4-1話 アルバイト
【読者さまのコメント】
意気地無しな高松を叱り飛ばしてくれるのは晏菜しかいないっ!
夏村さんの頑張りを無視しちゃダメなのだ!
そして年末が近づき、高松家は忙しくなる。
アルバイトを雇うことになったのだけど、その人物はまさかの?!
う、ううう、浮気はダメだよーーー!!!
流石に気まずい…
さっき、あんな別れ方を夏村さんとしたことが気になってならない。
何しろ今日は夏村さんの誕生日だしね。
車の通りのない旧仲仙道を自宅に向かって歩いていても、この事が後ろからやってきては俺の体を通り抜けていく。
通り抜けていく時の感覚がとても気持ち悪い。
やっぱ、夏村さんと初めての…… をしておけば、よかったのだろうか?
でも、そうなると以前言った、卒業までの夏村さんとの約束を破ってしまう。
約束したのは、まあ、俺の方だけどね。
などと、色々考えては見たが回答は出ず、家にたどり着いた。
玄関を開けて、リビングダイニングに入ると、晏菜がテーブルに右腕をついてほおずえをしながらテレビを見ていた。
「おかえり〜」
と晏菜は気の抜けた様な声で俺に向かって声をかけた。
「遅くなった」
と俺は一言、晏菜に返事をした。
「おにぃ、何かあった?」
「えっ?何で?」
「デートから帰ってきて、その顔はないでしょう」
やはり、顔に出ていたらしい。
流石、晏菜先生、付き合いが長い。
「どうせ、おにぃの事だから、遅くなったから、泊まるかって沙羅ちゃんに誘われて、なんだか想像できるけど、おにぃが拒否って怒られたってパターンでしょう? 違う?!」
どうしてここまで細かく想像が当たってるんだ、こいつ、恐い……
「まあ、大体合ってる……」
「それで、そのまま帰ってきたの?」
「だって、あの分厚いドアを閉められてしまったんで……」
「ほーら、おにぃの陰キャ爆発! 最低! 死ね!」
「そこまで言います?」
「そんなの、もう一度、呼び出して、出てきたら、ギュッと抱きしめてあげるとか出来ないの! そして、『今日、僕からできるのはここまでだよ、約束だから……』とか言ったらいいじゃん! そうすれば、放置プレーよりよっぽどマシだよ! おにぃ、ダサ過ぎ!」
確かにそうですね……
「で、俺は……?」
「すぐ電話! そして明日、家でクリスマスのお食事会やるからと言って誘いなさい」
「えっ、明日そんなのあるの?」
「明日、クリスマス当日だからおにぃはデートで外出するだろうから夕食は要らないと考えて、友達と家でクリスマスパーティやる予定だったから、そこにゲストで2人を入れてあげますよ。その代わりにみんなのケーキ買ってよ! それとすぐに沙羅ちゃんに電話!」
「はい!」
(発信音)
「あっ和也です。もう寝てた?」
「いや、まだ寝れなかった」
やっぱ、夏村さんも寝れなかったんだねと思った。
その瞬間、夏村さんの方から切り出してきた。
「ごめん、俺も電話しようと思っていた。今更だけど女性として恥ずかしいことを言ってしまったと反省している。あの話は忘れてくれ。今考えても恥ずかしい……」
「こっちこそだよ、俺はあの時、他に沙羅が喜ぶことを考えることが出来なかった。ごめん」
「まだ、『沙羅』って呼んでくれたから、それで十分だよ」
そして、夏村さんに明日のクリスマスパーティーの話をしたところ、喜んで参加してくることとなった。
「晏菜ちゃんの友達ってことは、例の3人組だな。会うの久しぶりで楽しみだな」
といった感じで、晏菜直伝の深夜の電話作戦は功を奏した。
「何とか収まったな…… ありがとう!」
俺は晏菜に礼を言った。すると晏菜は、
「本当におにぃは女心分かんないんだから…… 勉強以外の勉強もしないとだめだよ! でも、クリスマス、沙羅ちゃんと一緒ならいいや!」
と言って喜んでいた。
翌日のクリスマスパーティへの急な参加となったが、三人組は喜んでくれた。
俺はケーキのほかに小さなミニチュアを各自に買ってプレゼントした。
もう相手は中学二年生、喜びはしないだろうと思ったが意外と喜んでくれた。
◇◇ 十二月二十六日 ◇◇
実家の花屋は年末、軒先を、改造して正月飾りの売り場を設置する。
そこでは門松や、しめ縄飾りやお供えの餅の下に敷く裏白、玄関飾りなどを販売する。
俺も妹も小学生時代からそこに立ち、お飾りの販売をしていた。
ただ幼い子供だけではということで父の出身の浦和商業高校の生徒をバイトに使うというのが、常だった。
流石に商業高校の生徒さん、毎年女子ばかり来るので、俺としては密かに楽しみにしていた。
今年はどんなお姉様が来るかと。
今年は俺も高校生だし、バイトは要らないはずだった(てか、そのバイト代、俺にくれよ)が、以前ウチでバイトした人の妹さんがどうしてもバイトしたいというのと、できるだけ安心できる所で働かせたいと言うご両親からの要望があり、白羽の矢がうちに来たらしい。
そんなことで二十八日だけに来てもらうことになったからお前、面倒見ろよと父から告げられた。
まあ、同学年か一つ上かなぁと考えていたが、いちいち仕事を一から教えるのも、面倒だし、一日でやれることは限られてしまう。
厄介者を預かった気分でしかないが、その方って女性じゃないよねと願った。
バイトが女子で俺がサポートとなれば、近所の目も怖いし、夏村さんの目も怖い。
急な話で、今日挨拶にうちに来るというので、まずは無害な地味系タイプの子が来ることを祈った。
定刻の十分くらい前に店のチャイムが鳴った。
父は立ち上がり店に向かった。
今年のコンビを組む人だ。
俺も顔を知らない訳にいかないため挨拶の場に立ち会った。
(店のほうから)
「ああ、こんにちは。恵さんの妹さんなんだってね。身長高いね~。どのくらいあるの……」
父の声がだんだんリビングダイニングに近づくにつれ、相手の声が聞いたことがあるというか、しょっちゅう聞いた声であることに気づいた。
「えっ!」
と俺は声を上げると、父の後ろから手をあげて
「やっほー! かずくん!」
と挨拶する井上さんが登場した。
井上さんのお姉さんは俺が中学一年のとき、バイトに来ていた井上恵さんであり、琴江さんはその妹なんだそうだ。
「あれ、かず、井上さんと知人か?」
「同じ高校の同級生で席も隣……」
「だったら、顔見知りということで明後日はかず、しっかり仕事教えて迷惑かけないように!」
俺は無言で了解した。
てか、迷惑かけないようにって何だ!
最初はじっと井上さんを見ていた晏菜であったが、井上さんは学校同様、相変わらずの物怖じのなさで晏菜に話しかけるものだから、さすがの晏菜も完全に井上さんのペースに引き込まれる。
そんな感じだから自然とうちの雰囲気は井上さんペースになっていく。
まぁ、誰からも嫌われないのが井上さんのいいところ。
和やかにみんなで話をしているところに、急に店の外に自転車がギーという急停車のような音がした。
すると、『こんにちは!』と息を切らした夏村さんの声が店先から聞こえた。
なぜ、こんな時に! と俺はびびっていたが、井上さんの表情を見ると全く動揺していない様子だった。
夏村さんはリビングダイニングをノックし、
「こんにちは、沙羅です」
と言い、扉を開けると井上さんと目が合ったと同時に夏村さんは井上さんを睨み、井上さんは夏村さんを優しい目で見た。
それが好対照だったので違和感を感じた。
なぜ夏村さんは井上さんがバイトに来るということを知ったのだろうか?
なぜ夏村さんの襲来を知っていたかの如く井上さんは対応しているのか?
夏村さんは入ってくるなり、こう言った。
「私もアルバイトさせてください!」
それには全員、えっ! となる。
夏村さんは少し怒りながら、俺を見て、
「おい、かずや! 水臭いぞ! 年末で手が足りないなら俺を真っ先に呼ぶのが道義じゃないか? 井上から挑戦状みたいなメールが来て『私、和也くんの家でバイトします』なんて書いてきやがったから飛んできた」
と怒鳴った。
そこで俺は夏村さんに弁明のため、
「っていうか、今年は俺一人でやろうと思ったんだけど、いつのまにか父がバイト受けちゃったので、沙羅には相談する暇が無くって……」
と言うと夏村さんは、俺の腕を引っ張った。
そしてこっそりと俺の耳元でこうささやいた。
「かずや、みんなの前で沙羅はやめろ! 照れる。その上井上もいるんだぞ!」
思わず吹き出す俺に夏村さんは軽く蹴りを入れる。
沈黙を決め込んでいた井上さんは、俺の方を見てこう言った。
「あぁ、私が夏村さんにバイトの話をしたの。どういう反応するかって!」
なるほど、この話を聞いた時の夏村さんの対応を見たかったのかと俺は思った。
「さて、どうするの?」
俺は父に尋ねた。
父は夏村さんに聞いた。
「夏村さんはいつ来れるの?」
「はい、今日からでも大丈夫です。ここはもう私の家のようなもんですから」
と言いながら、井上さんを見る夏村さん。
そんなところで胸を張ってどうするのと少し笑ってしまった。
「どうする、和也?」
父が俺に質問すると、俺は、
「二十八日だけ、井上さんには店を手伝ってもらって、夏村さんには明日から来てもらって、うちで準備しなくてはいけない輪飾り(角松に飾る、わらでつくった簡単な飾り)とか、店番とかしてもらうってどうかな?」
と提案した。すると父は、
「いいんじゃないか。うちで作らなくてはいけないものを今から沙羅ちゃんに知っておいてもらうと、お嫁さんに来た時、楽だしな」
と冗談ぽく言うと、夏村さんは、
「おう、任せてください。嫁入り修行の一環としてがんばります」
と胸を張った。
その後、先に夏村さんの具体的なスケジュールを伝えると彼女は帰っていった。
父と夏村さんを見送りに店先に出ている間に、
「ほんと、夏村さんとかずくんの仲っておもしろいよね」
と井上さんはボソッと言った。そして、
「かずくんさあ、こんな関係だと夏村さんに束縛されているって感じはないの? 大人だとがまんできるけど、高校生だと『重い』って感じたりしないの?」
と聞いてきた。俺は少し考えながら、
「うん、束縛とか重いって感覚は無いんだ。お互い言いたいこと言い合えてるし、もちろん昨日も喧嘩はしたしね。たぶん信じあえてるからかな。相手を疑ってみたり、相手に気を使って対応する必要がないから、疲れないんだ、夏村さんって」
と言った。すると、井上さんは戻って来た両親にこう言った。
「で、お父さんお母さんは夏村さんをどのくらい信じているっていうか…… 元ヤンキーな訳じゃないですか」
という井上さんの質問に母はこう答えた。
「あの子はすでにうちの子だと思っているのよ。あの子の友達が事件に巻き込まれた時、頼ってくれたのはうちだったし、不安なことや、がんばったことえを真っ先に報告してくれたのはうちだったの。そこまで頼られたら『うちの子』じゃないって疑えないじゃない。下手したら色々なこと起してくる和也より沙羅ちゃんの方が家族としては楽」
「悪りーな!」
と俺がいうとみんなで爆笑した。
(こりゃあ、かずくんと夏村さんとの関係って想像以上だな。知れば知るほどおもしろい(笑))
井上さんはこそりと笑った。
「では、二十八日宜しくお願いいたします」
◇◇ 十二月二十七日 ◇◇
さて、バイト初日の夏村さんは、リビングダイニングに敷いたビニールシートの上に座り、母から輪飾りの作り方を教わっていた。
一方、俺は玄関飾りと呼ばれる玉飾りを作っていた。
輪飾りは地方によって形は様々であるが、浦和では三本の藁を編み込み、上部で円形にし、そこから間隔を開けて、各藁を一本ずつ、垂らした形の藁細工を購入してきて、自宅で裏白という、シダ科の植物の葉で、裏側が白いことから裏白と呼ばれるそうだが、それと、ユズリハという、多分ミカンと同じ種類の植物の葉、半紙で作った紙垂を裏白の中心にまとめて、藁細工に、縛って完成になる。
この輪飾りを何百という数作ることに夏村さんは挑戦した。
この輪飾り、すべてのパーツが揃っていれば良いというものではなく、各パーツのバランスが重要になる。裏白がデカくて、ユズリハが小さくては、バランスが悪い。
そのへんを考えながら、山と積まれた裏白、ユズリハ、藁細工、紙垂、そして各パーツを留める針金をセレクションし、作り上げていく。
始めのうちは母から問題点を指摘されていたが、次第に慣れてくると、売れる形になってくる。
「もう大丈夫、これなら商品になるよ」
と母に褒められたのが嬉しくなったのか、夏村さんは休みもせず、輪飾りを作っていった。
裏白はシダ科の植物ということもあり、乾燥に弱い。
作ってはゴミを入れるような大きな袋に、パーツが傷つかないように入れていく。
「沙羅ちゃん、どう? こんなことが全部出来上がるまで続くんだけど」
「ええ、楽しいですよ。自分の作ったものが商品として売られていくなんて経験ないんで、凄く勉強になります」
「勉強なんて大したもんじゃないけど、喜んでくれたら良かった」
母も喜んでくれたようだ。
しかし、母にも二人になったからこそ言える、心配なことがあったようで、
「家はこんな汚いところだし、あんな出来損ないの息子だけど、本当に沙羅ちゃん、和也でいいの?」
と質問したが、夏村さんは即答して、
「すべてがかずやさんの一部ですから。嫌いな要素なんてないですよ。私からお付き合いをお願いしたくらいですから」
「あれ、和也からお願いしたって聞いてたけど?」
「お母様には言っておきますけど……」
そこで何が言われたのかは分からない。
母は頷き、
「わかった、じゃあ、和也にも変わらないように頑張らせないとね」
と言った。
そして、次は俺の担当、玄関飾り。
浦和では玉飾りと言われていたが、輪飾りよりも、何倍も藁を使い、円の部分はしめ縄で円の形を作ったような形で、そこから下がる藁も輪飾りでは三本の藁だか、玉飾りは何十本もの藁が束で垂れ下がっている。
円形のところには竹の楊枝を刺してそこに橙を固定し、『寿』とか書かれた扇子や、装飾品を橙に刺す。
そして、橙からは裏白、ユズリハ、海老・昆布・紅白の御幣などさまざまな縁起物を華やかに飾り付けて完成だ。
多分大きな会社などは正月入り口に飾ってあるデカい飾りがそうである。
それを家で作っている。
もちろん下地の藁細工は購入したものである。
昔は母が作っていたが、結構力仕事のため、今は俺が作っていた。
作業は二階の俺の部屋でやっている。
この飾りも裏白を使っている為、あまり空気を乾燥させたくない。
よって室内は暖房は付けず、加湿器だけが元気よく湯気を上げていた。
たまに、母に休憩を取れと言われて、わざわざ俺の部屋に上がってきては話をしてくれる夏村さんの存在は、昨年まで孤独の作業だったものを楽しいものにしてくれた。
俺が作ったものを見ては夏村さんは褒めてくれるからだ。
『和也はすごいものを作れるんだなぁ』と。
ところで父と妹だが、父は配達、妹は仏壇花のセットをしているので、決して暇はしていない。
◇◇ 十二月二十八日 ◇◇
いよいよ、お飾りの販売開始日となった。
俺は井上さんが来る前に店横の玄関前に長テーブルを置き、そこに神棚に飾るしめ縄をサイズごとに並べ、価格を書いたカードを作り置いていく。
そして一番端には夏村さんが作った輪飾りを並べた。
いつもなら店をやりながら作るのが常であったが、夏村さんがいたおかげで今年は余裕ができそうだ。
そして、門松を店から引っ張り出し、サイズや枝っぷりが似ているものを対にし、紐で縛り、テーブルに立てかけた。
門松には松ヤニがつきもので、くっつくと接着剤がついたように手に付いてしまうので、年末の仕事は手が必ず汚れてしまう。
また、商品を包むのも新聞紙だ。
これも手を汚す要因ではあるが、井上さんは面談の時、
「練習でいつも手はボロボロなんで、平気です」
と言っていた。
井上さんはいいとして(失礼!)、夏村さんの手が汚れるなんて…… と思っていたが、夏村さんは問題ないと言っていた。
そして、玄関の壁にフックがやたらついているのでそこに俺が作った玄関飾りを置いて準備完了である。
その後、井上さんが来て、流れを説明し、レジ打ちの仕方も教えたが、すぐ理解してくれた。
その上、午前中は俺が付いて販売をさせたが、人との対応も良く、暗算も的確で、客からの印象も良かった。
一方、客が居ないときは、逆に俺が井上さんから夏村さんとの関係を根掘り葉掘り聞かれた。
話しているうちに、この人には夏村さんと異なった安心感があることに気付かされた。
夏村さんと話す真面目な話……
井上さんと話すバカ話……
両極端過ぎてとても新鮮な感覚だった。
でも、話していて不思議と安心感があった。
相変わらず夏村さんは輪飾りと、交戦中であったが、昼休みは夏村さん、井上さんを母は分けて取らせた。
やはり二人に気を使ったのだろう。
夏村さんの昼休みには晏菜を、井上さんの昼休みには俺が食卓についた。
相変わらず歯切れのいいギャグで周りを和ませる井上さんを両親は気にいったようだ。
はじめは井上さんの学校でのことやクラブのことを話していたが、次第と学校での俺と夏村さんの話題に変えていく。
井上さんは冗談交じりに話してはいたが、その内容は『観察』だけであり、井上さんからの『感想』はなかった。
事象を説明し、それに対する自分の感想は一切話さなかった。
それは俺がサッカー部を始めて初めての朝練で部室棟の前で会った時とは全く違う、あの時は脚色だらけであったが、今は、現実の事象のみだ。
感想を付け加えてしまうと事実が脚色されたものになってしまう。
それを井上さんは家族の前だからこそ脚色無しで説明したいのだろうと考えた時、井上さんの凄さを感じてしまった。
さんざ話をした後、井上さんは店に戻っていた。
俺は井上さんの後を追い、店に行った。
「やっぱ、なんだかんだ言ってもご両親、かずくんと夏村さんのことを気にしているんだね。だから、二人の活躍を聞いている時のご両親、楽しそうだったもの」
そう井上さんは言った。
その言葉が井上さんのリビングダイニングでの発言を総括していると俺は思った。
「やっぱ、井上さん。人の観察力と場のコントロール、メチャクチャすごいわ」
と俺は感想を言うと、井上さんは、
「まぁ、私はスポーツやってるから相手との駆け引きは得意だよ。まぁ、そう言う、かずくんもサッカー部の件ではなかなかだったけどね(笑)」
と言って返した。
この人には勝てないやと思った。
「じゃあ、午後もがんばろうか!」
俺が店の対応をしているとき、急に自転車の止まる音がした。
その方向を見ると、多江ちゃんがびっくりした顔をしてこちらを見ていた。
「な、なんで、井上さんがかずくんの家にいるの?」
「夏村さんに負けないように嫁入り修行中!」
と井上さんが言うもんだから、さらに多江ちゃんはびっくりしていた。
「かずくんって井上さんとも付き合っているの?!」
「いやいや、夏村さんは奥で別の仕事をしているよ。井上さんはバイトで来てくれたんだ」
「かずくんもいい身分だよね。両天秤んだなんて、他の人たちに言ってやろう!」
「どうか、ご勘弁を!」
「知らない!」
といい、ちょっと怒った感じで自転車に乗り店を離れた。
「小倉さんに嫌われちゃったなぁ。かずくん、夏村さんの前は小倉さん狙いだったでしょう? 知ってんだよ~」
いやらしい目つきでこちらを見る井上さん。
図星だったので何も言えなかった。
井上さんには十七時に上がってもらい、給与を渡し、俺は途中まで送っていった。
すると井上さんから今回のバイトについて意外な言葉を聞いた。
「やぁ、実はバイトは口実。普段のかずくんと夏村さんが見たかったのと、ご両親に会ってみたかったのが理由なんだ。やっぱ、かずくんと夏村さんっておもしろいわ! それとそれを認めているご家族も! もちろん、バイトも楽しかったけど、家でのかずくんと夏村さんのやり取り、下手な夫婦以上だもんね。ここまでくると焼けないよ。当然な感じがした」
「そうだったんだ。満足した?」
「楽しかったから、これらも絡んでね! そういえば……」
「何よ?」
「かずくんって、恵ねえちゃんのこと、好きじゃなかった?」
「ぶっちゃけ、好きなタイプかな? 年上でキレイだったし」
「じゃ、恵ねえさんに報告しておこうっと! 恵ねえさん、今彼氏いないよ。私より胸大きいし」
「(それはいいなぁ、じゃなくて)今の俺には夏村さんがいるんでいいです。じゃあ、よいお年を!」
「よいお年を! てか、来年もバイトさせてってご両親に伝えておいて! 二人の関係がどう変わるか見てみたい」
「わかった!」
テクテクと駅の方向に歩いて行く井上さんは四、五歩歩いた後で振り返り、こう言った。
「もしかずくんが夏村さんと出会う前に私と出会ってたらどうなったかな?」
と、井上さんは言った。俺はすぐさま、
「出会ったのは席が隣という理由で、夏村さんより井上さんが先だけど、入学してから井上さんといっぱい話し始めたのって、夏休み明け以降じゃないかな? それまで話さなかったってことはどうにもなってなかったんじゃないかな?」
と答えた。
「じゃあ、もっと前にかずくんに声を掛けていればよかったな! じゃあね、よいお年を!」
見送る後姿には、楽しいものを見た様な雰囲気が井上さんには出ていた。
ただ最後に言った意味深な内容は何なんだ?
以前、かずくんとは付き合いたいとは思っていないんだと言っていたし。
井上さん得意のからかいかと思い、はいはいと思った。
今日は、井上さん、本当にありがとう。
家に戻るとリビングダイニングは片付いており、テーブルの上には近所のレストランからヒレカツ定食が運ばれていた。
俺は席に着きながらこう言った。
「井上さん、また来年も働きたいって!」
「いい子だからいいんじゃない?」
そして父がこう言った。
「こりゃ、沙羅ちゃんも学校にあんな子がかずの隣に居たらウカウカできないな」
しかし、そこは夏村さん。
「大丈夫です。私と和也さんは両家から認められた夫婦みたいなものですから」
と切り捨てる。
そこで俺は、こう確認する。
「そこまでお祖父さん言ってたっけ?」
そこに晏菜が追加攻撃を企てる。
「私、お姉さん、井上さんでもいいよ!」
「お前、裏切るのか?!」
本当に夏村さんも家族の一員のような会話だなと思いながら、井上さんが言ったことを思い出していた。
『下手な夫婦以上』か……(笑)
◇◇ 十二月三十日 ◇◇
「もう、売るものなくなっちゃったから、店閉めるか」
本当に今年はよくお飾り関係が売れた。
二十八日には井上さん、二十九、三十日は夏村さんが店頭に立てば、そりゃ客は足を止めるに決まっている。
井上さんはお客様を包み込む雰囲気をもっている。
夏村さんはお客様を虜にする雰囲気をもっている。
真逆だ。
ただ、夏村さんを店に立たせるには注意が必要だ。
客の中には冷やかしもいるわけだが、そういう人には攻撃をしかけようとする。
その上、浦和にも暴〇団関係の事務所があって、その部下の人がベンツでやってきて、店にお榊を買いに来た時、思わずその雰囲気を感じた夏村さんが、
「俺が片付けます」
と言って臨戦態勢に移ったが、母に対するその人の対応が優しかったので、拍子抜けしていた。母は、
「そういう関係の人でも根はいい子も多いから恐れてもダメだし、敵対心を持ってもダメよ」
と夏村さんをなだめることを言っていた。
実際、俺もお客様で何人かの関係者は知っていたが、全員怖そうな目つきであったが、対応はやさしいお兄さんって感じであった。
(そんなことを言っている自分も現在の法ではやばいんじゃないか?(笑))
たぶん、母も外見で人を判断するなと夏村さんに言いたかったのであろう。
初めて夏村さんが来た時、一番あたふたしたのは母だったのだが。
バイトも終わり、バイト代を夏村さんに父が渡し、夏村さんを送って行こうとした時、母はこう言った。
「元旦は沙羅ちゃん、初詣は調神社でしょ? だったら、明日、和也貸すから大掃除させて、沙羅ちゃん家に泊まって一緒に初詣行ったら? 調神社って沙羅ちゃんの家のそばじゃないの?」
と、とんでもないことを言った。
「ほ、ほ、本当に和也さんをお借りしてもよいのでしょうか?(ガタガタ)」
と緊張した夏村さん。
返事が裏返っていた。
さらに母は追撃する。
「いいわよ。沙羅ちゃん、今日までがんばったんだから甘えさせてもらいなさい!」
すると、晏菜の禁止用語発言!
「やばい、沙羅ちゃん、(ピー!)の危機!」
完全に真っ赤になった夏村さんは、
「晏菜、お前何言ってるんだ、わ、わ、私は……」
とつまると、父まで、
「まぁ、いいから、和也貸すんで煮るなり焼くなりしてやってくれ!」
「おとうさんまで! え~!」
そして、夏村さんは俺に助けを求めてくる。
「かずやは?」
こんな時は俺も躊躇なく、
「俺はいいけど?!」
と畳みかける。そして、最後の追撃が晏菜から出る。
「じゃあ、決定! 沙羅ちゃん、おにぃを頼むね! 今回は私は行かないので、ご・ゆ・っ・く・り……」
「ぎゃ~! じゃあ、よろしくお願いします!」
ということで、大晦日と俺と夏村さんは夏村さんの家で過ごすことになった。
高校生がこんなことしちゃっていいのであろうか?
当作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。
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編集記録
2022/09/29 校正、一部改稿




