3-8話 学園祭(2)
【読者さまのコメント】
高松は夏村さんに会いに行く。
言われてみれば確かに、夏村さんが会いに来ることはあったけど、高松から会いに行くことはないかも……学校内でどんなふうに過ごしているかも知らなかった……。
だから挫いちゃうのは仕方ない!
それにしても、井上さんの距離感(汗)
内田さん、大丈夫かなぁ。
◇◇ 十月二十三日 ◇◇
この日は中間テストが終了した翌週の月曜日であった。
合唱メンバーは十月に入って、ひっそりと練習を始めていたのだが、模擬店メンバーは今日から本格的に設営準備に取りかかっていた。
ちなみに、合唱メンバーのピアノ担当に坂本が選ばれたらしい。
奴がピアノを弾けることを知っていたメンバーはかなり限定されている。
多分、言い出しっぺは佐々木であろう。
その結果が、うちのクラスの合唱の指揮担当に彼が収まっていたことで分かった。
学園祭まであと十一日のことであった。
俺は前述のとおり、父からの商品の受け取りと学園祭の一、二日前に担当者に作り方を伝授すればいいだけなので手持無沙汰になってしまった。
まさか、もう俺の用事は終わったから帰るなと言って、頑張って模擬店の準備をしているクラスメイトを放って帰るわけにもいかなかった。
その上、夏村さんも、自分のクラスの準備を手伝っているらしく、帰りは遅かった。
よって、早く帰っても楽しみがないので、何かあった時にヘルプとして入れるようにとクラスで待機していた。
居ればいたで、ヤンキーグループのメンバーがここはどうしたらいいかと聞いてくるので、指示する立場ではないがノコギリや塗装の仕方を教えていた。
とは言え、ヘルプを待つ身はいつも仕事があるわけでもないので、今日、ショートホームルームで実行委員から配られた学園祭のパンフレットを手にし、廊下に出た。
廊下の外側の窓枠に体を預け、パンフレットをペラペラとめくっていると、校舎内の各クラスの準備をする音と秋を告げる涼しい風がハーモニーを描き、とても心地よかった。
風は強くもなく、弱くもなく、心地よさを運んでくるのに十分の強さだった。
パンフレットを見ると、教室棟では各教室で模擬店を行い、四階の三年の部屋は空いているのでお化け屋敷など、場所を多くとる催し物に割り当てられていた。
隣の総合棟と呼ばれる校舎では、文化部の発表が行われるようだ。
そして、体育館の催し物を見ると、いくつかの劇、合唱、文化部の発表、そして、有志のバンド演奏となっていた。
有志のバンド演奏には少し興味はあったが、音楽経験者の立場だと演奏し始めてすぐに、うまいか下手かがわかってしまうので、楽しめるわけもないので、うちのクラスの合唱の時以外は体育館には立ち寄らないようにしようと思った。
お前もバンドやらないのかと夏村さんや坂本に聞かれたが、半プロのようなうちのバンドメンバーを学園祭に呼ぶのも変だし、第一に俺は目立ちたくなかったからやりたくはなかったのだ。
しかし、パンフレットを見ながら気になることがあった。
有志のバンドと言いながら、参加バンドのメンバーに必ずと言っていいほどメンバー名の横にかっこ書きで所属クラブ名として(サッカー部)と印刷されている人が必ず一人はいるのは不思議であった。
多分、サッカー部員が演奏できる奴らを探して、学園祭でかっこつけて歌いたいというのが目的の有志バンドなのであろうと薄々感づいてしまう。
そんなレベルのサッカー部なんだろう、活躍しているという話は入学以来聞いたことがなかった。
俺は、廊下を歩きながら各クラスの準備の様子でも眺めようと思い、歩き始めた。
隣の夏村さんのクラスである一年二組では、『たこ焼き』と書かれたカンバンを作っているのが見えた。
うちのクラスと被らなくてよかったと思った。
できれば、うちのチョコバナナとトウモロコシとセットで買ってねと思った。
しかし、全クラスで飲み食いしたら結構腹パンパンになるぞといらぬ心配をしてみたりする。
そう言えば、夏村さんはどうしているかなと二組の教室内を覗きこむとそこに彼女はいない様子だった。
目を移すと近くに幸太郎がいることに気づいた。
彼は夏休みにさくら草通りで、うちの高校を退学になった二年に刺された元ヤンキーのメンバーだった。
「幸太郎、夏村さんは?」
「あれっ? 高松、お前からなつさんに会いに来るってめずらしいな。最近、なつさん忙しくて会えてないんじゃないか?」
「いや、会うことは会っているんだけど、夏村さんに学園祭、何やるのって聞いてなかったんで」
「そういうところ、お前詰め甘いよな。なつさんは合唱の練習で体育館に行っているよ。そして手が空いた時に屋台の手伝いもしてくれているよ」
そういえば、夏村さんの家でたこ焼きは食べたことはなかったが、あれだけ料理の上手な夏村さんであれば、おいしいたこ焼きを作るのではないかと勝手に想像した。
「ありがとう。体育館行ってみるわ」
と幸太郎に別れを告げた。
全然知らなかった……
その時、俺は何とも言えない気持ち悪さを感じた。
よく考えてみると、俺は夏村さんと同じ学校に通っているにも関わらず、共通した話題はほとんどが『勉強』であったことに気づいた。
俺から夏村さんが学園祭で何をやるのかなど聞いてはいなかった。
相変わらず、そういうことに気づけないところが、彼女いない歴が長い奴の宿命だなと思い、この前の俺の誕生日の話といい、もっとお互いのことを知り合わなくてはいけないと反省した。
俺は反省の意味を込めて小走りで体育館に向かい、息を切らせながら着くと何クラスかが体育館で歌う順番を待っていた。
確か今日は初めての全体練習の日で、合唱を発表する各クラスごとに、実際に体育館のステージ上で練習ができる日だと勉強仲間から聞いていた。
クラス順に練習が行われるようで、体育館の舞台袖の入り口付近に俺のクラスである一組、次に二組と並んでいた。
俺はそれを見た時、思わず二組に向かおうとしたが、さすがに我がクラスを放って夏村さんのクラスに行くことはできなかったため、一組に向かった。
「おーっと、かずくん。彼女の歌声、聞きに来たのか?」
いきなりのツボをつく佐々木の一声が響くと、笑いとともに出場者たちを緊張から解放した。
そして一組の参加メンバーの視線が全て俺に向いたことに気づいた。
「みなさん、お元気ですか?」
どうリアクションを取って良いか分からなかった俺は、反射的に当時流行っていた歌手の井上陽水が出ていた車のコマーシャルの物まねをした。
すると一同大爆笑をした。
佐々木のキラーパスを無事俺がシュートを決めた形になった。
すると二組の方でガタっと誰かがコケた、というかでかい音がした。
体育館は体育館入り口と舞台袖入り口に向かって総合棟から渡り廊下があり、コンクリートの廊下の上に木製のスノコが敷いてあった。
そのスノコの木の板と板の間に足を挟んでこけたような音だった。
俺はその音がする方向を見ると誰かが人影にすっと隠れるのを見た。
俺はそれを見て、頭を掻きながら少し笑った。
というか、ここは佐々木と話を続けないといけない。
集まった視線をばらすためにもね。
「いや、みんなの合唱がどんなもんか聞きに来た」
「あれ、そういえば音楽教室でかずって指揮とかもやったよな! 佐々木と交代してくれよ。 こいつの指揮、一定のリズムじゃないんで演奏大変なんだよ!」
坂本、音楽関係の余計な情報をみんなに広めるな!
しかし、その言葉をはぐらかすかのごとく、俺の後ろにやってきて、誰かが俺の肩を叩きながらこう言った。
「いやいや、違うでしょう。かずさん、夏村さんと会いに来たんでしょう?」
声の主、それは井上さんだった。
「私たちの中でも、かずさんと夏村さんの仲は既成事実だしねぇ。林間学校の発表も一緒だったし」
そういえば井上さん、俺と夏村さんが早朝出かけたことも知っているんだよな…… てか、何で俺をかずさんって呼ぶの?!
まあいい、ここで会話を切ると不自然なので続けようとしたが、話相手は割って入ってきた井上さんに代わっていた。
「ところで合唱の出来はどうなの?」
「まあ、こんなもんじゃない? 賞とか無いし」
「まあ、満足ならそれでいいや。じゃあ、がんばってね」
「たまには私たちの歌も見に来てね、夏村さんだけじゃなくて!」
「うるせぇ!」
何故か終始、井上さんと話す俺だった。
勉強仲間はというと、俺とは間隔を置いて集まって何かを話ていた。
俺を置いてきぼりにして何話しているんだよ。
しかし、最近の井上さん、俺にフランクだなぁ。
身長の高いもの同士、目立ってしまう。
さて、俺の本当の目的、夏村さんはと二組を見たが、そこにはいなかった。
ぐるっと周辺を見回すと、体育館入り口の渡り廊下を挟んで、舞台袖入り口とは反対側の運動部員のための部室棟のそばに設置されている蛇口の並んだ水道で、流水を使い、足を冷やしていた。
俺が近づくと夏村さんは明らかに俺の存在を知らないふりをしている。
しょうがない、ここは俺も知らないふりで付き合おう。
「あれ、夏村さん、こんなところでなにしてるの?」
「おう、かずやか。いや、足捻ったらしくて、痛くてさぁ」
絶対、さっきの『ガタッ』の主は夏村さんだよね(笑)。
「夏村さん、足見せて」
こう言い、夏村さんの足を触りながら、異変がないか確認していると、後ろの方からのヒューヒューという声が一斉に聞こえる、うるさい!
すると足首が少し腫れていた。
「夏村さん、保健室行くよ」
俺は夏村さんに肩を貸そうとすると、
「恥ずかしいだろ! やめろよ!」
と夏村さんは照れながら拒否した。
「別にいいんじゃない? みんな知っているらしいし、この際、見せつけてやろうよ? それと俺に何かあった時は逆に夏村さんの肩を貸してもらうから、借りっていうことで」
「お前、神経図太いのか、バカなのかわからないなぁ」
「多分、後者だよ。美人の彼女いる歴を満喫してる」
「わかったよ。行くよ」
夏村さんは二組の元ヤンキーに声をかけ、俺と一緒に保健室に向かった。
夏村さんは俺の肩を借りながら、
「悪いなあ…… かずやの姿見たとき、びっくりしちゃって、渡り廊下のスノコみたいなやつの間に足が入っちゃって、足を挫いたらしいんだ。実は、学校で俺からかずやに会いに行くときは心の準備をしてから行くから強がりしていくけど、逆だと心の準備が出来てなくて、はずかしかったんだ……」
「ごめん、次回はもうちょっと考えて行動するけど、なかなか緊張って慣れないよね(笑)。でも、俺も夏村さんが来るときは緊張しているんだよ」
「そうか…… 悪りい」
「いやいや、謝る事じゃ無いよ。お互いこういうことが自然にできるようになりたいねってこと」
「そうだな……」
「というか、なんで夏村さんって俺と話す時ってヤンキー言葉抜けないの? 両親とか晏菜と話す時は普通のことばじゃない?」
「いや…… (そうだな……)この方が俺がかずやと安心してしゃべれるからだ」
「そんなもんかね? まあいいや。俺も夏村さんのヤンキー言葉、嫌じゃないしね」
「話変えるけど、急に夏村さんのところに来たのは、今まで夏村さんとの学校の話題って勉強のことばかりで他のこと話していなかったことに気づいたんだ。学園祭で夏村さんが何をやるかも知らなかったし…… 夏村さんのこと全然考えていなかった、ごめん」
「いや、俺も何も言わなかったし、聞かなかった。悪い。ごめん」
………
「そろそろ、お互いのこと、謝るのやめようか?」
「そうだな、保健室もうすぐだしな」
保健室は総合棟の一階にあり、担任は高城先生だった。
高城先生は若くて未婚でキレイで見た目が先生らしくない先生だったので、男子生徒から人気抜群であった。
「失礼しま~す。一年一組高松と二組夏村はいりま~す!」
「は~い! どうぞ!」
俺がドアを開け、夏村さんに肩を貸し入ると、丸椅子を一つ出し、椅子を二つ並べ座るように指示した。
「ええと、女性、夏村さんかな、こちらが素足ってことはこちらが怪我したのね」
「はい、よろしくお願いします」
夏村さんの痛めた足を入念にチェックする高城先生。
「う~ん、腫れから見ると捻挫だろうね。テープの薬、出しておくから貼ってあげるわ。三枚ぐらい出しておくから一日一枚貼るように。もし治らなかったら整形の先生に診せてね。多分、三日あれば治るから」
「ありがとうございます」
すると、俺と夏村さんを見ながら高城先生はこう言った。
「もしかして、あなたたち、奇跡のカップル、夏村さんと高松さん?」
突如、変な肩書がつけられていたことに二人はびっくりした。
「あの…… 『奇跡のカップル』の意味がわかりませんが?」
と俺は先生に聞くと、先生はこう返答した。
「いやぁ、全教師から成績優秀者と元ヤンキーの奇跡のカップルって言われているのよ、あなたたち。付き合いだしたと思ったら、いきなり二学期に学校からヤンキーいなくなっちゃうし、夏村さんの成績も学年上位になるし。職員会議でもいつも話題になってるのよ」
「そうなんですか……」
そんなに有名人なんですね、俺たち。
すると、高城先生は表情を変え、窓の外にある教室棟との間にある中庭に植えられた、創立二年目でまだ貧弱な銀杏の木を眺めながらこう言った。
「ところで、ヤンキー君たちって素直なところがあるのは、保健室に来る子たちを通じて私もわかっているんだけど、その馬鹿正直すぎて、がんばり過ぎちゃう子もいるのよね」
俺は何を言い出すのだろうと高城先生を見た。
「内田すずさんって高松くんのクラスの子よね。彼女、とっても素直で、今、学園祭の実行委員会に協力してくれてるんだけど、頑張り過ぎちゃってる感じなのよね。ちょっと注意が必要かもしれないよ。体調悪いって最近、度々保健室来ているから」
内田すずさん。
俺のクラスの元ヤンキーグループの一員で、クラスでも小柄でいつも元気なのが印象的な子であったが、最近、学園祭実行委員の仙道の補佐をしているとたけしから聞いていた。
彼女は中学時代からのヤンキーで、華やかで男女から人気がある仙道とは同じ中学出身であった。
中学時代の内田さんは仙道との接点は当然無く、高校でもヤンキーと中間層で仲は特に良くはなかった。
それが、二学期から内田さんがヤンキーをやめ、俺とのカウンセリングの時にも、まず最初に学校のために自分のできることで貢献したいと言っていたことを思い出した。
そして、まず始めに行ったのが実行委員会の補佐の仕事だった。
内田さんの方から仙道に声をかけ、補佐の仕事をしたいと願い出たということだ。
それから、内田さんと仙道さんは仲良くなり……
現在に至るというのが俺の知りうる情報であった。
「じゃあ、ぼくが彼女……」
と言い出したところで、夏村さんは、俺を止めた。
「すずはいい子だ。おれがヤツを守る。それでいいか、かずや?」
「わかった。じゃあ、お願いする。でも、何か……」
「『何かあったら俺を頼れ』だろ! その時はかずやに相談するよ。その時はよろしく頼む」
そんな二人のやりとりを見ていた高城先生は笑いながら、
「あなたたち、普通の夫婦より信頼関係あるね~! 私、未婚だけど高松くんみたいな旦那さんがいいわ。いざってときは助けてくれる的な……」
「だめだ、かずやは俺のものだ!」
夏村さん、冗談なんだから、そんなに目くじら立てないの!
「はいはい、わかりました! じゃあ、高松君、夏村さん、内田さんを頼むわね!」
「了解です」
と返答はしたものの、この問題は容易に解決する代物ではなかったのだ。
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編集履歴
2021/12/05 修正・加筆
2022/07/31 改稿
2022/09/14 校正、一部改稿




