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第四幸(4話)「剥がれる人形の顔」Jー1

リモネとキリーを殺さずに連れ帰ったエンディック達。

しかし街では鋼鉄の獣達が解き放たれ、再び戦いの時がすぐそこまで来ていた…

(焦がれし夢)


「死のう……かな?」

 木々生い茂る緑の中、川のせせらぎに人の声が混ざった。

 水面に映されているのは、岩場でしゃがみ、悩む顔で覗き込んでいる男の子の姿。彼は下界で自己不定と暴力にさらされ、自己肯定力を失いつつあった。

 己を肯定出来なくなった人間が行き着くのは、自己無関心と存在疑問だ。

 だが少年はまだ幼い。

 この難題に答えを出し、割り切れるほどの余裕も、知性も無かった。

 そんな彼の脳を支配するのは、安易な自己消滅である。

(お母さんは家の仕事を継ぐんだから、山で生きれば良いって言うけど……それじゃあ悪くない僕が損してるじゃないか。

 僕が損するしかない世の中なんて、やる気……出ないな……)

 少年は空を見る。

 ここは川辺なので、空は木々で隠されてない。上には青と白と、飛ぶ鳥達の点のような姿が見えた。いや、鳥か? 周りの鳥と比べて、変わった形に大きな影が飛んでいた。

 男の子は怪訝に思い、立ち上がってよく見ようとする。

 その途中で足を滑らせて、川に落ちた。

「うそ……!」

 その川の流れは早いがそれほど深くなく、大人なら足が付く程度だ。

 だが子供の大きさでは足が届かず、動転した少年は溺れまいと必死にばたつく。

(あ……これでいっか……。こうやって溺れても、誰もぼくのことなんか助けに来ないし。もう……悩みたくない)

 目と鼻と口に水が入ってくるのを、彼は受け入れた。小さな生命は、死という流れに身を任せようとする。

 そして、川が爆発した。

 遥か上空から、大きな質量が水に飛び込み、強い水飛沫を上げたのだ。

 その輝きは川の中の少年を浚い、水上へ飛び出した。

 少年は自分を抱きかかえ、見つめる赤い光を見返す。

 それは黄金の鎧を着た騎士だった。

 鳥の意匠が施された鎧は光輝いており、装甲の間には黒いチューブが詰まっていた。

 兜で顔が隠れており、目元に透明な水色のパーツの奥に赤い瞳。背には翼が生え、羽ばたきもせずに騎士を宙に浮かせている。

「うわぁ……」

 その黄金の鎧は何と神々しいことか。

 水飛沫と濡れた鎧が光を反射し、宙に浮く様は幻想的で、少年の心を強く打った。

(この人は……ぼくを助けてくれたの? 見ず知らずの他人のぼくを……)

 黄金の騎士は川から少し離れた場所へ飛行し、子供を降ろした。

 そして男の子が礼を言おうとすると、すぐさま上昇し、空の世界へ旅立っていってしまう。

「あ……待って! あの」

 呆然とする少年は、しばらくしてすぐ目を輝かせると、その姿を追いかけようとする。

(礼も聞かずに居なくなるなんて……何てカッコイイんだ! まるでお話に出てくるヒーローみたいだ! 黄金の騎士……黄金騎士かぁ、ぼくもああなりたい。人から憧れるモノになってみたいんだー!)

 彼の先ほどのネガティヴは消し飛び、英雄と会えたというポジティブに満たされていた。

 このときのエンディックは知らなかった。

 彼女が黄金騎士の姿でここに来てしまったということは、当然『相方』にも知られている。そしてこの一件が、後に少年の一家に起こる大事件の引き金になってしまったのである。


 彼女はこの村で『黄金騎士』と呼ばれていた。

 少年の命の恩人で、英雄願望の継起となった人物。

 彼にとっての英雄であり、悪であり、今の彼自身の顔でもあった……。



(クスター地方・アリギエ・孤児院のエンディック達の部屋)


この後は決まって悪夢に繋がる。

エンディックはベッドでうなされていた。

額に汗を浮かべ、 まぶたの裏に映る黄金騎士による惨劇に、身を震わせていたのだ。

「大丈夫ですか?  起きて下さいエンディックん。エンディックん!」

 エンディックが目を覚ますと、肩の膨らんだ黒いブラウスを着た、紫の長髪の少女が彼を揺すっている。

「うお……俺いつの間に寝てたんだ? くそ、やっぱ無理な魔力を使ったせいか」

 リモネ達を連れ帰ったエンディックは、サーシャ達に事情を話し、二人を改めて孤児院の家族として迎え入れることにした。

 サーシャは姉弟の話を聞くととても協力的になってくれ、シナリーも交えて話をしていた。

 エンディックは会話の途中で倒れそうになり、一旦休憩を取ることにしたのだが。

(ヴァユンや落下を利用しない、ただの投擲で魔物を倒したからな……。魔物の体を抜けるだけの火力を出すには、魔言使いでもない俺には、荷が重過ぎたってか)

 シナリーの後ろには、なぜか緑昇も立っていた。

 勇者の全身鎧のままで、水色のバイザーから黄のカメラアイが、少年を見下ろしている。

「先ほど急に窓の外に現れて、ビックリしましたよ。エンディックと一緒に話を聞けって言うので、裏口からこっそり部屋に連れてきたのですけど……」

 シナリーも珍客の来訪に困惑してるようだ。

 緑の勇者はしばし沈黙した後、衝撃の第一声を放つ。

「この街に……魔物が紛れ込んでいるようだ。ライピッツ会場などが有る商店街方向で、次々と魔物が起動し始めている」

「な……んだって? だってリモネはもう」

「それが阻止されたからこそ、増援として事前に運び込まれた物が暴れているようだ。

また誘い出す為の罠か……あるいはシナリー=ハウピースを狙った行動だろう。

 いずれにせよ、敵はここを目指して来る可能性が高い。貴様らには借りがあるからな……俺は避難を促しに来たのだ」

 話を聞いたエンディックは血の気を引いた顔をする。

 ピンスフェルト村で起きたような事件が、アリギエでも? そうなると魔物だけじゃない。後にマモンという難敵も控えているかもしれないのだ。

 更にエンディックは消耗し、緑昇は深手を負ったばかりだ。

(もし家族を逃す途中、魔物に狙われたら……! 俺は……誰かを守りながら戦わなくちゃならなくなる。駄目だ……それじゃ誰か死ぬ!)

 守勢の戦いは、黄金騎士が最も苦手するものである。

 彼の戦い方は先手必勝。先に攻め、自分の力が尽きるまでに敵を倒すことを是としている。以前の緑昇の指摘通り、彼は事件が起きた後、状況を見て、勝てる可能性を前提に『奇襲』にて勝利してきたのである。

 ヴァユンⅢが与えてくれた力とは、『敵に攻撃されない速さ』と『敵より先に攻撃出来る速さ』といった、安全性なのだから。

 それは冷静とも言えるし、臆病とも見える。

 だから弱虫で、錬金術が使えず、夢を諦めていて、自分より弱い敵だけを倒してきた、英雄と呼ばれる少年が取るべき選択肢は一つしかない。

「後ろから追いつかれるかもしれないなら……先に後ろから倒しちまった方が良いよなぁ」

 逃走と迎撃ではなく、『追ってくる敵への奇襲』である。

 己に速さによる奇襲の技しかないのなら、その速さを持って後ろを取れば良い。

「エンディックん、また貴方はそんな危ないことを……!」

 シナリーは不安と怒気を声に含み、幼馴染を止める。

 だがエンディックの答えは、とうに出ているのだ。

「お前らを心配させるのは解ってる。でもよ、世の中危なくないことなんて無いだろ? 人の体は脆い。傷付いたらすぐに血が出るし、世界はそこら中が人を傷付ける物ばっかだ。

 それでも人間は生きてる……少しでも生きられる方を選んでるんだよ。だから俺は家族を逃す為に、戦う方が安全だと思う」

「そんな……こと」

「ではエンディック、君は商店街方向に行け」

 緑昇はシナリーの迷いを見ず、要望を伝える。

「正直に言おう……。今の俺は万全とは言えない。魔物の群れやマモンと戦っても、勝率は低い。だから共闘の依頼をしたい。

 君は住宅街に近付く魔物を倒しながら、商店街方面へ進んで欲しい。俺は迂回して、遠くの騎士団宿舎の有る方の敵を叩く」

「そう……だな。敵との距離が空いている内に攻めかかった方が、場所取りでも避難する奴らの安全面でも良いに決まってるぜ。そうと決まりぁ、早速動くぞ!」

 納得しかねるシナリーを介さず、二人の戦士は行動を開始した。


 エンディックはサーシャ達孤児院の皆や付近の住民に、詳細を省き、魔物が迫ってると伝えて回った。

 そして孤児院の裏で黄金騎士を作ると、すぐに商店街の方向へヴァユンⅢを走らせた。


 シナリーは避難の護衛として残った。

 今はサーシャらと子供達を連れて、アリギエの南門出入り口を目指して走っていた。

(結局家族を巻き込んでしまっている……。私が未だ生きているせいで、エンディックや義姉ちゃん達が……)

 悩めるシナリーの後ろでコルレが転ぶ。

思いっきり鼻をぶつけた痛みが、彼は泣きそうである。

「大……丈夫?」

 コルレを助け起こしたのは、リモネであった。

 彼女は年下に弱気は見せまいと、不安そうな子供を気遣う。

「ア……アタラシクキタヒト……」

「うん、大丈夫だよね。君はまだ泣けるから。本当にどうしようもなくなったときは、もう涙すら出なくなっちゃうから……。だから……またお姉ちゃんと歩こう?」

「違うのよ、リモネお姉ちゃん」

 喋ったのはスクラという少女だ。

 彼女は涙ぐむコルレの背中を叩きながら、リモネに言う。

「お姉ちゃんは後からあの家に来たから、アタシ達がお姉さんなのよ。だからもっとキリッとしなさいよコルレ! リモネお姉ちゃん、大丈夫だよ。お姉ちゃんは義姉のアタシ達が守ってあげるんだから!」

 幼き少女の頼もしさにリモネは微笑み、聞こえたシナリーは持ってる杖を強く握った。

(そうです……悔やむ前に私が皆を守らないと……。エンディックんが帰って来たときに、誰か居なかった……なんてことは二度とさせない!)


 そして……少年少女達と別れた緑の勇者は、己の目的地に向かわず、ある廃屋に隠れていた。

「魔言『MIRROR』」

 四枚の鏡が現出し、全身鎧の戦士を囲み、この世から緑昇を消失させる。

 そして彼はゆっくりと歩き出した。

目指すは街の出入り口だ。

「さて……逃げるか」

 この一件もまた罠である。

 魔物に人々を襲わせ、それを助けようとした所を、どこかに隠れ潜む魔物の本隊なり、マモンがその背を刺す。

 先の戦いでかなり消耗した己には、罠に正面からぶつかり、逆境を跳ね返す余力はないと判断したのだ。

 この街を救えるはずの英雄は、遥かにか弱い黄金騎士達を囮に、アリギエを後にした。


色々と当初の予定と変えましたが、リモネというキャラの落とし所としては、これで良かったかもしれません。


本来、このキャラは二話の時点で死んでいて、その復讐も兼ねて戦いが起こる話でした。

復讐者である主人公が、復讐される側になるという話ですね。

でもそうなると三話でキリーも殺してしまうことになるので、そこから孤児院の家族の元にエンディックが戻らなくなってしまう。

それだと3回連続挫折という、ちょっとクドイと思ったので、少し変えました。


今後も変更点などをこぼれ話として、出していこうかな?と思ってます。

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