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6-10話 交差していく夏(4)

【読者さまのコメント】

勉強会に晏菜も参戦することに!

やっぱりいろいろと気になっていたんだろうなぁ(汗)

とりあえず、高松は将来をどうするのか徐々に具体化していく。

目指したい大学に合格できるラインを見極め、夏村さんに報告だ!

な、夏村さん、何言ってるの???

「おにぃ、お帰り。病院どうだった?」

 俺が家に帰りつくと、母はキッチンで洗い物、父は三階の自分の部屋にテレビを見に行ったのかリビングダイニングにはおらず、一人テレビを独占していた晏菜が声をかけてきた。

「うん、長期的には指の不便さは残るけど、治ることは治るらしいよ。神経はくっついているんだって。でも、かなり時間がかかるみたい。それまではリハビリは続けないといけないみたいよ。それと食べるくらいの量の薬もらってきた」

「そうなんだ…… 不便な時は言いなよ。手伝ってあげるから。そこで交換条件なんだけど…… 社会の公民教えて?」

「お世話してもらってないのに、もう交換条件提示かよ。お前、学校の成績いいのに、公民はだめなの?」

「記憶力だけでどうにかなってるけど、なんかむずかしい言葉が出てきてとっつきにくいんだよ」

「まずは、新聞読めよ。歌番組ばっかり見てないでさ」

「わかったけど、本当に教えてくれる?」

「いいよ。教えてやるよ」

「でも、おにぃ、理科系志望じゃなかったっけ? わかるの? 中学時代は私より成績悪かったのに」

「うん、夏村さんと中学の復習をするために全部勉強しなおしたしね。再来年、共通テスト受けるかもしれないし」

「えっ! おにぃ国立狙ってるの?」

「いや、どっちに転んでもいいように今は勉強してる。通信添削も五教科取ってるしね」

「でも、本当に教えてくれるの?」

「いいよ、どうせ勉強会でみんなと一緒に勉強すればいいんじゃないか? 人数増えてきたし、高一のやつもいるし、中学がいてもなんとかなるよ」

「ふ~ん、やっぱ、おにぃ変わったよね」

「何が?」

「以前だったら、私が質問しても、忙しいとか暇ないとか言って取り合ってくれなかったものね」

「そうだったかな? 気にはしてなかったんだけど」

「まあ、それだけ色々な人たちに頼りにされているって訳ね。妹としても鼻が高いよ」

「偉そうに、うるせぇな!」

 ということで、翌十四日から俺たちの勉強会に晏菜も割り込んできた。


 ◇◇ 八月十四日 ◇◇

 

 毎年八月の旧盆である十三日から十五日は俺の自宅が高松家の本家であるため、親戚の訪問が多い。

 そこで、自宅での勉強会はキャンセルとも考えたのだが、二十六日にある全国模試のためにも勉強したいと夏村さんが言うので開催することになった。

 するとお盆休み期間なんで塾がないから私も参加すると多江ちゃんは来るわ、十一日から加わった吉川さよりは来るわ、本日から晏菜と大所帯になっていった。

 俺の両親は俺が女性にもてるタイプではないことを理解していたため、いかがわしいことはいないだろうと勝手に納得し、くる子を何も心配せず、受け入れていた。

 毎回来るたびに多江ちゃんはおやつにとみんなの分のケーキも持ってきてくれていた。

 両親も家族ぐるみでお世話になっているお医者さんの娘さんからの手土産ということで恐縮していた。

 

 テーブルの四辺に夏村さん、多江ちゃん、晏菜、さよりと座っている。

 夏村さんと多江ちゃんは仲良く勉強しているので心配はしなかったが、晏菜は多江ちゃん、さよりとの関係が悪い。

 特に、晏菜がさよりを嫌っているのがよく分かった。

 多分、十日前後からさよりが勉強会に加わったことから、晏菜も対抗心を燃やして参加を決めたのだろう。

 例の事件から、晏菜はさよりを許してはいなかった。

 大宮赤十字病院訪問の時も晏菜はさよりに対し敵意むき出しであったが、勉強会での態度はあからさまだった。

 そんなんだったら自分の部屋で勉強しろとも言ったのだが、私はここで勉強するの一点張りだった。

 まあ、何か起きたらその時に対応しようと思った。


 俺はというと自分の勉強机で勉強というか、昨日気になった医用工学を勉強できる学校の情報をインターネットを見ながら集めていた。

 どうも、国立大学の医学部が中心となって、私立の理工科系の学部と共同開発し、医療器具の会社とタイアップして国の承認を得るというグループ化がされているパターンが多かった。

 中でも、筑波大学医学部で研究を行い、早稲田大学先進理工学部と東京電機大学理工学部が設計をし、サイバーマネジメントという会社が承認申請を国に行い承認を得て、商品化された、先日病院で見たロボットのような医療機器の記事を見つけた。

 病院の外来でのどを切開し管を入れ、車いすに乗り人工呼吸をしていた患者さんだが、後日その患者さんは筋萎縮性側索硬化症(ALS)という病気で次第に全身の筋力が低下していき、最終的には呼吸も出来なくなって亡くなってしまう病気だそうだ。

 背中に装着したロボット型の装置を付いてロボコップのような音を立てていた患者さんは、まだそこまで症状が悪化しておらず、

 筋力の補助をしてくれて起立や歩行が可能になるというものだった。

 いわゆるQOL(生活の質)を向上させてくれる機器であった。

 また同様な記事で東大医学部で研究を行い、東京工業大学で設計、外資のメーカーが商品化したという記事もみつけた。

 

 いずれにしてもこういう研究をするということは、以上に挙げた大学を目指さなくてはいけないということかと考えると頭が痛くなる。

 なにせ難関大学ばかりだ。筑波、早稲田、東工大でざっと合格者偏差値の平均値が六十八くらいになる。

 そのうえ、夏村さんの第一志望である慶応の商学部も偏差値六十八であった。

 要はお互いがそのレベルに行かないと目標は達成できないことになる。

 いちよう、ほかの大学も志望校には入れてあるが、夏村さんの親戚に慶応関連が多いことから、俺はなんとしても夏村さんにも慶応に行ってほしいと思っていた。

 

 困ったもんだとため息をつくと誰かが俺の肩をたたいた。振り返ると夏村さんがいた。

「どうした? かずや、お前が元気でいてもらわないと、俺たちのモチベーションも下がっちまう」

「そうだね。ごめん。まずは二十六日の全国模試を目指さないとね」

「もし、元気出ないんだったら、今日俺んち来るか? 泊まるか? いろいろ元気の出るお世話してやるぞ」

「いろいろな意味で別の元気が出てしまうのは怖いのでご勘弁してください」

「いつでも待ってるぞ!」

「何が」

「お前の進路だよ。まだ考えてねぇなんて言ったら、また殴るぞ」

「考えてるよ。ただ、これからちょっと大変になりそうだなと思って、俺も夏村さんも」

「いいんじゃねぇか、二人で苦しむなら。一人で苦しむよりはずっと楽だと思うし…… 俺がずっと一人で悩んでいたのを手助け

 してくれたのは、かずやだもんな」


 そうだったね。

 これからは二人で考えて、道を決めていくんだよね。


「ある程度決まったら、教えるよ。多分決心に時間はかからないと思うけど」

「でも、模試まで時間ねえぞ!」

「まずは、模試だね。集中しないと」


 ※※※※

 

『ぶっちゃけ、私、偏差値64なんですけど、受験までに70に上げるのって無理でしょうか?』

『いきなり、難問ぶつけてくるね。難関校でも受けたいの?』

『実は、芹沢先生にこの前言われて、自分の進みたい未来像を考えて、具体化できたんです。しかし、そこに合格するには偏差値の高い大学に行かないとできないんです』

『まあ、目標が明確になったことについてはおめでとうさん。難関校に受かりたいけど、成績が伸びないんだよね』

『そうなんです』

『じゃあ、まず受験までは何か月ある?』

『ちょっと待ってください。え~と、あと18ケ月です』

『ということは偏差値が6足らないんだったら、毎月偏差値を0.5ずつ上げていけばいいんじゃないの』

『まあ理屈的にはそうですが、どう上げたらいいんですか?』

『偏差値を1上げるのに必要な点数って知ってるか』

『さぁ?』

『標準偏差って言葉知ってるか?』

『要は集合のばらつきを示す値ですよね』

『よろしい。試験の標準偏差÷10の点数を取れば、理論上偏差値は1上がるんだ。手元に最近の模試の成績表、あるか?』

『あります。ちょっと待ってくださいね。ありました』

『必ず成績表にはその試験の標準偏差が書かれてる』

『はい、ありました』

『それを使ってみると、例えば数学で標準偏差の数字を10で割ってみろ』

『約2ですね』

『そう、君がこの試験で2点多く取れていたら偏差値が1上がっていたんだよ』

『そんなもんでよかったのですか?』

『だから、君の成績は決して悲観するものではないって俺、言ったよね』

 芹沢先生とのラインで自分がどれだけ目標に近いところにいたのか気づかされたと思った。

『だから、単純に言えばあと18か月で、同じ問題で12点多く取れるようになれば、目標達成ということだよ。もちろん周りの奴らも勉強しているんだから彼らより12点多く取れる学力を付けなくてはいけないけどね』

『なるほど、わかりました。そのためには何をするかですよね』

『そう、そこで差をなくすためにやらなくてはいけないこと。まずは欠点をなくすことと、イージーミスをなくすことだね。そのためには君が受けている通信添削の添削されて帰ってきた回答を徹底的に復習して、なぜ間違えたのかをしっかり考えること、そして何度も同じような問題を解いて間違えないようにすることだね。どうせ不安で問題集とかいっぱい買っているんだろ。それをミスの無いように解けるようにすることだ。同じような問題が異なる問題集に載っているということはそれだけその問題を出題者が出しやすいということなんだよ。あとは大学別に出ている赤本。これは何回も復習して解き方を覚えるくらい復習する。どうせ毎年試験問題を考えている先生が作っているんだ。同じような問題を出しやすいんだよ』

『ありがとうございます。何か見えてきた感じがします』

『じゃあ、がんばってな。当分ラインはそのままにしておくから何かあったら、また呼び出して』

『ありがとうございます。また、よろしくお願いします!』


 芹沢先生とのラインが俺の決心を後押ししてくれた。

 次は家族の了承と夏村さんへの報告だ。


 俺が階段を降りてリビングダイニングにつくと、俺以外の家族は仲良くテレビを見ていた。

 本当にテレビ好きの家族である。

「おにぃ、どういしたの。さっきまでと顔色違ってるけど。沙羅ちゃんに電話でエロいことでも言われた?」

 俺は晏菜の話を受け流し、自分の席に向かった。

「ちょっと、話があります。時間、いいでしょうか?」

 というと、晏菜は不貞腐れながらテレビを消した。

「えっと、自分的にはかなり重要な話なので、もしよろしければご理解の上、ご同意いただければ嬉しいです」

「お前が深刻そうな話をしだすと怖いよ」と父は言った。

「いちよう、自分の最終的な志望校を決めましたのでご了解いただければうれしいです」

「わかった。聞こう」

「志望理由。今回、俺が左手が不自由になって気づいたんだけど、世の中には自分の手足を使って行動できない人たちがたくさんいます。この前行った病院の患者さんたちを見て深くそう思ったんだ。そして手足の制限を受けるということはその人の生活や未来をどれだけ変えてしまうものかと思ったんだ。それでそのような人たちの手助けができればいいなあと思って、その人たちのための医療器具を開発できるような仕事につきたいと思ったんだ。そこでそのような研究をしている学校を調べたところ、筑波大学医学部、早稲田大学先端工学部、東京電機大学理工学部を受験したいと思ったので報告します。筑波、早稲田はかなりがんばらないとまずいけど、東京電大は現状大丈夫な偏差値なので心配なく」

「ということは、センター試験を受けるということと、もし仮に筑波に受かったら筑波に下宿して生活するということまで考えておけってことだな」

「まあ、受からないと始まらないけどね」

「高校受験みたいなことはないな?」

「受験前までに模試の合格率八十パーセント以上まで、なんとかもっていきます」

「こりゃ、真剣に晏菜に店をお願いしないといけないな」

 と父が冗談でいうと、晏菜は顔色を変え、大きく息を吸い、こう言った。

「じゃあ、私も決めた! 母さんには悪いけど、私、一女には行かなし、やっぱり大鳳いくわ!」

「何を言い出すのよ! あんたは!」

「だって、近くにいて、おにぃを応援したいんだもん。あと、私は適当な大学行ければいいし。おにぃが有名大学出身なら鼻高いしね。私も以前から花屋さんやりたかったし、人生を急がずに気長に花屋さん継ぎたいから。だから、いいでしょ! 自分の意思で決めさせて! お願い! だけど、私も宣言しちゃったんだから、おにぃ絶対に合格してよ! 私にしわ寄せきちゃうから」

「まあ、いざとなったら花屋つぶしてクリニックにしてもいいかな」

 と父が冗談交じりに言うと、晏菜は怒って、

「ちょっと、私が花屋継ぐって宣言はどこに行っちゃうのよ?!」

と言った。父は晏菜の言葉はスルーしてこう尋ねた。

「ところでその志望校に入学して左手のことでハンデにはならないか?」

「別に左手が全然使えないってことじゃないし、医学部に行っても全員がオペを経験するとも限らないしね、理工学部行っても右手でコンピュータ入力とか組み立てはできるから。卒業までに左手治っているかもしれないし」

「わかった。まずは言ったことは貫徹しろ。今度は全部受かるつもりで頑張れ」

「わかった。ご理解ありがとう」

「もう、寝込ませないでね。去年は大変だったんだから……」

「了解!」


 ※※※※


 俺は話が終わると二階の自分の部屋に戻ってから夏村さんに連絡するため階段を登っていた。

 すると後ろから晏菜が近づいて来てこう言った。

「ところで、おにぃ。もし筑波行ったら、沙羅ちゃんどうするの?」

「大学受かった時点で考えるよ。受かった後でも解決しなくてはいけないことが待っているんで……」

「解決しなくてはいけないこと……?」

 それは俺自身の問題だ。

 晏菜に話す必要はないと思った。

 

 俺は自分の部屋に戻ってから何度も夏村さんにどのように志望校のことを伝えようかと考えた。

 だが、迷っていても結論は一つだし、ぐずぐず迷っていてもしょうがないと思った。

 俺はベッドの上に正座し、夏村さんに電話した。


『かずやか、どうした?』

「夏村さん、俺の最終的な志望校が決まったんで電話しました」

『そうか、じゃあ言ってみな』

 そして俺は志望理由と志望大学を伝えた。

『これがかずやの決意だな』

「うん、一緒の大学狙わなくなっちゃってごめん」

『いい、でもかずやらしいな。自分のハンデを他人に置き換えて、自分だったらどう役に立てるかなんて俺には思いつかないよ。がんばれよ』

「もし、筑波受かったら筑波に6年以上は住むことになるけど……」

『いいよ。会えなくなるわけじゃないから。毎週でも俺が筑波に会いに行ってやる』

「ありがとう」

『でも、合格できるとは限らねぇしなあ。とはいえ、ぜってい、合格しろよ。俺も彼氏が医学部とか鼻が高い。そういえば医者になるんだったら、かずやは夏村姓になるんだよな?!』

「国立なので夏村さんのお祖父さんに学費出していただかなくて結構ですので、ご心配なく!」

…………

「もしもし、夏村さん。どうしたの、黙っちゃって?」 

『実は俺も一つ報告というかお願いがあるんだ』

「なんでしょう?」

『俺、第一志望を慶応の経済学部、第二志望を慶応の商学部、第三志望を法政大の経済学部にしたいんだ!』

「えっ! どうして! 慶応の経済って商学部より上だよ』

『かずやががんばるんだ。俺もさらに上を狙って頑張る。だから俺を合格させてくれ!』

「言うは易く行うは難しだよ。現状を考えないと」

『だけど…… だけど…… 俺はもう負けたくないんだよ! もう負けたくないんだ! たかまつかずやに!』

「えっ?! 俺に負けたくないの?」

『違う、高松和也じゃない高松一哉だ!』

 その名前を聞いた時、俺は絶句した。

編集記録

2022/11/02 校正、一部改稿

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