

彼自身も解っていた。

昨夜の戦いの最後、もし黄金騎士が加勢していれば、あの場でマモンを仕留められたかもしれないのだ。

「覚悟を決めていたのでしょう? 必ず母の仇を討つと! なのに父親が敵の手中に落ちていた程度で動けなくなるとは、坊やの復讐心も安物ですわね」

「そう言うなモレク。彼はあくまで変わった特技を持つ一般人。脇役に過ぎん。

あのニアダとやらの装備から、マモンもまた鏡面装甲を隠し持ってると推理出来なかった、勇者である俺に落ち度がある。次は『大食の勇者』の名において、確実に仕留める」

緑昇の言葉により一層後悔の念を抱きながら、少年はなんとか疑問を口にする。

「そもそも……どうして今の黄金騎士が父さんなんだ?」

「あら、ワタクシ達は最初からアタリを付けてましたわよ? シナリーという娘ではない以上、別の『機力が使える』誰かなんて、魔力世界では稀有ですもの。

なら貴方の故郷の、お父上の可能性が高いではありませんか?」

女悪魔はさも愚かと、エンディックに侮蔑の視線を向ける。

シナリーもまた解っていたのだろう。よもやライデッカーも? ならば二人が自分を遠ざけようとした理由も、頷ける。

「その男もまたハウピース親子と同じように、マモンに操られたのだろう。

あの悪魔は人に欲望を糧とする。ギデオーズ=ゴールも、目を付けられる欲を抱えていたのやもしれん。だがハウピース父娘ではなく、正式な装着者ではないからこそ、格下の俺達にも付け入れられるわけだが」

「あいつに何か弱点が有るのか!」

「本来機力世界人は、魔力の素質や総量がとても低い。よって勇者に選ばれた者は肉体的調整を受けて、機力を含む両方の力をコントロール出来るようにしているのだ。

それはギデオーズ=ゴールもまた然り。あの勇者鎧は機力は使えても、魔言による攻撃などは数回が限度の筈だ。だから奴は今まで俺との直接対決を避け、魔物という小細工による、消耗戦を選んできたわけだが……。

もう一度俺の大技を受けさせれば、その先奴のスタミナの方が切れる」

少年は緑昇の言葉で気付いた。

あの黄金の悪魔は勇者なのだ。本来こそこそ隠れて戦う必要はなく、にわか錬金術師など相手になるわけがない。

つまり万全ではない敵にも、勝てなかった自分は……。

「坊やの力は勇者に届きませんでした。父親と知れた今後は、決意が鈍るかもしれない……。ここらが退き時ですわね?」

モレクはこう言ってるのだ。

エンディック=ゴールはこの復讐劇の主役にはなれないと。英雄にもなれず、仇にも敵わず、緑昇という『本物』の勇者が現れたことで、脇役に追いやられた当事者。

あとは緑昇がマモンを倒すまで、外野で待っているしかないのだと。

「安心しろエンディック。奴が完全な状態なら不可能に近いが、今なら君の父親を救える可能性が有る。勇者共通の金十字の封印を狙えば、勇者鎧を強制解除し、中の人間を確保可能な筈だ。

 マモン・グリーズの悪魔が住まう場所。あの王冠の宝石が弱点と言えるが……俺も含めてそこの守りは硬いと思うがな」

「俺は……」

またしても少年は蚊帳の外。がむしゃらに復讐を決意したのに、また迷っている彼は、その時点で舞台に上がる資格が無いのか。

 現実、エンディックはまた父の顔を見たら、まともに戦えるか、確信が持てない。このままでは復讐も、シナリーも、父のことも救えない。

「でもよぉ……それはアンタらに任せても同じことだよなぁ? ここは現実だぜ。勇者が悪者に確実に勝てるなんて、人々を必ず助けられるとは、限らねぇよな?」

 それでもエンディックは顔を上げて、思い直す。

 己はなぜ血眼になって父親を、探していたのかを。三年間の旅の意味を。

「シナリーの心を『直す』には、父さんが必要だ。俺の友達は母さんの殺しのことを、ずっと悔やんでる。罪悪感で、その親類に殺害を促すほどに……。だからアイツを許してやるには、親父の言葉が必要なんだ!

 やっとその父さんを見つけたんだ。助けられるなら、アンタらの盾になったって良い」

「貴方……! 前の話を覚えてますの? 貴方にだって家族が」

「それは勇者が悪魔に負けたって、同じことだろう!」

 少年が思い出したのは、ピンスフェルト村のジャスティン達のことだった。

 エンディックは彼らを不定した立場にある。それを自覚した上で、こんな言葉を吐く。

「ヒーローが人々を守る為に、悪者をやっつけるのを待つのと、守られるべき俺らを頭人数に加えて『使い捨て』る方法。

 どっちが『英雄が勝って、俺達全体が安全になる確率』が高いよ? アンタが負けて、次に俺も負ければ、どうせシナリーや俺の家族が……悲しむことになる結果じゃねぇか」

 勝利と安全と、父親の救出確率の上昇。それは最大戦力である緑の勇者が、弱い方の黄金騎士を犠牲に勝つ戦法だ。

 自分が死んだら家族が悲しむのは良いのか? ならば今まで親友が苦しんできたことは、それより軽いというのか?

 苦しみや悲しみの釣り合いなど、測れやしない。

 有るかどうか解らない未来の絶望より、過去現在とエンディックが見てきたシナリーの心の傷の方が、彼には『気に入らな』かった。

「緑昇! アンタは善良な人々だけを守りたいみたいなことを言ってたな? なら俺をその守るべき人々の中に、入れなくていい。

 今度奴と戦うとき、アンタと肩を並べて戦うとき、俺を捨て駒にしてくれて構わねぇからよ!」

 エンディックは啖呵を切って、勇者に意思を告げる。

 意外にも緑昇は顔を驚きに崩し、しばらく言葉が帰ってこなかった。

 主を見かねたモレクが、代わりに返答する。

「確かに……坊やの錬金術は、あの鏡の装甲に有効そうですし、前座としてぶつけて、後から万全のワタクシ達が出れば、完勝も夢ではありませんわね。

 それだけ貴方のお父上を救う確率が上がるというもの」

 一呼吸おいて、緑昇は身を起こしてベッドから降り、エンディックを睨みつけた。

 その冷たい眼差しからは、やはり情念は感じられない。

「だが黄金騎士……貴様を戦力として数えるには、現状ではいささか不足。

だから俺が実戦で通用するよう、その場凌ぎの教えを授けてやろう……モレク」

 女悪魔は勇者の発言に少し驚きながらも、口を大きく開けて、何かを引きずり出した。

 それはエンディックが仇敵より勝ち取った、戦利品ともいえる物。

 マモン・グリーズの黄金の右翼だ。

「俺達は錬金術を知らん。だから教えられるのは、機力制御法の初歩だけだ。

今、貴様に出来る術を、せめて完全な物としてみせろ、エンディック」


結局カットしてるじゃないか…何をやってるんだ私は…( ;´Д`)


ここのクダリはきちんと整理したかったのと、今後の展開と合わせる為に、少し調整をしました。

時間無駄にかけてしまって、すまないバルムンク…

これ以上長くすると、二人がずーと寝ながら喋りまくることになるので、減らしました。


原案では、ここで緑昇の行動原理を匂わせる言い争いが有ったのですが、それは今後にします。


さて次回で4話終わりです。エンディックとシナリーの、決戦前の最後の会話になります。結局のこの主人公とヒロインは、互い妥協しませんでしたね。


ボスのマモンとの戦いは、連日更新しようかなーなんて考えてます。よろしくー

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