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6ー12話 交差していく夏(6)

【読者さまのコメント】

高松はこれからの目標を振り返り、気合を入れる。

すると背後から井上さんが!!!

井上さんの気持ちを知っているから、ドキドキしちゃう(汗)

高松は井上さんに夏村さんのトラウマ「高松一哉」を伝える。

彼の情報は手に入れられるのか?!

 ◇◇ 八月十六日 ◇◇


 自分の中での盆休みは終わり、いつものごとく高校へ朝練に向かった。

 勝村から試合に一度は勝ちたいという話もされ、サッカー部の練習にも付き合うことになっていたため、各部員の基礎体力のデータをノートにまとめたものを眺めていた。

 直近の大会は八月二十九日から始まる、高円宮杯南部大会だ。

 そこでなんとか一回勝たせて俺はお役目御免になろうと考えていた。


 夏村さんからお願いされた志望校変更の件だが、それが自分の中でも夏村さんの学生生活においても優先課題と思ったため、できれば、生徒会活動も含め、夏村さんを勉強に集中させる環境を築きたいと思っていたが、夏村さんは学園生活も重要ということで、今までの活動は変えないで受験に向かいたいと主張した。

 結構、ハードな壁だよなとサッカー部のノートを見ながら、頭は受験のことを考えているといつの間にか高校前のバス停に着いてしまった。

 俺は急いでノートをリュックの中にしまい、バスを降りた。

 バス停からゆっくり通学路を歩いていると、

「か~ずくん!」

 と言って、聞いたことのある声とともに抱きついてくる女性。

 抱きついてきた触感で確実に女性だとわかってしまうのと、いろいろと接触してくる位置でだれかもわかってしまう。

「井上さん、通学路だから誰かに見つかると俺、やばいんで!」

「大丈夫、誰も居ないから。かずくんのバス、探し出すの大変だったよ。毎日バス乗る時間変えて、今日も居なかった…… でまた明日って感じで」

「そんなことしてたの? 完全ストーカーじゃん!」

「そこまで私の愛は深いってことだよ。いいなぁ、三人の美女に好かれてて」

「ちょっと待って! 夏村さんはわかる。井上さんも一応加えておくけど、三人目って誰よ?! 面倒だから余計な人を増やさないでよ」

「あれ? 小倉さん、忘れているの?」

 そういえば、井上さんは小倉さんのことも知っている様子だったと思い出した。

「へい、へい、そうかもしれないですね」

「実は、結構、学校の女子からかずくん人気なんだよ。イケメソじゃないけど面倒見がいいって。でも夏村さんが彼女なんで避けているんだけどね」

「すみません。『イケメソ』って何?」

「イケメンと同義語だけど、柔らかみを込めて言うとき使うのかな」

「じゃあ俺は『ブサメン』で決定ですね。あと、変に意識させるようなこと言わないでください」

「『ブサメン』って自分から言ってて受ける。はい、はい。今日も周回から始めるの?」

「うん、そうだけど。それからサッカー部の朝練かな?」

「了解。ところで手の方は?」

「十三日、新宿の病院に行って、問題はなくて、じっくり様子を見なさいと言われたので、トレーニング室を使ってまではいいかなって思ってる」

「また上から乗っかってあげようと思ったのに」

「本当にやめてよ! いろいろな(ところがあたりまして、興奮してしまうので)…… やめてください!」

「はい、はい、やめてあげます。じゃあ、また後でね!」

「うん、じゃあね」

『また後でね!』の意味がそのときはわからなかった。


 俺と井上さんは部室棟の入り口で別れ、俺はサッカー部の部室に行き、着替えた。

 そして、昨晩考えた練習メニューを書いた紙をバッグの中から出し、机の上に置いた。

 多分、俺が周回を終える前には誰かが部室に来て、この紙をみて、そいつにやる気があるのなら、練習メニューに従い練習を始めるであろう。やる気がなければ、自分のペースで行動するのであろう、さてどちらが多いかなと思った。

 このまま、机の上に置いたとしても見落とす可能性もあるので近くにあった緑色のマジックで『注目!』と紙の上に大きく書いた。


 俺が校門の前に着くとそこには井上さんがいた。

「もう、遅いぞ! すごい待った!」

「ちょっと、待って? なんで井上さん居るの?」

「だって、今日の部活、休みだもん。いっしょにかずくんと走ろうかなって!」

「いやいや、目立つから止めてよ。いろいろ噂立っちゃうから!」

「いやいや、いろいろ噂立てちゃおうかなって思っているだけだから!」

「ったく、もういいよ。じゃあ、走るよ」

「はいは~い! かずくんと走るの、うれしい!」


 相手は女子である。

 こちらも女子のペースに合わせると負荷がかからないので自分のペースで走ってはみたが、井上さんは遅れずについてきた。

「どう、見直した? 伊達に女子バレー部を背負っている正選手ではないのだよ」

「すげぇなあ、俺のペースに合わせるって、さすが学年トップの運動能力だな」

 そう、彼女は昨年の体育祭で徒競走の全種目夏村さんを破って一位になった人だった。

 その上、フルセットのバレーのゲームならトータル五セット戦う訳で持久力もかなりのものなのだろうと思った。

「しかし、筋肉質でもないのに、どこにそんな力隠しているのかね?」

「何? 裸見たい? 見せてあげようか? かずくんだったら見せてもいいよ!」

「いいですから!」

「どうせ、かずくん、女の子の裸なんか見たことないんでしょ? 彼女いるのに」

「別にいいです。水着姿は見ましたから……」

「うわ~! 水着姿見たの? エッチ! 絶対家に帰って思い出して何かやったよね!」

「否定しませんが……」

「かずくん、私に遠慮ないね。そういうこと、女子に言う?」

「井上さんもそういうこと聞く?」

 

「でもね、やっぱり女子なので、走ると胸がきついのですよ」

 と言われれば俺の目は自然と井上さんの胸に行ってしまう。

「あはは、見てるし! 夏村さんより胸あるでしょ? 体育の授業の前にじっくり拝見しているので、彼女は胸だけは勝ったと思っている」

 と胸を張ってみせる。

「細かいことまで知りません」


「ところで、かずくん。夏村さんの面倒、どこまで見るつもり?」

「うん、大学受験合格できればまずは目標達成かな? あとはもうひとつ厄介なことがあるんだ。それは大学合格でなんとかなるんだけど……」

「厄介なことって夏村さんとの結婚?」

「そんなことではなくて! ちょっと夏村さんのトラウマを解消してあげたいんだ」

「ふ~ん、夏村さんでもトラウマあるんだ。トラウマっていうぐらいだから結構深刻な問題なんだろうね」

「うん、夏村さんがずっと勝てなかった相手が今頃突然現れて、けんか売ってきたんだよね」

「ふ~ん、そんなこと私に話しちゃっていいの?」

「うん、井上さん、信じてるから」

「ふ~ん、そうなんだ、ありがと……」

「ん? なんか俺変なこと言った?」

「言ってないよ。私にとっては最高の言葉だった。じゃあ、しゃあない。私も一肌脱ぎましょうか?!」

「裸にはならないでね!」

「ところで相手は?」

「埼玉栄東高校の同学年で高松一哉っていうんだ」

「まさかの同姓同名! 夏村さん、そっちの方が好きだったんじゃないの?」

「ちがう! 確認した」

「確認したってことは、自分も何か疑っていたことあったんじゃない?」

「ちょっと、あった……」

「かずくん、本当におもしろいね! わかった。おねえさんも身辺調査してあげるよ。栄東のバレー部に知り合いいるし」

「本当? ありがとう、助かる!」

「でも、結果報告したら、報酬いただきますので」

「例のやつですか?」

「はい、正解!」


 さすがに夏の外周五周は汗をかく。

 当然、井上さんのシャツも汗で下着のラインがくっきりとで出てしまう。

 目のやり場に困った俺は下を向きながら歩くと、

「どう、わざと汗で下着がわかるシャツ着てきた。わ~! かずくん、こっち向けないの、うぶ~!」

「作戦なのかよ! 勘弁してよ!」

「多分、今日の夜、かずくんは私の今の状態を思い出しながら、せっせとがんばるのでした」

「何を?!」


 フットサルのウエアに着替え、グランドに移動すると、サッカー部員たちは俺のメモを見て練習を始めていた。

「和也、練習メニューありがとう。これに従ってやってみるわ」

「勝村さあ、盆休み前も練習みたけど、もう少しパスの精度を全員上げていかないと、格好がつかないよ」

「どうやってやる?」

「お前、サッカーの試合のビデオは見るけど、練習のビデオとか見ないよね」

「おっしゃるとおりで……」

「メモに書いたんで、それをひとつひとつ潰して行くしかないよ」

「了解」

「まあ、ラッキーなことにみんなやる気だけはあるから、がんばってはくれそうだけど」

 みんなの動きを見ながら、無口になった勝村をみた。

「どうした、勝村?」

「あの…… バレー部の女の子、練習見てますが…… あれ、井上さんだよね」

「えっ!」

 その方向を見直すと、井上さんが体育座りで練習を眺めながら手を振っていた。

「和也って、奥さん、夏村さんじゃなかったっけ?」

「そうだけど、って奥さんじゃないし! 多分夏村さんがこれないから監視役に選んだんじゃないかな?」

 ととぼけて見せたが、実際のところ、結論としてはこの推論は当たっていたのだった。

 夏村さんと井上さんは夜、ラインか電話で連絡を取り合っていたらしい。

「夏村さんもきれいだし、彼女もきれいだし、両手に花だな」

「お前の方が『イケメソ』だから、絶対きれいな彼女いるよな?! 劇団の子か?」

「内緒! てか、『イケメソ』ってなんだ?」

 勝村もこの言葉の意味を知らなかった。


「ところで、高松宮杯ってリーグ戦だったよな」

「ああ、一部リーグでの優勝チームが全国大会に行って、俺たち下位グループはそのグループで一位になると一つ上のグループに上がれるんだ」

「ところで何番目のグループ?」

「もち、五グループあって、五グループ目」

 でしょうね。

「ところで、その第五グループって全部で何校で、どこの学校が入っているの?」

「全部で六校で、うち、浦和商業、戸田、川口工業、市立川口、栄東かな」

「このメンバーで一度も勝ててないの?」

「うん」

 ちょっと、うちのチームがどんな試合ぷりなのかを確かめたくなった。

 俺は、勝村に急遽紅白戦をしてくれないかと頼んだ。


 紅白戦はいちよう、レギュラーを紅白バラバラにいれ、均等にさせてみた。

 そして、試合開始。

 眺めていると、選手と選手の間が間延びしているし、ボールを持っている相手に一対一でしか対応していなかった。

 運動量も少ない。

 さすがにコーチもいない学校では教える人もおらず、このレベルのボール遊びになってしまうのかと思った。

 居ても立っても居られなくなった俺は、

「勝村、俺と交代!」

 勝村は走ってグランド外に出た。

「勝村、これから見本みせるから、メンバーに対してこんな風に指導しろ」

 というと俺は勝村がいたミッドフィルダーの位置に入った。


 俺にボールが渡ると俺は大きな声で、

「はい、近くのやつ、俺のボールを狙いに来る! 遅い! 取り囲め! で足を出してこい!」

 と指示する。

「味方も離れていないで、敵を見ながらパスがもらえる位置を探せ! 自分がボールを貰ってやるぐらいの闘志で走ってこい!」

 俺は敵の間を抜くようにボールを出す。

 しかし、相手は追いつくためにダッシュしない。

「お前にパスしてるんだ。死に物狂いでボールを取りに行け!」

 と言うのと同時に俺は前方にダッシュした。

「ボールをとったら、周りに誰も居なければ自分でドリブルで持って行く! 相手が近づいてきたら、味方を探してボールを出す!」

「そこ! ぼっとしてないで、ボールをパスしてもらうように近づけ! もっとコンパクトに、コンパクト」

 すると、味方も敵もボールを狙い、近寄っていく。

「四人も五人もいらない! 相手がパスできる場所を探して走り出し、ボールを自分によこせと目で合図しろ! 距離は離れず、遠くにならずだ! 敵はその相手を見つけてそいつをカバーする!」

 こうなってくると、プレーヤー間の間延びがしなくなる。

 ただし、運動量は多くなるので疲労はたまる。

 よってメモにも毎日の走り込みを指示はしていた。

「バックライン! そんなところにいても相手はせめて来ないので、ラインを押し上げて可能な人は戦線に加わる。ボールが敵に渡ったら、センターバックが戻って、あとは敵を追いかけろ!」


 四十五分の紅白戦は終わった。

 さすがにこれだけの運動量を使ったことがないらしく、ゴールキーパーを除いて全員ふらふら状態だった。

「勝村、やっぱ走り込みしろよ」

「わかった、残り十分で運動量がガタッと落ちたもんな」

「試合はいつから?」

「二十九日が一試合目で、毎週水、金に試合がある」

「まあ全国模試も終わっているし、何かあったら手助けするよ」

「サンキュ! ところで、左腕は?」

「ボディコンタクトしても痛くはないのでいつでもオッケーだよ」

「そのときはよろしく!」

「オッケー!」


 俺は練習を終え、部室棟へ向かった。

「ちょっと、なんで無視していくのさ?!」

「てか、練習見に来ないでよ。周辺が騒がしいから」

「なんで?」

「夏村さんとのこと知らない一年生が、誤解する。その上、同級生からも『またかわいい子に手を出しやがって』と睨まれる」

「私、かわいいって! そうか、私ってそう思われていたのか。ただのデカ女って思ってた」

「体育座りしてたからじゃないの!」

「ひどいな!」


 シャワーを浴び、着替え、部室棟を出ると、またも井上さんがいる。

「まだ、お帰りではないのですか?」

「うん、今日は一緒に帰ろうかなって! デートみたいだし」

「その例えは勘弁してください。ちょっとほかの部活寄るけど? どうする?」

「さっさと帰れとは言わず、ついてくるって誘うところ、かずくん、やさしい。行く行く!」

「へいへい」


 俺たちは一度、下駄箱で靴を履き替え、総合棟を上っていった。

 階が上がるにつれ、音楽に合わせた歌声は次第に大きくなっていく。

 相変わらずの声量と声の質だなと俺は思った。


 声の主の部屋はドアや窓は開けっぴろげで、中では音源に合わせて一人の女性がマイクに向かって歌っていた。

「お~す、山田さん、調子どう?」

「おう、かずくんか! 今日は奥さんチェンジ? って、井上さんか?!」

「井上さん、知ってるの?」

「一年の時、うちのクラスってバレー部多くて、井上さん、しょっちゅう来てたもんね!」

「そう、だんなに相手にされず、一年六組に里帰りしていたのだよ」

「そのまま帰ってこなくてよかったのに」

「内縁の妻だから、帰ってこなくても良かった…… こら、待てぇい!」

「六組に来てたときも井上さんってこんなかんじなの?」

「ううん、おしとやかな感じだったよ」

「ばらすな!」


 俺は軽音楽部の部室で本当は俺が歌う予定だった曲を山田さんが歌っているのを黙って聞いていた。

 バンドのメンバーからはヴォーカルだけでも出たらと言われたが、歌よりもギターを弾くことが好きだったため、バンドを抜けた。

 そして二十五日に行われる田島ヶ原ロックコンサートには山田さんことNOKKOをヴォーカルとして参加することを勧めた。

 まあ結果的だが、翌日二十六日が全国模試だし、いずれにしても参加は無理だったなと自分に言い聞かせながら、納得したこともあるが、やはりギターを弾かないでの参加は俺には無理だった。

「うん、いい感じだね。この調子で当日は爆発してよ!」

「オッケーとは言いながら、かずくんには悪いなって思いが残っているんだよね。兄貴の件はかずくんのところの畑中さんにお世話になっているし、今回の件はかずのバンドにお世話になっているし……」

「これも縁ってやつだと思うよ。山田さんは音楽で頑張れ、俺には勉強で頑張れって縁が向いたって思えばいいんじゃないの」

「本当、ありがとう! かずくんの分まで歌ってくるよ!」

「ごめん、俺、翌日全国模試で応援いけないけど」

「バンドのメンバーの顔を見れば、すぐにかずくんの顔が浮かんでくるから一緒に歌わせて貰う」


「ふ~ん、バンドもやめちゃったんだ。今年の学園祭、寂しくなるなぁ」

「その分、山田さんたちががんばってくれるよ。軽音楽部のメンバーも大分聞けるようになってきたし」

「そういえば、軽音楽部って馬鹿ロック魂、主張してたけど、今はおとなしくなったみたいよ」

「確かに! 部室、ポスターとかなくなってたね(笑)」

「やっぱ、かずくん、いろいろ功績残してきたね」

「半分近くは井上さんの協力があったからだよ」

「じゃあ、フェロモンとおもったけど、シャワー後で匂いが薄いので今日は勘弁してあげます」

「ありがとうございます」


 バスの中で井上さんと話しをしながらも、軟式テニスのボールを左手で握っては離すというトレーニングをしていた。

 事故から一ヶ月経つが中指、薬指の力はほとんど戻って居なかった。

 ただ、以前のように自棄(やけ)になることはない。

 JR東京病院の横井先生のゆっくりだが治るという意見……

 α会の芹沢先生のがんばれば成績は伸びるという意見……

 夏村さん、多江ちゃん、さよりとの勉強会でもらった笑顔……

 そして横で微笑んでいる井上さんの笑顔……

 そのすべてが俺を励ましてくれていると思ったら、自暴自棄なんかになっていられない。


 井上さんは浦和駅からまたバスで『田島団地』行きのバスに乗って帰って行った。

 俺が停留所まで見送ると、

「今日はおなかいっぱい! 明日からも学校では見守ってあげるよ」

 と言ってバスに乗っていった。


 停車場から出ていくバスに向かって手を振ると、スマホのラインに書き込みが来た。

 スマホを覗くと妹の晏菜からだった。

『おにぃ、高松一哉、栄東にサッカー部に所属

 潰したくなってきたでしょ』

 俺はニヤリと笑った。

 もちろん、夏村さんに代わって俺が奴を叩き潰してやる。

当作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。

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編集記録

2022/11/05 校正、一部改稿

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