3-6話 神無月(2)
【読者さまのコメント】
カップルがお互いの誕生日を把握するタイミング。
それは、片方の誕生日が来た時だな!(そんなことないよ)
井上さんは何かと高松にちょっかい出してくるなぁ。
中間試験、夏村さん、すごい!!!
いやもちろん高松すごいんだけど、夏村さんすごいよ!
そして……高松、もてもてだな!(違)
十月……
神無月の由来は天照大御神以外の神々が出雲に集まって翌年について会議するので出雲以外には神がいなくなるという説があるが、平安時代以降の後付けという説もあるがなんとも感慨深いものだ。
林間学校から一週間が経っていた。
林間学校の二日目の自由研究で、夏村さんと見た朝焼けでの五色沼の色の変化や五色沼の風景を撮った写真を使いながら、五色沼の自然についてレポートにまとめて提出した。
夏村さんは、
「結構、すげぇいいレポートできたよな? 俺たちすごくねぇ?」
と言っていた。
よっぽど出来に満足していたのであろう。
夏村さんと二人で作成したレポートを提出する時点で、先生からは俺と夏村さんが付き合っていることはすぐばれてしまう訳だが、もう誰に知られようが全然気にはならなかった。
ところで、提出した後で、レポートの審査・表彰とかあるのかと先生に聞いたところ、何もないことを知った二人の落胆は半端なかった。
夏村さんは絶対に自分たちが優勝だと想定していたようだ。
でも、二人で作った共同作業でのレポート作りはとても楽しい時間であった。
さて、実は俺、高松和也の誕生日は明日、十月二日であったが、いまさら夏村さんに言えるわけもなく……
というか、まだお互いの誕生日を知らなかったことにいまさら気づく。
そんなことを自分の誕生日前日に思い出したものだから、慌てふためいてしまった。
絶対、明日をスルーしたら夏村さんが激怒する予感がした。
そうなると、言わないわけにいかないか……
と思った俺は、非常に不自然な感じで、大宮でデートをしている最中に腹を据えて遠回しにこう聞いてみた。
「あの~ 急で申し訳ないのですが、夏村さんって誕生日、いつですか?」
「俺か? 十二月二十四日。クリスマス・イヴが誕生日だ。この日って学校も終わってるんで同級生との誕生パーティとかできなかったんだよな、小さい頃。てか、かずやは?」
やっぱ、こういう展開になりますよね。
「えっと……ですね、 その……ですね。言い出しっぺが恐縮なんですが…… 十月二日……です、はい」
「そうか、十月二日か…… 覚えておくな…… えっと、メモ、メモ? って明日じゃねぇか! もっと、早く言えよ!」
俺の肩をバシバシ殴りだす夏村さん。
「全然考えていなかった。確かにお互いの誕生日の情報交換してなかったなぁ」
そうなんですよ。
俺も今、思いついたのです……
「しかし、もう四時だしなぁ……」
周りを見回し、何を思ったのか夏村さんはスマホを取り出した。
「あっ! 晏菜ちゃん、沙羅です。かずやの誕生日、明日って知っている?」
「もち、知ってるよ! 兄妹だよ。おにぃの誕生日知らないわけないじゃん。プレゼントも買ってあるもんね!」
「おい! お前、なんで教えてくれないんだよ?! てか、何で妹なのにあにきにプレゼントとか買ってるんだ! 抜け駆けか!」
「い~や、知らない沙羅ちゃんがわるいんでしょ?! ここでおにぃに借りを作って、後でウヒィヒィ!」
「お前、何考えてるんだ! かずやに手を出したら……」
「しないよ! 今日、うちでパーティやるから来ない? 家族パーティだけど。お寿司パーティ!」
「行く! 行く! よし、早く行って手伝うな!」
「でも沙羅ちゃん、まずはおにぃのプレゼントでしょ?!」
「うーん? うーん?…… 何も思い浮かばない…… かずや! プレゼント、俺のカラダってことで……」
「沙羅ちゃん、私への電話でそんなこと言わないの! おにぃ、沙羅ちゃんと一緒にいるだけでプレゼントだと思うよ。だって中三まで彼女無しだったんだもの」
「そんなもんか?」
「そんなもんだよ! だって昨日も自分の部屋で多分、沙羅ちゃんの写真見ながら変なことしてたよ」
「何! おれの写真をかずやはおかずにしていたのか! そうか! ことしのプレゼントは俺の水着の写真撮ってかずやにあげよう」
そう。いやいや違う違う! おかずにしてませんから!
でも、そんな感じで十分です。
どんなプレゼントよりも夏村さんがそばにいるだけで俺はハッピーなのでそれ以上のものは要りません。
でも、写真は欲しいかな!
夏のプールの黒のビキニの写真希望!
それから一週間後の日曜日、その日は体育祭だった。
通常のラブコメでは主人公たちが燃えるイベントなのだが、俺たち勉強組には興味はないイベントだ。
一年で一番中間層が輝く日なのかもしれない。
びっくりしたのは、俺の隣の席の井上さん、身長が百八十センチ近くあるにも関わらず、体育万能なのには驚いた。
百メートル走は学年一位だし、クラス対抗リレーもぶち抜きの一位だった。
俺はご存知の通り、夏村さん以外で、女友達と呼べる子は勉強組の二人しかいないのだが、何故か井上さんだけは俺に声を平気でかけてくる。
以前にもお話ししたが、俺は身長の高い、筋肉質ではない、やや脂身がついた体つきが好きなのであるが、井上さんは理想の体形であり、顔もアイドル系の顔であった。
しかし、校内ではほとんど女子バレー部員と話すだけで、あまり男子に気を許している雰囲気がない。
もちろん、挨拶は交わしているが、なぜか俺だけに絡んでくる。
百メートル走の決勝で夏村さんに勝ったときなんか、俺に向かってVサインしてくる。
そのため、二位で怒った夏村さんが終わったと同時に俺のところにやってきて、井上さんのVサインはなんだと問い詰めてきた。
真意は井上さんに聞いてください。
しかし、彼女のおかげでうちのクラスは学年優勝できたんだもんね。
恩に着ます。
俺は五位までに入ればクラスの点数に貢献できる十キロマラソンに出させられたけど、勉強仲間の応援の甲斐なくドンケツ。
てか、あまりこういうことで目立ちたくなかったのだ。
運動と言えば、体育の授業で実技試験前にひたすらその練習を地道にやっているのでこの成績は得られているのだが、実際、競技としての運動はだめだ…… という役に徹したかったのだ。
中学時代はもっぱらサッカーをしていたのでマラソンなどはまったく問題なかったのだが、こんなことで目立ってクラブに誘われるのは御免被りたいからだ。
球技大会のサッカーも目立つポジションは避け、背の大きな人がゴール前に構えているだけで役に立つセンターバックを担当していた。
ある意味、この高校に同じ中学の生徒が奇跡的に一人もいなかったのでこれに徹することができたのだ。
夏村さんには、体育祭の俺には期待するなと言っておいたので俺が学校の外周を走っているときも、姿は見えなかった。
しかし、十キロマラソンの扱いって、そりゃひどいもので、こっちは一生懸命に走っているのに、校庭では別の花形競技で盛り上がっていたのだ。
もちろん、そんな競技に勉強仲間が参加できるわけがなかったので、彼らの姿を走りながら九回も眺めてしまった。
さすがに多江ちゃんからの声援をもらってしまうと少しは頑張ろうかなとも思うが、ここはがまんとゆっくりと疲れた姿を見せながら走っていた。
うちの高校の外周はちょうど一周一キロあり、十キロ走は九周外周を走り、校庭に入り、グラウンドを四周走ってゴールであったため、仲間に俺の醜態の演技を九回も見せつけることになるわけだ。
十月にもなると荒川が近くにあるためか、強めの風が場所によっては快く俺の背中を押し、場所によっては俺にこっちは来るなと通せんぼをしてくる。
本当に気まぐれである。
走りながら、俺は夏村さんの姿を探した。
でも、どこにも見つからなかった。
やはり、応援してくれている姿が見えないのは寂しいものです。
マラソンから帰ってきて、自分の席に向かう途中、入念に走る準備をしていた夏村さんを見た。
なんでも一生懸命なんですねと感心はしたが、少しはこっちにも注意を払ってくれればなぁと思った。
「いやぁ、高松君、マラソン、最下位おめでとう!」
グラウンドの周りの自分の椅子に座っていた俺に声をかけてきたのは井上さんだった。
「わざと最下位とるのも大変だよね。罪悪感、わかない?」
なんで、こいつ俺が最下位狙いだったことをわかっていたんだ?
「顔と筋肉は嘘つかないよ。君の足の筋肉、スポーツやってた人の筋肉の付き方だもんね。多分、サッカーかバスケットの筋肉の付き方だよ。なんの理由があって、こんなことしているのかわからないけど、高松君は面白いね!」
と言うと、仲間のバレー部員の集団に戻っていった。
こいつ、俺のこと見抜いているなと思い、こいつの目的はなんだという疑念を持った。
夏村さんというと百メートル走は学年二位、クラス対抗リレーでも井上さんに抜かれ二位。
かなり負けた井上さんに対し、悪態をついていたけど、そんなに熱くならないの!
しかし、井上さんのパフォーマンスも半端なかったが彼女の怖さを感じた体育祭であった。
まぁ客席を見ても当然、俺の家族が応援に来ていなかったことも、やる気の無い理由ではあった。
自宅は商売で日曜日も店を開けていることもあり、運動会など来てもらった覚えはなかった。
でも、この日の最高の賞品は夏村さんが作ってくれたお弁当を恒例三年一組の教室でありがたく、いただいたことだった。
今日は体育着姿の夏村さん……
髪を後ろに束ねて、横の編み込みが特に念入りにされていてとてもお上品です。
俺はそんな夏村さんの姿を、しっかりと目の網膜に刻み付けた。
頭小さい……
足長い……
俺なんて……
また卑屈な自分が顔を出すが、元気に体育祭を楽しんでいる零れる笑顔の夏村さんというご褒美もいただいたのだ。
体育祭は無事終了。
今日は日曜日ということで日曜日のスケジュールでバスは運行していた。
当然、高校生が大量に帰ることなどバス会社は考えてはいないので、非常に混んでいたようだ。
あの中に夏村さんは居るのかと思いながら、俺は心の中でバイバイし、バスの横を自転車で通り抜け、自宅に向かった。
その翌日は、学校が臨時休校であったが、夕方までは夏村さんと中間試験の対策を練っていた。
また夕方には進学塾があったため、俺にとっては休日とはいえ、通常勤務のようだった。
今の夏村さんは学校の授業プラスで難易度の高い勉強もしている。
イレギュラーな問題が出たとしても十分対抗できると思っていた。
あとはどれだけ俺の勉強仲間に近づけるかだ。
学校の勉強については、たまに質問はしてくるものの、授業には確実に付いて行っている様子だった。
例の問題集についてはだいぶ自分で回答できるようになっていたが、俺の解説は必要だった。
先月の模試結果からの数学の反復学習と基礎英語の反復練習はすでにだいぶ進んでいた。
夏村さんにはもう少し高度なテクニックとして英語のCDを聞きながら話している文章を英語でノートに書いていくという勉強法も実践させた。
そうすることにより、リーディングもリスニングも上達することを西岡先生から聞いていたからだ。
進学塾では教えない方法だが確実に英語力になると俺は思い、夏村さんに勧めたところ、なんか『通訳みたいだなぁ』と喜んでやっていた。
夏村さんがなんにでも興味をもってやってくれていることは救いだった。
このやり方が間違っていないか、この中間試験の成績で教えてくださいと夏村さんに心の中で願った。
◇◇ 二週間後 ◇◇
明後日から中間試験が始まるということで、夏村さんの現状把握の意味も含め、俺が進学塾で受けた進捗確認試験の問題を夏村さんに回答させたが、完全に授業の内容を把握していることを確認できた。
「夏村さん、これで中間試験はバッチリだと思うよ。保証する。がんばったもんね。明日、月曜だけど塾休みなんで、明日も来ようか?」
「いや、かずやも忙しいと思うのでいいよ。その代わり……」
「その代わり?」
「『がんばったで賞』のご褒美で膝枕してくれないかな?」
「そんなんでいいの?」
「それが一番のご褒美だよ。」
俺は足を膝枕したときに夏村さんが一番安定する位の高さに整え、横になった夏村さんの頭を乗せた。
夏村さんの髪を触れた時の感触にあることを思い出し、俺は以前のように夏村さんの頭をやさしく撫でてみた。
「俺って恵まれてるなぁ。かずやみたいな優しい彼氏がいてさ」
その言葉が俺の胸に突き刺さる。
俺は夏村さんの希望に合うような男なんだろうかと……
でも、今は夏村さんの言葉が何よりも俺の不安を吹っ飛ばしてくれている、だから今はこれでいいんだと。
俺は夏村さんがたまに口にする願いを少しずつでも叶えてあげられればいいと思った。
じゃあ、俺の願いは? と思うと、その結論はこうして二人でいられることに集約される。
俺はこの高校に入った時、一人だった。
勉強仲間はできたが、そこには本当の安らぎは得られなかった。
でも、今の俺には夏村さんがいる。
出会いはあんな変なものだったが、今、彼女という最高のかけがえのない人と出会えた。
今、俺はこんな素敵な彼女とずっといたい……
これが俺の願いだ。
気が付くと夏村さんは眠っていた。
毎日遅くまでお疲れ様でした……
そのまま、俺は夏村さんを起さないよう、夏村さんの寝顔を眺めていた。
それは俺が今まで手にすることができなかった宝物のようだった。
中間試験初日 決戦の日!
今日から四日間、中間試験が続く。
俺は恒例となった夏村さんとの早朝勉強会を終え、席を立とうとする夏村さんの肩をかるく叩いた。
「夏村さんは出来る! あとは結果を待つ! 以上!」
「オッケーだ!」
と笑顔でいいながら、夏村さんはサムアップしながら去っていった。
中間試験も無事終わり、その四日後。
お昼休みになると、今回は例の順位表を張り出す時間前に俺は夏村さんと一緒に掲示板の前の先頭に陣取った。
そして数分後、進路指導の伝法先生が職員室から出てきて、二年の成績優秀者の発表を始めるため掲示板左に、手にした紙を張り出した。
二年は今回もトップは上郷地先輩だった。
すごいなこの人は……
左から成績の良い順番に並んでいるのは通例である。
紙はロールされており、先生の手元から成績順に見える状態になっていた。
『中間考査 第一学年 成績優秀者
一位 高松和也
二位 小倉多江
三位 坂本功
四位 雨宮さくら
五位 佐々木大輔
六位 夏村沙羅
七位 鵜坂博之
八位 牧野宏
九位 相崎信也
一〇位 井上琴絵』
とあった。
「やったぜ!」
夏村さんは思わず飛び上がり、俺に抱きついた。
一気に二人はまわりの注目を一気に浴びる。
今回は不覚にも俺の加速装置のスイッチが入る前に夏村さんに捕獲されてしまったためバッチリと同級生に見られてしまった。
しかし、一学期の期末試験の九位から六位、それも俺の勉強仲間の間に入ってくるという快挙。
うれしいのは山々ですが、夏村さん、そろそろ離れませんか?
まぁ、俺と夏村さんの仲はみんなにバレているのはわかってるからそのままでい・よ・う……
と思ったが、渋谷先生がこっちみている……
俺は穏やかに夏村さんを剥がした。
ところで、十位の井上さんって勉強もできるの?
すごいなぁ。
俺は夏村さんを剝がした後、勉強仲間の方向を見ると鵜坂、牧野がうなだれていた。
こりゃ、今日の進学塾の帰りのバーガークイーンでやつらを供養しないといけないと思った。
たけしたちが夏村さんに近づき大騒ぎを始める。
俺は掲示板に背を向け、掲示板を見に来ている群衆を抜け、教室に戻ろうとしていた。
掲示板の前で大騒ぎをしている夏村さんとメンバーたち。
その一方でその様子を眺めている中間層のメンバー……
結局、中間層でベストテンに入ったのは井上さんだけだった。
俺はその様子を見たとき、今後のためにも、つぎは中間層となんとか関係を持っていきたいと思った。
掲示板の群衆を後にし、教室に向かおうとしたとき、後ろから俺の肩を隣のクラス、ようは夏村さんのクラスの旧ヤンキーで以前カウンセリングにも参加していた三篠拓斗が声を掛けてきた。
「悪い、ちょっと時間くんない?」
俺は了解し、一緒に定番となった四階の三年一組の教室に向かう。
すると後から十数人であろうか、旧ヤンキーたちがついてきていた。
なんか、俺が旧ヤンキーを引き連れている感じなので、俺は先頭を歩きながらも他の生徒の目を気にしながら歩いた。
とは言え、こいつらに俺がボコボコにするという図式も削除できないため、対策はいちよう考えておこう。
三年一組の教室に着くと俺は先に教室に入り、三篠を中に誘う。
すると残りもメンバーも入って来た。
久しぶりに嫌な雰囲気……
俺は一番後ろの机と椅子を2つ引っ張り出し、手前の椅子に座り、三篠を机を挟んで反対側に誘導した。
三篠が座ると残りのメンバーも、てんでんバラバラに席に着いた。
俺は彼らを見回し、三篠に声をかけた。
「ところで用事って何かな?」
ここにいる全員とはカウンセリングで話したことがあるメンバーなので心配はしていないが、やはり旧ヤンキー。
それも十数人いると、さすがに心の片隅には恐怖感が宿る。
「いや…… 実は……」
躊躇しながら三篠は言うので、俺が今まで蓄積された恐怖感が爆発してしまい、逆に強めに聞き返してしまった。
「だから、なに?! はっきりと!」
すると、三篠は恥ずかしそうにこう言ったのだ。
「お、俺たちに勉強教えてほしんだ!」
「えっ?! 勉強?」
「なつさんの喜ぶ姿を見たら俺たちも勉強がんばりたいと思ったんだ。他のやつらも同じ意見だ。和也と面接していろいろ考えたんだけど、俺たちスポーツとかダメだから、専門的な勉強して手に職をつけたいから専門学校とかに進学したいなあと思ったんだ。そうなるとちゃんと高校卒業して専門学校の入学試験もパスしたいんだ」
うなづくメンバーたち。
「そ、そうですか……」
意表を突く発言に俺は拍子抜けしてしまった。
しかし、やつらの進む道が決まったのなら、それは良い話だ。
でも、俺は自分と夏村さんのことで手一杯だよ……
俺には神も仏も無いのか……
まさに十月、神無月だ。
編集記録
2022/09/11 3-4話を2分割した。
2022/09/12 校正、一部改稿




