5-2話 入学式
【読者さまのコメント】
新しい教室での席も決まり、いよいよ新学期がスタートだな!
生徒会も賑やかになりそうだし、楽しみ!
けれど、まさかの校長室に呼ばれてしまった!!!
い、いったい何をしたというんだ……?(大汗)
理由を知ると、これは難題だ(汗)
俺の前の席を取ろうとした井上さんだったが、俺の列は男子の列であるため、入ることはできなかった。
結局、俺の座席の右横に夏村さん、左横を多江ちゃん、井上さんは夏村さんの前に座った。
なにか想像するだけでこの一年間何かが起こりそうな雰囲気の並びである。
もともと、夏村さんと多江ちゃんは中学時代三年間同じクラスであったので、夏村さんともっと話したいというのを口実に井上さんに席を譲り、夏村さんの前の席を選んできたのだが、多分夏村さんの動向を見ておきたいということもあったのであろう。
なにせ、現状、成績順として多江ちゃんに、夏村さんが近づいて来ているという事実もある。
結局、このような席が構成されると一年のときのように俺の周辺に勉強仲間が集まり、そこにぽつりと井上さんと夏村さんが加わる形となった。
と言いながらも、井上さんは休み時間はバレー部のメンバーが多いクラスに遊びに行ってしまうので、その席を休み時間だけ佐々木が借りる流れとなっていた。
確かに一年生の時も俺の隣は井上さんだったが、その時も休み時間はほとんど他の教室に行っていたので、席を自由に使わせてもらっていた。
でも最近の井上さんの俺に対する近づき方を見ると、休み時間も席に留まるのかと思ったが、休み時間の離席は変わらなかった。
このような環境下で、夏村さんは勉強仲間の中で、ほとんど話を切り出すことはせず、多江ちゃんと俺から話を振られると話す程度であった。
俺は授業が終わり、夏村さんと生徒会室に向かう時に、気になりそれとなく聞いてみた。
「夏村さん、勉強仲間と休み時間、一緒にいるのって、ちなみに苦痛とか感じてない? あまり自分から話さないから、興味なかったら悪いなぁと思っちゃって……」
と尋ねると、夏村さんはこう返してきた。
「いや、ほかの人が話していてもお前のことしか目に入っていないので、苦痛なんかない。かえってかずやの話をしている姿や表情を近くで見られるので楽しい」
あっさり、そんなことを言われるとこちらは照れてしまうのだが、夏村さんの横顔は真剣だった。
まぁ不満はなさそうなので良しとしよう。
廊下は外周とは反対側に面し、窓越しには反対側の総合棟が見え、各クラブに向かう生徒の姿が見えた。
中庭には外周と異なり、日光を満足に浴びることのできない桜が貧弱な枝っぷりではあるが点々と花を咲かせ始めていた。
ひなたと比べると一週間以上も開花が遅くなるんだなぁと俺は思った。
生徒会室に着く。ドアをノックし、
「夏村と高松入ります」
と言ってドアを開けた。
すると部屋の中にはもうすでにメンバーは揃っていた。
「今年度もよろしくな、高松、夏村!」
と最初に上郷地先輩が話しかけてきた。
「また、奥で毎日いちゃつくんだろうけど、よろしくな!」
と小鳥遊先輩がにやけながら言った。
俺たち、いちゃついていませんので。
そう勉強、勉強してますから。
そして書記グループが「よっ!」と一斉に手を挙げてくる。
さて、今学期も何もないことを祈って(何もなければ部屋の奥で夏村さんと勉強し放題なので)、
「よろしくお願いします!」
と声をかけ、いつもの部屋の奥に行こうとするとそこに四名の女子生徒がいた。
「あ~、夏村。悪いがこの四名、君が面倒見てくれ。どうしても二人と仕事がしたいと言っているんだ。断ったんだが、どうしても役に立ちたいというので追い出せなかった」
上郷地先輩も追い出すことでできなかったようである。なぜなら彼女たちも以前仲間であったからだ。
「お前ら……」
の後の言葉が夏村さんから出てこなかった。
その時点で夏村さんは彼女たちに合格点をあげていたのだろう。
四人は俺と夏村さんんの前に一列に並び、こう言った。
「かずさん、なつさん、学園祭の準備で裏方の仕事の楽しみを知りました。もっと、いろんなこと教えてください!」
「内田すずっす!」
「羽田奏っす!」
「曽根辰美っす!」
「川尻季依っす!」
『よろしく!』
文化祭の事件の際、過労で倒れた内田さんとそのヘルプをした羽田、曽根、川尻の三人娘だった。
あの時はやり方を教えるとそれを熱心にやってくれ、最終成果物を全員でチェックし、ミスったら全員の責任と考えるチームワークも彼女たちの魅力だと思っていた。
俺に断る理由はなかった。
「よろしくお願します、なんか俺の周りって元ヤンキー率高いなぁ」
「しょうがないじゃん。かずさんの奥さん、元ヤンキーの総番なんだから」
と川尻さんがいうと、室内は大爆笑となる。
「あの~、まだ、嫁さんになるとは決まって……」
その言葉とともに夏村さんは俺を睨んだ。
「あ~?! 俺を嫁に決めてないだと! 俺は既成事実だと思っていたぞ! 今日、お前、俺んちで反省会だな!」
「す、すいません……」
まずいことを口に出してしまったと反省しても後の祭りだった。
「さて、コントはここまでだ。四月五日に入学式がある。その準備を教職員だけではできないので、生徒会でも協力することになったそうだ。新入りの四人! 初仕事だぞ、がんばれ。追ってスケジュールは連絡する」
と上郷地先輩から説明があった。四人は
「うっす!」
と返事をしたが、夏村さんは、
「ここでは、こんな時の返事は『はい!』だ。いいな!」
と訂正させた。
俺の家は花屋なので市内の小学校のステージ上の花や教壇の横の花のアレンジの注文を受け、車で配達することがある。
今年も何校かは父が配達することになるが、あの椅子の準備や各セッティングを誰がやっているのだろうと思っていたが、教職員+αが絡んでおり、うちの高校では生徒会なんだと理解した。
うちの高校は、よく考えれば昨年は一、二学年、一昨年は一学年と父兄の準備だけで終わっていたのだが今年は初めての三学年出席で学生フル参加での入学式となる。
準備も大がかりとなるであろう。
了解しましたと納得し、俺はいつもの部屋の奥に向かおうとした。
すると、小鳥遊先輩が俺と夏村さんを呼び止めた。
「夏村さん、高松君。悪いがこれから校長室に行ってくれないか?」
「えっ?!」
俺は動揺した。
俺は中学時代、トラブルでよく校長室に呼び出されていた。
よって『校長室』という言葉にアレルギーを感じていたのだ。
現状、想像できうる問題(となりうるもの)は、夏村さんとの交際のことしかない。
しかし、そのことについての決心はすでに自分の中で決まっていため、ここは負い目を感じず、行こうと思った。
「夏村さん、行こうか!」
「おう……」
なぜか、夏村さんの返事は弱かった。
もう、すでに外は夕焼けらしく、校舎によって切り取られた空は赤みを帯びていた。
足元の陰と赤い光のストライプに染まった廊下を歩きながら、夏村さんはこう言った。
「ごめん、たぶん俺のせいだな。かずやと付き合えて舞い上がっていたのかもしれない。変な言い方、お前にべたべたしすぎて、高校生らしく行動していないと思われたかもしれないな」
反省の表情を浮かべながら話す夏村さんに俺はこう言った。
「いや、全然高校生のお付き合いのレベルを超えるようなことはしていないと思うよ。テレビの青春ものだったらもっとイチャイチャいるんじゃないかな? 違う案件かもしれないし、そこは出たとこ勝負でいいんじゃないの。どんな時でも俺は夏村さんを守るって約束したんだから心配しなくていいよ」
「わかった。切り替える」
と同時にいつもの夏村さんの顔色に戻ったことに俺は気づいた。
校長室前
ドアをノックし、部屋に入ると、中には佐藤校長と中島教頭、そして渋谷先生がいた。
校長先生から座るように促されると俺たちはゆっくりソファに腰を下ろした。
そして二人が座ったことを確認し、中島先生が話し出した。
「昨年、うちの高校は劇的な変化を起こした。そこにはいつも高松君と夏村さんがいたことを渋谷先生から聞いている。」
どうやら交際の話ではなさそうだ。
俺は渋谷先生の顔を見ると先生は軽くうなずいた。
俺と夏村さん、二人の反応を見て、中島先生は続けた。
「実は今年の受験者の競争率の向上から、かなり成績の良い子も入学してくれるようになった。これは喜ばしいことなんだが、一点、気になる生徒も入学してきている。まあ言っちゃ悪いが去年のヤンキーたちみたいなのがな。実はその子たちの出身中学から当校にも連絡が入ってきていて、その学校でもなんとかしようとしたが更生させられず、そのまま卒業になってしまったため、どうかそちらでよろしくお願いしますという内容だったんだ」
そこまで聞いて俺は薄々、中島先生の言いたいことが解ってきた。
「要は、昨年の夏村さんとメンバーのような……、夏村さんごめんね、問題児が入学するので、どうにかしろってことですね」
「そういうことなんだ。ただ今回はヤンキーではない。集団イジメの首謀者だそうだ」
「そいつがせっかく入学してくれた、志の高い生徒に被害が及ばないようにしろってことですね」
「最終手段として警察沙汰にしての解決でもいいが、警察沙汰は高校名に傷がつく。それはなるべく避けたい」
「ちなみにその問題グループのリーダーは男です? 女です?」
「『吉川さより』、大宮の桜花中学校出身。ちなみに桜花中学からの入学は彼女を含めて七名だ。ただその全員がイジメに加担していたとは限らない」
「夏村さん、吉川って知っている?」
「ヤンキーと違って、イジメる奴らは普段は仮面をかぶって、普通を装っているから、俺たちは情報をもっていない。ただ春陽が桜花中出身なんで聞いてみる」
「あぁ、一年の時に同じクラスだった笹川さんか。頼む!」
「承知!」
「どうする。高松、夏村、受けてくれるか?」
「夏村さんはどう思う?」
「がんばる。この学校をいい学校にするのが晏菜ちゃんとの約束だから」
「そうだったね…… じゃあ、やりますか!」
イジメは陰湿な欲求の爆発である。
しかし、人間の持つ欲求の一つの形である。
普通の人たちはその欲求を抑え込めるが、何かスイッチが入るとその欲求にスイッチが入る。
そしてそのスイッチは誰かが入れると、他の人間にも伝染する。
その顕著なものが人種差別であったり、虐殺であったりする。
しかし、そのスイッチを入れる因子はいくらでも想像ができる。
はたしてスイッチが入る前に問題を解消することができるだろうか。
もしそのスイッチが入った場合、最小限の被害で止めさせる方法はあるだろうか?
校長室を出て、二人廊下を歩きながら、俺は夏村さんに質問した。
「夏村さんってヤンキーだったけど、イジメをしたいとは思わなかったの?」
「俺は格闘技やってたから、相手を力でねじ伏せるって考えるから、イジメはないかな。イジメは力より数で攻める上に言葉や行動で攻めるから心の傷も深くなる。俺は絶対そういうのは嫌だなぁ」
イジメに対応するのは難しい。
イジメるメンバーは跡を残さないように行動するし、イジメられた方もさらなるイジメが自分に起こらないように口をつぐんでしまう。
また、周りも自分に火の粉が降り注がないように口外しなくなる。
まずは、笹川からの情報聴取が先だと思った。
しかし、新たな門出の日にこんな厄介ごととは頭が痛い。
◇◇ 四月五日 ◇◇
俺が毎朝のランニングをするために学校に着くと、すでに先生方は正装をしており、会場を確認したり、掲示物のチェックを行っていた。
何人かの先生に挨拶をしながら校門をくぐると、正面の掲示板にはすでに新入生のクラス分けと担当教師名が書かれた紙が貼られていた。
俺は自転車に跨いだまま、紙を眺めていると、貼った紙がきれいに貼られているか確認する渋谷先生と目があった。
「おう、高松。今朝もランニングか? そうか、気になるよな、吉川がどこのクラスか」
「おはようございます、渋谷先生。吉川さんは六組みたいですね。ちなみに六組には他の桜花中出身者っているんですか?」
「二名いるな。両方男性だ」
この二人が両方とも吉川の仲間とは限らないが、監視は必要かと思った。
そして六組のメンバーを改めて眺めてみると、『池田啓介』という名前に目が留まった。
「渋谷先生、ここの『池田啓介』ってもしかして沼幡中出身ですか?」
「確かそうだったと思うぞ。お前の知り合いか? 沼幡出身はうちでは高松だけだった記憶があったから、めずらしいなぁと思って私も気に留めていたんだ」
この高校には俺の出身中学である沼幡中出身の生徒は一、二年合わせても俺だけだった。それが今年は池田が入ってくれたのかと思った。
「沼幡中、今年は池田君を含めて六名入ってくれたぞ。後輩が来てくれてうれしいか?」
「いや、俺の過去を知っているのは池田くらいで十分なんですけどね」
と俺は答えた。
中学時代の俺が起こしたトラブルをフォローしてくれて、最後まで俺を慕ってくれたのが池田だったからだ。
他の新入生が俺の中学時代の問題を流されてしまうと今までの努力が水の泡となってしまうかもしれない。
まあ、自分が蒔いた問題だ。自分で摘み取るしかないと腹を据えた。
俺は駐輪場に自転車を置き、部室で着替えてランニングをし始めた。
外周を走っていると、早い新入生は家族ともにまだ桜の花が残った通学路から校門をくぐりやってくる。
そういえば、去年は三分の一はヤンキーだったなと思い出しながら、今年は見ただけで明らかにヤンキーとわかる生徒はいなかったのには驚かされた。
この学校に来ればヤンキー生活満喫できると思うような奴らはいないのだなと安心した。
一年でこんなに変わるものかと思いながら、校門前で落としたスピードを上げようとした時、
「かずさん!」
と声をかけてきた男子生徒の声が聞こえた。
俺は足を止め、振り返ると、そこには見覚えのある男子生徒の顔があった。
『池田啓介』とお母さんだった。
「かずさん、俺、大鳳来ました。また、一緒にがんばりましょう」と話かけてきたので、俺はお母さんを気にしながらこう返答した。
「俺は中学時代に学校に迷惑かけてきた人間だから、俺なんかについてきちゃだめだよ。そう、この学校には見習うべき先輩がいっぱいいるからそいつらを参考にしてほしいなぁ」
「いや、先輩のこの高校での活躍、中学でも噂になってますよ。ヤンキー学校の大鳳を活気あふれた学校に変えたのは高松先輩だって!」
どこから、そんなデマが広がったものかと俺は思った。
「あの…… その冗談みたいな話ってどこから流れてきたの?」
「うちらの下の学年の間で広まっていて、文武両道で楽しそうな学校だって、噂でしたよ。進路指導の先生も『俺があいつを大鳳に勧めたんだ』って胸を張ってました」
進路指導の先生……
俺が私立高校を全部落ちて、相談に行った時、笑いながら『お前でも受かる高校』ってことで大鳳を紹介したんじゃなかったのかよ、と思い出しながら、腹が立ってきた。
しかし、今の中学三年生で噂……
もしかして晏菜と三人娘か?
すぐ直感でピンと来てしまった。
「まぁ、お互い、がんばろう」
「はい!」
と言い池田は俺に挨拶し、お母さんの元に戻っていった。
しかし、晏菜も余計な事広めやがってと思ったが、よく考えてみると池田が吉川と同じクラスと言うのはラッキーである。
クラスの情報を彼から入手すればよいからだ。
そして池田も俺同様、相手の懐に入るのは得意である。
すぐ交友関係を広めて、一年生の情報を提供してくれるだろうと思った。
そして入学式が始まる。
新入生入場でもあまり目立つ子は六組にはいなかった。
『新入生紹介』で各クラスの担任が氏名を呼ぶと、該当する生徒が勢いよく返事をし、立っていく。
「吉川さより!」
担任の岡本先生が名前を呼びあげると
「はい!」
と言って素直に立ち上がった彼女の姿が見えた。
身長は百六十センチ前後、黒髪のセミロングで化粧も普通の高校生であった。
そして式は終了。
新入生が退場する際、再度彼女を確認した。
特にピアスなどの装飾品はつけておらず、顔立ちは育ちのよさそうな子であった。
特に虚勢をはったような歩き方はせず、行動は静かだった。
こういう普通の子が一番めんどくさいことを俺はわかっていた。
普通だからこそ行動が目立たない、よって悪いことをしても気が付きにくいし、まず『あの子はそんなことはしない』という先入観が守ってくれるのだ。
また、普通だからこそ近寄りやすく、新たに仲間ができるのも早いだろう。
そしてクラスの序列を構築あるいは壊し方を知っている奴は、どうクラスで順位付けをすればよいかを知っていて、自分の扱いやすい順位を作り上げていく。
そして自分が順位ナンバーワンになる方法も知っている。
彼女の容姿振る舞いを見て俺はなるべく早く動かなくてはいけないと思った。
しかし、俺とは別のアプローチで解決を図ろうとする人がいた。
それは夏村さんだった。
俺の事前の説明不足もあったのだが、このことが俺にとって最悪の事態となる原因を生んだ。
当作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。
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編集記録
2022/10/10 校正、一部改稿
2022/10/22 誤記修正




