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7ー4話 やってきた小悪魔

【読者さまのコメント】

緒方那奈が転校してきた?!?!?!

彼女が高松とめちゃくちゃフレンドリーな様子を見ていた夏村さんたちの視線を想像するだけで冷や汗が出る!(汗)

これからの学園生活、大丈夫か?!?!?!

そんな中、井上さんの元気がない様子が心配で……。

 ショートホームルーム終了。

 那奈は俺の方を向き、

「和也くん、実は、今度チームを辞めて、都内のダンス事務所に移ることになったんだ。新しい事務所は今の事務所と違って、収益も少ないから、交通費として新幹線代は出せないって言われちゃたんで、県南に転居しようと思ったんだよね。そこで、姉さんが浦和に住んでいたんでそこに転がり込んだってわけなんだ。卒業までは今の事務所やレッスン場もこっちの方が近いし」

「てことはSTMは辞めるの?」

「うん、だけど今年末までは契約があるんで、十一月に卒業発表で十二月に卒業って流れかな」

「寂しいな。せっかく応援してたのに」

「このままがんばっても、選抜に選ばれないだろうし、それだったら早いうちに移った方がいいかなって思って」

「ダンス事務所って、ダンスで食っていくってこと?」

「そうだね。私踊るの好きだから」

「でも、故障した時の『もしも』も考えておいた方がいいんじゃないのかな。ダンスだったら大学とか行きながらでも出来るんじゃないの?」

「そこまで考えて無かったっていうのが正直なところだけど、今後どのような活動になるのかを確認してから考えるよ。ちなみに、和也くん、アイドルの応援に来る位のヲタだから、私に勉強教えてくれるほど頭良くないでしょ?」

「うん、ヲタクだし、頭も悪い……」

「だよね。でもよく和也くんみたいな人に惚れる人がいるよね?」

 と那奈が言うと同時に、今の会話を聞いていた夏村さん、多江ちゃん、井上さんが那奈のことを睨んだ。

 それに気づいた那奈は、

「あれ? ここって和也くんのハーレム地帯なの? やけに攻撃的な視線が怖いんですけど」

 と笑いながら、三人の顔を眺める。

「馬鹿野郎、お前は見る目無いから気づかないだろうけど、かずやはこんな感じだが、学力は学年一位だぞ、その上面倒見も良くてみんなに好かれているんだ。バレンタインのチョコもすげぇ貰ってたんだからな」

 と夏村さんは反論してくれたのだが、その内容は聞いているこっちが恥ずかしくなるようなことだった。

「じゃあ、和也くんに私も勉強教えて貰おうかな? 面倒見がいいなら大丈夫だよね」

「今は、ちょっと手がいっぱいでして……」

「だって、和也くん、私のこと好きで推してくれたんでしょ? じゃあ、その推しがヘルプ出しているんだから、助けてよ。今週の九日日曜の握手券も何枚持っているか知っているよ」

 と那奈は茶々を入れる。

 すると、それを聞いた夏村さんは顔を真っ赤にしながら、

「かずや! こいつのために今回は何枚握手券買ったんだ?!」

 と切れると、井上さんは、

「あの~、もしかしてなんですが、緒方さんってアイドルさんか、何かなんですか?」

「STM51ってアイドルグループの万年非選抜、和也くんだけが握手に来てくれるアイドルです」

「えっ! かずくんって、本当はこんなの好みなの?!」

 と井上さんと、多江ちゃんは大声をあげた。完全に反撃の狼煙だ。

「こんなのって失礼だな~。今週の九日の日曜日にさいたまスーパーアリーナで握手会がございまして、和也君が私をほぼ独占しております」

 その言葉と同時に多江ちゃんからの弁慶の泣き所へのキック、井上さんからのパンチを受ける俺だった。

 夏村さんはと見てみると、顔を真っ赤にしたままこちらを睨んでいた。後が怖い……

「まあ、そんな感じだから、正直なところ、高校生活をエンジョイできる学校に行きたいなって思ったら、ここの高校が入れてくれたって訳よ。和也くんいるしね~」

 今までの会話を聞いていたのであろう。

「お~い! みんな! またかずが女作ったぞ。それも転校初日に!」

 坂本は勉強仲間に報告した。

「また、おもしろいことになってきたね~」

 こういう場所で茶々を入れるのは佐々木である。

「なんで、こいつばかり女が集まってくるのかわからん。俺ももっと勉強頑張ろうかな?」

 と牧野は言ったが、俺は、

「勉強だけが原因だとは思わないけどね」

 と言った。


「さてと、和也くん。この学校、二学期って何の行事があるの?」

 と那奈が聞いてきた。

 そういえば、今学期のスケジュールは昨日配っていたことを思い出し、

「今月末の修学旅行、体育祭、文化祭が大きな行事かな」

「修学旅行か…… じゃあ、私和也君と同じ班決定!」

「勝手に決めるな。てかさ、那奈。これだけは間違えないで欲しいんだけど、俺は那奈のこと推してはいたけど、那奈のことを彼女にしたいなあとか思って応援してた訳じゃないから。一人でもがんばっていたから応援していただけで、別に好き嫌いとかじゃないから」

「いいんだよ。照れなくて」

「照れてない! てか、グループは男子の班と女子の班に分かれるみたいだよ」

「うそ! じゃあ、尾行してやる」

 その時、俺の肩をパンパンとたたく夏村さん。そして顔を寄せ、俺の耳元で小さな声でこう言った。

『修学旅行の班分けって、男子と女子別のグループなのか?』

『そう言っておかないと、現状、面倒くさいでしょ』

『そうだよな。お前は道中、俺と一緒だよな』

『そのつもりです』

「なに、お二人さん、こそこそ話ししてるのさ? いつも二人はこんな感じなの?」

 と那奈は坂本に聞くと、美人に声をかけられ緊張した坂本は、

「いつも仲はいいです」

 と言った。坂本はどうやら女子免疫が低そうな感じで、急な那奈の振りに顔を赤らめて話した。

「まあ、いいや。まだ時間あるから、追々落としていきます」

 と那奈がいうと一時限目のチャイムがなった。


 やっと、終わったかと思い、机に教材を出し、前を向くと、こちらを石森さんが見ており、目が合うと正面を向き直した。

 この子も何かありそうだなと思いながら、俺は椅子を座り直した。


 それからも那奈は休み時間ごとに、俺にいろいろと話しかけてきたが、転校初日から面倒だからいう理由で、彼女を拒むことはできないと思い、嫌々ながら対応していた。


 校内の紹介は、私がやると夏村さんが言い出してくれたので、お願いした。

 二人が出かけた後、俺は教室で疲労困憊していた。

「結構、那奈さんって天真爛漫なんだね」

 と多江ちゃんは聞いてきた。

「あちらさんはアイドルで、俺は握手会だけでの付き合いだから、彼女がどんな子なのかまでは把握できないからね。まあ、物怖じしないから、アイドルなんて仕事しているんだろうけど。まあ、ここ数時間見ていると、こっちにちょっかいは出してくるけど、混乱を長引かせる意図は感じないから、まあ俺をからかって様子をみているだけなんだろうね」

「それだったらいいけど…… またかずくん、面倒見すぎて、すり減っちゃうといけないなと思ったから」

「まあ、適当に流していきますわ。多江ちゃん、ありがとう」


 昼休みの始まりに、いつもの情報のお礼と思い、晏菜に那奈が転校してきたことをラインで送ると、喜ぶかと思いきや、

『おにぃ、絶対に那奈に手出すなよ! その時は私と沙羅ちゃんがおにぃを殺す』

 と物騒な返信が返ってきた。

 絶対に義理姉妹にはしたくないコンビである。


 ※※※※

 

「何! また新しい女がおにぃの周りに、湧いて出てきた! 最近のおにぃは絶対おかしい…… 本当にモテキャラに変わっている。どうにかしないと……」

 と動揺する晏菜であった。


 ※※※※

 

 昼休みももう終わろうかとしている時、俺がトイレで用を足していると、隣に坂本が来て声をかけてきた。

「かず、二学期も塾へはいかないって感じか?」

「うん、結構、自分のペースで出来る通信添削が今の生活には合っているかなって思っているから、当分は通信添削でがんばってみようと思ってる」

「まあいいけど、十日に送られてくる全国模試の成績次第だよな」

「うん、ちょっと俺も考えるところがあって、志望校の変更とかしたから、どんな結果がでるか楽しみなんだけどね」

「ああ、そういえば、田島のロックコンサート、大好評だったって兄さんから聞いたよ。ある程度の評価が得られたので、畑中さんが、山田さんとバンドを別売りで売り込んだみたいで、バンドの方はプロデビューの目処が付いたらしいよ。山田さんは畑中さんの意向で山田さんのお兄さんと組んでデビューさせる方向で動いているみたい」

 俺の頭の中から田島のロックコンサートのことは完全に消え失せていたのに、坂本は余計なことを思い出させた。

 夏休みに軽音楽部の部室で山田さんには声をかけたが、バンドのメンバーにはどうしても声をかけることができなかった。

 俺は今では過去のメンバー、彼らの今の活躍には俺は貢献していないのだと考えると、坂本の発言に対し俺には悔しさの念はなく、俺の心を動かさなかった。バンドへの思いは夏休みの自宅での勉強会での夏村さんのパンチ、多江ちゃんの平手打ちで吹っ切れていた。今の俺にはバンドよりも優先すべきことがあるからだ。

「よかったな。達也さんにはおめでとうと言っておいてくれ」

「わかった。かず、完全に吹っ切れたんだな」

「それまでには色々あったけどね…… 初めて夏村さんに本気で殴られたよ、それも二回」

「自分の思いより、嫁のパンチの方が強しか。あ~あ、俺も彼女欲しいな!」

 と笑いながら俺の肩をたたく坂本であった。

「坂本、しらっとした態度でションベンした後の手で俺の肩をたたくな!」


 結局、その後も授業を終わって休み時間になると那奈は俺に話かけ、質問をし、俺は答えるの連続だった。

 そして六時間目の授業が終わると那奈は、俺の周辺の子に対し、

「ごめん、これからレッスン場で練習があるんで帰るね。ちょっと和也くん、時間貰って良い?」

「別にいいけど……」

 渋々席を立つ俺。

「下駄箱まで送ってくれる?」

「いいよ」

 

「でも、よかったよ。和也くんが同じクラスで。多分、和也くんがいなかったら初日からこんなに話せる人いなかったし、多分寂しい思いをしていたと思うよ。ありがとう」

「お役にたてて光栄です。あと、那奈が転校した話とか、十二月で卒業の話はうちやま氏とかには話さない方がいいよね」

「ご留意いただき光栄です。やっぱ、和也くん、わかってるね!(笑)」


 下駄箱でスポーツシューズに履き替え、俺に別れの挨拶をし、手を振りながら出て行った那奈。

 その姿は、夏の日を浴びて褐色の肌が輝き、夏村さんよりブラウンがかった色の短髪をキラキラ輝かせながら、軽やかに飛んでいく様な走り方であった。

 その姿を見送りながら何か心に温かいものを感じてはいたが、後方から何やら冷たいナイフを突きつけられたような冷感を感じた。

 俺が振り返ると、そこには夏村さんがいた。

「おい、お前、ちょっと、今、那奈に心が揺れていただろう?!」

「いえ、そんなことはございません。昼休み、晏菜にラインしたら、那奈に手を出したら、夏村さんと一緒に俺を殺すなどと物騒な返信がきましたもので……」

「さすが、晏菜ちゃんだな。俺の気持ちをわかってくれている。でも、那奈に寂しいって言われたらお前、なんとかしようとするんだろう。性格上、しょうがねえけど、まあ俺のこと、忘れてなさそうだから、いいや。あいつも転校して早々、寂しい思いさせるわけにいかねぇもんな。かずや、バッグ、生徒会室に持って行ってある。一緒に行こうか」

「よろこんで……」

「お前、たまに言うけど『よろこんで』って言うのやめろ!」

「なんで?」

「…… 恥ずかしい ……」

「わかりました。おひめさま」

「お前、完全に俺をバカにしているんだろう。生徒会室で折檻(せっかん)だな」

「『折檻』っていつ時代の言葉よ?」


 ◇◇ 九月七日 ◇◇


 日が経つにつれ、緒方那奈のクラスでの人気は上がっていき、男子女子からも声をかけられるようになった。

 さすが、アイドル、推しをつくるのがお仕事ですねとおもったが、多分STMで人気が無かったのは、彼女は『自分の彼女』タイプではなくて、『みんなの女友達』タイプなんだろうと俺は思った。

 友人が多くなってきても、何かあると俺に声をかけてくるし、遠くで俺を見つけると手を振ってくる。

 周りの男子は『彼女とはどんな関係だ』と問い詰められる場面も少なくなく、以前近所に住んで居た友達なんでと、はぐらかしていた。

 困るのはわざと隣に夏村さんがいるときに茶々を入れてきて、夏村さんを怒らせ、付随して井上さん、多江ちゃんに睨まれることをしてくる。その状況をあたかも楽しんでいるかのごとく、那奈は俺をネタにし続けていた。

 当然、授業が終わってからの生徒会室での夏村さんからの証人喚問は毎日のように続く。


 俺は、そんなことより、元気のない井上さんが心配であった。

 今朝、俺は前日にバレー部の後輩から井上さんがいつも乗っているバスの時間を聞き、普段乗る自宅近くの停留所ではなく、浦和駅のバスターミナルに向かった。

 その情報は正しく、井上さんが参考書を読みながら、バスを待つ列に立っているのを見つけた。

 参考書なんてめずらしい光景だなと思いながら、井上さんを目で追いかけるとバス後方の二人席に座った。

 俺はそれとなく近づき、

「すみません。こちらよろしいでしょうか?」

 と尋ねてみた。

 参考書の方が気になるのか、こちらには注意を向けず、

「どうぞ」

 と言われたので、隣に座った。

 それでも井上さんは気づかない。

「まじで、勉強しててウケるんですけど」

 と普段使わないような口調で井上さんに話しかけると、

「うるさいなぁ~ …… かずくん? なんで、かずくん?」

 と、ものすごくびっくりした顔で俺を見た。

「いや、なんか最近元気が無いみたいで心配だったんだよね。何かあったの?」

「う~ん、どうしようかな~? うん、言っちゃおう。実はさあ、夏休みに模試受けたんだけど、志望校の合格率がマジやばくて勉強しないといけないなと思ったんだ」

「井上さんって、田島中学では一番だったんじゃないの?」

「やっぱ、真剣に進学考えると、もうそろそろ、どうにかしないとなあと思いまして……」

「そうか、そりゃ心配だよな…… う~ん、何か手伝えられることがあれば協力するけど…… フェロモン注入以外ね」

「全般的に数学が弱いんだよね」

 よく見ると井上さんの手には数学の参考書があった。

「わからないところがあれば教えてあげるよ。多分十時半過ぎなら、夏村さんとの電話終わるから」

「へ~、おやすみコールしてるんだ。その余韻に私が割り込む。なんかいいねぇ」

「そんなことより、井上さんの成績の方が大切でしょ。どうしようかな? そうだ、ネット会議用のアプリ入れて、それで見てあげようか。会話より動画の方が伝わりやすいと思うから」

「えっ! そんなことしてもらっていいの? 夏村さんに怒られない?」

「いつも井上さんにはお世話になってるし、そのぐらいのことはさせていただきますよ」

「そうなんだ…… ありがとう…… やっぱり、かずくんはやさしいね」

「いやいや、井上さんだからだよ。他の人にはやらないから……」

 思わず出てしまった俺の言葉に声を詰まらす井上さん。

「あれ? 俺なんか変なこと言ってしまったような……」

「ううん。それだけで元気出たよ。じゃあ、アプリどれか教えて!」

 ということで井上さんとの深夜の勉強会を引き受けてしまった俺だった。

当作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。

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編集記録 2023/02/03 一部改稿

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