第四幸Jー3 「黄金騎士と緑の勇者の策」
緑昇の提案で囮をやらされるエンディック。
消耗した身なれど、無人兵器群を相手取り、これを破壊していく。
一方緑昇は、アリギエの外に出て行った…。
「ピンスフェルト村でもそうだ……。奴は魔物の森側ではなく、村の上空で見物していた。
村の中からでは妨害装置で、外への索敵が出来ないからな。
だから奴は『目視』で状況を確認していたのだ……」
「梟の見た目は伊達ではない……と。確かに空中空間戦闘を前提としたアレは、視覚機能もかなりの性能ですわね」
アリギエとヴィエル農園を繋ぐ街道の真ん中で、姿無き会話が行われる。
緑の勇者とそれに取り憑いた悪魔は、遠くのアリギエの、『上』の空間を睨みつけていた。
「今は逆だ。天空の監視者は籠の中で見つけられず、籠の外に居る俺達は敵の位置を照準した。
今こそ、この勇者鎧最強の兵器『最終断龍』を用いるときであろう」
勇者鎧は龍と戦い、これに勝つ前提の性能が秘められている。
機力と魔力を廻し、龍の守りを貫く固有兵器こそが、対龍兵装なのだ。
そして想定した以上の龍が出現した場合に用いるのが、最後の手段である最終断龍。
消費する力があまりにも大きく、使い所の難しい武器なので、使わずに役目を終えた勇者は少なくない。
「魔言『KICK+ROCK』」
緑昇の脚甲の上に、現出した白い脚甲が重なって装着される。
更に右手元に、複数の小さい茶色の魔力円が現れたのを確認すると、足に力を込めて跳躍。
衝撃の爆音と鏡を地に残し、脚力強化されたジャンプで一気に空へ跳び上がっていく。脚甲の小型推進装置から噴き出る魔力の助けもあり、上へ上へ昇っていき、ついには雲を貫いた。
「ここで踏み台を出す……決して壊れぬ封印石の……な」
上昇していく緑昇は、右手の魔力円の一つを前方に投擲し、発動。
中空に現出したのは緑の石板である。
その封印石は風の魔力で浮遊しており、水色の文字が書かれた表面より後ろの空間への、侵入及び影響を禁ずる技術となっている。
緑の勇者は石と同高度まで上がると、真横の石板を勢い良く蹴りつけた。
「脚力強化した一撃を、封印石に跳ね返させれば……その反動で更に強い加速を得る」
固定された石はビクともせず、逆に蹴った緑昇は水平方向に高速で撃ち出される。
空間封印の反動を利用した、空中方向転換だ。
緑昇はその後も、加速が弱まると途中で石の踏み台を呼び出しながら、雲上の世界を飛び進んで行く。
そして右手の魔力円を使い切った座標で、勇者は斜め上に蹴り上がった。
「最終断龍……拘束解除」
緑昇の声にモレク=ゾルレバン2は応える。
内部に貯蔵された魔力と機力を、両脚に集めていく。
「受諾しますわ貴方様。脚部グロ・ゴイル、召喚。着装」
勇者の両側に魔力円が現出。
その緑の光は、彼の大きく伸ばした脚部へ移動し、爪先から膝まで通過する。脚甲の上にいくつか装備が追加され、その外側に取り付けたのはグロ・ゴイルという、本来は腕に備えていた非実体のチェーンソーだ。
「照準、再確認します。突撃コース、共にクリア。兵装、回転開始」
緑昇は左脚をかかと落としのように、強く振り上げる。
それに伴い、勇者鎧の二つの力が放出。流れ出した風がグロ・ゴイルの風車を回し始め、その殺傷能力を加速させる。
「魔言『KICK+TORNADO』×『KICK+TORNADO』+『SLASH』」
緑昇の呼び出しに応じるは、魔なる五つの円光。
いずれも膨大な力が込められており、勇者の真下に整列し、まるで筒のような形を成した。
そして緑の勇者は、己が最強の武装の名を、暴風に刻み付けた。
「最終断龍……残酷回転。世界を……喰らえ」
「くださいな……この世の全てを!」
そのまま重力に従い、下へ落ちた。
脚力強化と風力操作と脚力強化と風力操作と切断の技術の光列を通過し、勇者は左脚を勢いよく下ろして伸ばす。
飛び蹴りの姿勢となった緑の勇者は、魔力円の砲身から撃ち出された。
緑昇の左脚のグロゴイルから豪風が巻き起こり、蹴りを支点に竜巻を纏う。
今や勇者自身が一個の竜巻とならん。風の回転と力は増していき、巨大な災害その物が、大地を目指して高速降下しているのだ。
これこそがモレク=ゾルレバン2最強の兵器、残酷回転。
超巨大生物である龍すら一撃で捻じ斬り、ミンチに変える破壊の暴風は、シュディアーの地形を容易に変えてしまうだろう。
その竜巻が今、雲を裂き、夜空を切り裂き……『金球』の力場に激突した。
「ぬぅ! これは……!」
四つの金球が集まり、『全力で』受け止めようとしている。
残酷回転を塞いでいるのは、黄金全身鎧の鳥人間。
アリギエ上空で戦闘状況を観察していた、マモン=グリーズである。
「……よもやワタクシメより、『上』を取りなさるとは。道理で……この梟の眼を持ってしても見つからないわけですなぁ……」
兜の王冠からの音声に、いつもの余裕はない。
なぜなら『真実の富』の防御力場は、龍の息吹を防ぐ設計であっても、他の勇者の最終断龍を止めた前例が無いからだ。
マモンは持てる力の全てを持って、過去最大の力場を金球で形成し、落ちてきた蹴りの竜巻と拮抗していた。
「強欲の悪魔よ……貴様の『敗因』を教えてやる」
緑の勇者と黄金の悪魔は、夜空で矛と盾の関係を結んでいた。
最強の矛である緑の豪風と、万能の盾である金の輝きは、互いの意味を矛盾し合う。
だが、そこには決定的な違いが存在した。
「一つは、貴様がピンスフェルト村で……姿を見せたこと。ケチな貴様の戦略は、自ら手を汚さず、前座を用意して消耗させることを是とする。
つまり……貴様の位置は、事件現場を観察可能な、高度の上空ということになる。そして俺達は、風属性の魔力を得物とする勇者だ。何の遮蔽物もない空中で風を起こせば、位置を特定することが容易なのだ。
なれば貴様の索敵範囲外から上昇し、超高度から避けられない速度で攻めれば良い……。今まで対地戦ばかりやってきた貴様のことだ。自分より高所から強襲される経験は少なかろう?」
脚のグロ・ゴイルを起点とした竜巻は、それ自体が非実体の巨大チェーンソーだ。凄まじい風鳴りに混じって、切断消滅の光が飛び交い、力場を消し斬りつけていく。
防御力場は消された箇所を瞬時に復元し、注がれる機力の限り、災害を受け止め続ける。
そう、この矛盾の違いは……両者の余力差にあった。
「二つ目は、シナリー=ハウピースを捨てたこと。性能的に俺達より格上の貴様が、今まで『消極的な戦法を取ってきた』理由に、気付かんと楽観したのか?
『正規に調整された装着者』……ではない者が着ていては、圧勝可能な全力が出せないのだろう? ならば貯蔵されたエネルギー量の、我慢比べならこちらに分があるはず……だな」
拮抗は崩れ、緑と金の競り合いは急降下を始める
緑昇の残酷回転が金球の力場を押し進み、マモンは後方、地表へと後退してしまう。
吹き荒れる斬撃の風と力場が削り合う騒音が、天空より大地へと届き、ついには激突した。
「おのれ……このような!」
二人が落ちたのはアリギエの街、その中心部。
マモンは姿勢を変え、両脚で地面に踏み止まり、未だ攻撃を受け続けていた。
「モレク……魔力を惜しまず流し込め!」
両者の落下の余波は彗星の如く。
金の悪魔が落ちた衝撃で、地は円形状にひび割れ抉られ、粉塵が舞い上がり、破壊の風は敵ごと大地を掘り進めようとする。
更にそれだけじゃない。
緑の勇者の放出された大量の魔力は、街中に流れ込み、風の流れを押し返していき……アリギエの大気を支配した。
「貴方様、索敵及び照準完了しましたわ。いつでも右脚が使えますわよ」
「そうか……なら、打ち上げるぞ」
すると緑昇は折り曲げていた右脚を、グロ・ゴイルを左と入れ替えるように力場に蹴りつけた。
いや、敵を踏み台に飛び上がったのだ。
「何ですと……?」
地面に脚をめり込ませていたマモンを無視して、空高く昇っていく緑の勇者。
同時に街に浸透した風の魔力、緑昇の機力を含んだそれは、接触した機力存在を探知。その中からエンディック以外の、魔物だけを照準して、その脚元に魔力円を発生させた。
これにより街中の緑の魔力円から竜巻が吹き出し、その風力は大型の魔物達ですら空へと誘う。
緑昇のジャンプに合わせて打ち上げられた魔物達は、アリギエ上空で勇者と同高度に並ぶ。
「これが右脚の……残酷回転だ!」
勇者は力強く、右の回し蹴りを横一回転に放つ。
蹴り自体は前方を斬るのみでも、生じた大きな風の刃は、飛び上げられた魔物達をぐるりと一閃両断。
鉄の異形らは何の抵抗も出来ずに、夜空を彩る連続爆発となった。
「討ち漏らしはありません。アリギエの魔物は、これにて全滅ですわ」
「……やってくれましたなぁ」
地上に残された悪魔は、計画の失敗を笑……えない。
算段では魔物をバラ撒き、人々を助けさせることで消耗させ、頃合いを見て止めを刺すはずだったのだ。
己の『事情』を鑑みて、決着を付けるつもりで残りの戦力を投入した結果、無人支援兵器の全てを破壊されてしまった。
(最終断龍という切札を出されたことには驚きましたが……それだけの力を使い果たして、どうやってこの後私と戦うつもりですかねぇえ?)
今のはマモンを攻撃すると見せかけて、街に散在していた魔物達を一気に全滅する為の戦略。
マモンもそれを防ぎきったせいで、かなりの機力を消費したが、二回も最終断龍を使った大食の勇者は、その比ではないはず。
(ではワタクシメも、確実に仕留めに掛かりましょうかなぁ!)
黄金の勇者は金球に機力を再充填し、四つ全てを緑昇に差し向けた。
今の緑昇は、空中から無防備に落ちてきている。もはやどこにも逃げ場が無い。
彼の周囲を囲むように、金球が配置された。
緑と金の勇者は、互いに決着を望む意を唱えるのだった。
「魔言『MIRROR』」
「魔言『METAL+POISON』」
緑昇がその手に呼び出したのは、大きな四角い鏡。
それで防ごうにも、光輝く金球は四方から狙っている。
緑の勇者は素早くその鏡を、下で待ち構えるマモンに投擲した。
「おやおや、苦し紛れで」
鏡の軌道は風の流れでズレ、マモンと離れた金球の間の空間に、ピタリと止まった。
そして金球達を重力に従い、地面に落下し、遅れて緑昇も着地するのであった。
「何……? 何が起きたのです……?」
「ずっと機力世界と交流がなかった貴様は知らんだろうが……俺達の頃のマシニクルでは、無線兵器は廃れてな。
間で機力を遮断し、跳ね返す物を置けば、もう一度アクセスする『数瞬』が稼げてしまう」
緑昇が意表を突く為に用いたのは、己を囮にする戦略だ。
こちらの戦闘経歴上、保身を重視し、自らを危険に置くことはしない……と、敵は読み解く筈。
だから弱った姿を見せれば、前座と思わずに迂闊に食い付くと。
「そして貴様の僕が動くより……俺が撃つ方が早い」
緑昇はグラトニオス・カノンを構える『フリ』をする。
もう余力は無いというのに。
それでも挑発には充分だったようで、マモンは激昂した。
「貴様ぁあ……!」
「そして……俺達よりも『速い』奴がこの街に居るぞ?」
「巨人の大槍!」
マモンは接近音に気付き、逃げ去ろうとするが、脚が地にハマって動きが遅れたこともまた敗因だった。
振り向き構えた両刃槍では、完全に捌けず、炎に包まれた大きな槍の質量は、黄金の勇者の右肩と右羽根の一部と、顔側面の装甲を削り抉った。
不恰好な槍はそのまま加速に任せて平行飛行し、近くの民家に激突して止まった。
「さっきのが合図ってことで……良いんだよなぁ?」
破壊された壁を超えて立ち上がったのは、黄金の鎧を纏ったもう一人の英雄。
今、黄金騎士と呼ばれている、エンディック=ゴールだった。
「ついに一発かましてやったぜ……オラァ!」
壁にぶつかり、破壊したダメージでボロボロになりながら、復讐者は叫ぶ。
勇者を殺すと。
ついに!ゾルレバンの必殺技が出ました!この技を出したく、かつ最高の展開で使いたかった!
これは前々作の技であり、ぶっちゃけライダーキックです。緑昇は古いヒーローを代表するキャラなので。
それにエンディックもついに一太刀浴びせましたね。W主人公の2連必殺技ですよ!
ですが次回思わぬ展開となり、エンディックにまたまた試練が来ます。
4幸は短くする予定なので、5幸込みの話になるかな




