4-3話 年越しと新年(2)
【読者さまのコメント】
大掃除が終わり、高松による紅白歌合戦も終わった。
せっかくの年末の夜。食べるのはもちろん、年越しそば!
高松と夏村さんにとって、とても有意義な一年になったよなぁ。
もし出会えていなければ、夏村さんが声をかけなかったら、きっと味気なかった。
よいお年を!
「じゃあ、和也。年越しそばだけど、『どん兵衛』でいいか?」
「いいよ。どんな種類買ってあるの?」
「天ぷらそば! 選択の余地なし!」
「いいんじゃない。お願いします!」
「あいよ~」
と言い、夏村さんはカップめんを作りにキッチンに向かった。
しかし、考えてみると、年末からこっぱずかしいことをしている。
ふつう、彼女の前でフォークギター持って歌ったら、今の女の子だったら『キモイ』の一言で嫌われそうだ。
それで夏村さんはよかったのだろうか……
夏村家はテレビがない。
夏村さんはスマホでテレビやドラマは見ていると言っていたが、自分の家なら必需品の番組録画のためのビデオももちろん無い。
普段どう過ごしているのかと考えると不安になる。
「どん兵衛、できたぞ!」
と言ってカップ麺を二個運んできた夏村さん。
どこにあったのか七味唐辛子の小さな容器も一緒に持ってきた。
夏村さんはカップを俺の前、そして自分の前に置き、上のラベルを剥がすと、上がって来た湯気を嗅ぎ、
「やっぱ、カップ麺のそばはどん兵衛だな」
と、言いながら微笑んだ。
「てか、他のブランドが思い浮かばないよ」
と答えると、夏村さんは、
「赤いなんとか、緑のなんとかってなかったっけ?」
『赤いきつね』と『緑のたぬき』と言いたかったのだろうか、思わず、噴いてしまった。
「七味かけるか? 俺、七味好き」
と言いながら、七味の蓋の小さな穴を合わせるでもなく、蓋をとり、七味をドバっとかけた。
「ちょっと! 辛くない?」
「いや、いつもこんな風に食べてるけど……」
今度立ち食いに行く機会があったら気を付けておこう。
食事も終わり、グダグダ話していると時計は十一時四十五分を過ぎていた。
「もうすぐ、今年も終わるね」
「短いようで長い一年だった」
「えっ! 長いようで短いじゃないの?」
「いや、かずやと付き合えて、毎日楽しいことばかりだから、一日が長くて楽しくて大切に感じた」
「ありがとう。俺は逆かな? 中学時代は適当で、高校に入ったらしっかりしようと思ったら、夏村さんの登場で人生一変したよ。もっと一年が長ければいいなと思った」
「そうか、そう思ってくれたらうれしい……」
沈黙
「そういえば、初詣っていつ行く? 明日、高松家集合が九時集合だし……」
「よし、今から行くか。ちょっと着替えるから和也は部屋から出ろ。着替え見たいなら居てもいいぞ!」
「いえ、失礼します……」
といい、客間で待つことにした。
それから十分くらして、夏村さんは部屋にやって来た。
なんと十分間に着物に着替えていたのだ。
「あのう、ぼく、何とも不釣り合いな格好をしておりますが……」
「その恰好がかずやらしい! 行こう!」
確かにアップした髪に着物は似合う。
明日の高松家にもこの姿で行くらしいので写真は明日にしておこう。
さすがに女優さんと一緒に歩いたことは無いが、毎年有名芸能事務所が成人式のタレントを振袖を着させて写真を撮っている新聞記事を見ているが、その誰よりも夏村さんはきれいだった。
その上、話しながら時折見せる笑顔は最強です。
新年を迎えた調神社は、出店も多く、参拝者も多い。
俺たちは正面から入りたいと思い、旧中仙道側の階段を上がり、両端にいる狛犬の代わりにいるウサギの置物の横を通り、大きな鳥居をくぐり抜け、行列とともにゆっくりと本殿に向かっていった。
本殿前の賽銭箱に賽銭を入れ、一礼二拍手、願掛け、一礼を終え、行列から離れる。
「かずや、何を祈った?」
「成績が一位に戻って、成績を伸ばしたいってことかな?」
「お前、おれとの関係のことじゃないのか!?」
「大丈夫、壊れることは無いし、壊させやしない……」
「そうか…… そうだよな…… 俺、お前ともっと仲良くなりたいって拝んじゃったじゃねえか!」
「それでもいいんじゃない。最終的に願いが成就されれば」
「そうだな」
と二人でメチャクチャ照れ臭い話をした後、おみくじの列に並んだ。
やはり、この時間はカップルか年配しかお参りに来ていないのでおみくじもすぐに引けた。
俺は『大吉』
「お前、恋愛の『待ち人来る』って他の女が来るってことじゃないのか?! 井上か? 小倉多江か?」
「夏村さんのことだと思うよ。てか、井上さんは展開的にわかるけど、多江ちゃんっていうのはないんじゃない?」
「まぁ、そういう解釈で良しとしてやる」
実はこのおみくじの記載は今年の二人の関係に少なからず影響を及ぼしたが、これも後日談にしておこう。
夏村さんは『中吉』
「『仕事が忙しくなり、疎遠になるが信じれば成る。』って不吉だな……」
「だから、俺のおみくじも併せて俺のことを信じればいいんじゃないの?」
「おう、そうだな! 納得いった。信じ込んでやる」
「かずや。星、きれいだな」
調神社を出ると一気にひと気は少なくなる。
歩きながらもゆっくりと星を眺める余裕もできる。
「そうだね、来年の元旦も夏村さんを予約ね!」
「おう、まかせとけ! 大掃除に金かけなくて済む……」
「もしかして、毎年掃除って業者に頼んでたりしたの?」
「うん、やっぱり一人では家が広すぎてね。業者だと両親の部屋とか居間とか触って欲しくないし、今日はかずやだからお願いしたんだ」
「そう、ありがとう。俺を掃除係に選んでくれて!」
「こんなこと、すき好んでやってくれるのが彼氏って俺、本当に恵まれているわ。こちらこそ、ありがとう」
月は新月なのか、姿を見せないが、その代わりがきれいに輝く星々が風を介してキラキラと二人を照らしていた。
「さてと、風呂沸かすけど、和也、先に入ってな!」
「いや、夏村さんが先でしょ!」
「それとも一緒に入るか? 俺は和也の裸に興味がある」
「プールの時に水着の見せあいしたじゃないの。ダメだから夏村さんが先にどうぞ!」
「和也、俺の入った後の湯で何かしそうだから、お前先に入れ!」
そんな発想が出てくる時点で夏村さんの方が怪しいのだが、俺は、
「了解しました」
と言って先に風呂に向かった。
体を洗い湯舟につかると、風呂の外から夏村さんが、
「湯の温度どうだ?」
と聞いてくる。お湯の温度調節スイッチは浴室内にあるのに。
「だいじょうぶですが……」
「そうですか、では正月恒例(になるであろう)! 着替えショーターイム!」
「えっ! 何?」
「浴室のガラスって摺りガラスになってるじゃん。ここで俺が生着替えをするんだ。その摺りガラスに写ったシルエットで和也を興奮させようって魂胆」
「ちょちょちょっと!」
「出た! 久しぶりのちょちょちょっと! でも始めま~す。ではまず、1st stage!」
有無も言わさず、 ショーは始まってしまう。
たしかすりガラス越しに芸能人が水着に着替えてって番組、昔はよくやっていたものだ。
摺りガラスで見てもある程度、体のラインと色はわかってしまう。
その上、着替え場のランプを付けているので、比較的鮮明にわかってしまう。
かなり、やばい。
えっ! 今、全裸? 何も着てないよね……
なんか、白いのを履き始めてる。
と考えながらじっと見てしまっている俺。
多分、白の上下の下着姿の夏村さんの姿が想像できた。
「1st stage終了! どう? 和也」
「ばかやろう! いろいろと大変なことになっているわ!」
「大変なことってなんだろうなぁ~」
「では2nd stage開始!」
これが全部で五回行われた。
俺も見ないようにはしたが、男の子だもん、見ちゃうよね。
ショーが終わってから数分間、俺は浴室から出られなかったことは男性なら想像通りだ。
やっとのことで俺は夏村さんの部屋に生還すると、今度は夏村さん、
「かずや、出てくるの遅かったね。なんかしてこなかった? 次、俺、風呂入るけど、十月に子供出来たら和也が原因だからね。責任取ってもらうよ」
もう、今日夏村さんの家に泊る時点で何が起ころうとも俺は責任は取るつもりでいましたよ!
だけど、風呂の残り湯では子供はできませんので!!
「楽しみ~!」
と言いながら夏村さんは浴室に向かった。
夏村さんにも困ったもんだと思いながらも、普段の行動は大人だが、考えることは子供じみていることが多々あることに気づいていた。
このことも子供ながらに苦境に立たされた夏村さんの幼少期形成に影響を及ぼしたのかなとも考えた。
それから数十分後、
「かずやのエキス、全身に浴びてきた! 体のいろんなところにエキスしみ込んだしなぁ」
と言いながら戻って来た夏村さん。
なんちゅうこと言っているんだと思い、大笑いしてしまった。
さて、寝ますかということになり、俺は客間に行こうとすると、夏村さんは自分の枕を抱えて、
「何もしないから、今日は一緒に寝たい」
と言った。
色々なものと出会ってしまった以上、俺も夏村さんを拒絶することはできなかった。
客間で、俺の隣に夏村さんは横になり、
「俺は反対側を向いているから、お前も反対側を向いて横になれ」
と言われたまま、電気を消し横になった。
すると、ごそっと夏村さんは俺の背中に夏村さんの背中を合わせてくる。
俺がドキッとすると、
「かずや、ビビっただろ。子供か?!(笑)」
「そりゃ、ビビるでしょう」
「じゃあ、これは?」
と言い、夏村さんは自分の正面側を俺の背中側に向き直して体を密着させてきた。
「どうだ、これが俺の体の感触だぞ。お前いつもバカにしてるけど、俺だって胸あるだろう?」
「そ、そうですね……」
「それと、かずや、こっちを向いて俺を抱いてくれ。それ以上のことは望まない。かずやとご両親との約束だ。高校卒業するまで我慢する。だから……」
「わかった……」
俺は布団の中で夏村さんの方を向き、抱きしめた。
「抱きしめてくれるとは思わなかったが、最高だな。パジャマを通じて和也の色々なものを感じ取れる」
「恥ずかしいけど、今できる夏村さんへの俺の感謝の気持ちと愛情かな。メチャ恥ずかしい……」
「そう言えば、俺が最初に教室に行った時……」
……
と出会いから今日までの思い出を二人で抱きしめ合いながら語り合った。
すると不思議なもので、抱き合っているということから来る、『いやらしいさ』はどこかに飛んで行き、心地よさだけが残った。
それほど、夏村さんと一緒にいることは楽しかったし心地よかった。
どのくらい話したのだろう。
話をしているうちに、目覚まし時計が鳴った。
「あれ? もう六時か? どうする?」
「俺、シャワー借りていい? ちょっと緊張しまくっていて汗をかいちゃたから」
「じゃあ、その後、私が入る」
「えっ?」
「何?」
「『私』って?」
「かずやとご家族の前ではヤンキー語を止める。これが今年の第一の目標なんだ」
「じゃあ、俺は夏村さんを止めて沙羅って呼んでいい?」
「二人の時だけで頼む。他人が居るときは夏村でいい」
「わかったよ、沙羅。じゃあ、お借りします」
「あーっ! こっぱずかしいなぁ!」
と真っ赤になった夏村さん。
夏村さんの着替えも考慮し、早めに準備を始め、高松家に向かった。
さて、家に着くと、着物姿の夏村さんに家族全員びっくりした様子だった。
不幸中の幸い、近所の人に出会わなかったことはよかった。
また、婚約とか嫁入りとか噂を立てられるのは困る。
挨拶を済ませ、リビングダイニングの定位置に座ると、いきなり晏菜からの攻撃が始まる。
「沙羅ちゃん、初めての夜。どうだった?」
「とても胸いっぱいだった」
「かず、お前、沙羅ちゃんに手を出したのか?!」
「いえ、出していませんって」
夏村さん、誤解を生む表現はやめてください!
高松家恒例の正月料理をいただく。
高松家は牛刺をいただくのが恒例だ。
にんにく醤油を付けて食べる牛刺は格別だ。
おせち料理もお重に入った形でテーブルの上に乗せられる。
「沙羅ちゃん、家みたいに汚い家の料理だけど口にあう?」
と母が言うと、夏村さんは、
「家族で正月一緒に食べるのが久しぶりで…… それだけで満足です。あれ? まだ家族じゃなかったでしたね」
俺は夏村さんの家で過去に繰り広げられたであろう正月風景を大掃除を手伝うことで想像することが出来た。
だからその分、夏村さんが言ったこの言葉の重さを感じた。
「昨日、さら、(ちがう)夏村さんに作ってもらったパスタ、玉蔵院前の『サムシング』(浦和で有名なパスタ店)より美味しいんだよ」
「そうなの、じゃあ、今度沙羅ちゃんに作ってもらおうかしら?」
「まかせてください! 一人で自炊してますんで、いちよう何でも作れます!」
「じゃあ、嫁入り関門また通過だね」
で、食卓がまた暖かい笑いに包まれる。
このような関係性を築くことが今の夏村さんには必要なんだと再認識させられた食事会であった。
良い意味で俺の家族、能天気だもんね。
「じゃあ、今年も宜しくお願いいたします!」
と元気よく一礼した夏村さん。
また同じ道を俺は彼女を送っていく。
例の駅前の神社では、野良猫たちが正月の挨拶をしてくれた。
もう、彼らも夏村さんには慣れて手を出せば寄ってきて頭を撫でさせてくれる。
「かわいいなぁ」
「慣れてきた感じだね」
神社の猫たちにも慣れてきた
俺の近所の商店街の方々とも慣れてきた
学校でもヤンキー以外の仲間が出来た
夏村さんも着実に社会に溶け込んできている
それをみているのも楽しいし、これからもっとどんな展開をしていくのかも楽しみだ。
一方、俺も夏村さんに二学期の期末に言われたように輝き続けていかなくてはいけない、なにがあろうと。
ご両親の遺影の下にあった写真を思い出し、決意を新たにした俺だった。
「ところで、かずや。明日空いてる? 以前話したが、二日はお祖父さんお祖母さんの家での新年会が恒例だったのだが、ここ数年開いてなかったんだ。今年は開くらしいんだが俺に付いて来てくれるか?」
「ちなみに、ご両親の兄弟は来るの?」
「来る。だからかずやを誘った」
「喜んで……」
夏村家分裂の原因となったご両親の兄弟との面談だ。
そして急に新年会を組んだお祖父さんたちの意向も気になる。
俺に断る理由がない。
当作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。
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編集記録
2022/09/30 4-2話を2分割し、4-3話作成
2022/10/01 校正、一部改稿




