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3-21話 孤立(6)

【読者さまのコメント】

夏村さんは林先輩の矛盾を的確に指摘する。

林先輩の心中は、恐怖だった。

これはトラウマになっても仕方がない(涙)

だからこそ、夏村さんの言葉が胸を打つ。

高松と夏村さん、最高だ!!!

ほっこりしながら退部する高松。

まさか最後に夏村さんから爆弾発言が?!

 林先輩が無言になったのを見た夏村さんはさらに話を続けた。

「話が行き詰まったので、話題を変えさせていただきます。第二の質問ですが、本校において夏休みをきっかけにヤンキーを辞めた者、ここでは元ヤンと呼ばせていただきますが、二学期が始まって早々、彼らが今後何をやりたいかについて、全元ヤンにインタビューを行い、それに基づく活動を現在も進行中です。それの一例が補習講義であり、校外奉仕活動、文化部への参加です。しかし、活動の中でほとんど進んでいないものがあります。それは、元ヤンの体育会系部活への加入です。この点はかなりの数の拒絶を受けた報告があります。これについて、部長会代表の林先輩、ご存知のことがあればお教えいただければと思います」

「いやぁ、それは簡単ですよ、ヤンキーは言うことを聞かないから団体行動には向かないんですよ。何でも自分勝手にして、チームの和を乱す。だから、各部ともに認めないんじゃないんですか?」

 ちょっと腹が立った俺はこう口を出した。

「先輩、それ無理ありますって! ヤンキーって原則、群れたがるんですよ。だから、その群れの中では順位づけがされていて、自分の役割をやる。下手な部活やってない奴らより、命令系統はしっかりできてますよ」

 すると、

「高松くんには聞いていません。」

 と、夏村さんに突っ込みを入れられてしまった。

「すみません……」

「ところで、林先輩。ちなみに野球部に中学あるいは高校にヤンキーだった経験のある部員が今、本校の野球部にはいますか?」

「いません」

「受け入れた経験もないのに、先程まで先輩がおっしゃった『ヤンキーは言うことを聞かない』というのは、先輩の想像ですか?」

「そんなことはない!」

 林先輩は机を叩いて立ち上がった。

「そんなことは、ないんだ!」

 というと林先輩は両手で握りこぶしを作り、その腕は震えていた。


 すると、今まで黙って林先輩の話を聞いていた、一人の男性が立ち上がりながら話し始めた。

「俺は、陸上部キャプテンの上村と言います。林とは同じ中学出身でその時から奴は野球部、俺は陸上部やってたんだが、あれだろう、林。武藤先輩のことが頭にあるんだろう?」

 上村先輩が、『武藤』という名前を挙げたと同時に林先輩は泣き始めた。

「こんなんじゃ林、話せないだろうから俺から話すよ。俺たちの中学はヤンキーが多くて、教師への学生の暴行事件で新聞にも出るような学校だった。確かにヤンキーどもは部活はせず、タムロっている奴がほとんどだった。しかし、野球部に『武藤』という先輩がいて、その人が気弱な奴、林もそうだったが、そんな奴らをよくいじめていたんだ。野球はそれほどうまくないのに先輩風吹かせて、パシリなんて当たり前、中には恐喝じみたこともされたやつもいたそうだ。だから……」

 すると林先輩が重い口を開く。

「上村、もういい。あとは俺が言う。だから俺はヤンキーが嫌いだ。奴のせいで俺の中学時代の部活の思い出はぐちゃぐちゃだった。そんなことが起こらないように、俺はこの高校では徹底的にヤンキーを部から排除した。また、併せて他の部活にも俺の意見を言ってきた。その結果がうちの高校の運動部の統率だ。これはヤンキーがいたら出来なかったことだ。それの何が悪い。俺たちはもうお前らに苦労させられたくないんだ」

 林先輩のなかば叫ぶ様は話っぷりには皆んな言葉を飲んだ。

 それを聞き、しばし考え込む夏村さん。

 そしてこう話し始めた。

「『統率』って何ですか? 自分の思うように他者を動かすことが『統率』なんですか? それって自分第一で他者は自分に従う者としてしか考えていないじゃないですか。これって中学時代ヤンキーたちから受けてきた差別を今、高校になって別のヤンキーにやり返しているだけじゃないですか。要はあなたは、人と仲良しのフリをして支配したいだけなんじゃないですか?」

 激昂しながら林先輩は言った。

「そんなことはない! おれはおれがやりたいように理想の部を作りたいだけだ!」

「それって、人を差別して、やりやすい人間としか付き合わないでやるって言ってることじゃないんですか?」

「いや、ちがう……」

 林先輩のすすり泣く声が会議室に響いていた。


 そして、夏村さんは先ほどまでの表情を改め、暖かそうな笑みを浮かべた表情でこう話し始めた。

「先輩、社会っていろんなキャラクターをもった人が大勢居て成り立っています。私たちもはじめ社会の歯車になりたくないとかカッコつけてツッパていたんです。でも、私はこの学校に来て、ある男の子と出会いました。彼は普通の男の子でかっこよくもなく、見かけは目立たない人でした。でも、その人は自分ではボッチと言っていますが、私より圧倒的な数の人たちに関わってきて…… 交流をもっていて…… 社会に関わるってこんなにいろんな人と関わるってことなんだと教えてくれた人なんです。そして、彼が色々な社会の人たちと笑顔で語っているのを見た時、私もいろいろな人たちと関わってみたいなあと思い、ヤンキーなんていう小っちゃなものを脱ぎ捨てて社会の一員になることを決めました。これが二学期の元ヤンの解散です。そして、彼は単に元ヤンを放っておくことはせず、一人ひとりと面談し、色々とこうしたらいい、ああしたらいいと話に乗ってくれました。これが今の元ヤンの現状です。彼らは一社会人の仲間入りをするためにがんばっています。林先輩、私は同級生の子から、林先輩はとても人格のある方だと伺っていました。ですからヤンキーという言葉に恐れず、向き合ってくれないでしょうか。私は練習の時、後輩に指導する先輩の笑顔が素敵だと聞いています。それをどうか元ヤンの子たちにもわけてくれないでしょうか」

 すると夏村さんは立ち上がり、林キャプテンに向かって頭を下げた。

「元総番、現在は生徒会実行委員長、夏村沙羅からのお願いです。奴らをよろしくお願いします」


 しばらくの沈黙の後、林キャプテンは立ち上がり、夏村さんに向かって頭を下げた。

「確かに君の言うとおりだ。俺は逃げていたのかもしれない。本当に済まなかった。これからは部長会としてもヤンキーの受け入れを進めていこうと思うのですが、いかがですか?!」

 全員の拍手喝采。

 そこに上郷地先輩が一言。

「感動的な内容のところ申し訳ないが、今後、部活の管理、部活のトラブルの対学校の窓口は生徒会が行うので了承いただきたいのと、部費の出納帳簿の作成と年に数回の監査も行うので宜しく頼む」

 なんか、なし崩し的に決めてしまった。


「あのう、ところでサッカー部の再申請の件ですが……」

 と俺は切り込むと林キャプテンは、

「そういうことは生徒会だよな! なあ、上郷地!」

「断る理由がない。承認する」

 の一言で解決してしまった。

 あれ? 一生懸命作ったおれのプレゼンの資料は……

 周りを見てもみんな終わったよという顔をしているので、俺と勝村は顔を見合わせ、一礼をし会議室を出た。


 俺と勝村は『ウォー』と叫びながら部室にダッシュで向かった。

 部屋には全員が待っていた。

「明日からサッカー同好会はサッカー部に昇格が決まりました!」

 というと、全員が歓声を上げた。

 いやはや、本当によかったと俺は胸を撫でおろしていると、部員が全員一列に俺の前に並んだ。

 俺の誕生日はもう過ぎているのだけどなぁと思った、その時、

「高松、ありがとう!」

 と声を合わせて感謝の言葉を言ってくれた。

「えっ? 何?」

「お前と夏村さんが裏でがんばってくれてたんだろう。簡単に想像つくわ!」

「まあいいや、お前たち、おめでとう、本当におめでとう!」

 俺たちはお互い抱き合い泣いた。


 ひとしきり歓声を上げた後、俺は彼らに、悪者になってもらったことを詫びた。

 俺が石拾いをしているときに何度も彼らは加わろうとしたが俺は辞めさせた。

 朝練の時、ほかのみんなも一緒にやりたいと言っていたのを俺は辞めさせた。

 校内では挨拶だけで、声はほとんどかけることを辞めさせた。

 そんな一つ一つがみんなへの詫びの思いに比例して涙が流れた。

 そして数十分間、みんなで泣き明かした。


 一通り泣き終わったところで俺はもう一点、みんなに謝った。

「ごめん、俺は皆が思っていたとおり、旧ヤンキーと中間層との関係改善のため、この部活を利用させてもらっていたんだ。改めて、ここでお詫びする」

 仲間はうなづいてくれた。

「そんなことはいいよ。サッカー部が復活したんだし、これからは部員を募集してもっとすごいクラブにしてみせるよ!」

 勝村はガッツポーズをしながら誓った。

「お前がいなかったら、俺たちもサッカー部に戻ってこれなかった。あと、一緒に練習してくれてありがとうな!」

 先輩がこういうと、一年のメンバーからは俺と一緒にサッカーできて羨ましいなぁと言っていた。

「なぁ、サッカー教えてくれよ。」

「今日で俺の目標は達成できた。だから、今日が俺のサッカー部最後の日です。」

「ちょっと待て!」

「辞めさせないぞ!」

「一緒にサッカーしたいよ!」

 みんな、本当にありがとうと思った。

「でも、俺は夏村さんをサポートしていく役目があるからね。いつ呼び出されるかわからないし。サッカーと夏村さんとを比べたら、俺には夏村さんなんで(笑)。でも、サッカーの虫がウズウズしてきたら、混ぜてね」

 すると勝村はこう言った。

「じゃあ、高松は兼部扱いにしてやる。それも『名誉兼部員』だ! ロッカーはお前が使っていたのいつでも使っていいぞ! いつでも遊びに来いよ!」

 本当にありがたい言葉だ。


 最後の最後に俺はみんなにプレゼントをした。

「最後にもう一つ、みんなを使っちゃった反省を込めて、他校との練習試合の日程決めてきた!」

「うそ! いつ? どこと?」

「試合日は十二月十七日、日曜日。場所はここで、対戦相手は?」

「対戦相手は?」

「市立浦和南高校!」

「あんな名門とかよ!」

「三軍だけどな」

 さいたま市立浦和南高校。

 全国高校サッカー大会で以前は埼玉県代表の常連校である。

 出身中学校が近いため、同級生も多く、話をしたら一つ返事で了解してくれたのだ。

 せめてもの俺の詫びの印だった。


 そんな感じで部室で大騒ぎをしているところにドアを叩く音がした。

 ドアに一番近いところにいた俺がドアを開けるとそこには林先輩がいた。

 部員全員が林先輩は他の部ではあるが『チワッ!』と挨拶した。

「ちょっと高松借りるな。」

 というと俺と一緒に廊下に出て話し始めた。

「いや、俺、本当に弱いところ突かれたと思ったよ。夏村さんか…… あんな利発な立派なヤンキーもいるんだなぁって思ったよ。すごい勉強になった。なにか相談があったら俺にも声かけてくれ。俺は君も、夏村さんも信頼しているから」

「ありがとうございます。あそこまで林先輩を追い込んじゃっていいのかなぁとも思ったのですが、さすが林先輩です。それと夏村さんは味方にしたら最強ですよ(笑)」

「そういえば、夏村さんの話の中に出てきた『男の子』って、お前のことだろう? すげえ好かれてるなぁ?!」

「こんな僕のどこがいいんでしょうね。でも、俺の方が彼女のこと、数十倍好きですけどね(笑)」

「サッカー部の部室ではやるなよ(笑)」

「もう廃部はさせたくないのと、今、サッカー部は辞めてきました」

「そうか、やはり目的は今回の部長会の一件だったんだな。残念だよ、また、フェンス越しに話がしたかった」

「また、石拾いさせるつもりですか(笑)。約半月でしたがありがとうございました。お話出来て楽しかったです」

 俺は一礼し、林先輩が去っていくのを見送った。

 やはりいい先輩だったなぁと思った。


 俺はこっそり部室に入り、カバンを取り、盛り上がっている部員に分からないように部屋を出ようとした時、部員全員が、

「高松、またな!」

 と言ってくれた。


 抑えきれなかった。

 抑えても、抑えても涙は抑えきれなかった。

 『さようなら』という別れの言葉ではない。

 『またな!』という再会を誓う言葉であった。


 ひとしきり涙を流し終え、俺の自転車のところに行くとそこには、スレンダーで長髪の女性が立っていた。

 影だけで分かる。夏村さんだ。

「かずや、お疲れさま」

「夏村さん。今日は色々お疲れさまでした。おかけで俺のプレゼン無くなっちゃったけどね」

「悪い! そこまで考えてなかった。熱くなるといかんな、俺も」

「でも、すごくカッコよかった! またさらに好きになった」

「…………」

「どうしたの……?」

「かずやのこと、待ってた…… 一緒に帰ろう……」

 この一言が俺にとってはキラーワードだ。

 俺、幸せです!


「今日は俺も自転車なんだ!」

「まだ、早いから俺んち、寄る? 晏菜も両親も夏村さんに会いたがっているよ」

「いや、今日は、ちょっと……」

「どうしたの?」

 夏村さんは(うつむ)き、少し考えた後、呼吸を整えて俺の顔を見ながらこう言った。

「二十三日の終業式の後、和也に私の家に来てほしい」

「いいけど、なんで?」

「父方の祖父と祖母が家に来る。会ってほしい」

「おとうさん、おかあさんと会う前におじいちゃんたちとの面談か…… いいよ!」

「実は、祖父と祖母は俺の両親代わりなんだ。今まで言わなくて済まない。俺の両親は既に事故で他界しているんだ。その日命日なんだ」

当作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。

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編集記録

2022/09/25 3-20話を2分割

2022/09/26 校正、一部改稿

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