7-1話 それぞれの道
【読者さまのコメント】
サッカーの試合に出たせいか、高松の腕は痛みがひどい。
そんな高松に気づかない夏村さんではない!
夏村さん、かわいい♪
そして多江ちゃんが高松をロックオン中!
モテモテだわ!(汗) これは波乱が起きそう(汗)
それぞれが進路を決めていく!
◇◇ 八月三十一日 ◇◇
この年は一日が土曜日、二日が日曜日ということで、始業式は三日となり、二日間夏休みが増えて得した気分になっていた。
結局、今年もお泊まりで、夏村さんと二人でどこかへは叶わなかったが、勉強会を通して一緒に居る時間が毎日のようにあったのはうれしかった。
お泊まりなど、高校卒業しての方が大手を振って行けると思うので、そこまでは我慢しよう。
試合が終わった後、俺の自宅で祝勝会を開いたのだが、晏菜と夏村さんは終始二人共通の『嫌なヤツ』である一哉を俺が倒したのでご機嫌で話まくっていたが、残りの多江ちゃん、さより、そして特別出演の井上さんは、三者共通の話題がないため三者三様のことで時間を潰していた。
それを見た俺が三人のご機嫌取りに終始し、会は終了したのだった。
会がお開きになって、夕食、お風呂と時は進み、寝室に戻ったとき、俺はスマホに夏村さんからラインが来ていることに気づいた。
『時間があったら電話ほしいな』
何のことやらと思いながら、夏村さんに電話した。
「ーーーー あっ、和也です。ラインありがとうございます」
『ごめん、呼び出しちゃった感じで。時間大丈夫か?』
「いつでも、いいですよ」
『本当は怪我の跡がしんどかったりするんじゃないか? お前の調子の良さにはいつも騙されちゃうんだよな』
「すみません。本当は痛み止め飲んで今は安らいでいます」
『そうだったんだな…… なんか、また無理させちゃったな』
「サッカーの試合のこと? あれは晏菜からの要請もあったからね。あいつに一哉の調査も頼んでたし、あいつも相当一哉のこと嫌いだったみたいだね」
『本当にありがとう。かずやがあいつを打ちのめしている時、やっぱ、小学校の時のかずやのまま、俺のこと守ってくれるんだなって思ったよ』
「なんだろうね。なんか一哉には俺、相性がいいのか、負けたことがなくて…… あっ! でも、今の高校で負けているか?(笑)」
『(だから、お前は俺の王子様なんだよな)…… うん、やっぱ、かずやはかっこいいな!』
「えっ! こ、これはありがとうございます。俺は夏村さんのベルトラン・デュ・ゲクランになれればいいと思っているんで」
「ゲクラン?」
「世界史の教科書には出てこないけどフランスとイギリスの百年戦争に登場したフランスの騎士の名前で、子供の頃は暴れん坊だったんだけど、大人になってフランスを窮地から救った英雄なんだ。だけど、容姿がいまいち。だから俺は夏村さんのゲクランになりたいと思っているんです」
『いや、俺にとってかずやはいつでもかっこいいよ』
「あ、ありがとうございます。なので、命を賭して夏村姫をお守りします」
『やんちゃな姫だけどいいのか?』
「結構です」
と言い二人で笑った。
『ごめん、長電話させちゃったな。早く休めよ』
「ありがとうございます。ちょっと眠れそうにありませんが……」
『なんで?』
「今日の帰りに一緒に腕を組んで歩いたのが忘れられません」
『わ、忘れろ! じゃあな! おやすみ!』
プー、プー
スマホからは、多分、急いで電話を切った夏村さんの心臓のリズムのようなリズムで、電子音が鳴っていた。
「おやすみなさい、夏村さん。しかし、あの照れ方、かわいいなぁ」
◇◇ 九月一日 ◇◇
土日はラジオの基礎英語がないため、存分に寝ることができた。しかし、鎮痛剤が切れたのか、腕の痛みで目が覚めた。
さすがにサッカーの試合の翌日であったため、ハードな相手とのボディコンタクトはなかったのだが、疲労と傷の周辺が痛み、熱を持っているようだった。
せっかくの夏休み最後の土日であるが、俺は自宅で休ませて貰うことにした。
「おっはよう」
リビングダイニングに降りると、そこは晏菜恒例のテレビ独占状態だった。
「おい、晏菜。受験勉強は?」
「おにぃの学校なら楽勝だし。その上、おにぃに公民も教えて貰ったしパーフェクトですよ」
「お役に立てて幸いです」
「おにぃに良い発表があります」
「腕痛いから食事して薬飲んでからでいい?」
「良い発表があります!!」
「わかったよ! 何?」
「私と一緒に高山茜、中山七海、朝倉玲奈は大鳳受験します」
「ちょっと待て! あの子たち成績いいんじゃないの?」
「だって、おにぃと小倉さんが国立医学部、沙羅ちゃんが慶応、おにぃの勉強仲間が有名大学行ったら、ちょっとした公立の有名校と肩を並べられるくらいの実績のある学校になるじゃない」
確かに、公立高校からの国立医学部進学者は中々いない状況ではあるが、もし合格したとしても、それは各個人の問題で、高校自体の実力とは思えないからだ。
「いやいや、東口の星野生花店の聡子ちゃんみたいに市立浦和高校とか、一女とか行った方が良いって!」
星野聡子ちゃんは昨年の夏、夏村さんの水着を浦和PARCOに探しに行くとき、立ち寄った花屋さんの娘さんのことだ。
「結構、今年、おにぃの高校行った先輩からの評判が良いんだよね。クラブ活動も活発だし、先生は面倒見がいいし、何しろおにぃがいる」
「一番最後は論外として、うちの高校、大きな大会に出たクラブ無いぞ」
「ああ、そこまでは期待してないから。クラブに入ったら大学行けないし」
「もう一回、考え直せ! 大学行くなら、市立浦和とか浦和西、一女を選んだ方がいいって!」
「いいの、高校に入ったら、おにぃみたいに進学準備始めるから」
一度、決めてしまうと絶対変えないのが晏菜の性格だ。
ただ、その性格に『なかまたち』を付き合わせるのは良くないと思うのだが…… しょうがない。
「へいへい。お前ら、一度の人生無駄にするなよ」
「あと、ですね…… 前にも言いましたが、高校受験終わったら、茜、七海、玲奈と一日ずつデートしてあげてね」
「だから、夏村さんに了解貰ってね」
と俺が言っているそばから、晏菜は、その後、私も一日デートしてもらうんだ! と思っていたことは俺は知るよしも無かった。
とんでもない発表があり、俺は頭痛がしてきたので、朝食をさっさと終わらし、部屋に戻り寝てしまった。
どれだけ寝てしまったのであろう。
おなかがすいたので目が覚めた…… というのが正直なところである。
晏菜の爆弾発言があって、朝食食べたことを忘れていたが、そういえば薬を飲むために、パンとミルクを流し込んでいたことを思い出した。
ということは……
時計を見ようと目を開けた時、ベッドの横に多江ちゃんがいたのでびっくりして飛び起きた。
「ごめんなさい! 気づかなくて!」
「ううん、晏菜ちゃんに聞いたら上で寝ているから、ベットの横でくすぐってやればびっくりして起きるよって言われたけど、さすがにできなかった」
「よかったです。多江ちゃんがそんな蛮行に走らなくて」
「ところで、傷はどうなの?」
「ちょっと熱もっているのと痛みがあるんだよね」
「そうなんだ。帰って父さんに相談してみようか?」
「いえいえ、診察料を取られるのは現状辛いので」
「かずくんって結構お金に厳しいよね」
「底辺の庶民なので」
と言ってはみたが、多江ちゃんにはウケなかった。
多江ちゃんは視線が安定せず、表情から何か俺に聞きたいことでもある様子だった。
「ところで、みんなと勉強会していたとき、勉強五科目してたけど、もしかして、かずくん、国立狙っているの?」
受験のことを気にして俺に何か聞きたいことがあるのだろうか。
そりゃ、今まで私立受験としか言ってなかったので、夏休みの勉強会で多江ちゃんの通っていた進学塾の国語、社会の問題集を借りたりしていれば自ずとわかってしまうよなと思った。
「将来、やりたいことが見つかって、どうしても国立の大学を第一志望にしなくてはならなくなったんだよ」
「そうなんだ、よかったじゃない。かずくんのことだから手っ取り早くお金儲けできるような仕事でもさがしたのかなって思って」
以前多江ちゃんに話していた受験校についての話を今もそのまま信じてくれていることに気まずさを感じてしまった俺は、俺の進路のことを言うべきか悩んだ。
しかし、いずれはわかること、同じ大学に受験する可能性についても事前に言っておいた方が誠実かと思った。
私立なら定員が多いので、競争相手になっても、どちらも合格は考えられる。
しかし、国立でかつ医学部であれば定員も極めて少ないため、どちらかが合格して相手を蹴落とすことも考えられる。
もう、ここまで言い出してしまったのなら、多江ちゃんに、今のうちに言ってしまおうと思った。
そこで、多江ちゃんのお父さんの紹介で行った病院でロボット型の医療機器を見て、その開発をやってみたいと思ったことを正直に話した。
「自分が不自由になって初めて、病気で悩んでいる人の役にたつものを作ってみたいと思ったんだよね」
「そうなんだ、やはり人の役にたつことをしたいんだね」
「そして医療機器が当たればお金が儲かる……」
「結局、お金儲けなの! まあ冗談はさておき、で医療機器の開発・研究やっている大学ってどこなの?」
「筑波大学」
「へぇ、理工学部でそういうのやっているんだ」
「ううん、医学部」
「筑波の医学部! ふ、うん、そうなんだ」
一瞬で多江ちゃんの表情が変わったのを俺は気づいた。
…………
長い沈黙の後、多江ちゃんはこう言い出した。
「私も今、筑波か千葉で迷っているところなんで、筑波狙おうかな?」
「えっ! それはライバル宣言ってことですか……?」
「そういうことじゃなくて、筑波に二人とも合格すれば、必然的にかずくんのそばに大学行ってもいられるし、なっちゃんより長く一緒にいられるじゃない。決定! 私も筑波、第一志望にしようっと!」
「そんなことで決めちゃっていいんですか?」
「私は家を継げればいいから、ぶっちゃけどこかの医大に入れればオールオッケーなの。やる気出てきたなぁ」
「こちらは、多江ちゃんに言ったら、何かされそうで言い出せなかったのが正直なところで……」
「何をされそうなのよ。失礼だな! でも今日は一人でお見舞い来て成功だったな。かずくんも元気そうだし。お母さんにお見舞いのケーキ渡しておいたからみんなで食べてね」
「ついでにお願いなんですが…… もし二学期以降も新宿の医学系進学塾行くんだったら、テキストとか見せて欲しいんだけど」
「また、かずくん、安くあげようとしてる(笑)! いいよ。その代わり、土日になっちゃんとの勉強会混ぜてね」
「はい、わかりました」
「あと、もうひとつ」
「もうひとつ?」
と俺が言い終わるやいなや、多江ちゃんは俺の胸に抱きついてきた。
「私もエネルギー補給……」
「なんか、みんな井上さんに感化されているなぁ」
「目が覚えるんだよね。カフェインドリンクよりも効果がある」
「飲み過ぎに注意ね」
「医者の娘だよ! そのくらいわかっているよ」
俺は多江ちゃんを見送り、リビングダイニングに戻ると、まだテレビを独占していた晏菜にこう言った。
「晏菜さ、前にも行ったけど、俺ってフェロモン出てる?」
「父さん! また、おにぃがセクハラしてきた!」
と行って、晏菜は部屋に向かって駆けていった。
それを見た父は俺に、こう言った。
「かず、沙羅ちゃんに手出せないからって晏菜に手を出すんじゃないぞ! 今度こそ縁切るぞ!」
「手、出してねえし! しかし、おやじの縁切るなんて言葉、何年ぶりかに聞いたな」
部屋に戻った晏菜は一人つぶやいた。
「やばい、絶対、小倉さん、おにぃの匂いに気づいてる…… 要注意だな」
◇◇ 九月二日 ◇◇
池袋駅、朝八時十五分
彼女は階段を上り、西口の地上に出ると、立教大学の方向に向かって行く。
鞄の中から受験票を取りだし、模擬試験の会場への地図を確認する。
「さてと、がんばりますか!」
大きく伸びをすると、模擬試験の会場である進学塾に向かった。
道沿いには、進学塾の案内の係員が五十メートルごとに並んで、受験生が迷わないように誘導していた。
会場に向かう高校二年生はこの時間多かったが、周りの生徒に比べ、この女子生徒は頭分だけ身長が高かった。
進学塾の建物の前には受験番号と教室の案内が出ており、それを受験票と確認し、部屋に向かった。
部屋に入ると正面の黒板に座席と受験番号が書かれており、机の上には受験番号が書かれた紙が左上に貼られていた。
彼女は席に座ると、自分の腕時計を外し、受験番号の書かれた紙の下に置き、鉛筆三本と消しゴムを並べておいた。
前から三列目。
この位置なら、英語のヒアリングも問題ないだろう。
「では、これから問題用紙と解答用紙、質問票を配ります。解答用紙には受験番号と名前の欄を鉛筆でご記入ください。質問票は添付の資料に基づきご記入ください。問題用紙は持ち帰りできますので、試験終了後に配布します解答集とともにお持ち帰りいただき、復習にお使いください」
と係員は言いながら三つの冊子を配布した。
彼女は質問票を記入しながら、志望校を資料に基づき探した。
(有った、有った。第一志望、筑波大学体育専門学群っと。番号は……)
そして彼女は最後に解答用紙に氏名を書いた。
『井上 琴絵』
※※※※
俺は昨日、ゆっくりしたためか、体調は回復したので、午後からは夏村さんと一緒に大宮に出かけた。
そして大宮駅西口に出てすぐ目の前にあるそごうに向かった。
八階には三省堂書店があり、そこで二人で決めた志望校別過去問である赤本を買い込んだ。
「国立大学とか有名大学のってなんでこんなに厚いんだ?」
と夏村さんが聞いてきたので、俺は、
「受験日程がいろいろあって、それに伴い試験の種類も多いので厚くなっているのと有名大学は問題がむずかしいから説明も分かりやすく作っているみたいよ」
「ほう、そんなに何回も受けられるのか?」
「慶応大学は一発勝負だね。法政は四つぐらいあるみたいだけど」
「まあ、いずれも一発勝負って考えた方がいいな」
二人とも三校分の赤本を購入した後、そごうの中を見て回った。
四階に立ち寄ったときに女性用水着のバーゲンをしていた。
「今年は、プール行けなかったな」
「ごめんなさい。俺が怪我なんかしなかったら……」
「気にするなよ。よし今日俺の家に寄れ。水着着て、かずやにみせてやる」
「結構です!」
「なんで、お前、彼女の水着姿見るの拒否してんだ! 俺はな、お前に見せるために毎日豊胸マッサージとかやってんだぞ!」
「本当? 効果は?」
「実はな、ただ本のまねしてマッサージしていると効果が弱いんだよ。だけどな目をつぶってだな、かずやがエロい顔して俺の胸を揉んでいるイメージをしたら、効果がよくなった感じがする」
「俺、夏村さんの胸揉んだことありませんけど!」
と俺は強く否定したが、やはりイメージトレーニングで女性ホルモンが余計に分泌されると豊胸にも効果があるのかと思った。
「どうだ、かずや。試してみるか?」
「試してみるってどういう意味?」
「俺の胸を揉んでみるかってことだ。さらに効果が出そうな感じがする」
「断じて拒否します」
俺たちは大宮からJR京浜東北線に乗り、隣の駅『さいたま新都心』駅で降りた。
改札を出て、さいたまスーパーアリーナの手前のデニーズに入る。
「いらっしゃいませ! デニーズにようこそ!」
係員に二名で禁煙席を頼むと、眺めのいい席へと誘導してくれた。
そこに別の店員が来て、深々と礼をした。
「かずさん、夏村先輩、デニーズにようこそ!」
笑顔で対応するさよりがそこにはいた。
「おう、さより。思ってた以上にユニフォーム姿似合うな」
「そうですか、うれしいです!」
「まじめにやっているみたいだな」
「はい、実は夏休みいっぱいの予定だったのですが、マネージャーが土日でいいから続けてくれって要請されたので続けようと思っています」
「お前、そんなことしていると勉強できなくなるぞ!」
「だいじょうぶです。終わったらかずさんの家での勉強会に行きますので」
「お前も来るのか?! もういい加減、俺の部屋、自分のために使いたいんだけど」
すると夏村さんは俺を睨みながらこう言った。
「さよりに『お前も』って言ったけど、俺のほかに誰か来るのか?」
「多江ちゃん……」
「結局、夏休みの延長だな」
三人は笑った。
「ところで、さよりは高校出たらどうするつもりだ?」
「自分は早く働いて、親に借りを返したいので……」
「俺、以前お前のクラスの前の廊下で下級生の前で言ったことあるだけど、高校卒と大学卒だと年収がかなり変わるって話をしたんだ。もし早く返すんだったら、バイトで返すより、大学出て会社員になって払う方が、支払期間は短くてすむと思うんだ。大学出てからだと反省の念が薄れてしまうって話なら、もっとバイト減らして継続して、大学受験をして将来のために準備するっていう方がいいんじゃないかなと思うんだけど」
「わかりました。両親とも約束しちゃったんで、話し合ってから決めます」
「もし、説明するのが難しかったら俺も協力してあげるから」
「ありがとうございます。考えさせてください」
「じっくり考えろ、即決はいいことがない」
「はい!」
さよりは注文をとり、厨房にもどると、夏村さんは俺に向かってこう言った。
「相変わらず、かずやは面倒見がいいな」
「やつは特別だよ。やっと更生しようとしている最中だから、見守ってあげる人が必要なんだ」
「まあ、俺にかずやが居たようにだな」
「あれ? そんなに悪いことされていたんですか?」
「てめぇ、殺す!」
俺たちが店を出るとき、さよりは他のお客さんの対応をしていたため、声をかけずに出た。
さて、明日からの二学期、どのような展開が待っているのだろう。
二学期には、修学旅行、体育祭、文化祭、生徒会選挙と多くの行事が待ち構えている。
どんなことがあろうと、俺には最強の相棒、夏村さんがいると思うと、たとえ何が来ようと乗り越えられると思った。
当作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。
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編集記録
2023/01/31 誤記訂正、一部改稿




