5-6話 和也のやり方と夏村のやり方(2)
【読者さまのコメント】
これから話し合いが始まる……最悪、退学になるかもしれない。
高松は自分の願いのために、急いで渋谷先生に会う。
思いっきり感情を爆発させる高松に彼女は涙を流した。
そして高松が取った行動とは?
…………こ、これは、惚れられてしまうのでは?!
俺は渋谷先生とともに、生徒指導室に向かうのであろう吉川の姿を見ながら、彼女への対応を渋谷先生を含め、先生方にお願いしてしまったことが心に何か引っかかっていた。
校長、教頭は退学という言葉も口にしていたが、それは俺の本意とは異なる。
それは避けたいと思い、まずこの場を収めて、生徒指導室に向おうと思った。
俺はバレー部のメンバーからビデオカメラを受け取り、夏村さんに手渡し、生徒会室でビデオの内容を確認してほしいと依頼した。
内蔵されたメモリ中に、もしかすると今日以前の画像も残っている可能性があるので、もしあった場合は、いつからいつまでの情報が入っていて、そこから彼女と関係をもった生徒の特定をお願いした。
一方、バレー部のメンバーと井上さんには今回の件は内密にしてほしいことを伝え、了解をもらい別れた。
さて、次に俺が行くべきところは生徒指導室、二人がいるであろう部屋だと思った。
なるべく、校長、教頭先生が何かの行動する前に俺は渋谷先生、吉川とで話がしたかったのだ。
俺は夏村さんに併せて、五時限目は遅れることを授業担当の先生に伝えてほしいと言い、急いで生徒指導室に向かった。
「かずや、相変わらず面倒見がいいな……」
といい、夏村さんはビデオカメラをどうすれば動くのかを確認しながら、屋上の出口に向かった。
吉川からの呼び出しが十二時三十分で、そこからいろいろなことが起こったため、生徒指導室に俺が着いた時は十二時五十分前後となっていた。
俺は生徒指導室のドアをノックし、『高松、入ります!』と言って中に入った。
中には渋谷先生と吉川がテーブルを挟んで一対一で向かい合っている状態であった。
どうやら、校長、教頭先生はまだ来ていないらしい。
「どうした? まだ吉川に何か言い足らないことがあるのか? 高松?」
渋谷先生はそう言い、テーブルの短い辺のところにパイプ椅子を置きながら、俺に座るよう指示した。
「これから、先生の予想では吉川の処遇はずばりどうなると思いますか?」
と俺は聞いた。渋谷先生は朝剃ってはきたが、今では少し伸び始めているあごのひげを触りながら、こう言った。
「まずは、教頭、校長にこの後、ご報告する。ご両親にはすでに連絡してこちらに向かっている。そして、学校側とご両親との話し合いで今後どのように指導するかを話し合う。話が揉めた場合や、ビデオで脅された生徒の親から訴えられた場合は、刑事事件になりかねないので、警察署に補導と言う形で移管される可能性もある」
俺はその流れの重大さをかみしめ、吉川を見ると顔面は蒼白していた。
俺は吉川の方向を向きなおして、こう言った。
「おい、吉川。残念だな。お前を助けてくれる友達ってこんなピンチの時でも誰も来ないよな。こんな時、先生方に『吉川さんを助けてください!』って言ってくれる友達っているのかよ?」
すると、じっと、何も言わず吉川は俺を睨みつけた。
全身は怒りからか恐怖からかは俺にはわからなかったが、震えていた。
「お前、このままだとサツ(警察)行きだぞ。それで人生、オジャン! はい、終了! だよ。いいか! お前、それだけ背負わなくっちゃいけない大きな罪を入学してから、たった約二週間で犯したんだぞ! わかるか!」
今度は、目をそらし、ぎゅっと両手を握りしめていた。
「今回の発端はイジメではなくて、自分のいうことを聞いてくれる子分を作りたかっただけだったかもしれない。だけど、それが転じてイジメに向かった場合、イジメられた生徒は、自分には原因もなく、せっかく自分の力で作り上げていった友達をお前たちに剥ぎ取られていくんだぞ! そして行き着く先は孤独だよ。その上、イジメをしている奴らの楽しみのために彼女は傷つけられまくるんだ! 毎日! 毎日! お前みたいに強引に仲間らしきものをつくる手段しか知らない奴はそんな時、この子がどれだけ辛い思いをするかわかんねえよな! お前は入学して友達ができないと苦しんだ、それの何十、何百倍の苦悩を背負うんだよ! お前、中学の時には親しい友達はいなかったのか? その友達をどう作ったのか、なぜ、お前はそれを思い出そうとしなかったんだ? 手っ取り早く、手下を作りたかっただけじゃないんか? 数日友人出来ねぇからって甘っちょろい方法、考えるんじゃねぇよ! いいか、その結果が今の状況で、これからお前を待っているのはイジメよりもキツイ仕打ちが待っているんだぞ! これはもしこのまま学校にいることが出来ての話だ! サツに行ったら一生オジャンなんだぞ! わかってるのか!」
と言い、俺はテーブルを強く叩いた。
すると渋谷先生は軽く腰を上げ、俺の左腕を叩いて制した。
「高松……」
「渋谷先生、俺の独演会ですみません。でも、話がいろいろ進む前に吉川に聞きたかったんです。続けていいですか?」
「続けろ、高松。お前に任せた」
と言い、渋谷先生は再び深々と席に座りなおした。
「おい、吉川! こっち見ろ!」
ゆっくりと俺の方向を見た吉川は顔をグジュグジュにしていた。
多分、現実に直面し不安から涙が溢れ出したのだろう。
「おい、吉川! 返事!」
「は……い」
「今、お前、怖いか?」
(……うん)と頭を縦に振る。
「今、お前、友達ほしいか?」
(……うん)と頭を縦に振る。
「てめぇ、ふざけんな! 自分のことが先か! 他に先にやることはないのか?!」
(……)
「自分ばかりでなく、他人にも意識を向けろ!」
(……)
「……謝ること、で、す」
「まじで、謝る気あるのか!」
「……は、い……」
「もっと、大きな声で!」
「はい!」
と言い終わるや否や吉川は号泣した。
「わかったよ。じゃあ、屋上にいた時の相談、乗ってやるよ! 俺がお前の友達になってやる。この学校でお前の最初の友達にな! だから謝りに行くのも俺が手伝う。でいいか?」
吉川は泣きじゃくりながら、頭を何度も縦に振った。
「てめぇ、中途半端な反省・謝罪してたら、ただじゃ置かねぇぞ! 叱ったり、アドバイスするのも友達の役目だしな!」
激しく頭を縦に振る姿を見た俺は、渋谷先生にこう打ち出した。
「ということなんで、渋谷先生。吉川は俺が責任もって面倒見ますので、なんとか後はうまく先生方をまとめてくれますか?」
「お前がそれでいいんなら、それでもいいけど。もし、吉川に裏切られた時はどうするんだ?」
「その時はこいつに地獄が待っているだけですよ。たぶん、俺よりも怖い人がただでは置かないので……」
「あいつならやりかねんな(笑)」
その後、渋谷先生は教頭、校長先生に報告に行き、ご両親と話し合うまで判断は待ってほしいとお願いに行ってくれた。
俺はその間、中学時代の吉川が関係したイジメについて全貌を彼女の口から聞いた。
そして解決方法として、まずこれから来る両親に中学から現在までの行動を説明し、謝ることを指示した。
そして、週明けからまずは脅した同級生に謝罪し、完全に許しを得るまで謝罪を続けること、次に大難関であるが中学時代のイジメた子に謝罪をし、許しを得るまで継続すること、そして共犯者の中学時代の同級生にも謝ることを約束させた。
「だけど、やっと、ここがスタートラインだ。ここからは自分でがんばって友達を作っていくんだ。そこまでの面倒は俺が見る。それと約束だ。こんなことをした自分を存在が不要な人間だと思うな。今まで起こしたことは自分が成長するうえで必要だった試練であり、決してお前を世の中が不要と思って神様がやらさせたことではないんだ。胸を張って生きろ。あと、短絡的にはなるな。今回の騒動はそれが原因だ。短絡的になることは自分にプラスには働かない。わかったか?」
と言って、吉川の頭をなでてやると、吉川は深くうなづいた。
そこに、吉川のご両親がやってきた。
俺は中に導き入れると、いきなり、母は吉川のほほを強く叩いた。
俺はそれをあえて止めず、叩かれることを受け入れた吉川を見て頷くと、
「吉川、何分必要だ?」
と尋ねた。両親に今までの話をするのにどれくらい必要かを聞きたかったのだ。すると吉川は
「十五分お願いします」
と答えた。俺は、
「了解。じゃあ、そのころに渋谷先生が来るように職員室に行ってくる。それと今日からは『かず』って呼んでいいからな。お前のことは『さより』って呼ばせてもらう。友達だしな!」
と言い、ご両親に少々お時間頂戴しますと言い、生徒指導室を出た。
俺が職員室を覗くと渋谷先生はおらず、中島教頭もいなかったため、たぶん校長室にいるのかと思い、校長室の前に行き、ドアをノックすると中島教頭が返事をした。
やはり、三人集合済みかを思いながら『高松入ります』と言い、ドアを開けた。
俺は会釈をし、校長先生の席の前のテーブルに近づくと渋谷先生が隣に座れと指図した。
俺が席に付くと、早速、中島教頭がこう言った。
「高松、お前の出した結論はこれでいいのか? 仲間になるということは彼女がトラブルを起こしたときは君も責任をとるということだぞ」
「いいと思いますよ。俺が徹底的に叩き直してやりますし、人との付き合い方を教えてやりますから」
と俺が言い切ると、佐藤校長は立ち上がりながらこう言った。
「吉川君の今までの思考傾向はあまり好ましいとは思えない。自分のためならあらゆる手を使ってくるかもしれないし、実際、今回は使って来たわけだ。君に屈服した形で付き合い始めても、最後にはトラブルを起こして、君を裏切ることにもなりかねんのだぞ」
と強い調子で俺に詰め寄って来た。俺は一度深いため息を吐くとこう言った。
「でも、彼女のこと、信じてあげたいんですよ。俺も一年の一学期、あんなに俺たちを虐げてきたヤンキーたちと一緒に悩み苦しむことで今の状況になってきた訳だし、悪いこと目当ての子が高校なんか来ませんよ。それと吉川の周りは全て夏村さんが潰してくれたんで、現在、彼女は裸同然だと思うんです。そこで出した結論がおっしゃるように俺を裏切ることになったら、自分がヤバイぐらいは彼女もわかっていると思うんです。外壁潰して、今日、本丸も潰したんで頼るものは俺しかいないので大丈夫だと思います。あと、もう本校でのトラブルで退学者は出したくないので」
中島教頭は頷きながらこう言った。
「君がそう思うなら、思った通り頑張ってみなさい。でも大変な道のりが待っているかもしれんぞ」
「がまんなら、昨年俺たちがヤンキーたちに抑えつけられていた時に身に着きましたので!」
「そうか、わかった。じゃあ、彼女は君に任せるのであとは宜しく頼む。ところで、このことは夏村くんは知っているのかい?」
「し・ら・な・い・ですね」
「高松、すぐ奥さんに連絡しろ~」
と茶々を入れる渋谷先生だった。
そして、俺と校長、教頭、渋谷先生が生徒指導室に着いた時には吉川とご両親の話はついていた。
その時の吉川の目は俺に大丈夫だと語っていた。
あとはスムーズに話は進み、高校側の被害者を特定するまで、吉川は自宅謹慎となった。
吉川のご両親は、
「娘がいろいろとご迷惑おかけした上に、今後の娘の行動についてもフォローしていただけるなんて本当に申し訳ございません」
と言ってきたが、
「これからはご両親にもがんばっていただかなくてはいけない場面も少なくないと思いますのでご協力お願いします。まずはさよりさんを信じてあげましょう」
と返した。
今回の一件を生徒会室で夏村さんに報告すると、
「かずやだったら、そうすると思ったよ」
と簡単に返してきた。
「高松もそんなに面倒見ちゃうと、吉川に好かれちゃうかもしれないよ」
と内田さんが茶々を入れてきたので
「俺のこと好きになる人なんてよっぽど変わり者しかいないから……」
と口を滑らすと、
「お前、今、俺を『変わり者』って言ったよな!」
と切れかかる夏村さんに、
「短気は損気! 短絡的になっちゃだめです~って、ごめんなさい!」
と言い、俺は夏村さんに謝った。
◇◇ 四月十七日 ◇◇
ビデオの方は、内蔵チップにすべての被害者の画像が入っていることがわかり、内田、羽田、曽根、川尻の四人娘が全被害者の特定を完了させていた。
びっくりしたことに男子生徒には俺と同様にキスに見えるように録画をし、一方、女子には金銭を渡しているように見えるよう録画をしていることがわかった。
金銭は誰一人として受け取っていなかったので、金銭の返済に関するややこしいことは起きないで済みそうだ。
◇◇ 四月二十日 ◇◇
生徒会は、被害にあった生徒の全員の参加の了承を受け、生徒会室横の旧学園祭実行委員会室に集め、吉川の出席のもと全員に謝罪をさせた。
そんな形だけの謝罪で、はいそうですかと納得してくれる人がいる訳がないと思っていたので、その日を皮切りに俺は吉川とともに学校でその被害者に出会った時は必ず頭を下げて謝り、なるべく授業と授業の間の毎休み時間、彼女に同行して一緒に謝った。
後から聞いた話だが、俺は何も指示はしていなかったのだが、池田やその友達も許してもらえないかと被害者に裏で謝ってくれていたようだった。
始めは俺たちの姿を見ただけで隠れた人たちも時間が経つにつれ、笑いながら『もういいですよ』と言ってくれるようになった。
そしてほとんど被害者が問題視しなくなった時点で、俺は吉川に次の策を提示した。
謝罪の了解はもらっても、あの子とだけは…… ということで完全に孤立してしまっているので、避けられてもしょうがない、ダメもとでいいから、いろいろな人に声かけをしてみろと俺は吉川に指示した。
しかし、これが本当に彼女にとって、とてもつらいことのようで、なかなか第一歩が踏み出せなかった。踏み出すのに随分と時間がかかった。
これも友達をできなくしている要因の一つなのかもしれないが、自分の席から立って同級生のところに行くこと自体が本当に彼女にとって難しいものだった。
確かに周りの同級生もあの子と一緒にいると悪いことに引き込まれると躊躇しているのであろう。完全に壁が出来ている様子だった。
そこで、俺はいつものように廊下での話に集まってくる池田の同級生の女子で可能だったら吉川に声をかけてほしいと頼んだ。
なかなか同意してくれる子はいなかったが、池田たちも加わってくれて一緒に声をかけてくれるようになった。
それが一人、二人と増えていくうちに吉川の顔に笑顔ができるようになっていった。
入学式の時とは違うやさしさを含んだ表情に少しづつ変わっていったのだ。
◇◇ 五月二十一日 ◇◇
この時点でやっと、友達とは確証はできないがそれらしい関係が構築できるまでに至った。
もうすぐ梅雨を迎えそうな不安定な天気の時期になっていた。
そろそろ高校時代の問題は終了とし、続いて、中学時代に吉川からイジメられていた子への対応に取り掛かった。
被害者は一名であったが、吉川たちからかなり陰湿なイジメを受けていたようで、現在は都内の私立高校に通っていた。
なるべく大宮にはいたくないというのが本音だったのであろう。
中学時代に吉川がイジメをしていたことは吉川の両親は四月の事件発覚まで知らなかったらしく、ご両親、吉川と話し合った結果、まずは俺とご両親で被害者宅に挨拶をしに行くことにした。
初回から吉川が行くと、被害者の子がフラッシュバックすることを恐れたからだ。
当然、三人で面会に行ったが被害者のご両親は会ってくれなかった。
そこからは方針を変えることにした。
直接の関係者ではない俺が被害者宅に行き、まずはコネクションを作り、それからご両親、吉川本人という順番で謝罪しに行くことにした。
そこからは毎晩、俺が、被害者宅の前で相手に無視されようが、三十分から長い時は一時間以上、頭を家に向かってさげる毎日だった。
◇◇ 六月八日 ◇◇
季節はすっかり梅雨となっていた。
被害者宅は大宮駅から歩いて十数分ほどではあるが、国道十七号線を挟んで駅と反対側は、ほどんどは二階建ての昭和の面影を残す住宅が広がっていた。
駅前の再開発に伴い、国道十七号線沿いの商店街は以前の活気はなくなり、ほとんどがシャッター商店街となり、商店の多くが立て直して住宅にする計画を書いたアルミ板が固く閉じられたシャッターの上に四方を針金で止められた状態で吊り下げられていた。
そんなひとけの少ない小道に一人、雨の中、傘をさして家に向かって約二週間、毎日欠かさず頭を下げていた。
すると突然、インターホンから、怒鳴り声が聞こえてきた。
「なんであなたが毎日謝りに来てるの?! 謝るのは加害者の方でしょ! それと毎日そんな風に頭をさげていられると近所に変な目でみられちゃうでしょう!」
と言って来たので、俺はこう言った。
「いきなり、加害者が押しかけても、ご両親、娘さんが恐怖を感じるだけじゃないですか? だから俺が代わりに来ているんです」と柔らかい口調で言うと、
「あなたは誰なの?」
と質問が返って来た。これは展開が向いてきたなと俺は思いながらこう言った。
「はい、今回娘さんにご迷惑をおかけしました吉川さよりの高校の先輩であり、友人の高松和也と言います」
すると、声から母親と思わしき人はこう尋ねた。
「友達なのになんでそこまでやっているの?」
「実は彼女を反省させて、初めて彼女の本当の友達になったのが俺なんです。こんなこと本当の友達じゃなかったらできないですよね」
すると、インターホンが切れ、数分後ドアが開いた。
「まぁ、ずぶ濡れだから入りなさい。お父さん、ちょっと……」
ということでついに被害者に遭遇することができたのだった。
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編集記録
2022/10/14 校正、一部改稿




