第四幸Jー4 「実に予想通りの顔」
モレク=ゾルレバン2の最終断龍『残酷回転』が発動。
天空より高みの見物を決め込んでいた傍観者を、さらなる高所からの強襲による地に落とす。
マモンはこれを防ぐ為、緑昇は無人兵器の全滅の為、互いに大量の力を消耗してしまう。
双方最後の一手。機先を制したのは黄金の悪魔だが、
この場誰よりも速き『黄金騎士』の一撃が、勇者の仮面を破壊した。
だが…その仮面の下には…。
(数分前)
エンディックが五匹目の魔物を、鉄屑に変えた所で、街に激震が走った。
「なんだ……?」
黄金騎士は眼前のトロールの上半身から槍を抜いて、アリギエの中心方向、その上空を見やる。
緑の風と金の光がぶつかり合い、騒音を奏でながら落下しているのだ。
そして大地に墜落不時着激震。
「うぉ! あれは、もしかして」
強大な二つの力が落ちた衝撃は、遠くに居るエンディックにさえ、金獣の足を震わせている。
それだけではない。物凄い豪風が、黄金騎士が戦っていた戦場に流れ込んできたのだ。
強過ぎる風力に、彼は兜の目元に手をかざし、じっと耐える。
(緑と金の力、あれは緑昇と……あの鳥野郎だ! ……緑昇の野郎、そこでケリを付けろってことかよ)
少年は状況判断し、暴風の爆心地へと、騎乗している獣を走らせた。
位置は離れているが、彼の相棒にとって、まだ近い。
あまりの風に大通りを避け、狭い道を選びながら、金の向かい風となっていくヴァユンⅢ。
次の通りに出たときに魔物の群れに出会すも、奇妙なことが起こった。
「この風は……そういうことか!」
左遠方に見えたギガースと、ゴブリン三機の姿。
その足元に緑の魔力円が発生しており、そこから次々と竜巻が吹き上げ、鉄の異形らを天へと連れていく。
周りを見渡すと、小規模の竜巻が街のあちこちで巻き起こり、夜空に魔物を飛ばしていた。
そして空の魔物達が次々に爆発。あれは緑昇の攻撃だ。
「また良い所持って行きやがって、急ぐぜ!」
黄金騎士は立ち止まらず、ヴァユンⅢを加速させる。
この裏路地を抜けて……広場に出ると、見えた。
「……魔言『HEAT』!」
エンディックがたどり着いた道の先には広い空間が有り、そこを目指して、赤の魔力円を追従させる。
「飛び上がるのはダメだ……。水平に、真っ直ぐ仕掛ける! ……必殺錬金」
ヴァユンⅢは更に速く走り、ある速度で腰を振り上げた。
乗っている黄金騎士は、加速を付けて前に飛んでいく。
「ジャイ……アントぉ」
金獣は自壊し、形作っていた素材は主を追いかけ、右手の槍に集まっていった。
そして偽者の富とヴァユンⅢ、両者混ざり合い、歪な金の大槍を成す。
「バスタァァア……」
従者となっていた魔力円は、エンディックの伸ばした左足裏にて発動。
そこから吐き出された爆炎はただ前へと、黄金の一撃を推進させた。
「ジャベェリィィンッ!」
巨人の大槍。
黄金騎士の必殺の技。その先には果たすべき本懐が有る。
目標のマモン=グリーズは両刃槍で受けようとするも、大槍は強引に右肩と、兜の右側面を押し潰した。
更に右羽根にぶつかり、その鋼鉄の翼をへし折っていく。
エンディックはそのまま猛スピードで飛んでいき、進路上の建物の壁に激突。中で止まった。
「はぁ……はぁ……ど真ん中はブチ抜けなかったが、あの悪趣味な羽根はむしり取ってやったぜ……!」
巨人の大槍という技は、魔物の装甲すら貫通する『速度』なのだ。
だからいつもは下方の敵へ、地面で止めているのだが、今回は奇襲も兼ねて、前に飛ばした。
当然止まる先は不安定だし、ぶつかったダメージは少年にも大きい。
「いててて……うぅ」
エンディックがふらふらと立ち上がった場所は、何かの倉庫のようだ。
積まれていた箱を散らかしてしまい、彼の足取りも危うい。
「まだだ……今の奴は逃げられない筈。俺の復讐を果たす!」
激突の負担を振り払いながら、両足に力を込め、倉庫の外に出て行く少年。
外のマモンは逃していなかった。
鎧が割れて血を流す肩を抑え、千切れた片翼から火花を散らすその姿に、かつての脅威はない。
兜の王冠部分は無傷だが、目元のバイザーなど右半分が壊れ、こめかみから血を流し、『今の』強欲の勇者の素顔を晒していた。
エンディックは……それを見てしまった。
(……ち、『やはり』始末は俺がつけるか)
緑昇は呆然としているエンディックを確認し、行動を開始した。
(懸念していた力場の守りは無い。俺の余力も残ってないが、敵の方が弾切れに近い筈だ……。
悪魔のコアか有る金十字の封印、あの頭の王冠にあと一撃入れさえすれば、それで終わりだ!)
勇者共通の特徴である、金十字の封印。
緑昇の場合、手甲となっているそこに、悪魔が取り憑いているのだ。
それこそメインCPUであり、破壊されれば、勇者鎧の装着は解かれ、ただの派手な鎧に変わる。
「モレク、技術銀行から予備のグロ・ゴイルを呼べ」
「了承ですわ貴方様。かの敵は翼を失い、運動性を大きく欠いてます。
そして地上の接近戦なら、あんな槍に遅れはとりませんことよ」
空間から現出した白い小さな風車達を、茶色の板二枚が挟み、それらと複数のパーツが右の小手に装着される。
物理的な刃の無い、風刃のチェーンソー『グロ・ゴイル』だ。
緑の勇者は走り出しながら、右小手に備えられたレバーを左手で引くと、轟風音。
そのまま振り上げたグロ・ゴイルゴイルは、板の間から破壊かつ切断の風を吹き出す、災害の申し子だ。
「その派手な頭……かち割ってくれる」
振り下ろす先には、防御せんとするマモン=グリーズが立っている。
「かしこまりました緑昇様。ワタクシメも奥の手を晒しましょう」
そう言ったマモンは右手の槍を構えず、左腕でグロ・ゴイルを受けた。
いくら勇者の装甲といえど、対龍兵装を止められるわけがない。
黄金の勇者の腕は切り落とされ、そのまま黄金に届く……いや、訂正が有る。
マモン=グリーズの体色は、金色ではなくなっていたのだから。
いつからか金の輝きは消え、みるみる変色していく。
その表面は、緑色に見えた。
いや、緑昇の色を、周囲の景色を反射しているだけだ。
金色から、無色透明へ。
マモン=グリーズの鎧は、鏡面装甲へと変化していた。
「これが私がこの男を手に入れた、理由の一つ。『錬金術』による悪魔鎧の改造ですよ」
いつぞやの再現。
マモンの左腕の鏡に、グロ・ゴイルの魔力が反射。
チェーンソー内部に魔力が逆流し、武器にヒビが入っていく。
悪魔は左腕を横に振り払うと、その動きでグロ・ゴイルが砕け散った。
「今の御主人様が、ワタクシメとの戦いに用意した作品が、この鏡の鎧でしてなぁ」
そして構えた両刃槍で、緑昇の脇腹を刺す。
槍はチューブと肉を貫通し、背中から外気へ出た。
「ワタクシメとしましては、せっかく対勇者用に開発された技術ですし、自分以外に持ち入ろうとしたわけですよ。
いやぁ、あのときは戦わずに済んで良かったですなぁ本当」
槍が引き抜かれると、名残惜しいと多量の赤が外まで追いかけた。
崩れ落ちる緑の勇者を介錯せんと、マモンは真実の富を振り上げる。
「嘘……だぁぁぁぁあ!」
黄金の悪魔は向けられた殺気に応じ、後方に飛び去ると、前を金色の槍が通過した。
槍の持ち主はフラフラと歩いてきて、緑昇の前に刺さった獲物を抜き取る。
その顔は涙と困惑で濡れていた。
「どうして……そこに……そこにぃ!」
対峙するマモンの兜は、右側面が割れ、装着者の顔を晒している。
この鎧を着ていたのは、男だった。
血の気を失せ、焦点の合わぬ瞳は、この世の何も見ていない。
いや、その男は次第に目の前の存在を認識したのか、ポツリと言葉を発した。
「……ン、ディ……ク……?」
「おやおや起きてしまわれたのですか御主人? ここは敗北を認め、素直に帰りましょう。
欲をかいては仕損じますからなぁ」
マモンもまた消耗した身を案ずるようにして、後ろに跳躍。
すると残った左翼の反重力装置が、強く発光。
重量を軽減した悪魔に飛行ではなく、無重力ジャンプのような伸びの有る移動力を与えた。
マモンは再アクセスした金球と共に、後方に飛び去ってしまったのだ。
残されたのは傷を抑えて倒れる緑昇と、泣き崩れるエンディック。
「そこに……居たのかよ。そんな……こんなこと俺は、俺はどうすれば……父さん……!」
消去法である。
勇者鎧は機力と魔力で動くのだ。
故郷で数少ない機力使いは、シナリーと少年の両親。
母が死に、シナリーが勇者ではない以上、残るのはエンディックの父親『ギデオーズ=ゴール』その人だけである。
またしても主人公落とし。上げたと思ったら、その先は落とし穴ですねー(・_・;
今回マモンとの決着直前まで行きましたが、悪魔が仕掛けた二重の布石により、勇者殺し失敗。
正体が〇〇だったなんて〜どうせ戦うんでしょ?となるでしょうが、
そこは搦め手まくりのGknight。
ここから予想外の『予定調和』となるので、お楽しみにー。




