表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/187

3-13話 人と多く接するということ(1)

【読者さまのコメント】

ヤンキーたちの個別授業。

それぞれのレベルに合わせようとしたら、分身の術を使わないと(汗)

こういう時は渋谷先生に相談したら大丈夫!

学校の雰囲気がよくなってきたなぁ。

夏村さんとの関係も周囲に認められて嬉しい♪

(媚薬ってどこに売っているんだろう?)

 学園祭の話が思った以上に長くなってしまい、それ以前に相談を受けた、三篠(みささ)たちの件をここで話しておこう。

 三篠たちから呼び出されて、勉強の相談を受けたのは十月二十四日、学園祭で、苦労していた内田さんを、夏村さんが呼び出して事情聴取した日だった。

 俺も内田さんのことが気になっていたので、こんなタイミングで三篠たちに呼び出されたことには正直迷惑に感じていた。

 しかし、彼らにも彼らの人生がある。

 俺は、内田さんとの面談が終わった夏村さんに相談してみた。

「そうか、俺も三篠だけではなくて、勉強したいというやつらの話を聞いたことがある。しかし、かずやにそんな時間があるか? 学園祭のことや自分の勉強もあるし」

 「いや、自分の勉強は二学期の分はすでに塾も含めて終わっているからいいんだけど、何分、奴ら人数多いから、夏村さんみたいに一対一で教えることは無理だからねぇ。それだし、個々に違うレベルの生徒を教えるノウハウなんて俺には無いから…… どうするかなあ?」

 途方に暮れてしまう。

 と言っても今さら彼らを見放すわけにも行かない。

 さんざ悩んだ挙げ句、三篠に俺は電話した。

「悪い、三篠、俺一人では解決出来そうにないんで、他の人の手を借りてもいいか?」

 と言ってみたところ、『しゃあねぇなあ』で済ませてくれた。

 ここは了解が取れたということで、次はどう勉強を教えるかについて考えてみた。

 こうなってくると相談できるのはあの人だけだと俺は思った。


 俺は、夏村さんと別れ、ある部屋に向かった。

 もう、夕方で部屋の中の蛍光灯の明かりが、窓から漏れ出ていた。

 俺はドアをノックする。

「高松です、入ります」

 ドアを閉じるとテーブルを挟んで渋谷先生が座っていた。

「高松か、どうした? まぁ、入れ。よく来たなあ。座れ」

 俺はゆっくりと席に腰を下ろした。

「先生、突然ですが、自分では到底解決できない案件が発生しまして、よく考えましたところ、先生にお話しした方がよいと思いまして」

「うん、話とは何かな?」

「実は以前にもお話しましたが、九月の初めにヤンキーをやめた生徒に対し、俺は一人ずつカウンセリングして今後何をしたいかといった話をしていたのです。そこで一部の、そう数十人程度が本気で勉強をしなおしたいと言い始めまして。俺はとてもいいことだと思ったのですが、話を聞いていると個々のレベルが違いすぎて、俺だけで教えるというわけにも行かず、どうしたらいいものかと思い、相談に来ました。」

「それで私に相談か?」

「ハイ」

と少し躊躇しながら答えると、渋谷先生はじっと俺の顔を観ながらこう言った。

「ところで私の職業はなんだ?」

「えっ?! 教師ですよね」

「だったら、なんでまず先に私たち、教師に相談しない?」

「いえ、と言いましても、お忙しいと思いまして……」

「ばか! お前、俺たちがなんで飯食っているかわかっているか? 教育だ。教育を受けたい生徒に教育を行うのが教師だ。わかった。俺が補習について他の先生にも声をかけてやってやる」

「本当ですか?!」

「当たり前だ、そんなこと生徒から頼まれたら喜んで頑張る先生たちいっぱいいるぞ、うちの高校は!」

 その時、俺はうちの高校も捨てたもんじゃないと思った。

 後からわかったことだが、うちの高校の先生たち、あの県内ナンバーワンの公立高校、県立浦和高校を定年間近で異動されてきた先生が多く、やる気がある方が多かった。

 渋谷先生が言うには、折角ならヤンキーだけではなくて、中間層も含めて補習を開始してはということになった。

 いざ、方針が決まると渋谷先生の動き出しは早い。

 翌日には職員会議で参加できる先生方を集めてしまった。

 先生方も歴戦のツワモノ、開始早々は受講者が数十人いても、やっているうちに数人に減ってくることは予測済みではあるが、最後の一人になるまでやってやるという話になった。

 ありがたい話であった。


 その結果を持ち帰り、三篠たちに二十六日報告した。

 すると、三篠は、

「おい、お前逃げたな?!」

 といった。

 「えっ、なんで?」

 「だって俺たち、最初、『お前に教わりたい』と言ったはずだろう?!」

 (たしかに…)

 「まあ、いいよ、ここまで手回してくれてありがとう。かずの恩義を感じて頑張るわ!」

 「まぁ、がんばれよ!」

 そんな感じて、学校での補習会が学園祭開けに始まった。

 最初はヤンキーが大半であったが徐々に中間層も参加者が増えてきた。

 補習と言っても生徒のレベルがいろいろとあるため、中学時代の勉強に不安がある生徒向けの授業や、うちの高校よりも進んだ勉強をしたい生徒向けの授業、その上、授業とは関係のない資格、例えば、漢字検定、数学検定、理科検定、英語検定、TOEICなども授業に加わった。

 中でも中島教頭の就職対策講座は、面接の練習、言葉遣い、SPI試験対策、その上マナー講習もあり、就職希望ではない生徒にも好評だった。


 この後、この補習授業は大鳳高校の伝統となり、現在も継続されており、学校のホームページにも学校の特徴にも記載されている。

 中学時代の勉強に不安がある生徒は率先して参加し、大学受験に不安の無いよう配慮されている。


 この補習が始まった当初、夏村さんは、俺の負担を減らしたいと言い、俺との勉強会を辞め、補習に回りたいと言った。

 しかし、俺は夏村さんのレベルは現在では受講の対象レベルを軽く超えており、やめておいたほうが良いと勧めた。

 これは単純に俺のエゴだ。

 夏村さんの面倒は俺が見たかった。

 夏村さんだけは俺の力で大学に入学させたかった。

 俺は俺自身の力と彼女の努力で彼女の未来を見届けたかった。

 それが、以前にも述べた俺の決意であり、責任であると思ったからだ。


 学園祭の終わった翌日五日に夏村さんの家に行き、勉強の進捗を確認すると、あれだけ学園祭で忙しかったにも関わらず、自分の課題を確実にこなしていたことに、驚かされた。

 俺なんかバンドの練習も含めてここ一週間は手抜きまくってしまったが、夏村さんはヤンキーたちの管理も行っていたし、俺よりも関わっていた人の数が違っていた。

 その辺、有言実行なのは良いが無理をしていないか心配になった。

 夏村さんに聞くと、流石に疲れたかな? というので、今日は勉強はお休みにして東口のPARCOで時間を潰す事にした。


 今日の夏村さんは茶のジャケットにロングスカート(最近はパンツよりスカートが多いのです)にブーツ姿で、髪は恒例、ポニーテールで横を編み込んでいる。

 PARCOに着くなり、夏村さんは男性服売り場に向かい、オレの服を選び出す。

「お前、コンサートの時、あんだけかっこいいんだから、少しはオシャレしろよ!」

 俺、かっこよかったのでしょうか……? 少し照れた。


 相変わらず、周りの人の視線が夏村さんと俺を交互に行き来していてウザイ。

 最近は気にしてなかったんだけど、やはり周りの評価にはさらされる。

 どうしたら、夏村さんに似合う人になれるんだろうと、ひとしきり考えては答えが出る訳もなく、途方に暮れる。

 その上、最終的に夏村さんが選んだ服が、ヘビメタ系の格好で、これがまた俺には似合わない(笑)。

「これだと、絶対にメンバーの笑いものになりますので、次回晏菜を連れてきて考え直しましょう!」

「しかし、俺も服のセンスないなぁ、モデルが悪いんか?!」

 少しキレ気味の夏村さん。

 俺、怒られちゃったよ、否定はしないけど。

「わかった、じゃあ、また次回なあ!」

 と言い、夏村さんは残念がっていた。


 少しPARCO内を歩き、レコードショップに立ち寄り、CDを選んでいると、後ろから『たかまつくん!』と声をかけられる。

 振り向くと、同じクラスの魚住さんと、出町柳(でまちやなぎ)さんだった。

「ミュージシャンもこういうところでCD買うの?」

 とからかい気味に魚住さんは聞いてきた。

「いやぁ、オレの専門はアニメです」

 と答えると、出町柳さんは

「妙にリアルだから引くわ(笑)」

 といい、笑った。俺は彼女たちに、

「バレた?」

 と言うと、

「そんなの好きだと彼女さんに引かれるよ〜」

 と魚住さんは突っ込んだ。

 それから、何やかやと学園祭の話をし、また、音楽聞かせてよといった話になった。

 そして、一通り話したい内容を話終わると、

「じゃあ、また、クラスのことよろしく頼むね、高松くん!」

 と言って二人は去っていた。

 俺の隣りにいた夏村さんはすこしムスッとしながら、

「彼女たちは?」

 と聞いてきたので、俺は

「クラスの友達。何か、学園祭終わってから、同じように声かけてくるクラスメイトが多くなったんだよね」

と回答した。

 声をかけてくる内容には、彼女らが残した『クラスのことよろしく頼むね』というニュアンスの言葉が毎回含まれていた。

 その意味を理解したのか、夏村さんはこう言った。

「今回の学園祭を含め、かずやにみんなが感謝しているんだよ。かずやの言っていた理想の学校生活に近づいたんじゃないか?」

 と夏村さんは質問した。

「俺の理想の学校生活か…… 俺は単純に学校カーストで差別されるのが嫌だったからそんなの無くなっちゃえばいいのにと思っていただけなんだよね。別にほかの子たちの感謝されるようとも思っていない。学校生活しやすかったらそれでいいだけなんだよ。今まで俺ってさぁ、中学時代のトラウマであまり人には関りを持ちたくなかったんだ。だったから、こういうのには慣れないんだよね。関係する人が多すぎて…… でも、学校を変えるために必要ならもっと頑張らないといけないのかもね」

と答えた。


 上の階に上がり、ルームインテリアの階を覗く。

 そういえば、ちょっと夏村さんの部屋が殺風景なので、なにか小物がないかと探してみようと俺は思った。

 夏村さんは部屋がごちゃごちゃするのは嫌だと躊躇したが、俺は夏村さんの部屋が何か女性らしくない、色のない部屋だと思っていた。

 まあ、気にいるかいらないかは、夏村さんと判断してもらうにして、売り場を眺めることにした。

 ふと、俺は、かわいいステンドグラス風の装飾が施されたアロマディフューザーを見つけた。

 それは時間によって中のライトの色が変わり、とてもおしゃれであった。

 そのうえ、超音波式の湯気が出るタイプでこれからの時期、保湿にもよいのではないかと思った。

 アロマオイルケースは電源ケーブルの上に取り外し口があり、スライド式になっていた。

 そこに入ったフィルターに五、六滴アロマオイルを落とすと上の湯気にアロマの香りがついてとてもいい匂いだった。

 夏村さんの部屋は多分十二畳ぐらいあり、窓も大きいので、暗くなったときステンドグラス風の装飾がとてもきれいだと思った。

 俺はこれはどうかと提案してみると、夏村さんは真っ赤な顔をしながら、

「一緒に将来住んでくれるなら、買っていいぞ」

 といった。

 流石にそれは、だいぶ後のことなのでと言葉を濁したが、部屋にぴったり合うものを見つけてしまったので、これを買おうと提案した。

「お前、アロマに媚薬を入れて俺をもてあそぼうって考えだな?」

 と、よくわからないことを言っている夏村さんと一緒にレジに並んでいると、列の後ろから「たかまつ!」と声がした。

 後ろを振り向くと声の主はまたも同じクラスの倉田さんと久保さんだった。

 この二人とは全く話したことがなかったが、声を掛けられたのに無視するわけにも行かず、彼女たちが会計が終わるのを待っていた。

 夏村さんは他に見たいものがあると言って離れていった。

 別にどこにもいかなくていいのにと俺は思ったが、絶対に他人に二人でいるところを見られるのが恥ずかしいのだ。

「やっぱり、まじで夏村さんと付き合ってるんだね。でも彼女用のインテリア買うって、もう一緒に住んでるの? まぁ、そんなことないか(笑)。でもここまで彼女変えちゃうなんて、高松くんの愛の力、すごいねぇ。はじめはイケてないヤツかと思ったけど、見直したわ」

 褒められているのか、それともけなされているのか判断に困ってしまう。


 今まで、魚住さんにせよ、倉田さんとにせよ、中間層から声をかけられたことは無かった(井上さんと阿部を除く)。

 それが学園祭を境にガラっと変わったことを身に染みて感じていた。

「ところで、補講って私達も受けれるの?」

 補習の件は各先生方がどんな生徒でも参加できる形で受け入れをしてくれているため、中間層からも率先して参加を希望してくれていることは良いことだと思った。

「でも、元ヤンキーといっしょだけどいいの?」

 と俺が突っ込むと、久保さんは、

「うちの元ヤンキー、学校で一番マジなメンツだから、最近、全然気にならなくなったから大丈夫。でも、これって高松君の裏で夏村さんが画策してたからでしょ?」

 そうなのか、一連の流れは、表立っては俺が動いて、裏では夏村さんが俺の行動をフォローするがごとくヤンキーたちをうまく指導しているっと考えているんだなと思った。

 違うんだなぁ、俺頑張っているんだけどなぁと言いたかった。

「まあ、あそこまで怖いイメージだった夏村さんを引き入れちゃうあんたもすごいけど、あんたを見出した夏村さんも見る目があるよね。すごいカップルだわ」

 俺はその言葉が心に引っかかった。

 それは、彼女たちが俺の隠れた良い面を見出したのは夏村さんだと思っていることだ。

 倉田さんは続ける。

「高松くんの考え付いた作戦をフォローして夏村さんが色んな人に指図してるって聞いてるし、最終的にうまくいっちゃう。本当にいい関係だと思うよ」

 そうか、実際、みんなが思っているように、俺のやっていることがすべてうまくいるのは、俺の行動を夏村さんが信じて、俺の後ろで夏村さんがその行動がうまくいくように動いてくれていたからだなんだと気づかされた。

 それに気づかされたことで、自分でなにもかも回してきたぐらいに思っていたことが恥ずかしくなった。

 結局、自分ひとりでは何もできなかったんだ。

 以前、俺は夏村さんに一人で抱え込むなと言ったことに対し、夏村さんは俺には知らせずに『お前も抱え込むなよ!』とフォローしてくれていたのだろう。

 夏村さんは自分の行動を俺に報告してこない時点で、俺のことをフォローしていることを俺には知らせたく無かったんだろう。

 俺を立てて頑張らせるために……

 やっぱ、夏村さんは最強だよと俺は思った。


「そんな高松と夏村さんだから、これからも、うちの学校を変えてくるって期待してるし、感謝してるよ」

 と、倉田さんは言ってくれた。

 今度、夏村さん、紹介してねと言われ、二人とは別れた。

 夏村さんはしばらくして戻ってくると、俺と二人が話していたのを見ていたらしく、

「学園祭の収穫は大きかったな。色々な人たちと関係を持てた。俺達にとっていい経験だったな」

 と言った。

 色々な人たちと付き合うこと、それはさらなる視界を広げてくれるチャンスだと俺は思った。


「さて、アロマディフューザーも買ったことだし、早く夏村さんの家に行ってどこに飾るか考えようか!」

「そういえば、媚薬はどこに売ってるんだ? できればかずや用のが欲しいな。俺はいつでもオッケーなんだけど、かずやがやる気出さないからなあ!」

 そんなこと大きな声で言わないの!

(俺は我慢しているだけなんだから……)


 俺と夏村さんは短くなった秋の夕日の温かさを感じながら、いつもの裏道を通って夏村さんの家に向かった。

当作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。

面白い・続きが気になる等思われた方は、評価ポイント(↓の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎)を入れて頂けると作者の励みになります。

また、ブックマーク登録・お気に入りユーザー登録の方もよろしくお願いします。


編集記録

2021/12/12 加筆訂正

2022/09/19 校正、一部改稿

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ