5ー11話 進化する者と進化しない者
【読者さまのコメント】
中間試験がやってきました!!!
いろいろあったけれど、高松は一位を死守できるのか?
夏村さんの成績はどうなったのか?
ドキドキの順位発表……そこには予想外の名前が!
う、うかうかしてると、と、取られちゃう?!
高松は将来どうするのかな?
◇◇ 五月十一日 ◇◇
「さて、来週の月曜日から君たちが入学してから初めての中間試験が始まります。とは、言っても、うちの高校はそんなにむずかしい問題は出ないので、まずは授業の内容をしっかり確認しないおして試験に臨んでください」
俺の試験についての辻説法が始まると、一年六組前に集まった生徒たちは一斉に『え~!』という声を上げた。
彼らにとって初めての中間試験である。
中学と違って、合格点をとらなければ再試験となる。
そんな面倒くさいことにならないようにと俺は注意喚起をした。
「かずさん、中学だったら再試とかとる成績だったんですか?」
と池田は質問してきたので、俺は真面目な表情をし、答えた。
「多分、成績は上の下だったから、問題なかったよ。多分うちの高校に来る子は真面目に授業受けていれば全員合格できると思うよ」
と全員が安堵の表情をしたとともに俺は次の言葉を追加した。
「しかしだな、成績優秀者ベストテンは職員室前の掲示板に点数表示で発表されるんだ!」
再度、観客たちは『え~!』と声を上げた。
「ちなみに、どんな人が成績優秀者なんですか?」
「三年生では、生徒会委員長の上郷地先輩は一年一学期の中間試験からずっと一位を独占している」
お~とうなずく観客たち。
「二年生では、成績優秀者は全員うちのクラスなんだよね。先生たちがうちのクラスに全員集めたのかなって感じだね」
「聞いていいですか?」
右手を挙げて女子生徒が俺に尋ねた。
「夏村先輩って成績優秀者とかなんですか?」
「確か、一年の三学期の期末は三位だったと思うよ」
『え~!』『すごい!』となぜか女子生徒から歓声があがった。
どうやら、夏村さん、一年生の女子生徒に人気があるようだ。意外、意外。
「まぁ、かずさんは上の下くらいですよね。中学の状況からすると」
と池田はいいので、俺も合わせて、
「そうでね。こんなお調子者が成績が良いわけがない!」
と言うと、周辺は大笑いとなった。
「まあ、初めての試験だ。うちの高校の試験のレベルを感じることができると思うんで、しっかり勉強して頑張れよ!試験の終わった翌日十七、十八は球技大会だし、そのときにゆっくり頭を休ませればいい」
「はい!」
と元気な返事が多く聞こえた。
俺はそこで観客と別れると、一年六組の教室入り口に向かう。
ドアの横から部屋の中を眺め、吉川がいることを確認した。
事件発覚後四月後半には吉川と周辺の同級生の間に見えない壁を感じていたが、今は、積極的に声をかけてくる子はまだいないようだが、壁はもうないと思った。
「さより!」
と呼ぶと、吉川は立ち上げり、俺に軽く頭を下げ、立ち上がった。
「かずさん、こんにちは」
「どうだ、その後」
「積極的にみんなには声はかけています。でもなかなか許してもらえるはずないっすよ」
「まあそうだな。その辺は急がず、ゆっくり進めばいい。そしてやり方を間違えるな。こっちが下手にでればかならず相手はよってくる。あとはいつも言うけど、短絡的になるな、だな」
「わかっています。心の中にいつもかずさんだったらどうするか考えながら動いています」
「本当か? 俺のことみてないくせに」
「見てますよ。いつも心の中から」
「まあいいや。不安なことあったら教室か、生徒会室にいるから来ていいぞ!」
「あの……」
「なに?」
「ライン交換とかしていいですか?」
「いいけど、ラインしてくれるのか?」
「まあ、気が向いた時にでも……」
「友達だからいいよ!」
「ありがとうございます!」
「じゃあ何かあったら連絡しろよ!」
「はい!」
とは言ったが吉川と実際ラインをし始めたのは階段での事件後からだった。
教室に戻ると、隣には夏村さんがいた。この休み時間は剛のところか生徒会室には行かなかったのかと思った。
「かずや、どうだった」
「吉川はオッケー、一年生には中間試験がんばれよって言ってきました」
「お疲れ様。中間試験か……いくら、がんばってもかずやと小倉さんは俺にとって高い壁だもんな」
「でも、例の学校行くんだったら、文系の科目は多江ちゃんとか俺を抜かないといけないと思うよ」
「そうだよな。でもこの二人、回答間違えないもんな」
「それだったら、夏村さんもまちがえなければいいじゃん。まちがえなければ正解数が同じであれば同点にはなるよね」
「おう、そうだな。よし、正確性にも注意しよう。さすが、かずや、万年一位は言うことが違うな」
「ありがとうございます……(一度、一位から落ちたけどね)」
◇◇ 五月二十二日 ◇◇
今日は中間試験の成績発表の日であった。
俺は昨日、吉川のご両親と中学時代のいじめの被害者宅を訪問したが面会できなかったため、落胆していたが、それよりも夏村さんの成績がどうなったのかだけが心配だった。
初めての発表の日、列の前方を一年生が固めていた。
出遅れ感は否めなかったが、俺と夏村さん、勉強仲間は立っての発表待ちとなった。
まずは三年生から……
今回も一位は上郷地先輩だった。
何がすごいって、上郷地先輩は俺が入学してから今日まで成績発表を見に来ていないのだ。
多分、自分が一番であることをわかっているのだろう。
さて、二年生の発表。
一位 高松和也の発表と同時にいつも俺を取り囲んでいた観客たちは『お~』という言葉と『合計七百点って何よ。全部満点?』と言っているのが聞こえた。
ごめんね。黙っていて。
二位 小倉多江。やはり夏村さんは多江ちゃんを抜けなかったのかと思った。
三位 夏村沙羅。よくこの順位を守ったなと思った。しかし、明確な変化がわかった。
「ごめん、かずや、小倉さん、また抜けなかった……」
と言った夏村さんの表情は暗かった。
「でも、夏村さん。多江ちゃんとの差、二十点もないよ。前回に比べたら、すごくよくなっているじゃない。もう少しだよ」
「そうか! 俺もがんばったしな! もうひと頑張りだな!」
と顔色を瞬時に変えていた。
多江ちゃんは夏村さんの肩をたたくとこう言った。
「六月の全国模試は大差つけて勝つよ、なっちゃん」
「うん! でもね、私、私立文系だから、多江ちゃんとは比較できないよ」
と意外な言葉を夏村さんは言った。
ちょっと前までは私立には絞らず全科目がんばりたいと言っていたが、完全に自分の中で私立に絞るべきだと考えたのだろう。
そこまで、本気で合格を考えているのかと思うとこっちもうれしくなってしまった。
さて、その後は? と順位を見ていくと、俺の背中にどんと何かデカいものがぶつかってきた。
隣にいる夏村さんが明らかにいやな顔をしながら、
「おまえ、馴れ馴れしいぞ! ドケ!」
と言っていた。
明らかに、二つの柔らかいものが後頭部にぶつかっており、その人の身長を想像できた。
「かずくん、私もかずくんに褒めてもらおうかな?!」
井上さんだった。
「ほれほれ、順位表、順位表」
俺は背中にくっ付いたデカいものを剥がし、順位表を見直した。
四位 坂本 功、五位 雨宮 さくら、六位 佐々木 大輔、七位 井上 琴絵、八位 牧野 宏、九位 鵜坂 博之、十位 相崎 葵……
七位 井上 琴絵?!
「な、な、なんで? 井上さん 七位にいるの?」
「いやいや、私、かずくんの中学のとなりの田島中学出身なんだけど、中学時代、成績ずっと一位だったんだよね。でも運動部したいから大鳳きちゃった、みたいな。で、大鳳入ったら、お婿さん候補にちょうどいい、かずくんが居たんで勉強もがんばろうかと思った訳よ。かずくん、夏村さん抜いたら、私の彼女になる? なっちゃう?」
『ならないよ!』と俺と夏村さんはハモって言ってしまった。
「かわいそうな私、でもがんばって、かずくん振り返えらそうかな~」
「かずやはお前なんかに振り向かないぞ! 俺にぞっこんなんだ! 悪かったな」
「かずくん、おっぱいだったら私の方が大きいよ、どう?」
「なに、痴話げんかしてんのよ! むこう行ってよ!」と怒りだす多江ちゃん。
俺と夏村さん、井上さんはその場から退場させられた。
「かずくん、吉川さんはどう? うまく行ってる?」
「まあ、なんとかね。正常な状況に戻したらリリースしてやるよ」
「相変わらず面倒見がいいね、かずくんは。夏村さん、気が気じゃないんじゃないの?」
「まあ、かずやだったらうまくやってくれると信じてる」
「相変わらず面白い夫婦だこと! じゃあねぇ、ほかのクラス行ってくる」
バイバイと手を振り、井上さんは走っていた。
「何なんだ? ありゃ? 本当に井上さん、よくわかんねぇ」
「やっぱ、あれか。かずやは、おっぱい大きい方が好きか?」
「急に何を言い出すんですか? 去年の夏の水着姿で俺の心は夏村さん一色なんで大丈夫ですよ」
「そうか、かずやは貧乳でも大丈夫か! よし今年も水着姿堪能させてやる」
「ありがとうございます……」
その後、五月二十一日から俺の放課後のいじめられた子の自宅への訪問は毎日続いた。
その間は進学塾も、訪問終了後に遅刻しながらも登校し、朝と日曜日の夏村さんとの勉強会は引き続き実施していた。
個人的にはハンデを背負った感じではあったが、その分、自宅で深夜まで勉強をした。
次の目標は六月三日の全国模試であった。
六月三日はいつもと同様、俺と夏村さんとで会場に行き、会場で勉強仲間と会い、受験。受験終了後にいつものバーガークィーンに行って反省会をする流れだった。
最初の一年の夏休みの夏村さんとの受験では夏村さんの第一声は『零点はなかったかな』だった。
今では明らかに正解した問題と自信のない問題を明確に分別することができるようになっており、それが結果にほぼ反映されるようになってきた。
そして翌日には解けなかった問題を復習し、解けるまでなんども反復練習し、確実に自分のものにしていった。
その彼女の進化を見ていると次第に俺の方が何か目標というか勉強の仕方を見失っている感じがした。
漠然と正解となり、漠然と間違えている。
その不安が自分の勉強方法が誤っているのではないかという不安に変わっていく。
吉川のいじめの被害者宅への訪問が叶った翌週六月十一日に解答用紙と成績表の返却が郵送であった。
例のごとく、俺は一度家に帰り、成績表の入った封筒をもって、夏村さんの家を訪問し、結果を見せ合った。
夏村さんの成績を見て俺はびっくりした。
文系受験3科目での偏差値58。
慶応大学商学部の偏差値が65なので、あと1年半あれば不可能ではないところまで来ていた。
「夏村さん、がんばったね。偏差値あと7くらいだよ。がんばれば合格できるラインまで行っていると思うよ」
「本当か、ありがとうな、かずや。以前言われたように確実にとれる問題は確実に解いてみた」
「そうだね。いいと思うよ。本当によくがんばったね」
「ところでかずやは?」
俺の成績は理科系3科目、5科目ともに63であった。
一年の時と比べると上がっているが、満足いくものではなかった。
俺の意向としては早めに自分の成績を合格確実圏内に持って行き、あとは夏村さんの勉強のサポートに注力したいと思っていたのだ。
「すげえなあ、かずや、もうすぐ合格圏内じゃないか! もうひと頑張りだな」
夏村さんのその褒め言葉は自分には何も響かず、焦りだけが募っていた。
「おい、かずや。聞いているのか? どうした?」
「あっ! ごめんね。ちょっと具体的な数字が出てきたので今後どうしたらいいのか考えてました」
「お前、いつも俺のこと考えてくれているな。ベタ惚れだな」
「……」
「おい、どうした?」
「いや、夏村さんはいいんだ。以前に比べてすごく進化しているから。それに比べて俺は全く目標に向かって進めていない」
「おい、かずや」
「なに?」
「そんなときこそ、お前がよく言っている『気楽に行こうぜ』だろう。気分だけ焦っても何も生まれないよ」
「まあ、そうだね。ゆっくりとかんがえるとしましょうか?」
「俺もかずやの機嫌の取り方わかってきたな。じゃあ、お礼にいつものやってくれ」
「いつもの?」
「ひ・ざ・ま・く・ら」
「ああ、いいよ。どうぞ」
と言うと夏村さんは『いただきます』といい、俺の膝の上に頭をのせてくる。
そして俺は夏村さんの頭を優しく撫でてあげる。
自分の髪と全く異なる手触りの髪を触れることがいつしか自分でも気持ちよく感じる行為になっていた。
「かずやの頭の撫で方、好きだ。ずっと撫でていてほしいな」
「だったらこれからもがんばってね」
ある程度のめどは見えてきた、次はどうするか……
次の全国模試は八月の二十六日。
それまでには今後の方針を固めておこうと俺は思った。
著者後記
今回、一学期の勉強の進捗について何も語っていなかったと思ったで急遽話を追加しました。
当作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。
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夏村の進化を知っていただくためにも必要かと思いました。




