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6-5話 それぞれの夏(さより)

【読者さまのコメント】

今回は吉川さん視点の回!

高松の咄嗟の判断で、夏村さんではなく高松の腕を刺してしまった吉川さん。

誰よりも自分のことを大事にしてくれたのに──後悔するけれど、事実をなかったことにはできない。

吉川さんは変わろうと決意し、行動する。

 ◇◇ 七月九日 ◇◇


 自分を取り戻した私はとんでもないことをしてしまったと思い、泣きながらかずさんに抱き付いた。

「かずさん! かずさん! ごめんなさい! かずさん!」

 しかし、腕に私が刺したナイフが刺さったままではあるが、かずさんは優しい表情でこう言った。

「まぁ、さより、落ち着け! 何があったんだ?」

 かずさんの優しい声と表情が私を落ち着かせてくれて、この事件に至るまでの経緯を話した。


 同窓会の時、中学時代に仲間だった大鳳の同級生に夏村先輩の指示で私と付き合うなといわれたことを聞いて逆上してしまい、その帰りにナイフを購入して夏村先輩に復讐しようと思った。

 正面からだと勝ち目はないので、生徒会室に向かう時に通る階段で後ろから夏村先輩を刺そうとしとたことをかずさんに言った。

「バレちゃったな。夏村さん」

 とかずさんは夏村先輩に突っ込んだが、夏村先輩はかずさんのけがの事の方が心配だったようで何も言わなかった。

 そして、絶対に痛いのにも関わらず、かずさんは笑顔を見せながら私にこう言った。


「あと、もう一つ、俺もさよりに黙っていたことがある。俺が命を懸けて守るって約束した好きな人がいるって屋上で話したと思うけど、その人が夏村さんなんだ。だから今回、君への友情より夏村さんへの愛情を取っちゃったんで、君と階段を転げ落ちる形になっちゃってゴメン!」

 今更、何を言っているんだ。

 そんなことより怪我の方が…… と心配していたところでかずさんは、

「それより、お前、短絡的になるなって言っただろう! 忘れやがったな! バカ!」

 と言い、私の頭をげんこつで一発、ゴンと叩いた。

 そしてこう続けた。

「だけど、今日のこの一件は事故だ。夏村さんに怪我がなかったことで俺にとっては大成功。さよりが犯人にならないで済んだことも大成功。だったらこれでいいんじゃないの。人間、なかなか完璧にはなれないよ。今でこそ普通に過ごしているけど、元ヤンキーの先輩たちも色々失敗しながら今に至っているんだ。だから今日の失敗もそんなに大したことじゃないんだよ、さより。今は俺に謝る時間があるなら、俺の言うことを守らなかったことを反省して、もっと友達ふやしてみろ、わかったか?!」


 そうなんだ。

 そんな人なんだ、かずさんって。

 いつも自分のことより、他人のことを優先する。

 今回のように自分が貧乏くじをひいても自分のせいだで納得してしまう。

 その上、こんなフォローもかずさんは忘れない。

 かずさんは、近くにいる生徒たちにこう言った。

「みんな、ごめんなさい。俺が足踏み違えちゃって、吉川さんに抱き着いちゃったけど、俺の好きなのは夏村さんなので、間違えないでね! あと、俺の不注意で起こしちゃったトラブルなんで、さよりには罪はないから!」

 すると周りで凍り付いたように動かなかった生徒たちは皆頷いてくれた。


 そして後の対応を池田君たちに任せて、かずさんと夏村先輩は保健室に行こうとしていた。

 そんな時でも、かずさんは私を気遣ってくれて、

「さより、元気を出せ! 俺はお前を責めないよ、友達だから…… 何度もいうけど次、会う時はもっと友達作っておけよ。あと何かあったら渋谷先生を頼れ。俺から言っておくから……」

 と言ってくれた。


 泣いてばかりはいられない。

 まずは、かずさんが言っていた渋谷先生に報告に行こう。

 池田君たちが先に行っていると思うが、自分の誠意と決意をみせるためにも真っ先にいくべきところだと思った。

 私は涙を拭うと、生徒指導室に向かった。


 生徒指導室に着くと、ドアをノックし、渋谷先生の指示に従い部屋の中に入った。

 すでに情報は池田君たちから軽く報告を受けたらしく、詳しく状況を説明しなさいと言われたので、中学時代のいじめから今日までの流れを時系列で説明した。

 自分が中学時代にふとしたきっかけ、それも些細なことからだが、いじめをしていたこと。

 いじめをしているとき、自分がいじめているグループの中心になった気分になっていたため、自分がもっと仲間の中心になりたいと思ってさらにいじめを続けてしまったこと。

 高校に入り中学時代の仲間が声をかけてくれなくなり、孤立を感じ、声をかけた生徒たちをビデオで脅迫し、新たな仲間を作ろうとしたが、かずさんたちにその策を妨害され、心を入れ替えたこと。

 その時、かずさんが、私を諭してくれたこと。

 かずさんが、いじめた子の家に毎日訪問し、私に直接謝らせてほしいとお願いし、苦労の結果、無事謝罪できたこと

 そして、同窓会から今日までの流れを正直に話した。


 すると、渋谷先生はニヤリと笑い、

「あいつは本当に面倒見の良い奴だなあ! あんな奴に友達になってもらったんだ。高松の言うことを聞いて高校生活がんばれよ」

 と言った。

 どうも、渋谷先生はかずさんがどんな人かを十分わかっている様子だった。


「失礼します! 夏村です。入ります」

 と言い、夏村先輩が生徒指導室に入ってきた。

「高松君は先ほど高城先生と救急車で病院に向かいました。入院場所が分かったらご連絡いただけるようです」

「わかった。ところで夏村くんは怪我はなかったのか?」

「高松君に突き飛ばされて、ちょっと膝を擦りましたが大丈夫です」

「無事でよかった」

 この後、私は夏村先輩から叱られるのを覚悟した。

 しかし、夏村先輩は、私の方を見ると深々と頭を下げて謝った。

「吉川さん、今回の一件、本当に私が悪かった。学校で問題が起こらないよう、うまくやったつもりだったが、最終的に君を傷付けてしまった上に、なんの防止策にもならなかったよ。後から、これを知ったかずやに怒られた」

「いいんです。もし、以前の仲間と付き合いがあったら、別の方法で同様な仲間の増やし方をしたかもしれませんので。かずさんから言われたようによく考えて行動するべきでした」


 渋谷先生は夏村先輩の行動に驚かされた様子だった。

 もともと高校のヤンキーの総長であり、口喧嘩などいろいろと見てきたが、夏村先輩が私に謝ってくるとは思っていなかったようだ。

 かずさんが夏村先輩を変え、夏村先輩がかずさんを変えている。

 それを理解しているから渋谷先生は二人に信頼を置いているのであろうと思った。

 私もそんな人になりたい……


「ところで、お前、かずやと仲間になったということは、俺とも仲間ってことだな」

「夏村先輩! 私、あんなことしたのにいいんですか?」

「当たり前だ、かずやの仲間は俺の仲間だ」

「ありがとうございます……」


 と話をしているときに電話が鳴り、渋谷先生が出た。

 高城先生からの電話でかずさんの入院先がさいたま赤十字病院とのことだ。

 うちからも近い。

「よっしゃ、さより、病院一緒にいくか?!」

「行っていいんですか? はい!」

 すると、渋谷先生は私たちに忠告するように言った。

「これから髙松は腕の手術となるそうだ。時間は二時間ほどかかるようなので、時間を考えながら行きなさい。それと、吉川。君は、高松の家の人にとっては息子を刺した犯人のようなものだ。必ず辛く当たってくると思うが、心の準備はできているのか?」

「はい、今までかずさんに教えてもらったことを守って、許してもらえるように謝ってきます」

「わかった。じゃあ、授業が全部終わってからで十分間に合うので、それから行ってきなさい」

「ありがとうございます」


 私と夏村先輩は一緒に生徒指導室を出た。

「さよりは自転車か? バスか?」

「通学はバスです」

「じゃあ一緒に行こう。一人でも多いと心強いからな」

「夏村先輩、ありがとうございます!」

「これもかずやからの受け売りだ、『もっと他人を頼れ』ってな」

「はい!」


 そしてお見舞い、抜糸の日は両親も同席させていただき、治療費は私の家で支払う約束をした。

 ご両親はかずさんがこう決めたんだからと言って納得している様子だったが、妹さんは完全に敵意丸出しだった。

 多分、ご両親も心の底では妹さんと同じ気分なのであろうと推測できた。

 しかし、夏村先輩がだいぶ私をかばってくださった結果、ご家族と向き合ってお詫びすること、お話しすることができた。

 そして決心はできた。

 治療費は両親に立て替えてもらい、少しづつでも両親に返金することを私は約束した。

 両親には数回の説得で納得してもらった。

「それであなたが少しでも高松さんの役に立つなら、がんばりなさい!」


 善は急げだ。

 早く返すためにと、収入の良いいかがわしいバイトをしたら本末転倒、またかずさんに迷惑を掛けそうなので、自分の性根を叩きなおすためにも、相手に誠意を持って対応する接客業を選んでみようと思った。

 スマホでバイト先の検索をしてみると、さいたま新都心駅のさいたまスーパーアリーナそばのデニーズが夏休み期間のアリーナでのイベントが目白押しのため、バイトを急募していた。

 両親に了解をとり、履歴書を自分なりに書き、父に添削してもらった。

 そして自分で電話をし、面接のアポイントを取り、面接。

 そして応募二日後、採用となった。


 マネージャーが言うには、いつでもいいので早めに研修に入ってほしいというので、期末試験の終わった日からシフトに入ることとなった。

 覚えることは多いが、研修はテキストにまとめられており、接客作法は今まで適当な生活を送っていた私には、逆に新鮮だった。


 そういえば、期末試験の初日の朝、校門の前で待っていたらかずさんと会うことができた。

「かずさん……」

 と、声をかけたが、やはり退院翌日のかずさんの姿はかわいそうで、元気に声をかける気にもならなかった。

「吉川、おはよう! お出迎えか? サンキューな! ……ってそんな雰囲気じゃないな」

 また、こんな時に冗談言うんだから、絶対、痛いに決まっているんだ、やせがまん、絶対してるし……

「かずさん、本当にすみません。病院では夏村さんが一緒だったので、本心をいうことができなかった。だから、一対一で謝りたいと思ったので……」

 と自分でも話しながら顔が真っ赤になっているのに気付いた。

「もう、いいよ。こんなに元気で登校したんだぞ! 心配すんなって」

「かずさん、夏村さん、今、かずさんの教室で待っています。でも、私…… 私…… 一生かけてもかずさんを助けます」

「いいよ、お前はやっと、自分の進む方向を自分で決められるようになったんだ。だから、お前はお前の道を行けよ。せっかく自由を得たんだ。それを満喫しろ」

「でも、もし、かずさんの進みたかった方向を私が変えてしまった時は私が責任を取ります」

「お前はまだ高校一年なんだ。もう少し気楽にいけよ。俺は俺の道を行くから…… ってかっこいい?」

「いいです! かずさん、こういう時、茶化すけど、私、絶対かずさんをずっと見ています。そして、夏村さんがいないとき、かずさんに何かあったら私ががんばります!」

「わかったよ。その時は宜しく頼む……」

「そう、初めからそう言ってくださいよ! 私の話は以上です。ほら、教室で夏村さん、待ってますよ!」

 といい、私はかずさんを送り出した。

 もうすでに決心はできていた。

 かずさんは、夏村先輩を支えていることはわかっている、だったら、私はかずさんを陰から支えていくんだ。

 それが私の心をここまで解放させてくれた、かずさんに報いるための唯一の方法だとおもったからだ。


 朝起きて、今日一日の予定を考える。

 ざっくりした日程をかずさんだったら、もっと有意義なものにできるスパイスを加えていくはずだ。

 そのスパイスを考えてみよう。


 バイトでトラブルを犯してしまった。

 かずさんなら真っ先に上司に報告し、対応策の指示をもらうだろう。

 そしてそれにひとつまみのスパイスを加えるはずだ。

 そのスパイスを考えてみよう。


 高校の数少ない友達が遊びに誘ってくれた。

 かずさんなら、もっと友達に楽しんでもらうためのスパイスを加えるはずだ。

 そのスパイスを考えてみよう。


 そんなことをしているうちに自分が生きることに積極的になっていることに気づく。

 初めはスパイスを考えることがむづかしかったが、今では自然と沸いてくるようになった。


 八月になって、かずさんの家に遊びに行ってみた。

 かずさんと夏村先輩のほかに、同じクラスの小倉先輩も勉強を一緒にやっていた。

 相変わらず、妹さんには嫌われているみたいだけど、気にしない。

 私も勉強教えてもらえますかと言ったら、皆さん了解してくれた。

 それから、バイトが早く終わった日や、休みの日はかずさんの家に勉強を教えてもらいに行った。

 そんなに雰囲気が心地よくて、今まで感じたことのないような楽しさがあって、その上、かずさんがいる。

 前向きに考えれば考えるほど自分の人生が楽しく感じ、生きる気力が湧いてくるんだってわかった。


「お前、変わったな。表情、明るくなったしかわいくなったよ」

 とかずさんに言われうれしくなった。

 それを言われるためにがんばってきたのだから。

「でも、夏村さんにはかなわないぞ」

 って余計なお世話!

当作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。

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編集記録

2022/10/27 校正、一部改稿

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