6-4話 それぞれの夏(琴絵)
【読者さまのコメント】
今回は井上さん視点の回!
井上さんの高校生活のあちこちに高松の存在がある。
ちょっとした時に来る気遣いのメッセージ。
他の子と区別しない度量。
大変な時でも気にかけてくれる言葉。
だからこそ、好きになった。なってしまった。
この恋、どうする?
◇◇ 六月中旬 ◇◇
インターハイ埼玉県予選が開催された。
私の高校は、五月末に行われた南部支部予選会は、地区推薦校ということで参加は免除され、いきなりの埼玉県予選からの出場となった。
昨年のように一年二年で参加した時よりも一学年増え、部員も増えた。
昨年から地区推薦校になったおかげで本戦からの出場になり、知名度も増したのか、バレーのうまい子も増えた。
そして、毎日遅くまでの練習を重ね、臨んだ初戦、予選会から勝ち上がってきた浦和一女との対戦。
進学校には負けたくなかったので、集中して臨み完勝した。
二回戦は北部の地区推薦校、鴻巣高校だったが、こちらも完勝し、この日は終了。
この時点で、明日の三回戦は県内の強豪校の一つ、星野学園に決まった。
埼玉県でも日本バレーボール連盟の指定校はいくつかあるが、そのうちの一つの高校だった。
疲れもあったが、強豪校との対決が決まると全身の力が抜け、ホテルに戻った時はヘロヘロだった。
会場は埼玉県北部の深谷総合体育館で行われている。
深谷市は小さな市であるためホテルはあるが少なく、常連校が先に予約しているため、私たちは隣の熊谷までJRで二駅乗ってホテルに着いた。
疲れもひどかったが、ビジネスホテルのベッドは小さく、私のような百八十センチメートルも身長がバカでかい人間には窮屈だ。
部屋はツインの部屋で同じ二年の細谷と一緒の部屋になった。
昨晩は寝る前にいろいろ話をして盛り上がってしまったが、今日はさすがに眠い。
細谷に先にシャワーに行かせ、その間に自宅に電話し、結果報告をした。
家族も、次が星野学園と聞いて、『まあ、がんばってこいよ』ぐらいしか私に声を掛けられなかったみたいだった。
スマホを持ちながら、ベッドに倒れこむ。
明日で多分、今年のインターハイは終わり…… そして三年の先輩は引退か。
寂しさがどっと私に襲い掛かってきたが、その時、スマホにメールが届く。
『明日は事実上の決勝戦、頑張れ! かずや』
しかし、いいタイミングでメール送ってくるんだよね、かずくんって。
高校に入って教室で隣になったけど、結構男子って自分よりデカい女性ってひいちゃうみたいで、それが中学時代も寂しかったんだけど、かずくんは何も臆せず声をかけてくれた。
やっぱ、初めて優しく声かけてくれた人っていろんな感情が沸いてきちゃうけど、かずくんだとなんか心がモゾモゾしてきちゃうんだよね。
かずくんからのメールを隠しフォルダにしまい、もうそろそろ細谷も出てくるだろうと思ったとき、またメールが来る。
『大変だろうけど、がんばれよ! 夏村』
あんた、女性歌劇団のトップスターかよ、と思ったら笑えて来た。
二人の応援は十分、受け取ったよ。
明日はがんばる!
◇◇ 翌日 ◇◇
試合終了
2-0の完敗だった。
全員うなだれながら、学校にもどった。
休みたい気分だったが、私たちは高校生。
帰ったら授業が待っているし、期末テストの準備もしなくてはいけない。
学校に戻ると全員部室棟の会議室に集まり、今後の新たなバレー部の体制について話が出た。
昨日も言ったが今日で三年生は引退なんだ。
新キャプテンには中川さん、副キャプテンには木下さんが選ばれた。
私も実は数日前、長堀先輩からキャプテンへの要請があったが、自分はガヤに徹した方がいいし、自分のプレーに集中したいのでと断った。
すると長堀先輩は、
「井上はチームを言葉で盛り上げるより、冗談で盛り上げる方が得意だしな。それと、キャプテンになると忙しくて、部活抜け出して、高松君にちょっかいできなくなるしな」
と言った。なんでもお見通しですね、永堀先輩。
ひととおりの打ち合わせが終わると各自、自分の教室に戻っていた。
一言、長堀先輩に言いたかったが、新キャプテンと話があるらしく、その場は撤退した。
「失礼しま~す」
と声をかけて、教室の後ろのドアから教室に入る。
ちょうど、化学の授業中で、先生は『お疲れ様だったな』と声をかけてくれた。
私は頭を下げると、かばんをロッカーに入れ、席に着いた。
すると、後ろから『おつかれさん』の声がした。
たぶん、かずくんであろう。
振り返るのも気が引けたので、正面を向いたまま、私はうんと頷いた。
今日の授業終了。
今日は試合が終わった日だったので出場した選手は部活は休みだった。
さて、今日はこれから何しようかと考えていると、うしろから肩を叩かれた。
振り返ると、肩を叩いたのはかずくんだった。
「このノート、試合で休んだ日の分。もう復習終わったからもっていっていいよ」
こいつ、こういうところ、細かいんだよなと思いながらも、
「ありがとう、今日はこれで帰るから一日借りるね。さて、無料で借りるのは悪いから、一回抱き着いて内縁の妻のおっぱいの感触味わっておく? ん? あっ! ごめん! 今ノーブラだからほぼ生の感触なっちゃうから、ダメ!」
その言葉に思わず、かずくんの視線が私の胸に来ているのに気付いた。
「かずくん、やらしいなあ~。スポーツニプレスつけてるから、乳首とかわかんないよ」
「そ・そんなこと気にしてないし、横の人がにらんでいるので止めておきませんか?」
横の人とは夏村さんだ。
乳首はちょっと言い過ぎだったかな。
でも、こんなこと男性で言えるのはかずくんだけだよ。
そういえば、『復習終わった』って言ってたけど、たぶん夏村さんと一緒に復習したのかと思うと、うらやましく思えてしまう。
畜生!
「しゃあない。横の人がいないときに返して、もっと生地の薄いユニフォーム姿で抱きしめてあげます!」
と言いながらも、すぐにでも抱きしめたい気分だった、ありがとう、かずくん。
◇◇ 七月九日 ◇◇
実は二年になって休み時間になると、自分の教室を不在にしたのは永堀先輩の教室で前の授業のわからないところを教わっていたからだ。一年の時は六組に入り浸っていたけど。
長堀先輩は部活しながらも成績は良かったのだが、部活を卒業してから本格的に大学受験に向けて勉強を始めていた。
この日も、私は長堀先輩の教室で勉強を教えてもらっていたところ、血相を変えた先輩男子が教室に飛び込んできた。
「いま、一年生に夏村がナイフで刺されそうになったのをかばった男が大けがしたらしいぞ!」
私と長堀先輩は顔を見合わせるとすぐに立ち上がり、現場に向かった。
とても胸騒ぎがする……
四階から現場に降りていくと、一階と二階の間の踊り場には左手にナイフの刺さった状態のかずくんが夏村さんと一緒に、多分保健室に向かう姿が見えた。
その現場には生生しい血痕が……
それを見たとき、私は気を失いそうになった。
それを支えてくれたのは長堀先輩だった。
そして居ても立っても居られなくなり、私は部室に向かって走った。
目の前の人たちを押しのけて部室に向かった。
部室棟のカギを開け、二階の女子バレー部の部室に入ったとともに、両目から涙があふれてきた。
こんな時ってテレビみたいに好きな相手の名前を言いながら泣くってことは、たとえ一人でもできないんだなと思った。
ただ、両目から涙があふれてくるだけだった。
ナイフが刺さったかずくんの姿もショックだったが、そのケガをしたかずくんを支えていたのは夏村さんだった。
自分には何もできないんだと思えば思うほど涙はあふれてきた。
テーブルの上を勢いよく叩いてはみたものの、何の気休めにもならなかった。
涙って出すぎると目が痛くなるんだなと思ったとき、部室のドアが開いた。
そこには長堀先輩がいた。
「だいじょうぶか、井上。ショックだったんじゃないか?」
「ちがう! 違うんですよ! かずくんが傷ついた時、横にいられるのは夏村さんだけなんですよ! わたしじゃない! わたしじゃないんですよ!」
「そうかもしれないな、井上。でもな、そばにいることはできないかもしれない。直接的に助けてあげることはできないかもしれない。それでお前はあきらめてしまうのか?!」
「あきらめられないですよ! だって、だってだって、こんなにかずくんのこと好きなんですもの!」
「じゃあ、お前に今できることはなんだ?」
「……」
「何かできることはないのか?」
「助かってほしいって願うこと」
「そうだ、彼の無事を願ってあげることだ。そして、もし彼が無事帰ってきたら自分の思いが通じたと思えばいいんじゃないか。思いは通じるよ。そんだけ井上が彼を思っているなら」
「はい……」
それから私が泣き止んで、落ち着くまで長堀さんは私のそばにいてくれた。
自分が涙が枯れるまで泣きつかれたとき、私の肩をやさしく叩き、
「もう、帰ろうか?」
と、永堀さんは浦和駅まで一緒に帰ってくれた。
さすがにここまで泣いちゃうと目が腫れてしまう。
自転車で永堀先輩を県庁通りまで見送ってから、元来た道を国道十七号までもどり、東京方面に向かい、田島通りの交差点にでたら右折し、そこから十分程度で自宅に着く。
それまでには目の腫れもひいてくれよと思ったが、恵姉さんにはバレてしまったようだ。
「どうした? 学校で何かあった?」
「いや、実はかずくん、じゃなくて高松君が事故にあって入院したんだ」
「ふ~ん、で?」
「心配で……」
「お見舞いいけばいいじゃない」
「だって、高松君、彼女いるんだもん」
「泣くぐらい好きなんでしょ。だったら見舞い行ってくれば? そこまで和也君の彼女さんも心狭くないと思うよ」
「そうかな? わたしだったら嫌だなぁ」
「それはあなたが和也君の実際の彼女じゃないからだよ。本当の彼女だったら、余裕で会わせてくれると思うよ」
「それってどういうこと?」
「好きで付き合うってことはお互いを信じることだからだよ」
「そうかな? ていうかお姉ちゃんも彼氏いないじゃん!」
「だからわかるんだよ。琴ちゃんのつらい気持ち」
「うん、そうか。じゃあ明日見舞い行ってこようかな?」
「それでいいんじゃないの? がんばれ、琴ちゃん!」
「ありがとう、お姉ちゃん」
と話がちょうど終わった時、スマホにメールが来た。
私はそれを読んだら、思わず吹き出してしまい、こんなに心配した自分を笑ってしまった。
「おねえさん、これ!」
と言ってスマホのメールを見せた。
『心配かけてごめんなさい。明日、夜退院します、明後日の期末、負けないよ 高松和也』
「和也くん、さすがだわ。スーパーマン過ぎて笑える!」
とメールを見ながら笑う姉さん。
「取り越し苦労だったね。その上、和也君は琴ちゃんが思っている以上に、琴ちゃんのことを気にしてくれているよ」
「そうだね。あ~あ、疲れちゃった。お風呂入ってくる」
安心とともに、自分のことをこんな時も忘れていなかったかずくんって、やっぱすごいやと思ったら、急に肩の荷が落ちたように楽になった。
◇◇ 七月三十一日 ◇◇
もう終業式が終わってから二週間近く、かずくんの姿をみていないことに気づく。
いつもなら朝早く来て外周をランニングし、暇なときはサッカー部員とサッカーをしていたが、怪我以来その姿を見ていない。
決して顔もかっこいいわけじゃないし、足も長いか短いかと言えば、短い。
でも、とにかく、彼の行動一つ一つが私の心に何かを焚きつけてくれた。
だから、部活も頑張ってこれた、なんて考えたりもしたが、その相手の姿を長い間見ていないのだ。
メールはくれるが超短文。
今年の夏休みは夏村さんが都内の進学塾に行っているということから、二人が会っても長い間イチャイチャできていないと思うとうれしいが、やはり実物のかずくんの姿を見たかった。
今日も部活を終え、家で夏休みの宿題をしながら、いちよう私も進学したいので参考書を読んでいた。
すると、スマホにメールが届く。
かずくん? それにしては早いかなと思い、メールを見た。
…………
やっぱ、この人にはかなわないなと思った。
はいはい、精一杯ご奉仕いたしますって!
でもうれしい!
うん?!
これは手を出さないわけにはいかないな、テヘ!
『井上さん、明日朝からかずやが高校でリハビリを始めることになった。
俺は、進学塾があるので手助けできない。
だから、悔しいが井上さんに和也をヘルプしてほしい。
だけどかずやには、手を出すなよ。 夏村 』
当作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。
面白い・続きが気になる等思われた方は、評価ポイント(↓の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎)を入れて頂けると作者の励みになります。
また、ブックマーク登録・お気に入りユーザー登録の方もよろしくお願いします。
編集記録
2022/10/26 校正、一部改稿




