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4-2話 年越しと新年(1)

【読者さまのコメント】

高校生の男女が年越しにお泊まりとなったらすることは決まっているじゃないですか……。

大 掃 除 で す !

掃除をしながら高松は夏村さんのこれまでに想像を巡らせ、秘密を見つける。

(高松が隅々まで丁寧に部屋を掃除してくれるから、夏村さんが羨ましい!)

 ◇◇ 十二月三十一日 ◇◇


 昨晩、母からあんなことを言われたので、寝付かれなかった。

 大晦日から夏村さんの家にお泊りとか、有り得ないし、あの母が勧めた事自体が信じられなかった。


 ただし、翌日の元旦九時には俺の家に集合して、お食事会という毎年恒例の行事はやるようだ。

 夏村さんも早めに来てお手伝いしますと言っていたが、母はそれを制して、九時に集合ということに決まった。

 まあ、それまでに初詣を済ませてくればいいということだろう。

 適当な時間に夏村さんの家を出ようと思っていた。


 夏村さんに毎年正月はどうしていたのか聞いたところ、御両親が存命のときは、家族で朝食を軽くとり、調(つき)神社をお参りし、お昼にみんなで食事会をしていたようだ。

 二日にはお祖父さんお祖母さんのところに行き、三日のは会社の役員と新年会を自宅で開いていたそうだ。

 確かに家に入ってすぐに右には十人以上は入れる二つある和室があり、その部屋を区切ったふすまを外せば大広間になる。

 そこで、そのような集まりをしたのだろう。

 御両親が亡くなってからはお父さんの兄弟はバラバラになってしまい、二日のお祖父さんの所での食事会も自然消滅してしまったようだ。

 お祖父さんお祖母さんの心情を考えるとやるせなくなる。


 俺が家を出るとき、家族の別の意味での声援を受けた。本当にウザい。

 こんなことを言うと、はっきり言って今日起こりうることを意識せざるを得ない状況になってしまう。

 ただ、逆に考えると俺の決意(高校卒業まではエッチしないということ)を試しているようにも感じられた。


 夏村さんの家に着き、インターホンを押すと元気な夏村さんの声が聞こえた。

 必要以上に分厚い入り口が開き、石が敷き詰められてはいるが石の下は土らしく、土の部分にできた霜柱をガシガシ音を立てながら歩いた。

 玄関に着くと、待っていたかのごとく扉が開き、夏村さんが出てきた。

 今日も定番のスウェット姿だが、髪をアップにまとめていた。

 化粧も幾分薄めで夏村さんの本当の肌の色、唇の色、目の形、等々普段化粧をしている姿は見慣れてはいたが、隠された夏村さんを見ることが出来た。

 よく見ると右目の下と、唇の左下に小さなホクロがあり、それがなぜかセクシーに見えた。

 それが美しい顔立ちにアクセントを加え、増々俺は感情を抑えきれなくなってしまい、

「今日の夏村さんも大好きです!」

 と、挨拶を言う前に感情を表に出してしまった。

 すると、見る間に顔を真っ赤にした夏村さんは、

「いきなし、そんなこと言うな! 照れるけど、悪い気はしないからいいけど……」

 と幾分小さな声で答えた。そして、

「まだ、今日は、長いからな! やること一杯あるから気を引き締めろよ!」

 と言い、微笑んだ。


 まず、夏村さんに家の中を教えてもらった。

 平屋建てであるが、全部で八部屋有った。

 俺んちなどは一般家庭よりは幾分広く、各部屋が十二畳で設計されているが、夏村さんの家は夏村さんの部屋がまず十五畳近くある。

 その他の部屋はそれよりも広く、庭を含めると建坪で、俺んちの五〜七倍は有るのであろうか。

 ただ、御両親が亡くなって不要なものは処分したと言っていた。

 よって、掃除は俺んちに比べたら楽だろう。

 ご両親の部屋と夏村さんの部屋だけ荷物がある感じで、その他の部屋はほとんど使用していないらしかった。


 いちよう、掃除道具一式は持って来ていた。

 普段俺んちみたいに物があり過ぎて掃除が大変な場合に役立つ自分で開発したグッズも持ってきたが、雑巾と家用洗剤、窓ふきセットぐらいで間に合いそうだ。

 それと、なぜかギターを持ってこいと言われたのでフォークギターを持ってきた。

 夏村さん自身、今の流行している歌に興味が無いらしく、俺がバンドの練習や学園祭で披露した曲の中でもう一度生で聞きたい曲があるので歌って欲しいと言われたからだ。

 昼間の掃除等で水でふやけた指を使って弦を押えるのは嫌だが、夏村さまの言いつけは守らなくてはいけない。

 一人紅白歌合戦でもやってやりますか! と決心した。


 掃除場所の配分だが、夏村さんは、自分の部屋とキッチン、トイレをやりたいというので俺はまずはこのメチャクチャ長い廊下掃除に取り掛かった。

 床を雑巾がけし、窓ガラスを拭いた。

 ボッチはだいたい活発な奴に学校おわりの掃除を頼まれるもので、床掃除はお手の物である。

 水拭きして、ワックスも塗ってあげた。

 床にしても窓にしても普段からきれいにしているらしく、あまり手間がかからなかった。

 確か、業者が来て掃除をまとめてやっていると聞いたことがあった。

 しかし、でかい一枚ガラスの窓だ。

 これで今までの台風で割れなかったのかと思うと、入り口にある必要以上に分厚いドア同様、役割を果たしているのだろう。


 次は、ご両親の仏壇が飾られている仏間に入る。

 たぶん、ご両親が亡くなる前は別の目的で使用されていたらしく、リフォームの跡があった。

 部屋の片隅に立派な仏壇があり、そこに花と写真、位牌が二つ並んで飾ってあった。

 丁度、線香とマッチ、ろうそくがあったのでマッチでろうそくに火をつけ、そこから線香の火をとった。


 初めての夏村さんのご両親との対面である。

 まずは一礼をし、写真の前に座った。

 お父さんもお母さんもさすが会社の社長、うちと違って風格があるなぁと思った。

 しかし、お祖父さんたちもそうだが、お金持ちは公の場では男性はスーツ、女性は着物なんですね。

 もしかして、夏村さんも着物を持っているとか……

 想像すると、今日のアップにした髪の時なんかはとくに似合いそうで、ゾクゾクした。

 しかし、一方では高校入学時のヤンキー姿で着物は…… と考えると笑えてしまう。

 そういう二面性があったからこそ、この半年を楽しくさせてくれたんだなあと振り返り、ご両親の写真に向かって感謝した。


 『彼女に出会えさせてくれてありがとうございます』と。


 そしてその写真立てのご両親の写真をジッと見ていると写真立ての裏に『何か』が隠れていることに気づいた。

 俺はちょっと悪意も感じたが、これもご両親のご意向かと思い、その『何か』をそっと出してみた。


 一枚は場所はどこか判らないがご両親に連れられた夏村さんとご両親との写真だった。

『なかなか遊びに連れて行ってもらえなかったって言ってたけど、いい思い出あるじゃん』

 と思いながら、写真を眺めていた。


 そして、もう一枚。

 この写真を見て、俺は一度、目を凝らしてから見直した。

 写真の中にいる人に見覚えがあったからだ。

 このことで、俺は夏村さんの今までの不思議な言動が全てつながったと思った。


 その写真には俺の身近な人と一緒に撮った写真だった。

 

 俺は、頭をボリボリとかきむしりながら、

『ハイハイ、わかりましたよ! こりゃ、本当に輝かないと怒られるわ。がんばろう!』

 と思い、俺はこの二枚の写真を写真立ての後ろ側に静かに戻した。


 仏間は普段から夏村さんも気にかけていたらしく、奇麗に、また仏壇花も替えられ、新しいものになっていた。

 部屋の中は改めて掃除が必要ではないくらいきれいになっていた。

 俺は乾拭きだけして、その部屋を出る際、一礼した。

『お父さん、お母さん。沙羅さんは彼女との約束通り、俺が守ります』

 俺はご両親に約束をし、部屋を後にした。


 客間は、前回、晏菜と宿泊した際、俺が寝た場所だった。

 押入れを開くときちんとたたまれた布団の上にパジャマが一つ。

 洗濯されたものらしいが、着た形跡がない、新品のようである。

 誰か泊ったのか不安になってしまったが、全くの無駄な心配だった。

 この前のイブの夏村さんの誕生日デートの日は夜がディズニーランドから帰るのが遅くなると予測し、夏村さんは俺が夏村さんの家に泊まる時のためにと事前に準備をしていたことを後から聞かされた時はさすがの俺もちょっと引いてしまった。

 今日もこの部屋で寝ることになるだろうと思い、しっかりと掃除した。


 さて、夏村さんもキッチンが終わったので、リビングを掃除するというので、俺は残りの二部屋、ご両親の部屋とご両親が会社の方々と行った新年会が開かれたという大広間を担当することにした。

 夏村さんからは部屋にあるものは動かさないでくれと言われたので、動かさず、クイックルワイパーで埃を掃う程度にすることで了解を得た。


 ご両親の部屋に入る。

 俺もさすがに躊躇してしまい心の中で、

『沙羅さんとお付き合いさせていただいています高松和也と申します。入ります』

 と言ってから入った。

 部屋の中は二つに分かれており、中に入ると左側にお父さんの書斎と思われる部屋が、右側にご両親の寝室があった。

 壁にあるスイッチを付けると、多分亡くなられた時のままの状態で放置されていたと思われた。

 物の配置には生命感が残っているが、それに覆いかぶさった(ほこり)がその生命感を覆いかぶしていた。

 さすがにこの部屋には夏村さんは入れなかったのかと思うことが容易にわかるほどの埃が室内全体を覆っていた。

 それは大広間も同様であった。

 多分、新年会の席には夏村さんやお母さんも出席したのであろう。


 それを思い出したくない……

 それを覆いかぶしたい……


 そんな夏村さんの気持ちが俺の心に針のごとくチクチクと刺さっていた。

 しかし、この埃を(はら)ってしまっていいのだろうか?

 また、夏村さんが辛い思い出に打ちひしがれないだろうか?


『そのために今、お前はここにいるんじゃないの?』


 俺の心の声が俺の不安で縮こまった肩を押してくれた。


 お父さんの書斎の本の埃を掃っていく……

 お父さんの机の上の埃を掃っていく……

 お父さんの壁に掛けてある帽子の埃を掃っていく……

 掃除をすればするほど、部屋の中に生活感が戻ってくる。

 寝室も掃除が終わればいつでもご両親は帰ってきてもよいと思えるほどの生活感があふれてくるとともに俺の頬に涙が伝った。

『俺もお会いして正式にご挨拶したかったです。そして、ご両親にも喜んでもらいたかった……』


 大広間も同様。

 タタミを全部拭いて机やいすの埃を掃い、乾拭きで磨きをかける。

 数十分もやっていれば見違えるほどきれいになった。


 窓を開けてみる。

 そこから入った光が俺がここにいたことがないにも関わらず、生き生きとそこでの過去の気配を造影していく。

 栄枯盛衰。

 お父さんの兄弟で分割された会社となった『今』と兄弟手を取り合って頑張って来た『昔』。

 ここで行われていた新年会で夏村さんも笑顔で参加メンバーと会話している画像が目に浮かんでは涙で滲んでいく。

 人の人生はいつ何時どう変わるかわからない。

 だから、俺は夏村さんを絶対助けていく!

 今、彼女が背負っている悲しみより、もっと多くの楽しみを夏村さんに提供するんだと思うと、不思議と疲労も感じなくなってしまう。


 一通りの掃除を終わらせ、夏村さんの部屋に戻って来た俺を見て、夏村さんはこう言った。

「かずや~」

「はいよ!」

「どうした? 掃除していて、なんかいいものでもあったか? 要らないものならあげるよ」

「いや、掃除しながら、ここを使ったであろう色々な人たちと出会った。そこで、みんなに夏村さんを頼むって言われたよ!」

「そうか…… 

 みんなと会ってくれたんだな……

 お前、もしかして霊感とかあるのか? 

 俺の母さんを呼び出してくれ! 会いたい!」

 俺は青森恐山のイタコさんではない。

「冗談はさておき、今何時かわかっているか?」

 俺は時計を見る。十五時三十分?

「ごめん、夏村さん、お腹減ってない?」

「かずやがそう言うのを待ってたよ」


 俺と夏村さんはリビングでパスタを食べた。

 ソースも材料から作っている様で、とてもうまい。

 近所のパスタ屋よりもうまく感じた。

「ところで掃除はどうなっている?」

「あぁ、もう終わった」

「早いなぁ。食い終わったらチェックいくぞ!」

 オイオイ、チェックするならもう少しきれいにやったのに……

 でも自己評価では及第点だ。


 食事が終わると俺は休憩しろと夏村さんの部屋で待機させられ、夏村さんは本当に掃除状況を確認に行った。

 よく考えてみると俺一人でなかなか夏村さんの部屋に一人でいることは無い。

 アニメとかではよく女子が男子の部屋に来るとエロ本とかないか家探し(やさがし)することがあるが、男子は…… 絶対しない。

 タンスの中にどんな服や下着が入っているのか、すごく見たいが、男子はそういうことしないことにラブコメはなっているのだ。

 だが、待てよ?

 俺の部屋に夏村さんは来た時、妹の晏菜と一緒ではあったが、俺の部屋を家探しされたことを思い出した。

 ってことは、逆に俺も夏村さんの部屋を家探ししてもいいよね?

 俺はゆっくり腰を上げ、匍匐(ほふく)前進でタンスに向かおうとしたところで、夏村さんが部屋に戻って来た。

「お、お前、何やってんだ?」

「いえ、ちょっと、夏村さんの部屋の中が気になったもので……」

 なんでこんな時に正直に回答しているんだ、俺は!

「あー! お前、お前の部屋を俺が晏菜ちゃんと家探ししたから、お前も逆襲しようとしただろう?! エロ本とか変な道具とかないぞ!」

 変な道具というのはすごく気になったが、どうせ、夏村さんは耳年増であって、そんなものは絶対に隠していないと思っていた。

 しかし、すぐに謝らないと……

「いえ、そんな、たいそうなことは考えておりません……」

「よし、それじゃあ、お前の前で夜、俺の下着ショーやってやる! そしてムラムラさせてやる!!」

「すみません、それだけは勘弁を……」

 と俺の(はかな)い計画は崩れさった。

「でも、和也。ありがとう。俺一人だったら両親の部屋と大広間をあんなにきれいにはできなかったと思う」

「第三者だからできたんだと思うのだけど……

 でも、確かに夏村さんのお父さん、お母さんとお会いできたと思っているし、ご挨拶できたのも嬉しかった。本当に夏村さんとのお付き合い許してもらえた感じがしたよ」

「そうか、お父さん、お母さんは和也に会ってくれたか……

 良かった……

 良かったな……」

 この言葉には夏村さんにとって二つ意味があると感じた。

 俺がご両親に会えたことに対する、俺に向けての『よかったな』という喜び、

 ご両親が俺に会ってくれたことに対する、ご両親への『よかった』という感謝。

 そして沈黙の中、二人の心はご両親への感謝の気持ちでつながった。


「じゃあ、歌合戦するぞ!」

 と突然イベントを開始し始めた夏村さん。

「和也! ギター、ギター!」

 まぁ掃除も終わったことだし年末の余興を始めることにしたらしい。

「はい、はい」

 と言いながら俺はギターケースを開け、チューニングをする。

「この番組は夏村沙羅のリクエストによって構成されます」

 なんだ、リクエスト大会なのねと思いながら、リクエスト曲を待っていた。


「まず、かずやとの最初のバンド練習の時に弾いてくれた、『ヴァン・ディマンズ・ランド』をお願いします!」

「了解!」

 という感じで今まで、俺が歌った曲の中で夏村さんが好きな曲を選んでは俺が弾き語りをした。

 意外と夏村さん、サイモンとガーファンクルが好きなんだなぁと思った。まぁフォークギターと合うしね。

 で最後が、クラプトンの"Tears in Heaven"で締めくくりリクエスト大会は無事終了。

 よく考えてみると、学園祭で俺と和田さんがセッションした曲がお好きなようで、六割近くがそこからの選択であった。

 校内でも和田さんのセッションは特によかったと評価いただき、三学期になって軽音楽部から誘いが来るのだが、その話は後ほど改めてお話する。

当作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。

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編集記録

2022/09/30 4-2話を2分割し、校正、一部改稿

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