7-11話 修学旅行(4)
三十三間堂を閲覧した時点で五時となり寺院は閉館となった。
ここから再度、バスに乗り込み、四条大宮にあるホテルまでが今日の帰りのバスの道のりだ。
バス専用駐車場から、バスに乗り込むと、今度は石森さんの隣の席が空いていた。
「今度は石森さんが俺の隣でしたね。宜しくお願いします」
「高松君、このメンバーの中にいるとますますモテモテなのがよくわかった」
「いえいえ、モテモテじゃなくて話しやすいというのが正解だと思うよ。ところで、メンバーとはうまくやってる?」
「一番面識あるのは同じ運動部ということで井上さんだけど、私と正反対な性格だから、ついて行けないことはある。小倉さんはこの班になって初めて話したけど、とても話易い感じがする。だいたい小倉さんから声をかけてくれるんだけど。緒方さんはなんかキラキラした雰囲気で、私とは正反対のオーラを背負っている感じはするけど、話はしやすいかな。夏村さんは……」
「夏村さんは……」
「実は一年の時、同クラスだったんけど、夏休み明けガラッと変わっちゃって綺麗になったんだけど、やはり、あの怖さが忘れられない」
「やっぱ、そうですか……」
「でも、もう大丈夫。夏村さん、優しく接してくれるので、小倉さんの次に話しやすいかな」
「それはよかったです。ところで、石森さんは陸上部だけど、次の大会はいつなの」
「十月に県の大会予選が高崎運動場であって、そこが目標かな?」
「大会での目標は?」
「ひとつでも前進できればいいかな?」
「欲の無いこと言うんだなぁ。ところで、陸上部というと俺は部長の上村先輩とは面識あるんだけど、上村先輩って元気にしてる?」
「うん、秋の大会が引退になるんで、がんばっているよ」
「そうか…… ところで上村先輩と野球部の林先輩って仲良過ぎない? なんか怪しいというか……」
「そうそう! 高松君、よく知っているね! 小学校から同じ学校とは言え、仲いいよね!」
「BLを感じてしまうというか……」
「BL?」
BLを石森さんはご存じなさそうだったので話題を戻そう。
「ところで、石森さんってあんまり仲よさそうな女子とか見ない感じなんだけど……」
「うん、運動部なのに、趣味がインドア派なんで他の部員とは話が合わないんだよね」
「ちなみに趣味って何?」
「小説を読むのが好きかな。現代作家じゃなくて、夏目漱石とか芥川龍之介とかの時代の人」
「ちなみに太宰治とか泉鏡花とか井伏鱒二とか好きだったりする?」
「好きで結構読むよ」
この辺が好きという時点で石森さんの雰囲気と一致した(勝手な想像だが)。
だが、そんな彼女が自分とは全くキャラが異なる面々ばかりであるこの班に来た理由が、なおさら分からなくなったので聞いてみた。
以前から引っかかる彼女の発言もあったからである。
「そういう本が好きな子なのに何で、こんな面倒くさい班にしたの?」
「高松君がいるから」
「前からチョイチョイ気になっているのですが、学園祭の実行委員のときもそうだったけど、何か俺、石森さんに変なことした? だから気になったとか?」
「いや、気になり始めたのは、前にも言ったけどサッカー部の時のグランドの石拾いかな。なんか一人で地味にコツコツ何かやるって感じが私と同じかなと思って……」
「ごめん。あれは作戦であって、別に一人は好きじゃ無いし。とはいえ勉強仲間がいなかったら、今頃一人で孤立していたかもしれないなあ。ボッチ気質はあるのかもね」
「だから、私のことも分かってくれるかなと思って」
「ということは俺に石森さんのことを分かって欲しいというのが石森さんの希望ってこと?」
「うん、それで十分」
「じゃあ、結論、私の友達になってくださいって理解していいですか? 答えはもちろん、いいですよ」
「本当? じゃあ、これからは私から話しかけてもいい?」
「もちろん。……ていうか委員会の準備をしているときも声掛けてくれてたよね」
「そうか? あんな感じでいいんだね」
「あとは、俺の周辺は騒がしい猛獣みたいな女の子が多いから、そういう人たちにも混ざっていくような勇気、ってほどじゃないけど、対抗心をもってほしいなと思うけど」
「わかった…… すぐには無理かもしれないけど、がんばる」
「よろしくね」
「一点、高松君に聞きたいんだけど……」
「何かな?」
「友達を作るために必要なことって何かな?」
「う~ん、改めて考えたことは無いけど…… というか僕自身、入学当時はボッチだったからね。そうだな…… 相手を尊重しながら、どんどん声をかけていくことかな」
「尊重?」
「うん。『尊重』……『尊いものとして重んじること』だね。声をかける事は、『おい』『やあ』って感じで簡単なんだけど、それだけだと相手は何で声をかけてきたのかが伝わらないんだ。だから、その返答として相手も心無く、『うん』『ああ』で終わってしまうことになるんだよね。そうなるとそこから話を広げることって難しいと思うんだ。そこで、相手にこうして欲しい、こう思っているというのを伝えるんだという気持ちで声をかけると、その気持ちが言葉になって、相手に伝わると思うよ。そのためにはまず相手を『尊重する』ことだと思うんだよね。初めのうちは伝え方を誤って誤解されるかもしれない。でも、自分で色々工夫し、反省しながら繰り返していくうちに、自分の伝えたいことを相手に効率よく伝えることが出来るようになると思うよ。俺も、中学時代に近所でトラブルを起こして、近所の人に冷たい目で見られていた時期があったんだ。でも、何度も何度も相手に自分の思いを伝えたいと思いながら声をかけていくうちに以前以上に近所の人たちと仲良くなることが出来たんだ。俺が出来たんだ。石森さんに出来ないはずはないよ」
「わかった…… 私、自分に自信が無いことから、相手に伝えることが怖くなっていたんだ。だから隅からみんなを眺めているばかりだったけど、声をかけてみるよ」
「大丈夫。俺自身も本当のところ、自分に自信が無いんだよ。でも伝えたいことは絶対に伝えたかったんで、誰にでも『尊重』の念を持ちながら声をかけてきた結果が今って感じなんだよね。怖かったヤンキーたちにも『尊重』は忘れずに向き合ってきたからね」
「そうなんだ。高松君はすごいね」
「石森さんもやる気一つで変われるよ」
「わかった。がんばる」
「それと逆に俺からなんだけど……」
「何?」
「学園祭の実行委員会の時に石森さんのこと奈那って呼ぶって約束したけど、緒方那奈が転校してきて、奈那・那奈で紛らわしいので、石森さんは石森さんのままでいいかな?」
「そんなこと気にしてたんだ。いいよ。私の方でこう呼んで欲しいの考えておくから」
「ごめんなさいね。あいつとは付き合い長いので」
「いいよ。そんなこと!」
と言いコロコロと石森さんは笑った。
笑っている小柄な石森さんを見てまるで小型犬のような愛着心が湧くなと俺は思った。
そこからは、彼女の声かけのレッスン。
俺に向かって何度も何を伝えたいか考えて俺に声をかけ、俺が石森さんが何を伝えたいのかを想像するゲームをやってみた。
何度もやってみたが、なかなか当たる物ではない。
今は当たらなくても、いいんだ。
俺は石森さんが俺と話す経験を増やすことで、石森さんが自分から他人に話しかけられる習慣を作る切っ掛けになればと思い、こんなゲームをしたのだから。
話す回数が増えれば増えるほど、彼女の表情もゲームの回数の分だけ増えていく感じがした。
夕方の京都の街並みも見たかったが、彼女の表情を眺める方が俺は楽しかった。
宿泊するホテルに近づいたことをガイドさんはマイクで教えてくれた。
バスはホテル近くの停留所のようなところに止まり、降りるよう指示を受けた。
俺たちはバスを降り、数分歩くと、目的地であるホテルに着いた。
するとロビーで待ち構えていたホテルの係員に従い、自分たちの部屋に向かう。
入り口はカードキーになっており、各自一枚ずつ係員からそれを渡された。
部屋は和室になっており、五人分の布団を一列に並べても十分な広さだった。
俺は部屋に付くなり、部屋の端に荷物を置き、畳に横になった。
自宅はベッドであり、久しぶりの畳の上は気持ちが良く、畳の香りが眠気を誘った。
「かず、バスの中もご苦労様でした。隣の女子の話し相手はいかがでしたか?」
と佐々木が茶々を入れてきた。
俺は横になったまま佐々木の方に顔を向け、
「思った以上に大変だった。那奈も石森さんも付き合いが短い分、色々気を使いましたよ。飽きさせちゃいけないから」
と言った。すると牧野は、
「かず、よく女子と長い間話が続けられるよな」
「那奈はいちおう知り合いと言えば知り合いだからいいけど、さすがに、石森さんは難しかった。でも大分打ち解けるところまではいけたかなって思ってる。ところで石森さんのこと、誰か知ってるやついる? ってお前らが知っている訳ないよね……」
「俺、知ってるよ」
「なんで意表付く佐々木が石森さんのこと、知っているんだよ?」
「彼女も俺と同じ常盤中学出身だから」
なるほど、一緒にバスで帰った時、市役所近くの『六間道路』というバス停を使っていたことを思い出した。
その周辺は常盤中学のエリアであるからだ。
「中学時代の石森さんってどんな子だったの?」
「今と同じように陸上部に所属して、成績は学校でも中の上くらいかな。あまり話さない人で友達は少なかったんじゃないかな?」
「寡黙で人付き合いが苦手か…… 中学時代と変わらずってことか」
「でも、自分から立候補するって子じゃなかったから、学園祭の実行委員に手を上げたときはびっくりしたよ」
「いかなる理由があるにせよ、一歩前進ね」
「ところで緒方さんのこと、かず、那奈って呼び捨てで呼んでるけど、どういう関係なの? かずって原則、女子はさん付けで呼ぶじゃん」
と坂本が聞いてきた。しょうがない、ここは今までの経緯を話しておいた方が早いと俺は思った。
「ややこしい話なんだけど、実は那奈って俺が中学時代からアイドルとして推していた子なんだよ。今度、アイドル辞めて、都内で活動する話になって浦和に引っ越してきたん。彼女、あんな格好いい子なんだけど人気無くて、俺だけが応援していたような状態なんだよね。それがいきなりうちの高校、その上うちのクラスに転校してきたから、ややこしい訳よ。変な言い方、夏村さんよりも前から好き嫌いは別として推していた子だからね。心中穏やかじゃ無いんですよ」
「教室でも、かっこいい女の子が転校してきて早々、いきなりかずの知り合いと来たから、まわりの男子からまたあいつ! って睨まれてるぞ」
「俺もそこは気にしているんだよね。那奈はかっこいい系で女子受けはすると思っていたけど、やっぱ、男子にも好かれているんだね。まあアイドルだしな…… 転校してきて誰も知らない人ばかりで不安なところに知っている顔があったから、俺に頼ってきているだけだから。まして、俺には夏村さんがいる。まあ、相手から好意をもたれることはうれしいことなんだけど」
「まあ、トラブらないことだけを祈っているよ」
「ありがとう。しかし、これがあと二日続くとなると、つらいなあ……」
と俺は大きな伸びをした。
しばし、部屋でテレビを見ながら着替えもせず横になっていると、ドアをたたく音がした。
「お~い、かずや。見回りに行くぞ」
「へいへい、じゃあ行ってきますわ。食事は19時半だったよね」
「そう。行ってらっしゃい…… というか見回りの時はもしかして夏村さんと二人きり?」
「それを楽しみにしてた」
「楽しんでこいよ! 馬鹿野郎!」
「ひどいな! 行ってきます」
といい、俺は部屋を出た。
食事までの時間と食事後、風呂までの間が自由時間となり、外出可能となる。
その外出時間だが、修学旅行の実行委員と生徒会実行委員は、四条大宮から祇園までを手分けしてパトロールすることになっていた。
ホテルから西の四条大宮方面は観光地も少なく、オフィスやデパートが散在するので、修学旅行生はなかなか足を運ばないだろう。
だが、全くパトロールをしない訳にもいかないため、数組が監視すればよいだろう。
逆に東の祇園周辺は観光スポットが多く、そこは重点的にパトロールしなくてはいけない。
各クラス委員は男女一人ずつであるため、この二人がペアになりパトロールをするが、生徒会は、俺と夏村さん、河野と書記グループ、内田さんたちの四人組がチームを組んだ。
各担当者のスマホにはGPSでお互いの位置を把握できるアプリを入れ、東:西が8:2に分散するよう対処し、通話もチームのライングループを作りすぐに連絡が付くようにしていた。
部屋のドアを開け、廊下に出ると、そこには夏村さんが待っていた。
「じゃあ、いきましょうか」
と声を掛け、歩き出すと夏村さんは俺の隣を歩き出した。
廊下を歩いていると、銀閣寺から三十三間堂までという長い距離を歩いたにも係わらず、各部屋からは同級生の元気な声が聞こえてきた。
「夏村さん、お疲れ様です。車内はゆっくりできましたか?」
「普段、他の奴とじっくり話す機会が無かったからよかったよ。いい経験になった」
「それはよかったです。でも、俺はもう少し夏村さんと二人で一緒に行動、とかしたかったなあ」
「三日目の映画村はフリーだし、バスの席も隣だからそれまではがまんだな。しかし、かずやは俺のこと、ベタ惚れだな。そんなに一緒にいたいのか?」
「はい」
「そ……そうか」
俺は一応夏村さんの歩調に合わせるように歩いているつもりだった。
しかし、足の長さが俺よりも圧倒的に長いのだ。
一歩の間隔が多分俺よりも長い。
歩くテンポは俺の方が速いのに、容易に俺に着いてくる。
身長は俺の方が高いのにと、夏村さんと比較して自分の格好悪さを気にしないでおこうと決心したことも忘れてしまう。
そう考えると自然と俺の視線は正面ではなく、斜め下を向いてしまう。
「どうした? かずや」
やはり、夏村さんは気づいてしまったようだ。
俺は胸を張り、正面を見て、
「いや、何でも無いです。パトロール終わって、部屋戻ってから、また何か嫌なことが待っている感じがするのでちょっと心配になりました」
とごまかした。すると夏村さんは、
「井上がいると、彼女が何か企んでそうで、かずやは怖いだろう?」
と良い、少し微笑んだ。
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編集記録
2022/12/16 誤記訂正
2023/02/09 前話の残りを本話に合体
2023/02/10 一部改稿、7-11話、7-12話に分割




