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0-2話 怖いお姉さまがやってきた

 俺と勉強仲間は通常、俺の席のそばに集まって会話している。

 俺たちのような、カーストの低い生徒はカースト上位のヤンキーたちに絡まれたくなかったため、声を掛けられる前に逃げられるよう教室の後の出口付近、つまり、俺の席の周辺に集まっていた。


 暦は六月。

 梅雨前ということもあり、日差しは厳しいが、窓から吹き抜ける風はまだ温度も低く、とても心地よかった。

 廊下のそばに陣取り、開けっぱなしの窓やドアに近い、俺たちの集まる場所は安住の地であった。


 低レベルの学校の中でもうちのクラスに進学希望者を集めたのだろうか、掲示板に張り出された成績優秀者十名のうち七名は俺と勉強仲間で占めていた。

 バラバラではなく、同じクラスに集まっておかけで、暇さえ有れば集まり、話をすることが出来た。

 もちろん、危険を察知したら全員一斉に行動すればいいのだ。


 ところで、カーストでトップに君臨するヤンキーの次に来るのは『中間層』と呼ばれている人たちであった。

 勉強の出来は中間で、一般的な『高校時代の青春』を謳歌(おうか)する奴らで、総じて目立った行動をしないためそう言われている。

 彼らこそ、俺が入学の時、恋愛、青春という言葉がぴったりな奴らだった。

 教室内での話は今の流行や昨晩に見たテレビ、誰が誰と付き合っているかなど俺たちには全く縁遠いものであった。

 当然、彼らとも付き合いはなく、多勢に無勢、中間層がカーストでは俺たちの上に来るのだ。


 ※※※※


 前にも話したがなぜ俺たちが自転車通学かと言う点について追加でご説明する。

 偶然ではあったのだが、俺と勉強仲間は、南浦和駅前にある進学塾で一緒のクラスだった。

 グループも一緒だし、みんなで塾にも一緒に行かないかという話になり、全員が自転車通学を始めた。


 南浦和にある進学塾の授業の開始時刻に間に合わせるため、放課後すぐに学校を出る必要があり、みんなで自転車を飛ばし、JR浦和駅に向かう。

 駅から自宅が近い俺、坂本、多江ちゃんは自宅に自転車を置き、その他のメンバーは月極で駐輪場を借りていた。

 浦和駅で集合し、電車に乗って次の南浦和駅で降り、階段を降りてすぐにある進学塾に行き、週三回勉強した。


 一方、平日の残りの日は勉強エリアが広くとれる坂本の家に集まって勉強会をした。

 坂本の家は音楽一家で、自宅にはスタジオ設備がある程度そろった十数畳ほどのスペースがあり、俺たちは空いている時間は勉強に使わせてもらっていた。

 この部屋には窓がないため、常時換気用のエアコンが効いており、勉強するには打って付けの環境だった。

 まったく、一般庶民の俺の家とは別世界である。


 ところで、俺たちが通う進学塾『浦和ゼミナール』は県内最大規模を誇る現役高校生用の進学塾であり、有名国立大学や有名私立大学に多くの卒業生を送り込んでいる。

 しかし、有名大学合格者のほとんどは県内有数の進学校、県立浦和高校や県立浦和第一女子高校、県立大宮高校、市立浦和高校で占められており、たぶん俺たちはどんなにがんばっても彼らのような有名な大学に行けるはずはないだろうと思っていた。

 ただし、勉強仲間の中でも進学校出身の多江ちゃんを除いては……。


 この高校での目標……俺はある程度の成績を残し、自分が勉強したいことを学べる大学にいければ、大学の名前は気にしていなかった。

 しょせん、俺たちの高校は『浦和』の後に余計なものがついた高校、浦和大鳳高校という低レベル高校であるからだ。

 不思議なことに当時は、浦和の後に『北』、『東』、『学院』、『実業』、『大鳳』と何か文字が付く学校は偏差値が低くなる(浦和西、浦和南は別)と言われていたのだ。


 『浦和ゼミナール』の二軒隣りには『バーガークイーン』というハンバーガーショップがあり、勉強仲間とのたまり場になっていた。

 授業が二十一時前後に終わるため、ダラダラと時間をつぶすことは出来ないが、授業の再チェックを行うにはよい環境であった。


「そういえばさぁ、かずくん、さっきの化学の問題。ここのところ、分んないところがあって……」

「あぁ、これね。オッケー。多江ちゃん、ついでだから他にわからないところがあったら教えるけど」

 多江ちゃんは進学塾で渡されたプリントのわからないところを俺に提示してくる。

 俺は嫌な顔をせず教えていた。


「おっと、かず。小倉さんにやさしいー! 意中の彼女は小倉さんですか?」

「坂本、うっせぇよ! そんなんじゃねー」

「かずくん、私にはそんなにやさしく教えてくれないものねぇ」

「さくらちゃん。そんな風に感じていたなら、ごめんなさい……」


 小倉多江。

 勉強仲間の一人。

 身長はクラスの中くらい、百六十センチメートルぐらいだろうか。

 目は茶色でクリクリっとしており、まるで子犬をイメージさせるような子である。

 髪は黒髪でツインテールにまとめている。

 実は彼女、県内一進学中学である国立埼玉大学教育学部附属中学校の卒業で高校受験を失敗してうちの高校に入学してきた。


 入学当初はとても暗く、クラスにもなじめなかった。

 彼女の家はうちの近所のお医者さんで家族で受診したこともあり、ご両親とは顔見知りであったため、俺から声をかけ、仲間に入らないかと誘った。

 俺たちの仲間に入ってから意思疎通ができるようになり、今はすっかり仲間の一員となる。

 よほどの理由がないと名門進学中学からうちの高校に入ることはなかったはずなので、彼女に詳しい事情を聞き、一緒に勉強しないかと誘ったのである。

 以降、俺に最初に話をしてくれるようになり、それは次第と他の仲間にも広がっていった。


 彼女の家は父母ともに医師で、教育に対しては厳しい家庭に育ったようだ。

 彼女が志望校である有名私立女子進学校を落ち、うちの高校にしか入れなかったことにご両親は落胆し、入学式にも彼女一人で来ていたようだった。

 仲間と勉強を教え合っている時でも頭の回転の速さが飛びぬけて早い子だったので受験は運がなかったんだろうと思った。


 俺が彼女のことを気になっていなかったのかと言われれば、いわゆる才色兼備に入る子なので気にはなっていた。

 しかし、彼女は医者の娘。

 高根の花だし、彼女の置かれている境遇もわかっていた。

 ましてや告白して付き合ってその境遇を共有する勇気も当時の俺にはなかったので仲間の一員としてしか見ていなかった。

 見て見ぬふりをしていたのかもしれない。


 到底、陰キャで平均以下の顔立ち・スタイルの俺が彼女の隣に並んでいることを想像して、釣り合わないと思い、戦う前から勝手に自分から戦いを諦めてしまった。

 生まれた環境が違いすぎる……。 

 医者の家と一般庶民……。 

 まぁないわな。


「やばっ!」

 佐々木が急に声を上げ、腰をかがめた。

 みんな一斉にテーブルの上に顔を付けて、窓越しに外を見るとヤンキーが数名。

 中には見慣れた数人のヤンキーもいた。

 先頭にはうちのクラスによく来るヤンキー姉さんがいた。

 アイスバーを片手に彼らの声は店内の俺たちにも聞こえてくるほどだった。


 俺たちは彼らが『バーガークイーン』に入ってこないことだけを祈りつつ、誰も存在を知られないよう身を隠していた。

 ラッキーなことに彼らは自分たちの会話に熱中しており、俺たちの存在には気づかなかったようで、そのまま店の外を通過していった。


「無事通過ですな?」

 佐々木の声とともに俺と仲間はテーブルから頭を上げた。

「この辺も奴らのテリトリーなんだなぁ」

「北浦和、南浦和って『浦和』って付く駅周辺はみんな奴らのテリトリーだって聞いているよ。外を歩くときは注意しないとね」

 奴らが通り過ぎた窓を眺める俺たち。


「なっちゃん……」


 と多江ちゃんが声にならない声でつぶやいているのを俺は聞き逃さなかった。

 その顔は明らかにヤンキーたちの中に知人が居て心配しているような表情であった。

 だが、その時の俺には多江ちゃんにそのことを聞く勇気がなかった。


 ◇◇◇◇


 さて、中間試験結果発表後の昼休みにまで時間を戻す。

 俺と勉強仲間は定位置で涼しい風を浴びながら、安息の時間を試験の順位の話題で費やしていた。

 すると、俺たちは廊下を通じて遠くの方から上履きをペタペタ鳴らしながら近づいてくる『圧』を感じたため話を止め、ちらりと廊下を見た。

 そして、隣のクラスの方向から、例のヤンキー姉さんがこの教室方向に歩いてくるのに気づいた。

 この当時のヤンキーは必ず上履きのかかとを踏んで歩いていたため、奴らが来るのはこの音で知ることが出来た。

 なので逃げるときは、走るに限る。


 彼女は通常の女子高生は絶対にしないであろう、赤系統の化粧をしており、ピンクの長髪をなびかせて歩いている。

 その『圧』で廊下で話していた同級生は話を止め、廊下の端に移動し、姉さんの通行を妨害しないようにしていた。

 今の俺たちが望むこと、それは姉さんがこのクラスに入らず通り過ぎることだった。

 しかし、祈りは無残に打ち破られる。


 俺たちが座っている席のそば、教室の後ろのドアを通り、ヤンキー姉さんは教室内に入ってきた。

 二、三歩、教室内にヤンキー姉さんが入ると同時に、教室の緊張感がマックスになる。

 中間層の奴らはこっそりと教室の前のドア方面にこっそり歩き出す。

 一方、俺たちはあまりにも彼女の近くに居たため、逃げる場所を失い、完全にライオンににまれた小鹿のごとくフリーズしてしまった。


 姉さんはキョロキョロ教室内を見回しながらこう言った。 

「高松和也っているかー?」

 声色も怖さ満点のドスの効いた声であった。

 仲間は自我を取り戻すと、俺から少しずつ間隔を取り始めていた。

 おいおい、俺が生けにえかよ!

 ちょうど俺は彼女に背を向けて座っていたため彼女は俺に気づかなかったようだ。


 俺のクラスのヤンキーたちはヤンキー姉さんに目配せをし、グループのリーダー役である横山は、目の前に座っていると俺を指差した。

 ヤンキー姉さんは俺を見つけると、にやりと笑い、こう言った。

「おまえ、高松か。ちょっと、ツラ貸せ!」 

 あれ?

 俺、なんかしたっけ……。

 と思いつつ、声のする方向にゆっくり振り返った。

当作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。

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編集記録

2022/08/14 校正

2023/04/17 改稿

2023/04/20 改稿

2023/04/21 校正

2023/04/24 校正

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― 新着の感想 ―
[良い点] 地の文、情景や背景の説明が丁寧でとても読みやすいです。 [一言] 拝読させて頂きありがとうございます。
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