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6-6話 それぞれの夏(晏菜)

【読者さまのコメント】

今回は晏菜視点の回!

晏菜は実の兄である高松のことが好きだ。ブラコンだ!

彼はいつも容量良くこなしているのに、ここぞという時はしっかり意見を言う。

怯えて逃げるなんてことはしない。

だから、好きになっちゃった。

そんな彼を奪う女子は許せない!

 小学校、中学校と学区の端に住んでいたので近所に友達はいなかった。

 幸いなことに、小学校と中学校が隣接していたので、小学校入学から中学一年までは、おにぃと一緒に学校へ通っていた。

 考えてみれば、性格が正反対な兄妹。

 私はコツコツ勉強するタイプだったが、おにぃは要領のいい勉強の仕方しかしなかった。

 私は小学校に入る前から少林寺をやっていたが、おにぃは格闘ものは嫌だからと言って音楽とサッカーをしていた。

 一緒の習字教室に通わされたが、私は字がうまくないのに、ちゃらんぽらんなおにぃの方が字がうまくなっていた。

 正反対だからこそ、一緒にいても楽しく過ごせたんじゃないかと思う。


 そんなおにぃだったけど、私が小学校四年の時の少林寺の大会で三位を取った時、準優勝した女の子、優勝した男の子と一緒に記念写真を撮ってもらった時、優勝した男の子が私たちに、

「女が少林寺なんかやってて恥ずかしくないのかね?」

 と言った。

 その言葉に、怒った準優勝の女の子と言った男の子が喧嘩を始めたのだが、仲裁したのがおにぃだった。

 喧嘩が大嫌いなのにも関わらず、女の子の前に立ってかばいながら、

「男女混合の大会なんだから、そんなこと言うのおかしくない? ということは女子に勝って優勝した君はそんなに誇れる立場じゃないんだね」

 と言ったのが頭にずっと残っていた。

 その後、喧嘩をふっかけた一位の男子の攻撃をサッカーのフットワークでかわし、その後、一位の男子を一発で倒した。

 その時はすっとしたし、仲良しだった二位の女の子の仇討ちしてくれたと鼻高々だった。


 あんなにチャランポランなおにぃだけど、人を差別することはなかった。

 一方では、人として許せないことをする人には自分の身を顧みず対抗しようとする。

 その性格から起こした事件が、おにぃには中学三年の時に二回もあり、それが原因で、おにぃの中学生活は終わった。

 一つは自宅のそばでの出来事、もう一つは中学の部活での問題だった。

 でも、何か自分に迷いがあると、私に意見を求めてくるおにぃだったから、いずれの事情も私はあらかじめ聴いていた。

 おにぃの行動は理解していたし、私も反対ではなかったので、おにぃが何をしようと、私だけはおにぃの味方になろうと思っていた。


 自分でもブラコンと言う認識は持っていた。

 決定打はいつの時だったか、おにぃがお風呂に入っているときに、参考書を借りたかったので、着替え場でおにぃに借りていいか聞いたところ、部屋にあるのを勝手に持って行っていいと言われたのでおにぃの部屋に入った時だった。

 クラブ帰りのユニフォームを洗濯かごに入れずに、かばんの中に入れっぱなしであったのであろう。

 かばんの中から何か私の好みの匂いがした。

 やばいやばい、私、変態かも? と思いながらも好奇心が沸き、おにぃのかばんの上から匂いを嗅いでみると、身も心も溶けるような感じがした。

 後日、本屋で『匂いの化学』とかいう本を読んでみたところ、家族同士では好きにならないような逆フェロモン的な成分が出ているため、実の親子、兄弟では恋愛感情を抱かないように体が制御していることが書かれていた。

 ということはやはり、私って変態? とは思ったが、大好きなおにぃのことだからそれでもいいやと思った。


 おにぃが大鳳高校なんて馬鹿学校に入るとは思わなかったが、そこでヤンキーの女番長が彼女になるとは予想もしていなかった。

 どうせ、性格の良いおにぃのことだ、断り切れなくて、付き合い始めたのだろうと思った。

 しかし、梅雨時にやってきた彼女…… 沙羅ちゃんはとてもキレイで賢そうな人だった。

 さすがに初見では、大好きなおにぃを取られるのは不愉快に思ったが、なぜか両親に経緯を話している沙羅ちゃんを見たとき、何か懐かしい友人に会ったような感じがした。

 そして図らずも沙羅ちゃんがおにぃと付き合うことをオッケーしてしまったが、買い物など一緒に出掛けるようになると、以前からの友達のようなリズムを感じた。

 そして、この人だったらおにぃの彼女、最終的には私のお姉さんになってくれてもいいかなと思った。


 その後、近所の小倉先生の娘さんが家に来たけど、見た目ぱっとしないし、ビビッとくるものもなかったのでお払い箱。

 年末に来てくれたバレー部のおっきな人は人懐こくて、うちみたいな商売向きかなと思った。

 沙羅ちゃんみたいな高貴なオーラは纏っていなくて、私たちと同じ庶民の出という感じで、嫌いではなかった。

 でも、おにぃにとって一番は沙羅ちゃん、二番は私でいてほしかったんだ。


 中三になった今、進路を決めなくてはいけないが、母は絶対一女(浦和第一女子高校)って言うけど、大学行っても、私自身は家の花屋を継げればいいと思っているので、そんなりっぱな高校に行かなくてもいいと思っている。

 普段、家に来ては楽しそうな高校生活の話をする二人を見ていると、私は大鳳に行きたいと思うようになっていた。

 そのためにも、おにぃたちやおにぃの先輩に進学実績をある程度出してほしいと思った。母を言いくるめるためだ。


 そんな時だ。またおにぃが余計な事をし始めた。

 中学時代にいじめをしていた子を高校で更生させようなんて、出来そうもないことに足を突っ込み始めたのだ。

 その子の勧誘現場を押さえて、反省させたところまではいいよ。

 なぜ、ほぼ毎日大宮に通っては、いじめられた子の家に行って、謝罪したいと面談を求めに行ってるのよ!

 好きな楽器の補充品や交通費のために貯めていたお小遣いを交通費に使って、何してるんだよと思った。

 でも、それがおにぃのやり方なんだよね。

 ほとんどの人が理解できなくても私はおにぃを信じようと思った。

 そして、最終的におにぃはいじめっ子をいじめられっ子に謝らせるってところまでもっていちゃうんだもの、すごいよね。


 でも、その負債は自分の勉強に覆いかぶさってきた。

 進学塾も遅れて登校していたようだし、夏休みは成績の伸びに悩んで進学塾には行かずに、別の方法を考えると言っていた。

 もともと、よくもコツコツとした勉強が一年ちょいも続いたもんだなとは思ってはいたが、勉強方法を今の時期に考え直すのもいいことだと思った。

 だけど、沙羅ちゃんが勝手に名付けた私の中学の友達である『なかまたち』はおにぃと夏期講習で会えるの楽しみにしていたのになあ。

 ななみちゃんなんてもう一度、おにぃとデートしたいって言ってたよ。

 (沙羅ちゃんを説得するの大変だったけど)

 実のところ、夏期講習から私も進学塾に通う予定だったので、てっきり沙羅ちゃんも含めて三人で仲良くって考えてたのに。

 沙羅ちゃんは都内の進学塾に行くし……

 おにぃは最終的には通信添削にするって言ってたし……


 そして事件は起こった。

 おにぃがせっかく更生させた女の子、吉川さよりだったっけ? が沙羅ちゃんが取ったいじめ防止策が気に入らず、ナイフで復讐しようとしたときに、おにぃが沙羅ちゃんと女の子の間に入り転倒、左腕に大けがを負ったのだ。

 大宮の日赤病院で手術を受けたが後遺症が残る可能性があるとのことで、とても不安だった。

 おにぃの大好きなギターが弾けなくなるって考えると胸がとても苦しかった。

 確か、夏の終わりに荒川河川敷の田島公園で開かれるイベントにバンドメンバー全員での参加予定で、おにぃは初めての大きな舞台を楽しみにしていたからだ。


 おにぃの傷の抜糸の日、吉川さよりとご両親が来て、治療費云々の話をうちの両親としていたけど、私は決して彼女を許さないと思った。

 大好きなおにぃを傷つけた奴なんか絶対に許さないし、私が逆に復讐したいくらいだった。

 もし、後遺症が原因でおにぃが希望の学校に行けなくなって、沙羅ちゃんが何かの原因でおにぃの前からいなくなっても、私が最後までおにぃの面倒は看てあげるんだ。


 傷跡は痛々しくて、私は見ることが今でもできない。

 おにぃも気にしてくれて、傷跡が見えないようにと肘まで覆える長めのサポーターをして、『俺、スタン・ハンセンみたいだな』と言っていたが、どういう意味かは分からなかった。

 後で聞いたら、ウエスタンラリアートと言う技が得意の外人プロレスラーの名前だったらしい。

 だから、おにいがお風呂に入るときは、サポーターを外すので、なるべく傷口を見なくて済む自分の部屋にいるようにした。


 実はおにぃの匂いが好きになってから、おにぃの部屋には隠しマイクをあるところに仕込んでいた。

 だから、今おにぃが何をしているのか気になった時はイヤホンを聞けばすぐに状況が分かるようになっている。

 おにぃのえらいところは、卒業までは沙羅ちゃんとエッチしないと言っていたが、そんな声が沙羅ちゃんと一緒にいるときに全くしないのは感心した。

 チューもしていない様子だった。

 その代わり、沙羅ちゃんが帰った後、おにぃの怪しい声が聞こえるのを私は知っている。


 七月も末のことだ。

 みんなで夕食を摂っていると、おにぃはこんなことを言い出した。

「リハビリで左腕の筋トレをしたいのと、体がなまってきているから、八月から午前中、高校のトレーニング室で筋トレをしたいんだけど、いいかな? 学校なら無料だし」

「期末試験の前に三か月定期を買ってあるから、交通費はいいとして、勉強は?」

「夏休みの宿題はもうすぐ終わる。去年とおなじくらいのペースかな? 午後は都内の進学塾が終わってからの夏村さんが家に来ての勉強会は変わらずやって、それと並行して通信添削も終わらせていきます。あとは勝負の全国模試が八月二十六日にあるので成果をお示しいたします」

「わかった。ところで進路はどうするんだ?」

「全部ふりだしに戻るかな? 後遺症の状況で大学卒業後の就職も限られるし」

「まだ、一年半ある。しっかり考えろ」

「ありがとう」

 そこであることが心配になった私はおにぃに尋ねた。

「ところで、おにぃ、八月末の田島公園でのイベントは?」

「えっと、言ってなかったけど、バンドは七月に辞めた。代わりにうちの高校にいる歌のうまい女の子に参加してもらうことにしたんだ」

 確かに先月から土曜日のバンド練習があったはずなのに、出かけていないことに気づいていた。

「おにぃ、それでいいの?!」

「まぁいいや。いろいろなことに手を出しすぎてるから整理するためにもちょうどいいかと思っている。俺の目標は夏村さんを大学に入れること、そして自分の新たな未来探しかな」

 と語るおにぃの横顔は暗かった。


 夏休みに入ると私もおにぃの通っていた進学塾の夏期講習に通い始めていた。

 やはり、周りができる子ばかりだと、緊張して勉強ができますね。


 家に帰るとおにぃの部屋がうるさい。

 確かおにぃと沙羅ちゃんだけのはずだが……

 おにぃの部屋に行き、ノックして開けると、そこには小倉先生の娘さんが来ていた。

「夏村さんの許可済みだ。晏菜、多江ちゃんを追い返すなよ」

とおにぃの声。

 なんで、小倉先生の娘さんとも仲良く座っているんだよ!

 以前、あの子には注意しないとなとか言っていたじゃない!


 その数日後、

 さらにおにぃの部屋が騒がしい。

 ノックをして開けると、中には小倉さんのほかに、おにぃに怪我を負わした吉川さよりもいた。

「なんでこんなに女子ばっかり、おにぃは部屋に引きずり込んでるの?!」

「よくわからんのだが、来る人拒まずなので、夏村さんの了解のもと勉強会している。お前もさよりのこと、ゆるしてやれよ」

「えっ! まぁいいか。はい、はい!」

 あれ?!

 いつの間にか、あのおにぃがモテキャラに変わってる?

 信じられない!

 こんなんじゃ、私が独占しようと思ったのに計画狂っちゃうじゃない!

 よし、やっぱ、大鳳行って、おにぃを観察しないと心配でならない。

 将来、私はおにぃと沙羅ちゃんと三人でこの家で暮らすんだ。

当作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。

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編集記録

2022/10/29 校正、一部改稿

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