3-1話 2学期(1)
【読者さまのコメント】
夏休みが明け、学校からヤンキーが消えた。
平和で良い事である〜♪
段々、高松こそが新の総番ではないかと思い始めている私(笑)
フォローが適切なんだよな〜。
そして学校側、まさかの事情聴取(笑)
これから夏村さんと学校でイチャイチャできるな!
◇◇ 九月一日 ◇◇
今日も俺は六時に目を覚まし、NHK第二放送で基礎英語一から三までを続けて四十五分ほど聞いた。
この習慣は中学一年生のときから始まり、一学年上がるとともに基礎英語二、三と追加し、現在では基礎英語の全てを聞いている。
高校になったのだからその上のラジオ英会話も追加してはどうかと考えられる人もいるだろうが、通常の会話レベルでは基礎英語三までをしっかりやっていれば問題ないという持論があり、俺は追加するのをやめていた。
まあ、六時四十五分前後はどのテレビ局も今日の天気予報を放送するので、それを見たかったというのも理由であった。
基礎英語を勉強しながらBGMにテレビ東京で放映している経済や株式のニュース番組を聞き流ししていた。
さすが商人の子供である。
金儲けの話には興味があるのだ。
ラジオ講座を一通り終わらすと、俺は着替えをし、一階に降りていった。
そして、両親が見ているテレビを見ながら朝食をとり、七時二十分くらいに家を出た。
以前もお話ししたようにこの時期は、雨が降ろうと槍が降ろうと俺は自転車で高校に向かうのが常であった。
雨の日はカッパをかぶって行っていた。
どんだけ自転車好きなんだよと今さら、思い返すと馬鹿げたことをしていたと思った。
高校三年間で雪で路上が滑り、路側に激突したことが三度あったことを思い出す。
高校までは自転車で約三十五分程かかるのだが、自転車で向かう通学の時間は何も苦ではなかった。
町を行き交う人たちの流れから外れ、自分のペースで移動できる自転車が好きだった。
自宅から国道十七号線を北浦和駅に向かい、そこから左折し、埼玉大学に向かう『埼大通り』をまっすぐ西に向かうと高校前まで行くことができる。
途中、大戸という場所から、長い下り坂があり、ロヂャースボールの前を通り、新大宮バイパスを抜け、埼玉大学の緑豊かなキャンパスを左に見ながら走るとそこから五分もたたぬうちの高校に着く。
バスの停留所から遊歩道を通って校門に向かい、校門をくぐると、左側に自転車置き場が設けられており、そこに自転車を置いた。
もう入学して四か月も経つと自然と自分の自転車を置く場所が決まってしまう。
俺は校庭側から三番目の駐輪場の屋根の柱の下が定位置になっていた。
その場所からは歩いて校門近くまで戻らないと、校舎の入り口には着かないため、いつでも定位置付近に止めている自転車の数は少なかった。
そんな広々とした空間を独占できる、そんなこの場所が俺は好きだった。
時間はまだ八時過ぎ。
教室には誰もいない。
いつものように窓を開け、教室内の整理をした後で自分の席に戻り、勉強を始めると、校庭から朝練をしている声が聞こえてくる。
近くでやつらの声を聞くと耳障りであるが、遠くで聞こえる声は不思議と心地いいものであった。
そんな環境を味わっていると、上履きで廊下を歩いてくる音が俺のいる教室に近づいてきた。
部活の奴らかなと思いながらも俺は鞄の中から勉強道具を出し、机の上に並べていった。
突然、教室の前で足音が止まったため、音のしていた方向に顔を向けると、そこには今まで見たことの無い、学校規定の制服姿の夏村さんがいた。
髪は金髪のままであったが制服は多江ちゃんたちが来ているものと同じであり、着崩しもせず、ちゃんとした高校生らしい恰好をしていた。
スレンダーで長身なその姿はいつも見慣れている俺でさえ、身動きができないほど綺麗だった。
そのうえ、いつもの奇抜な化粧はせず、夏休み中に慣れた自宅モードの夏村さんの化粧だった。
やはりこの姿をみてしまうと、この夏自分や夏村さんが頑張ってきたことは無駄ではなかったと思った。
そしてこれからもこんな姿の夏村さんと一緒にいたいと強く望んだ。
それとともに一学期の中間試験が終わって夏村さんに連行された時のことを思い出すと、それはもうただの思い出にすぎないと思えて笑ってしまった。
「かずや、おはよう」
「おはよう、夏村さん。規定の制服、持ってたんだ」
「実は、かずやがたけしたちを説得してくれた翌日に制服指定店に注文して、昨日二人が帰った後、取りに行ったんだ。似合っているか?」
「うん、すごく似合っているよ。見違えた。どこの美人のお嬢様かと思った(笑)」
「そうか…… 他のメンバーも全員、指定の制服で登校することになった。だから、これからは学校でもかずやと仲良くしていいか?」
「俺はこんな美人が隣に居て、イチャイチャできたらこんなにうれしいことはないけど、ヤンキーのメンバーにはどう言うの?」
「お構いなくって言われている。ところで今日の放課後は?」
「夕方から進学塾だけど、今日は四時限までだから、午後は空いているよ」
「そうか、実は今日六時限まで授業あると間違えて弁当作ってきちまったんだ。かずやの分もな作っちゃって…… だから、ど……」
「もちろん、いただきます。楽しみにしてます」
「そうか。そうだよな。かずやが俺の弁当嫌いな訳ないもんな! んでさあ…… あのさあ…… この時間に俺がここに来るのって邪魔かな?」
「全然いいよ。一緒に勉強してもいいし」
「本当か! じゃあ、週明けから来るわ。どうせ、早いんだから、朝飯も作ってこようか?」
「夏村さん……」
「なに?」
「積極的だね(笑)」
「うるせぇ! 大ぴらにかずやと付き合えるからうれしんだよ! やっぱさ、ヤンキーと秀才が学校で…… じゃ釣り合わねぇじゃねえか。普通の恰好なら、かずやも肩身狭くないと思・っ・た・ん・で……」
ほーら、そんなこと言うから顔真っ赤になっちゃっているじゃん。でも、夏村さん、メチャかわいい!
ということで、週明けから朝は夏村さんと例の空き部屋の三年一組の教室で早朝勉強会をすることになった。
二学期早々、俺の毎日の楽しみが増えたわけだ。
八時半……
この時間ともなるとほかの生徒も数多く登校してくる。
ヤンキーのメンバーも指定の制服で登校してきていた。
また、出入り口の近くに座っているせいか、俺を見るとヤンキーのメンバーは声をかけてくるようになっていた。
俺の勉強仲間もほぼ登校してきていたが、ヤンキーたちの変化に驚き、俺に質問してきた。
「夏休みにやつら、何かあったんか?」
「今までやってきたことの恩賞でヤンキーを無事卒業できたってところじゃないの」
と回答を濁らした。
勉強仲間はその意味がわからないためキョトンとした顔をした。
彼らの苦悩の夏休みの記録を勉強仲間に言ったところで理解できないだろう。
俺は無駄な説明は不要と考え受け流した。
「模試の後に俺、バーガークイーンでみんなに言ったじゃん。『始業式の日、うちの高校が変わる。まぁちょっとしたことだけど。それだけを楽しみにしてくれ』って。それじゃないの?」
しかし、こんなに変化があるものか。
以前であれば、教室の空気が三分割されたの如く、教室内に不穏な緊張感があったのだが、それが和らいでいる感じがした。
それは教室内にヤンキー色がなくなったことが誘因となっているのかもしれない。
そんな時、隣に座っている井上さんがクラブを終えてシャツの裾をスカートの中に入れながら、教室に入ってきた。
「げっ! 何これ? ヤンキー全部制服着てるじゃん! 何かあったの? ねえ高松君、何があったの?」
と言いながら席に着いた。
「夏休みにいいことでもあったんじゃないの?」
と俺が答えると、井上さんは再度俺に尋ねた。
「ところで、高松君の彼女さんはどうなの?」
「夏村さんのこと? 彼女も今日から指定の制服になってるよ」
「おぬしたち、夏休み中に何かしでかしたな?」
「何が面白いのさ?!」
俺にとっては、中間層のなかでも気軽に話しかけられる人の一人であった井上さんではあったが、より身近に感じることができた。
『ここまで来たら、このまま、ヤンキー、中間層、勉強組の境、ぶっ飛んじまえ!』
と俺は思った。
ホームルーム五分前に横山は後ろのドアから教室に入ってきた。
そして、俺の後ろに立ち止まり、こう言った。
「かずや、夏休みの間はいろいろありがとうな。実はひとつお願いがある。後で話したい。いいか?」
「あぁ、いいよ。適当な時間に声かけてくれ」
と俺が言うと、横山はメンバーのいる窓のそばに行った。
この教室内の変化の大きさを感じていた俺は、思い出したがごとく立ち上がり、横山を追い、ヤンキーたちの集まっている所で立ち止まり、メンバーに小さな声でこう言った。
「夏休みはおつかれさん。実は俺から一点提案がある。今日、みんなが登校してきたら、教室の雰囲気が一気に変わっちゃっているんだけど、急にお前たちが態度も丸くする必要はないと思っているんだ。服装が変わっても、態度は少しずつの変化でいいと思う。そうしないと、中間層で図に乗ってくるやつが必ず出てくると思うんだ。そうなると、また、教室の雰囲気が嫌な感じに戻ってしまうと思うんだ。だから、いつものようにで、よろしく!」
すると一斉にメンバーはニコニコしながら『よろしく!』と威勢よく声を発する。
周りを見渡すとこちらを凝視する中間層のクラスメイトたちと勉強仲間たち。
「ちょっと、これ以上注目浴びるのは勘弁して……」
と俺は小声でヤンキーたちにいうと、彼らはそんなこと関係なしといった感じで俺の肩をビシバシと叩きながら笑っていた。
彼らの手厚い歓迎を終え、自分の席に着くと、隣の井上さんがこう言った。
「やっぱ、夏休み中に高松君、何かしたじゃないの?」
「いやいや、本当に俺自身は何もしていないから!」
と半ばやけ気味に俺はこう言い返した。
『本当に高松君って、おもしろいなあ。夏村さんとの関係にも興味あるし……』
と思いながら、井上さんは心の中でほほ笑んだ。
ショートホームルームのチャイムが鳴り、担任の渋谷先生が教室に入り、教室内を見回すと、ヤンキー姿が全くないことに気づき、びっくりしていた。
「おい、どうした、お前ら…… そうか、お前らも多分、夏休み中、色々と勉強したんだなぁ! お前ら、良い夏休み、過ごしたなあ! こうして人間は成長していくもんだ!」
あながち間違ってはいないコメントだと俺は思いながら少し笑った。
さて、ホームルームが終わり、渋谷先生が職員室に戻ったわけだが、その後、一時限目の英語の西岡先生がなかなかやってこなかった。
先生が教室にやって来たのは始業のチャイムが鳴ってから十分後であった。
そりゃ、夏休み終わって教壇について、周りを見回したら、ヤンキー姿が全くいなくなっていた……
先生たちにとっては緊急事態だろうね。
それも全学年と考えたら、職員室はぶっ飛んだんじゃないかと思った。
逆に奴ら、何か起こすんじゃないかと先生たちは戦々恐々となったのではないかと思った。
しかし、これは全てのヤンキーたちの決意の表れだ。
さて、この決意に対し教職員はどう向き合うのであろうか。
四時限目も終わり、夏村さんの作ったお弁当を楽しみにして、空き部屋階である四階の三年一組の教室で夏村さんを待っていると、夏村さんからスマホに電話が来た。
「かずや、悪い。生徒指導室に来てくれないか」
「どうしたの?」
「夏休み中の変化について説明を求められたんだけど、俺たちの話だと納得してくれなくて」
「オッケー! 今、行くから」
実のところ、いつこの話が出てくるかと思ってはいたが、意外と早い対応ありがとうございますと、俺は先生たちに感謝した。
この事態を教職員が調べるか、あるいは放置するかで今後の展開と先生たちの生徒に対しての考え方が変わってくると思っていたからだ。
このまま放置するのであれば、うちの学校は生徒に興味を持たない学校としてこのまま変わらないと思っていたが、ヤンキー側のトップである夏村さんを呼び出して説明を求めるということは、この変化に学校側が興味を持ったということを意味する。
要は学校側は俺たち生徒に興味を持ち続けていたのだということだ。
まだ、うちの学校も捨てたもんじゃないなと俺は思った。
俺は生徒指導室に向かった。
生徒指導担当は俺のクラス担任、渋谷先生だ。
教室棟一階の職員室の二つ隣に生徒指導室はある。
俺はノックし部屋に入ると、夏村さんたちヤンキー約十名と机をはさんで生徒指導の渋谷先生、中島教頭先生、体育担当の神保先生が並んでいた。
ヤンキー側は夏村さんを除いては各クラスの代表格のヤンキー(だった奴ら)であった。
でも、なぜ学校というところは、こういう場面に体育教師が立ち会うのであろうか。
相手がヤンキーということで、何かあった時の予防線なのであろうかと考えたら、笑ってしまうところだった。
残念ながら、ヤンキーたちは手を出さないことを俺は知っていたからだ。
俺が机の横に着くと渋谷先生が話し出す。
「高松、お前が絡んでいたのか? 悪いが彼らの言っていることがよく分からんので経緯を含めて教えてくれ」
俺は夏村さんたちが先生に話したことを確認し、そこに説明を入れていく方法を考えた。
なぜなら、俺が最初から最後まで話してしまっては彼らの話と齟齬が出来た時、めんどくさいことになると思ったからである。
ヤンキーは都合のいい話ばかり言って信じられないと先生たちに思われるのは避けたい。
俺は渋谷先生に彼らが説明した内容を復唱する形で話して欲しいと行った。
渋谷先生は困惑したが、話を思い出しながら、彼らと話した内容について語った。
洗いざらい夏村さんたちは話したのだと、俺は理解した。
ざっと聞いたところでは、単に夏村さんたちが先生方に信頼されていないことに起因しているだけだと思い、ここは俺よりも信頼度の高い人に登場して頂くべきかと思った。
そこで俺はスマホを取り電話をした。
「あっ、父さん、和也だけど」
電話に出たのは父だった。
「今、学校の生徒指導室で事情聴取中。以前話をしたとおり、今日、ヤンキー全員制服で来たんだよ。それで先生方がびっくりしちゃっての呼び出しなんだ。悪いけど、例の夏村さんたちの一件、先生方に話してくれないかなぁ?」
実はあらかじめ、父には学校が動いた時はサポートをお願いしたいと言ってあったのだった。
「まあ、沙羅ちゃんのピンチじゃ、しょうがないな。まかせろ!」
そう言い、父は先生方に経緯を説明してくれた。
やはり、高校生からの説明と親からの説明だと教師へのインパクトが違う。
先生方の顔を見ると明らかに先ほどとは異なり、納得している様子だった。
話が終わると俺は父に礼を言い、スマホを切った。
ここはもう一押しだなと思った俺はこう続けた。
「先生、もう一か所、電話してもいいですか?」
俺は先生方に了承を得て、再度電話した。
「あっ、真田さん、花屋の和也です。今大丈夫ですか? お忙しいところ申し訳ないです。例の一件で学校の先生から説明を求められているんですが、少しお時間頂けませんか?」
「夏村さんたちの件ね。オッケー!」
そう、真田さん。
前述の通り、俺の近所のお兄さん的な存在で現在、中央警察署の広報部所属で署長秘書をしている警察官である。
真田さんは先生方にさくら草通りでの一件と、各駅でのパトロールの件、そして、現在は彼らのパトロールが不要となった旨を先生方に説明してくれた。
「こんな感じでいいかな? 和也くん。意外と学校側のレス早かったな」
「そうですね。学校側に感謝です」
「あと、夏村さんと幸せにな!」
「あのまだ、結婚決まってないですから!」
余計なことを真田さんが言うもんだから、俺も口を滑らしてしまい、先生方やヤンキーたちの注目が俺と夏村さんに集まってしまった。
「夏村と高松は結婚の約束をしたのか?」
「いえいえ、めっそうもありません」
当分、このネタは先生方に突っ込まれそうだ。
すでにこの時点で場の雰囲気はこちらの方向に良い風が流れていた。
そして、渋谷先生は、夏村さんたちを見ながらこう言った。
「そんなことがあったのか…… 二年の不良の件を含めて私たち教師側の対応が不十分だったことを反省している。ただ、これからは自分勝手に判断して行動するな。私たちに相談することを忘れないでくれ」
そして、中島教頭はこう言った。
「うちの学校はまだ創立して二年目ということもあり、うまく切り盛りするために、色々なことに目をつぶっていたのかもしれない。しかし、この高校の主人公は君たちだ。その物語を作るサポーターが私たち職員だ。これからは君たちと話し合いをしながら納得出来る高校生活が送れるようにバックアップしたいと思う。それでいいかな?」
夏村さんは仲間たちを代表してこう言った。
「分かっていただけただけでも嬉しいです。それと、せっかく、先生方に事前のご相談の了解をいただけたので、その時は相談に乗ってやってください。私も含めてこいつら、まだ世間に慣れるにはリハビリが必要なんで」
俺たちは生徒指導室を出た。
「あ~あっ、終わったな」
横山はため息をつきながら言った。
「ああ、終わったな」
夏村さんは視線を床から天井に移動させながら言った。
そして俺はこう言った。
「これからはお前たち自身が自分で色々考えて居場所を見つけないとな!」
「そうだな!」
と言い、横山たちは去っていった。
「さて、夏村さん。お昼食べよう! 腹減った」
「忘れてたぜ! おう! 食べよう!」
当作品をここまで読んで頂き、ありがとうございます。
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編集記録
2021/12/07 加筆訂正
2022/07/18 改稿
2022/09/07 3-1話を3-1、2話に分割、校正、一部改稿




