3-23話 初めての誕生日デート
【読者さまのコメント】
今日は大イベント!
そう、夏村さんの誕生日だ!!!
もちろん高松、抜かりない。
カップルのデートといえば定番の夢の国だぁぁぁぁぁ!!!
プランだって完璧だぜ!!!
高松は夏村さんの笑顔のためなら、なんだってする!
お誕生日、おめでとう!!!
夏村さんのお祖父さんお祖母さんが帰った後、夏村さんはしばらく俺の家の家族とも会っていなかったため、ゆっくり話をしていたが、やはり別れの時間はやってくる。
俺は夏村さんを送っていくと言って家を出た。
さすがに、十二月。
外を吹き抜ける北風が冷たい。
明日はクリスマスイブか…… それと……
俺は夏村さんに向かってこう言った。
「夏村さんは明日、時間ありますか?」
「もちろん、空いてるぞ。明日はかずやを独り占めに出来る日だ!」
「どういうこと?」
「明日は俺の誕生日だから、プレゼントはかずやが一日一緒にいることだ」
「それでいいの?」
「それじゃ嫌か?」
「嫌じゃないけど、もっと思い出深いものにしたいなぁと。付き合い始めて最初の誕生日だし……」
「なるほど、それでかずやは何か妙案を思いついたのか? しょうがない、エッチするか?」
「しないっちゅうの!! 実は…… TDR行くとか…… 考えまして…… 私も恥ずかしながら…… 行ったことがなくて……」
「なんだ? その略語は?」
「えっ?」
「えっ? ってなんだよ?」
「もしかして、TDR知らないとか?」
「知らん……」
………
意外な返答に俺は大笑いしてしまった。
「てめぇ! 何笑ってんだよ! 教えろよ!」
「東京ディズニーリゾートの略! 夢と魔法の国だよ!」
「馬鹿! そのぐらい知ってるわ! 変に略するからわかんねぇんだよ! ディズニーリゾート…… 知ってるに決まってるだろう…… (行ったことないけど)」
「夏村さん、何か言いました?」
「知ってるけど、行ったことねぇって言ってんだよ」
「じゃあ、一緒に行かない?」
「よし、行こう! 本当に夢と魔法の国なんだよなぁ?! もし違ったら、お前に罰金課すからな! 結納金倍額だ!」
こんな掛け合い漫才のようなやり取りで明日、東京ディズニーランドに行くことに決まった。
俺の家の朝は早い。
父が早朝から生花市場に行くので七時には店は開いている。
でも今日はそれよりも早い六時に俺の家に集合の約束をしていた。
夏村さんのことだ。
約束より早く来ることは分かっていたので十五分前に家の玄関を出ると、すでに黒のロングコートを着た夏村さんが待っていた。
「ちょっと早くないですか?」
「いいだろう! 早くかずやに会いたかったんだ! 悪いか?!」
「全然、じゃあ、家に入ってよ。俺、部屋から荷物持ってくるから」
と言って、結局六時十分前には家を出た。
二人の姿を見た近所のお寺の猫もにゃーにゃー騒いでいた。
行ってらっしゃいと言っているかのごとく。
さて、JR浦和駅からだとTDRがある舞浜には三つの方法がある。
俺たちは上野湘南ラインに乗って東京まで行き、そこから京葉線に乗り換える方法で向かった。
浦和駅で電車を待っている間、夏村さんはこう言った。
「昨日で両家承認の仲になった訳だ。それと今日は俺の誕生日ということを含めて俺の言うことを聞いてくれ」
いきなり、命令炸裂ですか?
「いったい何を……?」
「今日は『夏村さん』はやめてくれ。沙羅って呼んでくれ……」
そういえば、俺が告白してからもずっと『夏村さん』の方がぴったりだったのでそう呼んでいたのと、『沙羅』と呼ぶと夏村さんが真剣に照れてしまうため、『沙羅』って、どさくさにまぎれた時以外は呼んだことがなかった。
ご存知のように、俺の家族はすでに『沙羅ちゃん』と呼んでいた。
どんな心境の変化か……
「じゃあ、沙羅」
「はい! じゃねぇ、す~げぇ、きもちいい! もう一回言え!」
「沙羅!」
「よし! 心は決まった。今日はこれでいくぞ。それと」
「それと?」
「俺の手を握って離さないこと。その手を使うときは別だけどな」
一瞬で俺は真っ赤になってしまう。
「あのう、どさくさで握ったことはあるのですが、ずっととなると、手汗とか……」
「ば~か、かずやの手汗なんか汚くねぇよ。これからキスとかエッチしたらもっとすごい液体と出くわすからな! 全然大丈夫だ!」
俺は夏村さんがとんでもないことをホームで言うから一瞬で眠気が覚めた。
周りを見渡したが話の内容に気付いている人はいなかった、よかった。
「じゃあ、手を握れ!」
「はい!」
自宅から約一時間半でディズニーランドに到着した。
開場は八時からだが、もうかなりの人がならんでおり、人出に二人はびっくりした。
すでに入場券は二枚事前に購入しており、一枚を夏村さんに手渡した。
実は今日の行動計画をある人に立ててもらっていた。
井上さんだ。
井上さんは彼氏はいないのだが部の仲間と何度もディズニーランドには来たことがあるらしく、メモとアプリの使い方と非常時のラインの連絡先を教えてくれていた。
すでに二人のチケットのバーコードはアプリに登録されており、昼と夜のレストランの予約も済んでいた。
今日はクリスマスシーズンなので当日予約ではレストランがとれないそうだ。
これは今は夏村さんには内緒。
しかし、かれこれ二時間近く左手は夏村さんとつないだまま……
「夏村さん、やはり手の汗が気になりますので、一回手をハンカチで拭いていいですか」
「じゃあ、俺のハンカチ使え。二人の汗のミックス…… 考えただけでこのハンカチ使うと子供ができそう……」
どういう思考回路だ!
というかもう子供が出来てもいいような口ぶりで俺は心底怖かった。
なんか、お祖父さんお祖母さんに許可をもらってから夏村さんの積極性がさらに強くなった感じがした。
ゲート前に並んでいると、前日もディズニーランドに来た家族らしき人が頭にキャラの耳の形をしたカチューシャをしていた。
「かずや、あれって、なんだ?」
「ディズニーのキャラクターと一体化するためによく来園者が買うカチューシャっていうらしいよ」
「そうか…… かわいいなぁ、俺もほしい……」
そんな言葉が出てくるとは思いもよらず、俺はびっくりしたが、夏村さん、可愛いだろうなあと想像した。
ところで、夏村さんが買うということは俺も買うってわけですよね……
「じゃあ、あとでショップ行ったら、何が似合うかチェックしてあげるよ」
「本当か?! 楽しみだなぁ! じゃあ、お前の分は俺が見てやる」
やっぱ、俺の分も買うんだ……
以前は、キャストさんが紙の日程表とマップを配っていたらしいが、最近はアプリの発達ですべてアプリで乗るアトラクションの予約をしなくてはいけないらしい。
この辺も井上さんに教わっていたため、アプリを夏村さんに見せていて教えた。
「こんなに遊ぶところがあるのか? 一日で回れるのか? 回れなかったらどうするんだ」
と夏村さんの質問の連続。
ちょっと調べるねと言い、朝早いが井上さんをラインで呼び出し、いろいろと聞いてみる。
井上さんも二人の混乱ぶりを楽しがっているらしく喜んで教えてくれている。
「ところで、ランドの隣にディズニーシーっていうのもあるんだなぁ。楽しかったらまた来ような」
まだディズニーランドに入場もしていないのに夏村さんのこの喜びぶりは見ていて楽しい。
「ところで、俺たちの後ろにモノレールの駅があって、その後ろにでかい建物があるが、あれはなんだ?」
「ディズニーランドが運営してるホテルかな。モノレールの沿線には七、八個ホテルがあって、連泊で楽しむ人もいるらしいよ」
「遊園地で遊んで、ホテルで楽しんで、翌日も遊園地か! すごいなぁ! 次回はホテルに泊まって二連チャンだ! 今日でもいいぞ。心の準備はいつでもできている」
「今日はクリスマスなんで予約でいっぱいだよ」
「なに?! お前、俺に内緒で泊まる調査もしていたのか! お前もついに性に目覚めたか?!」
「目覚めてないわ!」
…… と馬鹿な話をしている間に開場時間になった。
入場方法も知らず、係の人に二次元バーコードの読み取り方を教わり、中に入ると、ワールドバザールの入り口の看板が見え、手前の広場のいろいろなところでキャラクターが写真をどうぞと待っている。
「お~、ここが夢と魔法の国か! 浦和駅前のバス停のところのツリーとは桁がちがう。別世界だなぁ!」
いちいち比較対照が浦和なのが笑えてしまう。
ワールドバザールの中央部にはバカでかいクリスマスツリーが飾り付けられていた。
そこで写真をと夏村さんはせがんだが、ここは東京ディズニーランド、行動の順序がある。
まず、予約しないと乗れないアトラクションのプーさんのハニーハントの予約を入れ、興奮覚めあらぬ夏村さんの手を引っ張りながら、モンスターズインクのスタンバイに並ぶ。
そこで、モンスターズインクのストーリーを夏村さんに話し、カートに乗ったら自分の手にしたライトをモンスターに当てるというルールを説明した。
並んでいる間も、いろいろなナレーションが聞こえ、それを俺が説明していく。
俺もアニメオタクなのでディズニー映画は何度も見ているからだ。
カートに乗り込み、楽しそうに標的にライトを当てる夏村さん。
最後、ボスキャラのロズ・ボブ・ビーの前で止まった時、ロズから
『二番目のお嬢ちゃん、とてもかわいいけどモンスターの仲間にはいらない~』
と言われた。
見回すと、二番目のカートは俺たちであり、お嬢ちゃんは夏村さんだと、同じ番で乗っていた人たちが夏村さんを見て笑った。
「俺、モンスターにスカウトされたのか?!」
と夏村さんは大喜びだった。
アトラクションの出口から出るなり、
「かずや、楽しいなぁ、こんなところがあったんだな。俺んち、父も母も忙しい人でこういうところ一緒に来たことなかったんだ」
「じゃあ、その分、俺が沙羅をいろんなところに連れて行くよ! 俺も行ったことないけど(笑)」
「お前、俺の両親かよ…… てか、もう一度、俺のこと、呼んでくれ!」
「沙羅!」
「あいよ!」
お前は寿司屋の大将か、と思ったところで、夏村さんは俺の腕を抱き寄せてこう言った。
「やっぱ、好きな人に名前でよばれるっていいな」
次に、トイストーリーのバズライトイヤーのアトラクションに乗った。
シューティングもので夏村さんはかなり自信があったみたいだが低得点の標的ばかり狙ったおかげで、俺の楽勝だった。
『お前、最初から得点の高いの教えておけよ!』って、通路の壁に書いてあったんだけどね。
そこから、しばし歩き、ホーンテッドマンションに着く。
外装はクリスマスバージョンになっており、『ホリデーナイトメアー』と呼ばれる構成になっていた。
俺自身、原作である『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』を観たことがなく、夏村さんにはお化け屋敷だと言って、引き込んだが、思いの外楽しんでくれたらしく、すごいきれいだったとか、席が後ろに倒れたり、楽しかったなあと喜んでくれた。
ホーンテッドマンションを出ると、目の前のダンボのアトラクションの前の空き地に立ち止まる。
「おい、別のところにいこうぜ!」
と夏村さんは急かしたが、
「これから寒いですが四十五分程度こちらでお待ち下さい」
といい、俺はトイレに行くと言い、その場に夏村さんを待たせておいた。
夏村さんを待たせている間に俺は温かいココアを二つ買い、場所に戻ると、夏村さんは
「もしかして気を利かせて買いに行ってくれたのか? あ・り・が・と』
と言った。
「でも、一つのカップ、共有でもよかったんだぞ」
頬を赤くして少し恥じらいながら礼を言う夏村さん、可愛いです!
そこに低い声の男性の声であと三十分でクリスマスパレードが始まることを告げるアナウンスがあった。
「ここで待ったのは、パレードを見るためか? 事前に並ばないと見れないのか?」
と言いながら周りを夏村さんは見ると、すでに周りは人たがりになっていた。
「よく、事前に調べてくれたな! ありがとう!」
という夏村さんに向かって、俺は
「パレード見てから感謝してね」
といった。
バレードが始まると、音響がすべてフロートとシンクロして演奏され、フロートの上からキャラが手を振ってくれる。
こういうパレードはミッキーマウスとミニーマウスは同じフロートに乗る。
周りからは『ミッキー!』、『ミニー!』と一斉に声がかかる。
俺は『夏村さんもみんなと同じ様に声かけてみたら?』と言ったところ、ちょっと恥ずかしそうに『ミッキー!』と声を掛け、手を振った。
すると偶然ミッキーマウスがこちらを向き、夏村さんの方向に手を降ってくれた。
びっくりした夏村さんは俺のダウンの裾を引っ張りながら、
「かずや、ミッキーマウス、こっち向いて手を振ってくれたぞ!」
と、めちゃ喜んでくれた。
ミッキーマウス、グッジョブ!
フロートがすべて通り過ぎ、座っていた人達が立ち始めたが、しばし夏村さんは、ポカ~ンとしていので、
「どうしたの?」
と聞くと、夏村さんは、
「やはり、ここは夢の国だなあ」
と感動していた。
よほど、ミッキーマウスの対応に感動したのだろう、その時の夏村さんの顔を見れただけでもラッキーだった。
「少しお腹空かない?」
と夏村さんに聞くと、
「腹は減ったが、胸は一杯だなぁ〜」
といっていた。
「じゃあ、次行きますか?」
と言い、パレードを見た場所からすぐのところにあるホースシュー・ラウンドアップに行った。
その入り口に並び、スタッフさんの指示に従い、中に入り、指示された場所に座る。
「西部劇に出てくるようなところだなぁ」
と夏村さんが言うので
「ここでお昼をいただきますね」
と俺は言った。
「ここはレストランなんか?」
と聞かれたので
「食事が終わったらのお楽しみ!」
俺はと答えた。
そこでの食事も終わりにかかった頃、会場が暗くなり、ショーが始まった。
ショーの進行とともに、持っていたナプキンなどを音楽に合わせて振ったり、手拍子したりと楽しいショーであった。
こういうのは夏村さんはどうなのかなぁと思ったが、意外とノリノリであった。
まあ、学園祭でのうちのバンドの演奏のときもかなり乗ってくれていたし、こういうことが一緒に楽しめる人なんだと言うことも収穫だった。
会場から出た夏村さんは、
「あんなの、自由に入れるのか?」
と聞いてきたので、
「事前に調べて予約した」
と言った。
すると夏村さんは表情を曇らせ、
「こういうこと、俺、何も知らなくってゴメンな…… もっと知ってる奴とくればもっと楽しめたのにな……」
とこぼしたが、俺は
「沙羅といっしょだから、俺は楽しいんだよ。楽しんでいる姿を見ていてとても幸せだった」
と答えた。
「よし、今日は、和也におんぶにだっこだ! どこへでも連れて行け! 本当に夢の国だな、ここは!」
という割り切った時の夏村さんの楽しそうな姿を拝めているここが俺にとっての夢と魔法の国だと思った。
少し腹ごなしにイッツ・ア・スモールワールドを回り、いよいよ、コースター系の連チャン、スペースマウンテン、スプラッシュマウンテン、ビッグサンダー・マウンテンと回ると俺は少し気分が悪くなったが、夏村さんは平気そうで『次はどこだ!』とノリノリだった。
そういえば、ショップで夏村さんはミニーマウスのカチューシャ、俺はプーさんに出てくるイーヨというロバのカチューシャを買った。
(なんで、俺、ロバなの?)
夕方のランドの中をゆっくりと列車は走っていく。
ウエスタンリバー鉄道だ。
ちょっと蒸気の音がうるさく、車輪のサスペンションがないらしく、座っていると振動でお尻が痛くなったが、一休みするにはちょうど良かった。
しかし、汽車に乗っている最中、なぜ恐竜の世界に入っていったのか、未だに理解できなかったが、夏村さんは終始、俺の手を握ったまま外を見ていた。
夕日に映えた夏村さんの瞳の輝き……
俺はしっかり網膜に刻み付けた。
その後のジャングルクルーズもクルーさんの掛け声に合わせて、夏村さんは歓声を上げていた。
洞窟内の『サルの神』が光るところや、ゾウの水浴び場のところなどは特に喜んでいた。
普段の夏村さんも夏村さん。
今日の夏村さんも夏村さんだ。
今更ながら、俺はアトラクションに注意が行っておらず、詳細は覚えていない。
だが、終始、夏村さんの行動を眺めていたことに気づいた。
でも、こんな楽しみ方もあるよなと一人納得した。
一秒も逃さず、終始変化する夏村さんの表情を楽しんでいた。
カリブの海賊では、その中に出てくるジャック・スパロウの人形を見ては、ジョニー・デップがいるぞと喜ぶ夏村さん。
夏村さん、自宅にテレビがなく、携帯で映画を見ているらしく、ジョニー・デップの名前が出てきたのにはびっくりした。
そのアトラクションのそばにあるグレート・アメリカン・ワッフルカンパニーでミッキーマウスの顔の形のしたワッフルに喜ぶ夏村さん。
それはいつも学校で見る夏村さんと違って新鮮だった。
スタンバイパスの取り方がうまかったらしく、名物と言われるライド物はすべて乗れた。
あとはシンデレラ城前のイベント二つ。
抽選で当たって、シンデレラ城の前に配置された席に座った二人。
「これから何が始まるんだ?」
と夏村さんは気にしていたが、始まってからのお楽しみ!
俺は席を離れ、温かいコーヒーを二つ買ってきた。
「お前、まだカップ一つに抵抗があるんだな。よし、半分飲んだらお互いのコップ交換な! これでかずやの免疫ができるし、子供ができるかもしれない」
間接キスで子供はできませんので! でも間接でも照れてしまう。
そして、シンデレラ城前の電気がすべて消され、シンデレラ城に光線が当てられ、映画のようなものが上映される。
いわゆるプロジェックション・マッピングだった。
内容はディズニーの思い『夢は必ずかなう』であった。
それをじっと見つめる夏村さん。俺はその夏村さんの瞳に映った映像を眺めていた。
拍手とともに花火が上がって、終了。
「すごい! すごいよ! これって抽選なんだよな! やっぱ日頃の俺の行いのおかげだな!」
この人、元ヤンキーだけど、悪いことしていないしね。そうなんでしょう。
そして間髪入れずに、城の外周でエレクトリカルパレードが始まる。
ちょうど街路灯の下が空いていたのでそこに座り、パレードを眺める。
「きれい……」
自然と夏村さんの口から感想がこぼれる。
そして、いつのまにか音楽に合わせて手拍子をしていた。
俺の家は商売をしているから店を休むことができず、こういう遊園地とか行ったことがなく、いつも晏菜を連れて近所の公園で遊んでいた。
夏村さんはどうだ。
よくアニメに出てくるお金持ちは年パスを持っていてしょっちゅう来ている設定が多い。
が、夏村さん。両親が忙しくてこういうところには来たことが無かったと言っていた。
彼女は一人っ子だ。
ひとりでどう過ごしていたんだろうと考えると切なくなってきてしまう。
その感情が無意識に夏村さんの体を軽く抱き寄せていた。
俺はそのことに気づき、離そうとしたが夏村さんは『このままがいい、ありがとう、うれしい』と言った。
パレードが通り抜け、そろそろお腹もすいてきた。
この後、花火があるがそれを見ていると夕食に間に合わない。
俺は
「次は夕食行きま~す」
と言い、夏村さんとカリブの海賊方面に向かった。
そこはカリブの海賊の出口隣に位置するブルーバイユー・レストラン。
中に入ると夏村さんはいきなり
「カリブの海賊に乗った時に見えたレストランか?! 雰囲気よかったもんなぁ」
と喜んだ。
実はここ、クリスマスシーズンだと特別ディナーが出るのだ。
ナイフとフォークが置かれた時点で俺は緊張したが、夏村さんが
「これからも俺が連れてくるから少しづつ教えてやる」
と口調は怖いが、やさしく作法を教えてくれた。
「お前、こことかお昼とか高かったんじゃないか? どうしたんだ? 親から借りたのか?」
ときいたので、
「ごめん、お祖父さんに沙羅を楽しませてくれとお金握らされて頼まれた」
と白状した。すると夏村さんは
「越後屋、お前も悪よのう…… って小遣いもらってきたってことか! お前自分の金じゃなくて俺にプレゼントって最低じゃないか?」
と言ったが、俺は
「今日の俺はお祖父さんお祖母さんの代役でもあるんだよ」
と言った。夏村さんは、
「わかった、明日にでも礼の電話しておくよ。そしてかずやが結婚決めてくれたって!」
と言った。
「嘘はだめよ!」
「お前も嘘言ってたじゃん」
「そうか……」
二人、見合って大爆笑。
「それと……」
と夏村さんは言い、
「スマホ貸して」
と言ったので手渡すと、ざっと俺のスマホの画面を見てどこかに電話し始めた。
相手が電話に出ると、
「あっ、夏村です。今回は和也に悪知恵つけてくれたみたいで……」
と言い、さっと俺にスマホの画面を見せた。
夏村さんはライン電話で井上さんと話していたのだった。(やばっ!)
「でも、すごく楽しめたし、いい時間過ごせた。先にお礼を言おうと思って…… ありがとう!」
さすが夏村さん。気を利かせて井上さんに電話してくれたのだ。
「あっ、そういえば学園祭の貸しで和也を一日借りるって話、どうなった?」
………
「はぁ? お前、何…… うんうん、そこで予習させるか。わかった。じゃあ貸す。どんどん使ってくれ。本当に今日はありがとう! じゃあまたな!」
何を話してらっしゃったのですか?
「最初から井上が絡んでたってわかってたよ。和也、そんなに暇なかったはずだし、ここへ来るの初めてっていっていたもんな! でも許す。今日は本当にありがとう」
「いえ、どういたしまして。ところで『貸す』ってどんな内容でしたか?」
「いや、今度女子バレー部でディズニーシーに行くらしいんだけど、女子バレー部で和也ファンが多いらしくて集団デートするんで貸してほしいらしい」
「はぁー?!」
「そこでディズニーシーの予習をしてこい! その後、一緒に行こうぜ! か・ず!」
「勘弁して!」
「しかし、井上って不思議だなぁ。俺たち二人に興味を持っているみたいだけど、本気で和也を取るとか彼氏にする気はないみたいだしなぁ」
「人気なくてよかったです……」
「さあって、沙羅、帰りますか……」
「そうだな、クリスマスツリーも朝・昼・夕、計5回撮ったからな。ばっちりだ」
書きませんでしたが、本当に夏村さん、ツリーを気に入っちゃって何回も写真撮ったんですよね。
「次は、シーに行こう、今度は夏だな」
「そんなに来るの?」
「ハマった。絶対来る!」
「ハイハイ!」
帰りの電車はちょうど武蔵野線が来たので南浦和に向かい、そこから京浜東北線に乗って浦和に着いた。
かなりのピッチで夏村さんは感想を言っていたが、新松戸あたりで眠ってしまった。
よく考えると、眠っている夏村さんをじっくり眺めるのは初めてだった。
中間試験の発表があって、その後、俺を例の教室に連行してからもう半年。
当初はボッチで高校3年間を終える予定であったが、いつの間にか仲間が増えた。
すべてきっかけは夏村さんが俺を指名で連行しなかったら、こんなことはなかっただろう。
どう考えてみても夏村さんには感謝以外の言葉はない。
たまには『まだこんな俺でいいの?』という自信のなさが出てしまうが、今では隣で頭を俺の肩に預けて眠っている夢のような美人を守っていこうという自覚はある。
そんないろいろな経験をさせてくれた夏村さんが今日生まれたことに感謝した。
「ありがとう、そしておめでとう!」
浦和駅ですでに二十三時を過ぎていた。
俺と夏村さんはいつもの道を夏村さんの家に向かう。
五分ほど歩くと、元ヤンキーに俺と夏村さんがヤンキーを辞めることを依頼した喫茶店はすでに閉店しており、電気もついていなかった。
そういえば、この辺で夏村さんに初キスしてもらったなあと思い出す。
「寒いなあ」
と夏村さんは言うと、ロングコートの襟を立てた。
二人の息は街路灯に照らされ白く霧のように霞んでは消え、霞んでは消えていた。
夏村さんは自宅の家の前に着くとこういった。
「俺って、ふと人に話しかけたいとき、相談したいとき、話を聞いてほしいとき、隣には誰もいなかった。ヤンキーになっても奴らは奴らで苦しみを抱えていた。だから何も誰にも聞いてもらうことができなかった。でも今は違う。俺のことをいつも和也が見守ってくれている。学校でも生徒会でも…… 今日は和也を独り占めにできた。俺には最高の日だったよ」
「でも、これが毎日続くんだよ、これからも」
「そうだな、今年初めて、俺ってこの世に生を受けてよかったなぁって思ったよ」
「そうか。そう思っていただければ、俺も幸せ者ですよ。こんなきれいで素敵な人に好かれているんだから」
そう俺が言うと、夏村さんは恥じらいながらこう言った。
「今日は夜も遅いし、俺んち泊まるか? ご両親もオッケーなんじゃないか? 夜の続きを確かめたい……」
俺は躊躇しながらも冗談ぽく、
「俺は二人がもっと最高にハッピーになった時に結ばれたいなあ」
というと夏村さんは急に顔色を変え、
「そうか! それまではお前はエロい写真見て、気持ちいいことするんだろう? 女だってなぁ、したい時ってあるんだよ。ば~か!」
と言って、夏村さんは玄関をガチャンと締めた。
俺、最後の最後で何か悪いことしたのか……?
当作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。
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編集記録
2022/09/28 3部に組み入れ、更新、一部改稿




